入居者は3カ月前から動き始め、約1割が内見なしで契約へ。2026年繁忙期データで見る“選ばれる賃貸”の条件
株式会社いえらぶGROUPの調査(有効回答706件)によると、2026年繁忙期の部屋探しでは半数以上が2カ月以上前から行動を開始。「希望条件に合う物件が少ない」が56.6%で最多となり、約1割が内見なしで契約するなど、募集情報の質が成約を左右する時代になっています。この調査データをもとに、賃貸住宅オーナーが取るべき募集戦略を読み解きます。
入居者はもう動いている。繁忙期の3カ月前から始まる部屋探し
今回の調査では、部屋探しを始めた時期について、「3カ月以上前」が31.6%、「2~3カ月前」が26.3%となり、合計57.9%が繁忙期より2カ月以上前から動き始めていることがわかりました。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
背景には、「良い物件ほどすぐ埋まる」という市場環境があります。特に都市部では、築浅・駅近・ネット無料といった人気条件の物件は募集開始直後に申し込みが集中し、比較検討する時間が短くなっています。そのため入居希望者は、“出遅れる前提”で早めに物件探しを始めているのです。
賃貸住宅オーナーにとって重要なのは、「繁忙期に募集を出せば決まる」という従来感覚を見直すことです。退去予定段階から募集の準備を進め、写真撮影や設備更新を前倒しできるかどうかで反響数に差が出やすくなっています。繁忙期対策は、実質的には前年末から始まっていると言えるでしょう。
家賃も立地も譲れない。入居者の条件高度化にどう応えるか

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
重視条件では「家賃」が78.9%で最多となりましたが、「立地」も71.1%と高水準でした。これは、入居者が単純に安さだけを求めているわけではないことを示しています。通勤・通学時間や生活利便性、周辺施設との距離など、“日常生活の効率”を重視する傾向が強まっているのです。
一方で、引っ越し後の家賃中央値は約8.5万円となり、引っ越し前の約7.3万円から1.2万円上昇しました。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
つまり、多くの入居者が「理想より高い家賃」を受け入れながら住み替えている実態も見えてきます。
オーナー側としては、単なる賃料勝負ではなく、「この立地なら納得できる」と感じてもらう訴求が重要になります。例えば、駅距離だけでなく、スーパー・病院・公園・飲食店など生活導線を具体的に伝えることで、賃料への納得感を高めやすくなります。立地価値を“見える化”できるかが、今後の差別化ポイントとなりそうです。
内見は絞り込み時代へ。「2~3件」で決める入居者に選ばれるには
内見件数は「2~3件」が31.6%で最多となりました。一方で、「4~5件」が23.7%、「6件以上」が18.4%と続いています。以前のように何十件も見比べるのではなく、候補物件を絞り込んだうえで早期決断する傾向が強まっていることがわかります。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
背景には、繁忙期特有の“スピード競争”があります。良い物件ほど短期間で埋まり、「迷っている間に終了した」というケースも少なくありません。そのため、入居者はポータルサイト段階でかなり厳しく選別しています。つまり、現地内見に進めるかどうかは、募集写真や物件説明文の段階でほぼ決まっているとも言えます。
オーナー側は「内見すれば良さが伝わる」という考え方を改める必要があります。写真枚数、室内の明るさ、収納の見せ方、水回りの清潔感など、オンライン上で魅力が伝わる工夫が不可欠です。比較疲れが進む今、“第一印象で候補に残れるか”が大きな分岐点になっています。
約1割は内見せずに決める。「情報だけで安心させる」募集づくりとは
今回の調査では、「内見していない」と回答した人が9.2%存在しました。
背景には、遠方からの引っ越しや時間不足に加え、「他の人に先を越されたくない」という焦りがあります。特に人気エリアでは、掲載開始から数日で申し込みが入るケースも珍しくありません。そのため、写真や動画だけで判断し、先行申込する動きが増えているのです。
この変化は、賃貸住宅オーナーにとって極めて重要です。なぜなら、“現地で挽回する時代”ではなくなりつつあるからです。たとえば、写真点数の不足や暗い室内写真、設備説明不足があるだけで、検討候補から外される可能性があります。
