アパート・マンション大規模修繕で起こりうるトラブル対処法Q&A|施工会社編[税金・法律#2]

建物の大規模修繕は範囲が広く、工事期間も長くなります。思わぬトラブルに巻き込ませるかもしれません。そんなときもあわてないように、施工会社との間でよくあるトラブルと対応の仕方について、Q&A形式で解説します。

工事代金の増額要求

Q1.着工した後に、急激な資材高騰のために工事代金の増額を求められました。支払う必要がありますか?

A1.契約条項の内容次第で増額について協議する必要があります。

建築費は2021年頃から急激な上昇傾向にあるため、契約段階と工事完了までの期間が長い場合は、施工会社から工事代金を引き上げてほしいと求められるケースは珍しくありません。法的には、契約条項の中に「工事代金の変更」に関する規定が盛り込まれているかどうかによって対応が変わります。

業界団体が推奨している標準的な工事請負契約の約款には、「想定外の経済事情の激変があり、明らかに当初の工事代金が不合理(不適当)になった場合は、工事代金の変更を求められる」旨の条項が盛り込まれているのが一般的です。そのため、少なくとも話し合いには応じる必要があります。

ただ、無条件に施工会社が求める増額分を認めなければならないわけではありません。事前に予期できないほどの資材の急騰があったという客観的なデータ、増額幅に対する負担割合についての合理的な説明があるかどうかがポイントです。工事期間が1年以上の長期に渡る場合の物価や人件費の高騰、法令の制定・廃止なども考慮されます。なお、話し合いがつかずに訴訟になった場合、裁判で「経済事情の激変」が認められるのは、かなり限定的でハードルが高いようです。

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修繕工事では、約款のないペラ1枚の簡単な契約書だけしかないケースも珍しくありません。その場合は「工事代金の変更」に関する取り決めがないため、契約書に記載した金額で行うのが原則。施工会社からの増額要求を突っぱねることもできます。

ただ、それによって施工会社の経営が悪化して工事がストップしてしまったり、倒産してしまったりすると、オーナーにとってもマイナスです。コスト増をすべて施工会社がかぶると赤字になってしまうような事情があるなら、ある程度は、増額を受け入れざるをえないかもしれません。資材高騰分を施工会社とオーナーで折半するといった解決策も考えられます。

昨今のインフレ傾向の中では、今後も資材高騰、建築コストの上場は予測できますから、契約を結ぶ前に十分に協議をして、予め資材が高騰した場合の対応方法について取り決めて書面化しておくことが大切です。

追加費用の請求

Q2.工事完了後の残金支払いの段階で、想定外の追加費用を請求されました。納得できません。

A2.オーナーからの要請、やむを得ない事情で設計変更や追加工事があれば、追加費用の支払いは必要です。

資材高騰などの情勢変化があった場合の追加費用の扱いはA1と同様です。追加費用が発生する原因は2つ考えられます。1つは、オーナーから施工中に設計変更や追加工事、工期の変更などを求めた場合。2つ目は、事前の劣化診断ではつかめなかった想定外の下地の劣化や損傷が見つかり、工事項目が追加された場合があります。

まず1番目では、オーナーから何も指示がないのに、施工会社が勝手に追加変更をすることは考えにくいでしょう。ありがちなのは、オーナーが現場で直接職人に「ここに棚を増やして」「やっぱり壁紙は、この色にして」と口頭で伝えていたケース。オーナーとしては「追加費用がかかるとは思わなかった」「その程度はサービスで対応してくると思っていた」といった感覚でいるわけです。しかし、現場では追加・変更と受け止め、当然ながら後で費用を請求するという流れになります。

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このような行き違いを防ぐには、どんな細かい指示でも書面でのこし、費用の増減について合意しておくことが大切です。基本的には変更や追加は現場監督なり、設計担当者なりに伝え、現場ではダイレクトに支持を出すのは控えるべき。また、既に資材を発注した後に変更をすると無駄が出ますし、追加・変更工事は割高になります。追加・変更はなるべく着工前までにしましょう。

2番目も、修繕工事ではよくあるケースです。例えば、外壁がタイル張りの場合、事前調査では手が届く範囲の検査しかできません。着工後、足場を組んでから改めて全面打診検査をして、タイルの浮き、損傷をチェックします。その結果、当初の想定よりタイル交換の割合が増えた。あるいは外装材を剥がしたり設備を撤去したりして、初めて下地の腐食や不具合がみつかり、補修や下地処理に手間がかかった、といったケースです。

修繕工事では、こうした事態に備えて、工事代金総額の1割程度の予備費を計上しておくと安心です。工事個所の増減があった場合の精算方法も契約時に決めておきましょう。

工事完了後の値引き

Q3.工事の出来栄えに満足できません。入居者からの反響も期待したより低いので代金の値引きを請求できますか?

