不動産の専門家・牧野知弘氏が解説!激動の新時代を賃貸オーナーが生き抜く道筋とは
- 市況・マーケット
3年前から始まったコロナ禍に加え、世界的な地政学的リスクは日本経済へ甚大な影響を与えました。急激な物価高が進む一方で、ウィズ・コロナに移行しつつある中、今後を見据え、将来に向けてどう道を切り開けばいいのでしょうか。賃貸オーナーが進むべき進路を、不動産事業プロデューサーで経済・社会問題評論家の牧野知弘氏に聞きました。
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不動産事業プロデューサー/経済・社会問題評論家
牧野 知弘氏
不動産ソリューションビジネスのオラガ総研(株)、(株)オフィス・牧野代表取締役社長。1983年東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産で各種不動産投資業務を経験。その後もJ-REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場するなど、不動産業務に精通するプロ。
著書に『民泊ビジネス』『2030年の東京』(祥伝社新書)、『2020 年マンション大崩壊』(文春新書)など多数。2015 年3月、著書『空き家問題』が第5 回不動産協会賞(一般社団法人不動産協会)を受賞。テレビ、新聞などメディア出演多数。
団塊世代が後期高齢者に突入した今、「いらない相続」は他人事ではありません。戸建て住宅やマンション、別荘、都市農地、山林など、不動産のプロが、「負の相続」にならないための解決策を提言。
低金利に慣れ切った日本経済を覆う金利変動リスクのインパクト
牧野(敬称略。以下同) コロナ対策のために世界的に金融緩和が進んだ上に、ロシアのウクライナ侵攻を引き金に起きたエネルギー危機もあり、先進国を中心にして急激なインフレが起きました。
欧米が金利引き上げに向かう中で、日本だけ低金利の状況は続けられるかは疑問です。金利を上げると景気回復に水を差すと言われますが、金融マーケットは全世界でつながっています。結果として海外との金利格差が拡大し、円売りドル買いが進んで急激な円安になったのが昨年の後半でした。
2023年以降も、金融が非常に大きなファクターになります。日本では低金利が長く続いたため、金利には必ず上下動があることすら忘れていたのではないでしょうか。
アパートローンはほとんどが変動金利で組まれてきましたが、これから金利が変動するリスクが顕在化してくる。まさに新しい経済環境の幕開けの年だと思います。
牧野 明らかに実質的な利上げを許容した宣言でしょう。実際に長期国債のレートは上がってきました。注目すべき点は、変動金利の指標になる短期プライムレートの動きです。現時点ではまだ反応していません。
しかし、長期金利だけが一方的に上昇して短期金利が変わらない状況は、経済理論から考えにくい。遅かれ早かれ、短期金利にも影響を及ぼしていくでしょう。
その意味で、今年は危機に備える年になります。早期の金利固定化が、大家さんにとって喫緊の課題と考えています。金利上昇は収支に直結します。金融機関と交渉して金利を変動型から固定型に切り替える、固定金利ローンに借り換えるなどの対策が必要です。
計り知れない建築費高騰の影響。郊外ニーズや戸建て賃貸の動きは?
