「ナフサショック」が賃貸経営に与える影響は?賃貸オーナーが取るべき対策を解説
ナフサ価格の高騰が、賃貸経営にも影響を及ぼし始めています。塗料や断熱材、塩ビ管、住宅設備など、賃貸物件の維持に欠かせない多くの建材が石油化学製品を原料としているためです。大規模修繕費の上昇から工事の遅延リスクまで、オーナーが直面する課題を整理し、今後の対策を解説します。
ナフサショックとは
ナフサショックとは、プラスチックや化学製品の基礎原料となる「ナフサ価格」が急騰し、企業活動や生活コストへ広範囲に影響を及ぼす現象です。近年は、2025年から2026年にかけての中東情勢の緊迫化や原油価格の上昇による供給不安が意識され、住宅業界や不動産業界でも大きな関心を集めています。
日本は原油・ナフサともに輸入依存度が高く、特にホルムズ海峡を通過する中東産原油への依存が大きい構造です。そのため、中東地域で地政学リスクが高まると、原油供給への不安からナフサ価格も上昇しやすくなります。実際には供給不足が発生していなくても、「今後不足する可能性がある」という市場心理だけで価格高騰が起こるケースも少なくありません。
さらに近年は、海外サプライチェーンの混乱や物流費上昇も重なり、住宅建材や住宅設備の供給制約、納期遅延、出荷制限などが問題視されています。住宅会社や工務店の現場では、建築資材や設備機器の値上げ、工期遅延、受注調整への警戒感も強まっています。
ナフサ価格が上昇すると、石油化学メーカーの原材料費や調達コストが増加し、塗料、断熱材、接着剤、ビニールクロス、塩ビ管など幅広い製品価格へ波及します。その結果、建築費やリフォーム費用、大規模修繕費、設備更新コストなどが上昇し、賃貸経営や不動産投資の資金計画にも影響を与え始めています。
ナフサと不動産コストがつながる理由
ナフサ価格の高騰が不動産コストへ波及する背景には、多くの住宅建材や住宅設備が石油化学製品で構成されている事情があります。
ナフサはプラスチックや合成樹脂の原料であり、塩ビ管や配管部材、ビニールクロス、クッションフロア、防水材、シーリング材、断熱材、接着剤など、賃貸住宅やマンションで日常的に使用される建材価格へ大きな影響を与えます。特に近年は、断熱性能向上や省エネ需要の高まりから、断熱材需要も増加しており、価格変動の影響が住宅業界全体へ広がっています。
また、ユニットバス、キッチン、トイレ、エアコン、給湯器などの住宅設備にも多くの樹脂部材や断熱素材が使用されています。そのため、ナフサ価格上昇は住宅設備価格にも波及し、設備交換コストや修繕費を押し上げる要因になります。実際に住宅設備メーカーでは、原材料価格や物流費高騰を背景とした値上げが相次いでいます。
さらに、建材価格だけでなく、物流費、電気代、人件費も同時に上昇しやすいため、施工会社や管理会社の運営コストまで押し上げられます。その結果、オーナー側では大規模修繕費や原状回復費の増加が起こりやすくなり、長期修繕計画や資金計画の見直しが必要になるケースも増えています。
今後は、「建築費は一時的に高いだけ」と考えるのではなく、建築資材や住宅設備の価格上昇が構造的に続く可能性も踏まえた経営視点が重要になっていくでしょう。
住宅・賃貸物件で使われる代表的なナフサ製品
賃貸住宅や注文住宅では、ナフサを原料とする石油化学製品が想像以上に多く使われています。
代表的なのが、給排水設備に使用される塩ビ管や配管部材、室内仕上げ材であるビニールクロス、クッションフロア、防水シートなどです。これらは新築工事やリフォーム、リノベーション、大規模修繕など幅広い現場で使われており、資材価格上昇や納期遅延の影響を受けやすい建築資材と言えます。
また、屋上や外壁防水で使用されるウレタン防水材、シーリング材、塗料、接着剤なども石油由来原料との関係が深く、ナフサ価格高騰が工事費へ反映されやすい分野です。特に外壁塗装や防水工事では使用量も多く、価格変動の影響が修繕費全体へ波及しやすくなります。
さらに、断熱材や防音材などは住宅の断熱性能や快適性へ直結する重要部材です。近年は省エネ性能向上ニーズや補助金制度の拡充によって需要が増加している一方、資材不足や供給制約による納期長期化も起こりやすくなっています。
加えて、ユニットバス、キッチン、トイレ、洗面台、エアコンなどの住宅設備でも、樹脂部品や配線被覆、断熱素材が大量に使用されています。そのため、ナフサ価格の上昇は一部の建材だけではなく、「賃貸経営全体の維持コスト」に深く関わる問題と言えるでしょう。
