“担当者しか分からない”が信頼崩壊を招く。管理会社の属人化リスクとDX時代の新常識
日本情報クリエイト株式会社の調査によると、管理会社の約6割がオーナーからクレームを経験しており、最多原因は「引き継ぎ不備」(36.5%)でした。「担当者不在時でも即座に回答できる」と答えた企業は22.1%にとどまり、約8割が情報の一元管理の必要性を感じています。調査結果から、賃貸経営に関わるリスクと対策の方向性を読み解きます。
管理会社の約6割がオーナークレームを経験――その実態とは
今回の調査では、「過去1年間でオーナーからクレームや指摘を受けた」と回答した管理会社が58.0%に達しました。内訳は「とてもある」が22.1%、「ややある」が35.9%となっており、オーナー対応のトラブルが現場で日常的に発生していることがわかります。

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
一方、「あまりない」「まったくない」と回答した企業も約4割存在しており、管理品質や体制における会社間の差が明確に表れています。
近年は、建物の老朽化や人手不足によって管理業務が複雑化しており、単なる家賃管理だけでなく、修繕提案や資産相談まで求められる場面が増えています。その結果、現場の負担が増大し、小さな連絡ミスや対応漏れがオーナーの不満に直結しやすくなっています。
賃貸経営においては、「管理している」というだけでなく、“安心して任せられるか”が管理会社選定の重要な基準になりつつあります。
クレーム第1位は「引き継ぎ不備」――コミュニケーション不全の深刻な実態
オーナーとのトラブル内容で最も多かったのは、「担当者交代や不在時の引き継ぎ不備」(36.5%)でした。次いで、「報告漏れや進捗共有の連絡不足」が35.7%、「月次報告書の作成遅延や記載ミス」が31.6%と続いています。

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
つまり、設備故障や入居者トラブルといった問題以前に、“社内連携の不足”そのものがクレームの原因になっているわけです。たとえば、修繕の進捗を前任者しか把握しておらず、オーナーへの報告が止まってしまうケースや、「聞いていた内容と違う」と認識のズレが生じるケースは少なくありません。
特に複数棟を所有するオーナーほど、報告スピードや対応精度を重視する傾向があります。「担当者が変わった途端に対応品質が落ちる会社」は信頼を失いやすく、最悪の場合は管理会社の変更にもつながりかねません。
賃貸住宅オーナーにとっても、“担当者個人の力量”ではなく、“組織として安定した管理ができているか”を見極める視点が、今後ますます重要になってくるでしょう。
「記録が残らない管理」が信頼低下を加速させる
トラブルの原因としては、「社内での引き継ぎや共有漏れ」が33.6%で最多となり、「オーナーとの連絡ログの記載不足」が30.9%、「過去の物件・オーナーとの履歴管理の不備」が25.4%と続きました。
この結果が示すのは、“記録が残らない管理”の危険性です。現在の不動産管理では、電話・メール・LINE・訪問対応など連絡手段が多様化しており、内容が担当者個人のメモや記憶に依存しがちです。しかしオーナーにとって、「言った・言わない」が発生すること自体が不安と不信の種になります。
特に修繕費用や空室対策の提案など、金額に関わる内容では説明責任が重くなります。近年はオーナー側でも高齢化や相続による世代交代が進んでおり、「記録が残る安心感」を求める傾向がより強まっています。
管理会社選びにおいても、担当者の印象だけでなく、「履歴や連絡内容を組織で共有できる仕組みが整っているか」が重要な判断材料になってきています。
“担当者しか分からない”体制の危険性
「担当者不在時でも即座に回答できるか」という質問では、「誰でも即座に回答できる」と答えた企業は22.1%にとどまりました。