牧野 もっとも値上がりしているのが鉄筋コンクリート(RC)造です。木造や軽量鉄骨造のアパートはそこまで上昇していませんが、単価的には高水準で、楽観できません。建築資材の高騰を踏まえると、今後数年間は大きく下がる局面は想像しにくく、さらに上昇する可能性もあります。
牧野 すでに影響を受けています。かといって建築費の上昇分を賃料に反映するのも難しい状況です。大企業の一部は給料アップに踏み出していますが、日本企業の99%を占める中小企業は賃上げに追随しにくい。物価高や社会保障費のアップは個人の家賃負担能力に確実に影響してくるため、非常に厳しいマーケットになるでしょう。
例えば、都内の城東地区で土地を仕入れて賃貸マンションを建てる事業計画を複数拝見しましたが、坪当たり賃料を1.5万円以上に設定しないと採算ベースに乗りません。
仮に8坪(26㎡)の1Kなら家賃が12万円。都心並みの水準になってしまう。地域相場から見てハードルが高すぎます。現に、募集賃料をそのレベルで出すと、まったく反響がありません。
牧野 今、売れているのは都心の高額物件が中心です。購入層は、外国人や投資家、相続対策のために取得する富裕層など。一般ユーザー向けはまだら模様で、売れない物件も増えています。
牧野 確かに郊外型のアパートには少し光が射しています。ただ、ユーザーの要求が非常に細かくなってきているため、郊外で安ければどこでも良い、というわけではありません。
海や山のリゾートテイストを好むとか、月に数回は会社に行くのでやはり利便性は重要だとか。お子さんの学校、夫婦共働きで夫と妻それぞれに異なるニーズなど、希望条件は複雑です。
牧野 その点についても、注意すべき事態が起きつつあります。2030年にかけて高齢単身世帯が激増してくることです。人口問題研究所の統計によれば、向こう7~8年の間に、年間の死亡者数は20万人以上も増えてしまう。
その中でも単身高齢者が亡くなると、相続問題が絡んできます。単身の親が住んでいた戸建ての持ち家を子どもが相続しても、すでにマンションを所有していたりして親の家には住まないケースが多く、元の家は貸すか売るしかありません。
こうした相続予備軍が首都圏を始めとした大都市に多数いて、都心周辺の立地の良いところで戸建て賃貸が急増するおそれがあります。賃貸市場は「大競争時代」に入ってくるでしょう。
新時代の賃貸経営はマーケティングがカギ。家賃に見合うサービス機能と価値が重要
牧野 アパート経営は「マーケティングの時代」に入ったと思います。今までは土地ありきで、そこに経済性のある建物を作り、駅徒歩〇分、間取りと設備がこうだから家賃がいくら、というハード中心のアプローチでした。
これからは自分のアパートの特徴、キャラクター性を前面に打ち出していく必要があります。家賃が高くても、そのアパートに住むメリットをアピールできるサービスなど、ソフトの時代になっているのです。
昨今の若者は、住まいの質への要求度が高まると同時に、趣味やこだわりのあるものには惜しげもなくお金をかける傾向があります。こうしたニーズにどう応えられるかがポイントです。
例えば「ペット可」ではなく、ペットを飼っている人だけが入居する「ペット飼育専用」の賃貸アパートも、アイデアの1つ。共用部分に犬の足洗い場、室内にキャットタワーを付けるなど、飼い主とペットが快適に住める設備仕様にした上で、そこにプラスアルファのサービスを付けるわけです。
地元のペットショップと提携して、ペットフードが安くなる共同購入ができたり、旅行や出張のときにペットシッターのサービスを優待料金で受けられたり。入居者ならではの特典を付加するのがポイントです。
趣味やライフスタイルに共通項のある人が集まれば、コミュニティが生まれてトラブルが少なく、口コミの集客効果も期待できます。
牧野 自転車やバイクのシェアリングはシェアハウスなどで採用されていますが、アパート住民だけがシェアできるサービスも考えられるでしょう。例えば、ファミリーやカップルの住まいで在宅勤務する場合、家族がいるリビングでリモート会議はしにくい。
建っているアパート全体の防音性能を高めるのは難しいので、1室、2室だけ防音室にして、予約制の時間貸しで使えるようにするといったアイデアも考えられます。今なら、スマートフォンで予約、カードキーやスマートロックで管理できるので、導入コストも抑えられます。
牧野 オーナーは入居者を「店子」や「テナント」と呼び、「お客様」とは言いませんね。しかし、単にスペースを貸すだけではなく、部屋の中で快適に過ごせるホスピタリティを提供するという点では、賃貸住宅とホテルは親和性が高い。
「お客様を迎える」という姿勢が大切です。そのスタンスで臨めば、付加価値を付けるアイデアはいくらでもわいてくるでしょう。
まとめ|新時代の賃貸経営の心得
◎金利変動リスクに備えて迅速に動く ◎マーケティング視点で競争を勝ち抜く ◎ハードに加え、ソフト・サービスが大事 ◎「入居者=お客様」目線でもてなす |
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2023年3月7日時点のものです。
取材・文/木村 元紀 撮影/青木 茂也
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