「贈与と相続」気になる”一体化”のゆくえ。節税封じ?想定される2023年度税制改正のポイントを解説!

相続/節税/保険
法律
公開日:2022年9月2日
更新日:2022年9月26日
「贈与と相続」気になる”一体化”のゆくえ。節税封じ?想定される2023年度税制改正のポイントを解説!1

「相続税」と「贈与税」の体系を本格的に見直す、税制改正の議論が活発化しています。今後、贈与税の仕組みはどう変わるのでしょうか?議論が進む制度見直しの中身と、想定される改正の視点について、税務のプロに伺いました。

お話を聞いた方
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株式会社YUIアドバイザーズ 代表取締役社長 税理士法人ゆいアドバイザーズ 代表社員・税理士 玉越 賢治 さん

商工中金、(株)リクルートを経て、2003 年税理士法人タクトコンサルティングを設立。中小企業庁「事業承継検討会」委員などを歴任。2021年(株)YUIアドバイザーズ及び税理士法人ゆいアドバイザーズを設立。

23年度の税制改正で、いよいよ節税封じ?議論の中身とは

今年12月に発表される予定の2023年度の税制改正大綱(以下「大綱」)が、相続・贈与に関わる税制をめぐる4年越しの議論にいよいよ終止符を打つのか?と注目を集めています。

「暦年課税と相続時精算課税という贈与税の2つの制度(詳しくは後述)のあり方を見直すための検討」が始まったのは、2019年度の大綱から。暦年課税を活用し、資産を小口分割して複数の親族に繰り返し移転することで相続税を減らす「生前贈与」がやり玉に挙がっています。

以前は、高齢世代に偏った資産を若年層へ早期に移し、経済活性化につなげる「世代間移転」を重視した税制改正が行われてきました。それが次第に節税抑制にシフトしてきたのです。

玉越さんは、「大綱の『基本的考え方』の中に、21年度、22年度の2年続けて『本格的に見直す』と明記されているだけに、23年度税制改正で変わる可能性が高まっています。次回でなくとも、いずれ改正されるのは間違いないでしょう」と話します。

税制大綱で、暦年課税と相続時精算課税のあり方が見直され始めたのは19年度から

2018年度税制大綱 「記載なし」
2019年度税制大綱 「検討」
2020年度税制大綱 「検討」
2021年度税制大綱 「本格的な検討」
2022年度税制大綱 「本格的な検討」
2023年度税制大綱 「22年12月に公表予定」

 

相続税と贈与税の仕組みを解説。贈与税には2つの課税方式

どう変わるかを理解するために、相続税と贈与税の仕組みを、まずは復習しておきましょう。どちらも「個人間(主に親族間)の資産移転に関わる税金」で、生前に移転した資産に課税されるのが「贈与税」、亡くなってから移転した資産にかかるのが「相続税」です(図表1)。

「相続税と贈与税はそもそも一体のもの。贈与税には、所得税や消費税のような独立した税法はなく、主たる税体系の相続税法の中に組み込まれた補完税なのです。生前に行う贈与は相続財産の前渡し、そこで課税された贈与税は相続税の前払いの意味合いがあると言えるでしょう」(玉越さん)

図表1:相続に関する現状の税体系

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相続税と贈与税(暦年課税)はいずれも、移転する金額が大きいほど税率が高くなる累進税率です。ただ、相続より贈与が有利にならないように、贈与税率のほうが上昇する傾斜のほうが厳しく設定されています(図表2)。

図表2:贈与税と相続税の税率構造

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※親から18 歳以上の子への贈与または相続を想定。 ※相続税の基礎控除額は、相続人が子1人と想定して3,600万円とした。 出典:中小企業庁の資料を監修元が一部修正

さらに贈与税には、図表3に示した2つの課税方式があります。もともとは年単位で課税される暦年課税が基本でした。

しかし暦年課税制度は、少額資産の贈与には適しているものの、不動産など高額資産を贈与する場合は高い税率が適用されることから、採用しづらかったのです。

一方で高齢化などに伴い、相続による資産の世代間移転の時期が、より高齢期にシフトしており、高齢世代に偏在する資産の若年世代への移転が進みにくい状況にありました。

この状況を是正するため、2003年に、累積2500万円までの特別控除枠までは贈与税をかけずに贈与でき、贈与した分を相続時に持ち戻す相続時精算課税制度が創設されました。

贈与か相続かを問わず、いつ財産を移転しても最終的に支払う税額が大きく変わらない「財産移転時期に中立的な税制」を目指したのです。

しかし、相続時精算課税制度には後述するリスクが伴うために、利用率が低迷していて、暦年課税を使った生前贈与の人気が相変わらず高い。それが、今回の税制改正の議論につながっているのです。