逆に、360度画像や内見動画、家具配置イメージなどを用意することで、「実際に住むイメージ」が伝わりやすくなります。今後は“内見前提”ではなく、“情報だけでも安心できる募集”を意識できるかが、空室対策の成否を左右していくでしょう。
「万人受け」では埋まらない!入居者の条件が「細分化」する時代の戦略
困ったこととして最多だったのは、「希望条件に合う物件が少ない」の56.6%でした。次いで「家賃が高いと感じた」「いい物件がすぐに埋まってしまう」が同率48.7%で続いています。これは単なる供給不足だけではありません。近年は、入居者が複数条件を同時に求める傾向が強まっていることも背景にあります。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
例えば、「家賃は抑えたいが駅近が良い」「築古でもいいが水回りはきれいがいい」「狭くても在宅勤務スペースが欲しい」といったように、条件が細分化・高度化しているのです。そのため、従来型の“平均点物件”は埋もれやすくなっています。
重要なのは、すべてを高スペック化することではなく、「誰向け物件なのか」を明確にすることです。単身社会人ならネット環境、ファミリー層なら収納や防音性など、ターゲットに合わせた強みを打ち出すほうが反響につながりやすくなります。条件競争が激化する今こそ、“万人受け”より“ターゲット特化”の発想が求められています。
値下げしなくても選ばれる――「家賃以外の納得感」をどうつくるか
調査では、「家賃が高いと感じた」という回答が48.7%に達しました。また、現在住んでいる家の家賃中央値約6.4万円に対し、理想の家賃中央値は約5.6万円となっており、多くの人が“本当はもっと安く住みたい”と考えていることがわかります。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
しかし現実には、建築費の高騰や管理コストの上昇、物価高などを背景に、賃料相場は上昇傾向にあります。オーナー側としても、安易な値下げは収益悪化につながるため難しい局面です。そのなかで重要になるのが、「家賃以外の納得感」をつくることです。
例えば、無料Wi-Fiや宅配ボックス、照明・温水洗浄便座など、小規模投資でも満足度を高める設備は多く存在します。また、初期費用軽減や更新料条件の工夫なども効果的です。単純な賃料競争ではなく、“総合コスト”で魅力を伝える視点が必要になっています。
写真1枚が成約を左右する。「伝え方」への投資が空室対策になる時代
満足度は「とても満足」「やや満足」を合わせて8割を超えましたが、不満理由では「写真が少なく判断できなかった」という声も挙がりました。これは、現代の部屋探しが“オンライン比較中心”へ移行していることを象徴しています。

画像引用元:「繁忙期の部屋探しに関するアンケート調査」|株式会社いえらぶGROUP
特に繁忙期は、複数物件を短時間で比較するため、掲載内容が不足しているだけで候補から外される可能性があります。例えば、収納内部やベランダ、眺望、共用部など、実際に気になる部分の情報が不足しているケースは少なくありません。
また、築古物件では「古さを隠す」のではなく、「清潔感」や「管理状態」を丁寧に見せるほうが安心感につながります。募集図面やポータル情報は、単なる掲載作業ではなく“営業資料”そのものです。今後は、設備投資だけでなく、“伝え方への投資”も空室対策として重要性を増していくでしょう。
まとめ
2026年繁忙期の部屋探し調査から見えてきたのは、「物件不足」と「比較競争」の深刻化です。入居希望者は以前より早く動き出し、限られた選択肢のなかで家賃・立地・設備・周辺環境を多角的に検討しています。
一方で、「希望条件に合う物件が少ない」が56.6%、「家賃が高い」が48.7%となるなど、理想と現実のギャップに悩む声も増えています。また、「内見なし契約」が約1割存在したことは、募集情報の完成度が以前以上に重要になっていることを示しています。
賃貸住宅オーナーにとっては、“空室を埋める”だけでなく、“比較されたうえで選ばれる”視点が必要になっていると言えるでしょう。
今後は、ターゲット設定、写真品質、募集タイミング、設備訴求、生活利便性の見せ方など、情報設計そのものが競争力になります。物件スペックだけでなく、「この部屋なら安心して判断できる」と感じてもらえる募集戦略こそが、これからの賃貸経営を左右する重要テーマと言えるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年5月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















