120年ぶりの民法改正!賃貸経営に与える影響とは?

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平成29年に成立した民法改正法案。平成32年4月から施行開始となります。この改正によって、賃貸オーナーの実務にどのような影響があるのでしょうか。久保原弁護士に「民法改正が賃貸経営に与える影響」についてご解説いただきました。

九帆堂法律事務所 弁護士 久保原 和也

2007年、京都大学大学院法学研究科修了。同年、司法試験合格。


2008 年、九帆堂法律事務所設立。


最高裁で勝訴した更新料裁判の大家さん側弁護団の首都圏担当。更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士としてさまざまな情報を発信。


民法改正の概要

平成29年5月26日、民法改正法案が参議院本会議で可決・成立しました。そして、いよいよ平成32年4月1日から施行されます。

今回の民法改正では、

(1)判例等によって蓄積されてきた解釈を明文化して分かりやすくすること

(2)現代社会への対応・適応をはかること

(3)国際化(グローバルルール)に対応すること

が目指されました。長時間の審議の末にまとめられた改正案を検討すると、結果的に不動産賃貸借の実務に影響する点は限定的で、従来の蓄積された解釈が明確になったという要素が大きいと思われます。

賃貸経営への影響

❶連帯保証人の保護

ポイント

●極度額(責任の上限額)を定めることが必要に。極度額を定めない連帯保証契約は無効。

➝施工開始までに現状の契約書の見直しを

●連帯保証人への情報提供が義務化。

➝連帯保証人から問い合わせがあった場合、遅滞なく賃借人の履行状況を提供すること

最も影響が大きいのが、連帯保証人に関する改正点です。重要な点は、

(1)極度額を定めなければならなくなること

(2)情報提供義務が課せられること

の2点です。

不動産賃貸借契約における連帯保証人の責任は、当該契約における金銭請求全てに及びます。賃料滞納はもちろん原状回復など全ての債務について、賃借人と同様の支払い義務を負うことになるのです。

最近は高額な賃料の高級物件も増えており連帯保証人への請求額が驚くような額になることも珍しくありません。こうした現状から、青天井の責任を負担させるのは予期せぬ責任を負わせることにもなり酷な場合もあるのでは、ということが問題となってきました。

今回の民法改正により、連帯保証契約(賃貸借契約書の中で取り交わされることが多い)の際に極度額を定めなければならなくなります。

極度額とは、簡単に言えば「責任の上限額」。例えば極度額200万円の連帯保証契約の場合、連帯保証人が負担するのは200万円までということです。こうした極度額を定めない連帯保証契約は無効となります。

そこで施行日である平成32年4月1日までに、必ず現在の賃貸借契約書を見直し、新たな契約の際は極度額を定めた契約書を使用しなければなりません。

もう一つ重要なのが(2)の情報提供義務です。

連帯保証人が正しい情報のもとで連帯保証を引き受け、その後賃借人の履行状況を正しく把握し、連帯保証債務が予期に反して高額になることを防ぐための改正です。

賃貸人は連帯保証人から問い合わせがあった場合、遅滞なく

①履行の有無

②残額

③期限が到来しているものの額

についての情報提供をしなければならなくなります。管理会社等を利用している場合は、管理会社の運用を確認しておくとよいでしょう。

❷敷金・原状回復

ポイント

●これまで判例等によって蓄積された解釈が明文化されたにすぎず、これまで判例に沿った正しい対応をしてきた場合は何ら変わることはない。

→「通常損耗・自然損耗は賃貸人負担、故意過失による損耗は賃借人負担」という判例を明文化

民法が改正されると「敷金は原則として全額返還」しなければならなくなるといった噂も流れました。一部マスコミによるミスリードな報道もあったと思います。しかし、敷金・原状回復については判例等によって蓄積されてきた解釈を明文化したもので、実務に変更をもたらす改正ではありません。

敷金については現在の民法には規定がなく、また原状回復についても争いが多い分野であるにも関わらず不十分な規定しかありませんでした。そのため最高裁判所の判例によって実務が形成されてきました。

例えば、特約が無い限り「通常損耗・自然損耗は賃貸人負担、故意過失による損耗は賃借人負担」という判例はご存知かと思います。しかし、判例を知らないと実務に対応できないことも問題であり、今回は従来の判例を民法の中にきちんと書き込むという対応がなされたのです。

従来きちんと対応してこられたオーナーは何も変わることはありません。しかし、原状回復についての判例実務の勉強が不十分だった方はこの機会に再度勉強をしていただき、判例に沿った正しい実務対応を心掛けていただければと思います。

❸使用できない部分の家賃減額

ポイント

●「請求できる」から「当然減額」へ改正。実質上の対応の変更はないが、遡り請求を防ぐために使用不能になった際はすぐに届ける義務の特約を定めるなどの工夫を。

→「風呂が使えない(減額割合10%/月額、免責日数3 日)」等、日本賃貸住宅管理協会による賃料減額のガイドラインとなる資料もあるので参考に

改正民法について最も多い質問が「賃借物件にトラブルがあると賃料は当然に減額となるのか?」というものです。

現在の民法では賃借物の一部滅失の処理について、賃借人はその滅失した部分の割合に応じて「賃料の減額を請求できる」と定められているのに対し、改正民法では「減額される」(当然減額)となることから不安が広がっているのだと思います。

しかし「請求できる」から「当然減額」に改正されても、減額の割合など結局は話し合いが必要となることに変わりはありません。そのため、実質上の対応は変わらないのでは、と思われます。

ただし、少し気になるのが一部使用できなくなった時にすぐに申し出ず、例えば退去時に、遡って減額分を返せ、などと請求されると実務は混乱します。

そこで、一部使用できなくなった場合は、すぐに届け出る義務を特約で定めるなどの工夫が必要かと思います。

❹賃借人の修繕権

ポイント

●賃貸人が必要な修繕をしない場合、賃借人自ら修繕し、後で費用を請求できる。

→修繕の必要性、範囲、方法などで意見の食い違いが出るおそれ。特約等で事前の取り決めが重要

賃借物の修繕が必要である場合、その旨を賃貸人に通知しても修繕してくれない場合や急迫の事情がある場合、賃借人が修繕できる旨の改正です。

しかしオーナーにとっては大事な物件を勝手に修繕されるというのは抵抗があると思います。修繕の必要性の有無で賃貸人と賃借人の意見が異なるというトラブルも起こるかもしれません。

現在でも修繕については特約で定めることが多いと思いますが、賃借人による修繕が可能な範囲は特約でより厳格に定めるなどの対応が必要になるかもしれません。

まずは実務内容の確認を

前述のほかには、時効期間の変更や法定利息の利率の変更などの改正がありますが、大きく見ると、連帯保証人に関する事項以外は従来の実務を明文化したものですので、民法改正について必要以上に怯える必要はありません。

繰り返しになりますが、判例等で確立してきた実務を、この機会に再度確認いただきたいと思います。

※この記事内のデータ、数値などに関しては2018年3月6日時点の情報です。

イラスト/黒崎 玄

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