ナフサ価格が動く仕組みと最近の動向
ナフサ価格は、主に原油価格、為替相場、中東情勢、供給状況の影響を受けて変動します。ナフサは原油を精製して製造されるため、原油価格が上昇すれば製造コストも連動して高騰します。
また、日本は輸入依存度が高いため、円安が進むと輸入コストが増加し、国内価格へ反映されやすくなります。特に2025年から2026年にかけては、中東地域の緊迫化やホルムズ海峡周辺の供給不安によって、エネルギー市場全体が不安定化しています。
こうした地政学リスクは、実際に供給不足が発生していなくても「将来的な不足懸念」から価格高騰を招くことがあります。さらに2026年2月以降は、ホルムズ海峡の通航制限により実際の供給制約が生じており、住宅会社や工務店では材料確保や早期調達を急ぐ動きが広がっています。
さらに近年は、海外サプライチェーンの混乱や物流コスト増加も重なり、建築費やリフォーム費用の高止まりが続いています。注文住宅や新築マンションでも、着工遅延や工期長期化が発生するケースがあり、不動産業界全体で価格変動リスクへの対応が必要になっています。
現在は、ナフサ価格の高止まりが続く可能性も指摘されており、建材価格や住宅設備価格への波及が長期化するリスクも無視できません。賃貸経営でも、「必要な時に安く修繕できる時代」ではなくなりつつあることを前提に考える必要があります。
ナフサショックで賃貸オーナーに起こる影響
大規模修繕費の高騰
ナフサ価格の上昇は、賃貸物件やマンションの大規模修繕費を押し上げる要因となります。特に影響を受けやすいのが、外壁塗装、防水工事、シーリング工事など、石油化学製品を大量に使用する工事です。
塗料、防水材、シーリング材、接着剤、シンナーなどはナフサ由来原料との関係が深く、価格変動が見積もりの価格へ反映されやすい特徴があります。さらに近年は、人件費や物流費も上昇しているため、単純な材料高以上に工事費全体が膨らみやすくなっています。
その結果、従来の修繕積立計画では想定不足となるケースもあり、工事内容の見直しや時期調整を迫られる可能性があります。特に築古物件では、大規模修繕と設備更新が重なることで、一時的な資金負担が急増するケースも考えられます。
今後は、「必要になってから考える」のではなく、価格高騰リスクを織り込んだ長期修繕計画や資金計画の再整理が求められるようになっていくでしょう。
工事・部材の価格上昇
ナフサショックでは、石油化学製品を多く使用する工事ほど価格上昇の影響を受けやすくなります。
代表的なのは、外壁塗装、防水工事、床シート更新、リフォーム、リノベーション、シーリング工事などです。塗料、ウレタン防水材、塩ビシート、ビニールクロス、接着剤、シーリング材などは、原材料価格が工事費へ直結しやすい建築資材と言えます。
また、室内でも、断熱材、樹脂製建具、配管部材などは石油化学製品への依存度が高く、原状回復費や改修費用の上昇要因になります。近年は断熱性能向上ニーズの高まりによって、断熱材価格の変動も住宅コストへ影響しやすくなっています。
賃貸住宅では、退去ごとにクロスや床材を張り替えるケースも多いため、小さな価格上昇でも積み重なると収益へ大きく影響します。そのため今後は、「どの工事・部材が値上がりしやすいのか」を把握したうえで、代替素材や自然素材の活用も含めた仕様検討が不可欠になるでしょう。
修繕工事の遅延リスク
ナフサ価格の高騰は、単なる費用増加だけでなく、修繕工事そのものの遅延リスクにもつながります。ナフサ由来の建材や住宅設備は、供給制約や資材不足、メーカーによる出荷制限の影響を受けやすく、必要な材料を確保できないケースもあるためです。
特に、大規模修繕で大量使用される塗装材、防水材、断熱材などは、納期遅延や調達遅れが工期全体へ波及しやすく、工事開始時期そのものが後ろ倒しになる可能性もあります。また、施工会社側でも工程調整や材料確保が必要となり、工事枠の争奪が起こるケースも考えられます。
さらに、住宅会社や工務店では、供給状況の悪化によって新規受注を調整する動きが出るケースもあります。注文住宅やリフォーム市場でも着工遅延が発生しており、「必要な時にすぐ工事できる」とは限らない時代へ変化しつつあります。
賃貸物件では、共用部の改修や防水工事の遅れが建物劣化や入居者満足度低下へ直結するため、早めの計画と見積もり確認がこれまで以上に必要になっています。
