2024年11月から「省エネ部位ラベル」の運用がスタート!省エネ性能ラベルとの違いは?
2024年8月に省エネ表示制度のガイドラインが改正され、「省エネ部位ラベル」の運用が2024年11月1日から始まりました。すでに4月からスタートしている「省エネ性能ラベル」では表示することが難しかった中古住宅や賃貸住宅のための制度で、すでに不動産ポータルサイト各社が表示方法や運用について発表しています。「省エネ部位ラベル」とはどのようなものなのかを、各社の扱いとともに解説します。
「省エネ部位ラベル」とは?「省エネ性能ラベル」との違い
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、日本では、CO2排出量全体の約3分の1を占める住宅についてエネルギー消費の削減が急務となっています。そのために2024年4月から、新築を対象とした「省エネ性能ラベル」の表示が始まりました。
しかし、表示はあくまで努力義務であり、さらに住宅の多くを占める中古住宅については推奨とされていました。
そもそも中古住宅や賃貸住宅については、省エネ表示ができるほどの性能を備えた物件が多くはなく、もし該当する可能性があっても調査のためのコストなどを考えると、そこまでのメリットが見出しづらい状況と言えます。
そこで、ラベルによる省エネ性能表示を普及させるために「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度ガイドライン」が8月に改定。「省エネ部位ラベル」が制度化されました。
これは、省エネ性能を把握していない場合や、評価に活用できる情報がない場合でも、省エネ改修を行ったときにそれをラベルとして表示できるようにしたものです。
新築はもちろん中古住宅でも、省エネ性能が確認できる場合は「省エネ性能ラベル」を、それができないときに「省エネ部位ラベル」を使用する、ということになります。
「省エネ性能ラベル」「省エネ部位レベル」は大きさとデザインが統一されており、見た目は上記イメージの通りです。「省エネ性能ラベル」は枠が緑色で、性能が星マークなどで表示されています。「省エネ部位レベル」は枠がグレーで、窓や給湯器のイラストが入っており、各項目をチェックマークで表示します。
【登録無料】メルマガで週2回お役立ち情報を配信中!
「省エネ部位ラベル」はどのように使う?発行の流れは?
省エネ部位ラベルの対象は、以下の2点を満たす住宅が販売・賃貸される場合です。
①2024年3月31日以前に建築確認申請を行った
②省エネ性能の向上に関わる部位があるが、 住宅全体の省エネ性能の把握が困難
販売・賃貸される場合に対象となるため、ウィークリーマンションなどは対象外で、既存住宅でも省エネ性能を把握できる場合は「省エネ性能ラベル」の表示が推奨されています。
賃貸事業者は、貸主(オーナー)やサブリース事業者から省エネ性能の向上についての情報を得て省エネ部位ラベルを発行。その旨を仲介事業者や広告媒体に伝える努力義務があります。
省エネ部位ラベルは、所有者もしくは販売・賃貸事業者等が自らの責任で作成します。住宅性能評価・表示協会のホームページにアクセスし、現況確認した結果を入力することで発行できます。
仲介事業者を経て広告掲載する場合は、紙面広告の場合は横幅60mm程度、WEBの場合も視認性に配慮して掲載すること、また接客時や契約時も省エネ部位ラベルを使用して省エネ性能を説明することが望ましいとされています。
「省エネ部位ラベル」各項目の確認方法と基準値は?
それでは具体的に省エネ部位ラベルの各要素と、チェック項目を満たす条件を見てみましょう。
まず必須項目とされている要素が上半分の窓と給湯器のイラスト入りの部分です。窓と給湯器のどちらかが表示条件を満たしていないと省エネ部位ラベルを発行することができません。
窓は、リビング・ダイニングの窓が以下のいずれかに該当する場合に表示することができます。
サッシの仕様 | アルミ製サッシ、アルミ樹脂製サッシ、樹脂製サッシ、木製サッシ |
ガラスの仕様 | 二層複層ガラス、 三層複層ガラス、真空ガラス ※Low-Eガラスや内窓を設置している場合はその旨を併記 |
窓の仕様確認は、サッシに貼られている製品ラベルや品番をメーカーのホームページなどで検索して行いましょう。
給湯器は、エコジョーズ、エコフィール、エネファーム、電気ヒートポンプ給湯器、ハイブリッド給湯器に該当する場合に表示することできます。
省エネ部位ラベルの下半分に記載されている、外壁、玄関ドア、節湯水栓、高断熱浴槽、空調設備、太陽光発電、太陽熱利用についてのチェックは任意項目です。右上は太陽光発電・太陽熱利用などが設置されている場合に「再エネ設備あり」と表示されます。
外壁は設計図書(図面)で断熱工法を確認し、それぞれの工法に対して基準R値(熱抵抗値)が省エネ基準を満たしているかを確認します。玄関ドアも図面もしくは現況確認、製品ラベルがある場合はホームページで確認するなどの方法があります。
外壁の省エネ基準
基準R値 熱抵抗値 (㎡・K/W) |
断熱工法 | 1・2地域 | 3~7地域 | 8地域 |
充填断熱工法 (軸組構法(在来工法)) |
3.3 | 2.2 | ー | |
充填断熱工法 (枠組壁工法) |
3.6 | 2.3 | ー | |
外張または内張断熱工法 (軸組構法・枠組壁工法共通) |
2.9 | 1.7 | ー |
玄関ドアの省エネ基準
基準U値 熱貫流率(W/㎡・K) |
1~3地域 | 4地域 | 5~7地域 | 8地域 |
2.3 | 3.5 | 4.7 | ー |
節湯水栓、高断熱浴槽、空調設備も仕様が省エネ基準に適合しているかどうかを、図面や取扱説明書、メーカーのホームページなどで確認します。
不動産ポータルサイト各社の反応は?