A3.契約した以上、記載された工事代金の支払い義務は消滅しません。引き渡しをうけたタイミングで残金を支払う必要があります。

完了した工事の内容が契約に適していない、図面や工事仕様書と異なる場合は、契約不適合責任として、修補請求、代金減額請求、損害賠償請求などを行えます。しかし、単に「期待外れ」「想像したイメージと違う」といった程度では、施工会社の責任は追及できません。不適合と言える明確な根拠、契約内容との違い、原因、損害の程度などを具体的に検証する必要があります。

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オーナーは、施工会社を決めて契約した時点で、100%満足できる完成イメージを思い描き、工事が完了して入居者募集をすればすぐに部屋が埋まるといった夢を膨らましがちです。工事が進むにつれて減点箇所が増え、施工会社に特段のミスがなくても、期待とのズレが拡大してくる傾向にあります。意識のギャップは金銭に換算できません。逆に、期待以上の出来栄えになったとしても、工事代金を余計に払うわけではないでしょう。

工事中の室内・人的な損害

Q4.室内のリノベーションで専用配管の交換工事をしているときに、階下の部屋に漏水が発生し、その入居者から損害賠償を請求されました。支払う義務はありますか?

A4.漏水の原因によって判断が分かれます。明らかに施工会社のミスが原因なら、法的にはオーナーに損害賠償の義務はありません。

施工会社が適切な工事をしていたにも関わらず、給排水管の経年劣化が原因で漏水事故が起きた場合はオーナーが損害賠償を求められる可能性はあるでしょう。原因は何かを明確にすることが大切です。

もっとも、原因や責任の所在を明らかにするには時間がかかります。しかし、階下の入居者は、漏水が発生したら、家財の損害や部屋を使用できない期間のホテル宿泊費などを、まずはオーナーに請求するでしょう。

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原因がわからないからと対応を遅らせていると、入居者の感情を害してトラブルが深刻化し、最悪の場合、退去されてしまうおそれもあります。まずオーナーが必要な手配をした上で、施工会社のミスが判明したら事後的にオーナーから損害賠償を請求し、保険でカバーできる分の手続きを進めることが賢明かもしれません。

なお、施工会社が適切な工事を進めても避けられない騒音、振動、地盤沈下、地下水の断絶、日照阻害、風害、電波障害などの理由で第三者に損害を与えたときは、オーナーが損害の補償責任を負うとされています。

工事の遅延

Q5.契約では12月中に工事完了の予定でしたが、1月までズレ込み、入居者の募集活動にも影響が出ました。損害賠償を請求できますか?

A5.工期の遅れの原因が施工会社かオーナーかによって判断が分かれます。

施工会社は、一般的な天候不順を想定して余裕をもった工事日程を組んでいるものです。しかし、工事中の対応の不備、スケジュール管理がいい加減なために、予定した工事完了日に間に合わないことが明らかな場合は、損害賠償の請求をできます。契約書に「1日当たり工事代金の〇%」といった精算規定が記載されているケースも少なくないでしょう。

ただし、以下のようなケースでは工期の遅れはオーナーにもあるため、補償は受けられません。

・工事代金の部分払い(中間払い)が遅れたために、施工会社が資材調達や人員手配ができずに工事の着手ができない、または工事を一時中止したとき

・コスト削減のためにオーナーがネット通販で仕入れた、“オーナー支給”の材料や設備の搬入、受け渡しが遅れたために、施工会社が工事の手待ち、一時中止をしたとき

・オーナーの意向で工事の変更、追加が行われたとき

・台風、地震など不可抗力によって工事が中断したとき

工事完了後の瑕疵

Q6.大規模修繕で屋上防水と外壁補修を実施しましたが、1年もたたずに雨漏りが発生しました。施工会社に補修を求めていますが、なかなか対応してくれません。どうすればいいですか。

A6.請負契約における「契約不適合責任」(旧・瑕疵担保責任)を、施工会社に問えます。

工事が完了して、建物や設備を利用し始めてからまもなく、客観的に見て本来の性能を備えていない状態になった場合は、工事請負契約で定められた内容を満たしていないことになり、欠点(瑕疵)があると判断できます。こうした欠陥に対して修補請求、代金減額請求、損害賠償請求を行えるのが契約不適合責任を追及する権利です。

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注意したいのは、不適合を知ってから施工会社に1年以内に事実を内容証明郵便などで通知して、かつ5年以内に権利を行使する必要があること。「権利の行使」とは、責任追及の訴訟や調停などの法的手続きを取ることです。最終的に、引き渡し時期から10年で権利は消滅(時効)となります。修繕工事の「引き渡し日」は、施工会社が工事を完了した後に、オーナーが施主検査を行って、必要な修正などをした上で、最終的に「工事完了確認書」を取り交わした時期です。

もっとも、法的手続きを取ったとしても、施工会社の経営が傾いていたり、倒産していたりする場合には、現実問題として損害賠償や補修への対応は期待できません。このような事態に備えて、経営基盤のしっかりした信頼できる施工会社を選ぶことが大切です。

施工会社の倒産など、万が一の場合のリスクヘッジとして、修繕に関わる瑕疵保険でカバーする方法もあります。所定の期間に事前登録した施工会社が加入手続きを行うと、契約不適合が見つかった場合に、施工会社に保険金が下り、補修のサポートをしてくれる制度です。施工会社が倒産していた場合は、工事の発注者に直接保険金が支払われます。国土交通省の所管で、専門の検査員が工事内容をチェックするため、修繕の品質についても一定の安心感が期待できるでしょう。

建物の規模によって、以下の2つの種類があります。

・大規模修繕瑕疵保険:延床面積500平方メートル以上、4階建て以上の共同住宅

・リフォームかし保険:延床面積500平方メートル未満、3階建て以下の共同住宅、または戸建て住宅

文/木村 元紀

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