設備機器の値上げ・供給不安
ナフサ価格の上昇は、住宅設備機器の価格や供給体制にも影響を与えます。
エアコン、給湯器、ユニットバス、キッチン、トイレ、換気設備などには、多くの樹脂部品や断熱素材、配線被覆が使われており、石油化学製品価格の上昇が製造コストへ波及しやすいためです。
さらに近年は、海外サプライチェーン混乱や部材不足も重なり、メーカーによる値上げや納期の長期化が発生するケースも増えています。実際に最近では、給湯器やエアコン、ユニットバスなどで供給不足や受注停止が発生し、交換まで長期間待たされるケースも見られています。
2026年4月にはTOTOがユニットバス全シリーズの新規受注を一時停止したほか、LIXILなど他の住宅設備メーカーも供給条件の調整を表明するなど、業界全体で調達環境が厳しくなっています。
設備交換の遅れは、入居者満足度や空室リスクへ直結します。そのため今後は、「壊れてから交換する」という対応だけではなく、優先順位を整理しながら、計画的に住宅設備を更新していく視点が求められるでしょう。
今後の賃貸経営で重要になる考え方と今のうちにできること
「安い時代」は終わった前提で資金計画を組む
今後の賃貸経営では、「建築資材や住宅設備を安く調達できる時代は終わりつつある」という前提で資金計画を組むことが重要になります。
ナフサ価格高騰に加え、人件費、物流費、輸入コストも上昇しているため、修繕費や設備交換費は従来よりも高水準で推移する可能性があります。
これまでと同じ感覚で長期修繕計画を組んでしまうと、実際の工事時に予算不足へ陥るリスクもあります。特に築古物件では、大規模修繕や設備更新が重なることで、一時的な資金負担が急増するケースも考えられます。
今後は、「修繕費は将来的に上がるもの」という前提で積立額やキャッシュフローを再確認し、価格変動リスクを織り込んだ経営へ切り替えていく必要があるでしょう。
修繕計画を前倒しで見直す
ナフサショックへの対策として、まず重要になるのが修繕計画の前倒しです。建材価格や資材価格、工事費が上昇傾向にある中、「数年後にまとめて実施する」という前提では、結果的に大きなコスト増につながる可能性が高くなるためです。
特に、外壁塗装、防水工事、シーリング工事、共用部改修などは、塗料や接着剤、防水材など石油化学製品を多く使用するため、今後さらに価格高騰が進む可能性があります。実際に住宅業界では、建築資材や住宅設備の値上げ、納期遅延、出荷制限なども発生しており、「必要な時にすぐ工事できる」とは限らない状況になりつつあります。
そのため、築年数や劣化状況を確認しながら、優先順位の高い工事から早めに進めていく視点が重要になります。特に、雨漏りリスクのある防水工事や、老朽化した塩ビ管・配管更新などは後回しにすると修繕範囲が拡大し、結果的にコスト増につながるケースもあります。
また、前倒しで修繕内容を整理しておくことで、見積もりの比較や工事会社の選定もしやすくなります。価格だけでなく、「工期を確保できるか」「資材を調達できるか」という観点も含め、早期検討が今後の賃貸経営では大きな意味を持つようになるでしょう。
キャッシュフローと積立を再確認する
ナフサショックのような資材高騰局面では、キャッシュフローと修繕積立の再確認も欠かせません。建築資材や住宅設備費の上昇によって、今後必要となる修繕費が想定よりも高額になる可能性があるためです。
特に築年数が進んだ物件では、給湯器、エアコン、ユニットバス、キッチン、トイレなどの住宅設備更新が重なりやすく、大規模修繕費と同時発生するケースも考えられます。さらに、空室率上昇や金利上昇が同時に起これば、収支悪化リスクは一気に高まります。
そのため、今後10〜15年で必要となる工事や設備更新を整理し、「どの時期に、どれくらいの資金が必要になるのか」を再試算しておくことが重要です。特に近年は、資材不足や供給制約による価格変動も大きくなっているため、従来よりも余裕を持った積立水準が求められます。
また、金融機関との契約内容や返済条件、借り換え可能性なども含めて確認しておくことで、突発的な支出にも対応しやすくなります。今後は、「修繕費は上がるもの」という前提で、余裕資金を確保する経営姿勢がより重要になるでしょう。
設備更新の優先順位と仕様を見直す
今後の賃貸経営では、「何を更新するか」だけでなく、「どの仕様を選ぶか」まで含めた見直しが重要になります。住宅設備価格が上昇する中、すべてを高機能化するのではなく、維持管理コストとのバランスを考える必要があるためです。