SUUMOとat homeは表示開始を発表
国土交通省の発表を受けて、不動産情報ポータルサイトを運営している各社でも省エネ部位ラベルに関するプレスリリースを公表しています。
「SUUMO」を運営する(株)リクルートと「アットホーム」を運営するアットホーム(株)は、11月1日から省エネ部位ラベルの表示を開始する旨を発表。不動産会社や消費者に対しても積極的に省エネ性能に関する認知をはかっていくとしています。
SUUMOでは参考として、ZEH賃貸住宅の家賃上昇に対する賃貸居住者の検討意向調査の結果を紹介。
全国の賃貸住宅居住者に、家賃が上がってもZEH賃貸住宅を検討したいか聞いたところ、「上がっても検討したい」(「家賃が2割程度上がっても検討したい」と「家賃が1割程度上がっても検討したい」の合計)の割合が、2021年18.8%、2022年20.1%、2024年29.0%と年々増加しているとしています。
アットホームでは、住宅購入者または賃貸契約者を対象に、省エネ性能ラベルの認知度や省エネ住宅に対する意識について調査を実施。
住まい選びにおける省エネ性能が重要かどうかについては「そう思う」「ややそう思う」を合わせて85.6%でした。また、「多少価格が高くても、省エネ住宅に住みたい」と回答した人は、「そう思う」「ややそう思う」と回答した人と合わせて64.6%でした。
LIFULL HOME'Sは省エネ意識調査を実施
「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営している(株) LIFULLは、サイトでの省エネ部位ラベルの画像登録を2024年11月1日から開始する予定としています。
あわせて、3年以内に引越しを検討している1,000人を対象に「物件の省エネ性能に関する意識調査」を実施。省エネ性能が可視化される中で、省エネ性能がどれくらい住宅を選ぶ判断材料になっているのかを調べています。
それによると、引越し先を探す際に物件の省エネ性能を意識するかを聞いたところ、引越し検討者の70.2%の人が「とても意識する」「やや意識する」と回答。賃貸物件に関しては「とても意識する」という人が21.4%、「やや意識する」という人が36.5%という結果でした。
省エネ性能を意識する理由としては、賃貸物件への引越し検討者は74.7%が「電気・光熱費を安くしたい」と回答しました。
また、省エネ部位ラベルが住み替えの検討情報として活用できるかどうかについては、全体で約7割が「とてもそう思う」「やや思う」と答えています。
LIFULL HOME’Sでは、物件の詳細ページにラベルの掲載の他、「エネルギー消費性能」や「断熱性能」などの情報を追加し、住まい選びの際に省エネ性能を把握しやすいように取り組む、としています。
まとめ
「省エネ性能ラベル」に比べると、ややハードルが下がった感のある「省エネ部位ラベル」。建物全体のエネルギー消費性能や断熱性能がはっきりわからない場合でも、省エネリフォームを行ったり省エネ設備を採用したりしたときに表示のチャンスが生まれました。
各社のアンケートなどで、省エネ性能によって住宅を選ぶ意識自体は高まっていることはわかりました。
しかし、現在のところ賃貸物件でラベルを目にする機会はまだまだ少なめ。省エネ部位ラベルや省エネ性能ラベルを表示できればエンドユーザーにとってわかりやすい差別化になるはずです。
近いうちに物件の修繕や設備投資を検討している賃貸オーナーは、省エネ性能向上についても考えてみることをおすすめします。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年11月25日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。