図表3:暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較

暦年課税制度(1948年~※) 相続時精算課税制度(2003年~)
控除額 基礎控除:毎年110万円 特別控除:累積2,500万円
税率 10~55%の累進税率 一律20%
贈与者 問わない(相互の自由契約) 60歳以上の父母・祖父母
受贈者 問わない(相互の自由契約) 18 歳以上の子・孫
贈与財産の
相続時の取り扱い
基本的には相続財産に加えない
※相続開始前3年以内の贈与財産は相続財産に加算
●贈与財産を(贈与時点の評価で)相続財産に加えて相続税を計算
●相続税額からすでに支払った贈与税額を控除(控除しきれない金額は還付)
制度の移行 暦年課税から相続時精算課税制度へ、いつでも移行できる いったん相続時精算課税を選択した後は、暦年課税に戻れない
活用のポイント ●長い年月をかければ、多くの財産を移転できる。贈与税は、単年度で完結
●実の子だけでなく、子の配偶者、孫やひ孫、お世話になった人などにも財産を渡せる
●一度に多額の財産を移転できる
●贈与時点より評価が上昇しそうな資産、贈与後に評価が落ちず
収益が見込めそうな資産の移転に適している

※もともと贈与税は単年度で課税する方式しかなかった。相続時精算課税制度ができた時点で、旧来の方式を「暦年課税制度」と呼ぶようになった

今後の税制改正で予想される、改正の内容とは?

では、どのような改正が予想されるのでしょうか?

一部マスメディアでは「暦年課税が廃止され、相続時精算課税に一本化される」といった声もありますが、玉越さんは「現実的ではない」と言いいます。理由は、預貯金口座をすべて後追いできるマイナンバーの普及率が低い現状では、生前に贈与された時期と累積金額を捕捉できず、税務当局も情報を把握できないからです。

想定される改正は、暦年課税に規定されている「相続開始前3年以内の贈与」を相続財産に加算する現状の対象期間の見直しです(図表4)。

図表4:生前贈与財産の加算対象期間が延長?

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欧米での加算期間は、イギリスが7年、ドイツは10年、フランスは15年。アメリカは無期限にさかのぼるように、設定されています。

「加算対象期間が長いほど、資産移転時期に中立的になり、贈与税と相続税がより一体化しますが、無限や10年以上に長くしすぎるのは実務的に対応しにくいです。5年〜7年以内に延長されるかもしれません」(玉越さん)

相続時精算課税制度は次のようなリスクがあるため、より使いやすい仕組みに改善する改正も考えられます。

まず現行法では「贈与時点の価額」を相続財産に持ち戻すため、贈与時より相続時の評価額が下がった場合には、贈与時の高い価額で計算することになるので、不利になります。

また贈与者と受贈者の年齢制限(図表4)、生前贈与した宅地には小規模宅地等の特例が適用されないことなどがネックとなっています。相続時精算課税制度の活用を促進させるためには、これらのリスクやデメリットの解消が求められるでしょう。

その他、図表5で紹介している3つの一括贈与に関わる非課税特例の改正は、扱いが異なりそうです。

「結婚・子育て資金の一括贈与」は年間の利用件数が全国で300件台(2020年)と極端に低いため、2023年3月末の期限で廃止になる可能性が高い。一方、財産の世代間移転を促す効果が高い「住宅取得等資金」や「教育資金の一括贈与」は、非課税枠の拡充も検討されているようです。

図表5:一括贈与に関わる非課税特例

住宅資金の
贈与
教育資金の
贈与
結婚・子育て
資金の贈与
目的 マイホームの新築、中古住宅の購入・増改築 教育資金(入学金や授業料、塾・習い事など) 結婚や子育て資金(挙式や新居、出産・不妊治療など)
非課税枠 500~1000万円(住宅性能により異なる) 1500万円(学校以外への支払いは500万円) 1000万円(結婚費用は300万円)
贈与する人 父母・祖父母など 父母・祖父母など 父母・祖父母など
贈与される人 18 歳以上の子・孫(合計所得が2000万円以下) 30歳未満の子・孫(合計所得が1000万円以下) 18 歳以上50 歳未満の子・孫(合計所得が1000万円以下)
適用期限 2023年12月31日まで 2023年3月31日まで 2023年3月31日まで

 

改正税法が適用される時期も気になるところ。2023年度の税制改正に盛りまれた場合、同法が施行されるのは、通常国会で法案が通過した後の4月以降が一般的です。

「改正後の法律は、施行される前の行為には遡らないという“不遡及の原則”があります。法施行は最短で来年4月ですが、贈与税は1月1日から12月31 日の暦年期間に対する課税のため、少なくとも来年いっぱいは現行法の下での贈与が可能と考えられます。大きな改正の場合には、数年の周知期間を置くのが通例ですから、3~5年後の施行になる可能性もあるでしょう」(玉越さん)

※この記事の情報は2022年9月7日時点のものです。

取材・文/木村 元紀 イラスト/アサミナオ

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