相続税還付対策にメス!「2020年度税制改正」が賃貸経営オーナーに与える影響
- 税理士
2020年度税制改正は、一般には特筆する内容がないといわれていますが、不動産オーナーには鬼門ともいえる項目が盛り込まれました。節税効果の大きい2つの手法が、ほぼ完全に封じられたからです。それぞれについて、大家さん税理士の渡邊先生に解説していただきます。
税理士、司法書士、宅地建物取引士。税理士試験合格後、実家の大家業を引き継ぎ、危機的な経営状態の改善に成功。以降、大家業も継続している。2018年に大家さん専門税理士ネットワークKnees bee(ニーズビー)を設立してフランチャイズにて展開中。賃貸経営に関するセミナー、賃貸住宅フェアなどの講師経験、著書も多数ある大家さんの味方。
消費税還付対策にメス。将来の経費増のおそれ
まずは、今年10月以降、居住用賃貸については消費税還付が一切認められなくなります。
もともと家賃は非課税のため、仕入れにかかった消費税額の控除は原則としてできませんが、一時的に別の課税売上を作って、賃貸住宅を取得した時にかかる消費税の還付を受けるという節税の手法が多く行われてきました。
これらの手法については、10年ほど前から段階的に規制が強化されてきました。
その度に「抜け穴」をかいくぐる新たな対策が生み出される “いたちごっこ”が続いてきたわけです。しかし今度ばかりは、居住用賃貸の消費税還付そのものが規制対象。抜け穴を完全にふさがれてしまったといえます。
その一方で、過去の規制で設けられた「3年縛り規制」(※1)は継続されます。その結果、「新築時の消費税還付」は認めないのに、「不動産を売却した場合の消費税の納税義務」はあるという税制の“ひずみ”が生まれたといえるかもしれません。
大家さんは、経費にかかる消費税をどこにも転嫁することができないため、今後の税率アップ次第では、経営が圧迫されるおそれが出てくるでしょう。
※1 「3年縛り規定」:税抜き1000万円以上の高額特定資産を取得した場合、3年間は課税事業者が強制適用される規制のこと。その間に建物を売却した場合、売却金額に係る消費税を払う必要がある。
改正のポイント
- 居住用賃貸建物は「仕入れ税額控除」自体が不可能に
- 2020年10月1日以降に引き渡しを受けたものから適用。ただし、2020年3月31日までの請負契約なら、同10月1日以降の引き渡しでも還付は可能
消費税のキホン
売り上げに係る消費税-仕入れに係る消費税=プラスなら納税/マイナスなら還付
海外不動産の減価償却でのマイナスは損益通算不可に
2つ目に、2021年度から海外中古不動産の減価償却で生じたマイナスの不動産所得は、国内所得と損益通算ができなくなります。
海外中古不動産は建物比率が高く、日本の税制が適用されます。賃料収入を大幅に上回る減価償却費を計上できたため、国内の所得と損益通算して節税効果を得るという対策が行われてきました。
また、5年超保有してから売却すれば、長期譲渡所得の低い税率(※2)が適用されます。海外不動産は築古でも価格が落ちにくいことからも人気を集めていました。しかし、今後は節税対策としての活用は難しくなるでしょう。
注意したいのは新規に取得した場合だけでなく、すでに取得済みの物件も対象になることです。この規制対象は個人のみなので、法人に物件を移す方法もあります。
ただ、本来この節税方法は、国内の個人所得に対する高い累進税率(最高55%)と、売却時の低い譲渡税率とのギャップが大きいことが肝です。
法人は税率が大きく変わらないため、節税としての効果は薄いです。高収益の海外不動産への分散投資になる場合でなければ、価格が下がらないうちに、早めの売却が賢明かもしれません。
※2 所得税と住民税を合わせて20%。5年以内の短期譲渡は同39%。特別復興所得税は除く
改正のポイント
- 国内所得と海外中古不動産のマイナス所得の損益通算は不可に。「海外中古不動産で赤字が出た場合、その損失金額のうち減価償却費に相当する部分は生じなかったものとみなす」
- 2021年分の所得から適用(すでに所有している建物も対象)
- 対象は個人オーナーのみ(法人所有は対象外)
海外中古不動産を活用した節税の仕組み
海外の中古不動産は、価格に占める建物比率が8~9割と非常に高いため、減価償却費を多く計上できた