新型コロナウイルスに関する賃貸経営トラブルが起きたら?賃料減額対応、給付金等の書類に関する注意点などを解説
- 弁護士・司法書士
久保原弁護士による法律相談Q&A。今回のテーマは、「新型コロナウイルスに関連して起こりうる賃貸経営のトラブル」です。前例のない事態で、まだまだ難しい対応を強いられる可能性が十分にあるので、事前に対策をイメージしておきましょう。
〈久保原弁護士プロフィール〉京都大学大学院法学研究科修了。2008 年、九帆堂法律事務所設立。最高裁で勝訴した更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士として様々な情報を発信。
〈伊藤弁護士プロフィール〉東京大学法学部、同法科大学院修了。2018年、九帆堂法律事務所入所。大家さんの代理人として多数の賃貸借案件を扱う。
Q1:コロナ禍を理由に賃料減額を求められた場合、応じなければならないのですか?
A1:賃借人との関係と物件の競争力などを考慮して、決める必要があります。
コロナ禍の影響で失職した、収入や売上が減ったなどの理由で、入居者から賃料の減額や免除、支払延期を求められたという声を聞くことが多くなりました。
これまでの良い関係を維持したい、応援したいと思える入居者もいるでしょう。その一方で、トラブルばかり起こしている入居者から言われても応じたくないということもあるでしょう。その入居者が退去した後、すぐ入居が決まる見込みがあるのか、物件の競争力を考慮して決める必要もあります。
コロナ禍で厳しい状況の人々を支える方策を考えるのは、本来はオーナーではなく国の役目ですし、実際に家賃補助金等の制度もあります。オーナーがすべて責任を背負って対処しなければならないということはないと思います。
Q2:賃料減額等に応じる場合の注意点を教えてください。
A2:一時的な措置であることを明確にした合意書の作成をおすすめします。
賃料減額の場合には、「コロナを理由とする一時的な減額であり、約束した期間を過ぎたら元の賃料に戻る」ことを明記した合意書を作成する必要があります。こうしておかないと、別の事情で減額した、ずっと減額するという約束だったなどと言われてしまうおそれがあるからです。
このように賃料の減額・免除・支払猶予のいずれの場合も、それらの措置を採った理由、期間、金額を明確に定めることは極めて重要ですので,強くおすすめします。
なお、「コロナが収束するまで」など、人によって捉え方が異なる多義的な言葉は避けるべきです。「〇年の〇月分まで」といった具体的かつ一義的な言葉の使用を心がけることで、後々のトラブルを回避することができます。
Q3:緊急事態宣言下で、裁判が遅れていると聞いたのですが、本当ですか?
A3:裁判が遅れているのは事実です。リモート会議の活用等により改善が試みられています。
初回の緊急事態宣言下においては、東京地裁では緊急性の極めて高い一部の事件を除き裁判をストップしました。進行中の裁判は途中で中断し、宣言解除まで待たざるを得ませんでした。その後、少しずつ通常どおりの進行に戻りつつあります。二回目の緊急事態宣言下では前回ほどの遅れは感じません。
ただ、感染対策の趣旨で法廷を開く曜日を限定する運用もなされており、平常時より進行が遅い事件があることも確かです。一方、ウェブ会議システムを使った新たな形の対応も試行されています。
賃料滞納明渡事件の場合、解決が遅れるほど、入居者募集のタイミングは遅れ、オーナーの負担が増大します。裁判所に一刻も早く解決すべき事件だと、しっかり伝えられる専門家にご相談ください。
Q4.入居者から給付金の書類の作成をお願いされたとき、注意すべきことはありますか?
A4:内容をよく確認し、間違った内容の書類には署名押印しないようにしましょう。
家賃給付金に関して「『賃貸借契約等証明書』の作成を賃借人から求められたが、内容が間違っているためどう対応すればいいか」という相談を多数いただきました。
賃貸借契約等証明書は、自動更新により、契約書上の期間後も契約が続いているなど、契約書と実際の契約内容が異なる場合に、その旨を証明する書類です。
他の書類でも同様ですが、賃料の額、契約終了日、賃借人氏名等の内容が誤った証明書に署名すれば、行政に誤った証明を出すことになるので、署名に応じるべきではありません。
また、後で契約内容が変更されたと言われ、オーナーに不利益が生じるおそれもあります。作成を断るか、応じる場合は書類の余白部分に「正確な内容に修正する」旨を記載するなど対処が必要です。
Q5:コロナで増えた入居者間の騒音トラブルにどのように対処すればよいでしょうか?
A5:一方の入居者の味方をしていると誤解されないよう、慎重に対処しましょう。
在宅勤務により、隣人の生活音を聞く機会が増えたことによる騒音トラブルは実際に増加していると思います。騒音の問題は、人によって感じ方が違うのに加え、騒音の程度の証拠化が難しく、一度問題化すると長期化する、深刻な問題です。
また、不用意に騒音トラブルに介入すると片方の味方として見られ、オーナー自身が紛争トラブルの当事者として巻き込まれてしまうおそれもあります。
騒音トラブルと言っても問題状況は様々で、一律の解決方法は示せませんが、いきなり犯人扱いするのではなく、掲示板へ「騒音で困っている入居者がいるため気を付けてほしい」とチラシを貼る、ポスティングするなどの方法で入居者に協力を求める方法での穏当な対処が基本になると思います。
Q6:入居者からコロナ感染者が出た場合、オーナーはどのように対応したら良いでしょうか?
A6:これ以上の感染拡大を防ぐためにすべきことを落ち着いて考え、実行することが重要です。
未曽有の事態のため、このように対応したら間違いがないというものがあるわけではなく、臨機応変な対応が求められます。一番に考えなければいけないことは、これ以上の感染拡大を防ぐために何ができるかということです。
感染状況を正確に聴取し、他の入居者やテナントに状況を伝えるべき場合には、個人のプライバシーに配慮した方法で必要な情報を適切に伝えます。入居者等に伝えるべきか迷われる場合には、行政や保健所に連絡して助言を求めることを検討しても良いでしょう。
消毒液を置く、共用部を換気する、ドアノブ等多数の人が触る箇所を消毒する、エレベーターのボタンに抗菌シールを貼るなど、日ごろからできる範囲での地道な感染対策を行うことが重要です。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2021年3月4日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