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
一方、「ある程度回答できるが、確認に時間がかかる」が31.0%、「簡易的な回答はできるが、詳細は担当者本人でないとわからない」が29.7%となり、約6割が事実上の担当者依存型であることが明らかになりました。これはオーナーにとって見過ごせないリスクです。
例えば、空室募集の状況や修繕の進捗を確認したいときに「担当者が休みなのでわかりません」と言われれば、不信感が募るのは当然です。近年はオーナー側もスピード感を重視する傾向が強まっており、“返答待ち”そのものがストレスになっています。
管理会社に求められるのは「優秀な担当者」だけではありません。“誰が対応しても一定の品質を維持できる仕組み”です。属人化は一見、ベテラン頼みで効率的に見えるかもしれませんが、退職や異動の際に大きな混乱を招くリスクをはらんでいます。
賃貸経営の安定性を考える上で、「担当者への依存度がどの程度か」は重要なチェックポイントになりそうです。
約8割が必要性を感じる「情報の見える化」
調査では、「情報の見える化(一元管理)が必要」と回答した割合が77.6%に達しました。「とても必要」が39.2%、「やや必要」が38.4%と、多くの現場が現状の管理手法に限界を感じていることがわかります。
不動産管理では、契約更新・修繕・送金・クレーム対応など、多数の案件が同時並行で動きます。紙資料や個人フォルダによる管理では、確認漏れが生じやすいのは避けられません。
一元管理のメリットは、単に情報を集約することにとどまりません。対応履歴やオーナーの要望を組織全体で共有できるため、説明の精度や対応スピードが向上し、担当者が交代した際にも品質を維持しやすくなります。
賃貸住宅オーナーにとっても、「どこまで情報共有されている会社か」は、今後の管理品質を左右する重要なポイントになるでしょう。
クラウド型管理システムなどを活用したDX化は、単なる効率化ではなく、“信頼を維持するための基盤整備”になりつつあります。
システム化が生む“提案力”の差
「トラブル対応の時間を削減できたら何に注力したいか」という質問では、「既存オーナーへの空室対策提案(リノベーション・設備投資の提案)」が34.9%で最多となりました。続いて、「新規オーナーの開拓」が27.8%、「資産運用コンサルティング」が26.0%となっています。

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
現場の担当者の多くは、本来は“攻めの提案業務”に時間を使いたいと考えています。ところが実際には、確認作業や謝罪対応、進捗確認といった“ミス対応業務”に時間を取られているのが現実です。
例えば、修繕履歴の確認や契約更新管理をシステム化できれば、その分の時間を設備改善や収益改善の提案に充てられます。オーナーにとっても、単なる事務代行ではなく、「収益改善を提案してくれる管理会社」の価値は今後さらに高まっていくでしょう。
DX化とは、単なる省力化ではなく、“提案品質を高めるための時間創出”でもあります。
AI導入で変わり始めた管理現場の常識

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
AI活用については、「日常的に活用している」が17.2%、「一部の業務で試験的に活用している」が23.7%となり、合わせて約4割がすでにAIを業務に取り入れています。

画像引用元:「不動産管理におけるオーナーとのトラブル」に関する調査|日本情報クリエイト株式会社
導入済みの企業では、「社内マニュアルを確認する手間が減り、判断のスピードが上がった」が50.4%、「単純な事務作業をAIに任せ、接客や企画に集中できるようになった」が46.0%、「属人化していた専門知識がAIを通じて部内で共有しやすくなった」が31.6%という結果でした。AIは“作業短縮ツール”にとどまらず、“担当者依存を減らすツール”としても期待されています。
一方、未導入層では「AIがどこまで正確に判断できるか不安」が25.2%で最多となり、「導入コストや設定が難しそう」(21.9%)という懸念も挙がりました。ただ、人手不足が加速する今後を考えると、人だけで管理品質を維持することには限界があります。AIは担当者を不要にする存在ではなく、「確認漏れを防ぐ」「知識を共有する」補助役として普及が進んでいく可能性が高いでしょう。
賃貸管理の現場も、“経験頼み”から“仕組みの活用”へ、確実に転換期を迎えています。
まとめ
今回の調査から浮かび上がったのは、不動産管理業界における最大の課題が「担当者依存型の業務体制」にあるという現実です。
約6割の管理会社がオーナークレームを経験しており、その主因は「引き継ぎ不備」「報告漏れ」「履歴管理不足」でした。多くのトラブルは建物設備の問題ではなく、“情報共有体制の弱さ”から生じています。
「誰でも即座に回答できる体制」が整っている企業は約2割にとどまり、担当者依存の実態が改めて浮き彫りになりました。
一方、約8割が「情報の見える化」の必要性を感じており、AIやシステム活用への期待も着実に高まっています。
賃貸オーナーにとっても、「管理会社に任せる」から「どんな管理体制で運営されているかを見極める」時代へのシフトが進んでいます。情報共有・履歴管理・対応スピード・提案力――これらを“組織として再現できる会社”こそが、これからの賃貸管理市場で選ばれていく存在になるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年5月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