例えば、故障時の影響が大きい給湯器やエアコン、共用部照明、換気設備などは優先順位が高くなりやすい設備です。一方で、過剰な高機能設備は交換費用や維持費を押し上げる場合もあり、物件によっては費用対効果が見合わないケースもあります。
また、近年は電気代上昇も続いているため、省エネ性能や断熱性能を意識した設備選定も重要です。LED照明や高効率エアコンなどは、長期的に見るとランニングコストの削減へつながりやすく、入居者の満足度向上にもつながります。
さらに、自然素材や代替素材を活用したリフォーム・リノベーションを検討するケースも増えています。石油由来建材への依存を減らすことで、価格変動リスクを抑えられる可能性もあるためです。
今後の設備更新においては、「入居者ニーズ」「維持コスト」「交換しやすさ」のバランスを意識した判断が欠かせなくなります。
出口戦略を早めに考える
ナフサショックによる建材・住宅設備価格の上昇は、築古物件ほど維持コスト増加の影響を受けやすくします。そのため、「いつまで保有するのか」を含めた出口戦略を早めに考えておくことも重要です。
特に、今後大規模修繕が必要になる物件や、空室率が高まりやすいエリアでは、修繕費増加を家賃へ転嫁しにくく、収益性が悪化する可能性があります。さらに、今後も建築費や住宅設備価格が高止まりした場合、修繕そのものを実施できず、建物競争力が低下するリスクも考えられます。
場合によっては、大規模修繕前の売却や、用途変更、建て替え、リノベーションによる再生などを検討した方が、資産価値を維持しやすいケースもあります。
これからの賃貸経営では、「持ち続けること」だけを前提にするのではなく、維持コストや将来的な修繕負担まで含めて出口を設計する視点が、重要になっていくでしょう。
賃貸物件の購入を検討する際のチェックポイント
今後、賃貸物件や不動産を取得する際は、「表面利回り」だけでなく、“将来どれだけ修繕コストがかかる物件か”を見極める視点が大切になります。
特に確認したいのが、外壁、防水、給排水管、共用部照明、空調設備、ユニットバス、キッチン、トイレなどの更新履歴です。すでに修繕済みの物件は、当面の支出リスクを抑えやすい一方、未更新箇所が多い物件では、取得後すぐに高額修繕が発生する可能性もあります。
また、断熱性能や省エネ性能も重要です。今後は電気代上昇リスクも続く可能性があり、省エネ性能の低い物件ほど入居者満足度や競争力で不利になるケースがあります。
さらに、修繕履歴だけでなく、「今後どの工事が必要になるのか」「資材不足や納期遅延リスクはないか」まで確認しておくことも大切です。購入時には、工務店や建築士、不動産会社へ具体的に相談しながら、長期的な維持コストを整理しておくと安心です。
これからは、「利回りの高さ」だけでなく、“将来の修繕耐性”や“値上がり時代への対応力”まで含めて物件を見極める視点が、賃貸経営ではより必要になっていくでしょう。
まとめ
ここまで解説してきたように、ナフサ価格の上昇は、大規模修繕費や原状回復費、設備更新費の高騰へ波及し、オーナーの収支計画へ直接影響を及ぼす可能性があります。さらに近年は、中東情勢の緊迫化やホルムズ海峡周辺の供給不安、物流費上昇、サプライチェーン混乱も重なり、住宅建材や住宅設備の納期遅延、供給制約、出荷制限なども発生しています。
また、価格上昇だけでなく、工期遅延や材料不足による工事停滞リスクも無視できません。設備交換の遅れは、入居者満足度や空室リスクにも直結するため、賃貸経営では“後回しにしない管理”がより重要になっています。
今後は、「修繕費や建築費は上がるもの」という前提で、長期修繕計画や積立水準を見直し、設備更新の優先順位を整理しながら経営を進める必要があります。さらに、物件取得時には利回りだけでなく、修繕履歴、省エネ性能、断熱性能、将来的な維持コストまで含めて判断する視点が求められるようになるでしょう。
これからは、「家賃収入を得る」だけではなく、“値上がり時代に耐えられる経営体質を作れるか”が、賃貸オーナーにとって大きな分岐点になっていくはずです。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年5月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















