【最新】インフレと金利上昇で不動産市況が変化|アナリスト・幸田昌則の不動産市況
- 市況・マーケット
欧米ではインフレの進行が鈍化傾向となり、政策金利の引き下げを始めています。一方、日本では各種の物価が上昇し続け、インフレが収束する見通しは感じられません。7月には日銀が円安進行を止める目的もあって政策金利を引き上げましたが、最近では金利上昇による影響が不動産市場にもおよんできました。最新状況を幸田氏が解説します。
福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書に「アフターコロナ時代の不動産の公式」(日本経済新聞出版)他、多数。3月に「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)を上梓。
建築費の上昇で新築は高騰。一方で富裕層の取得意欲は衰えない
日本でのインフレは定着化し、消費者には、様々な商品の値上げを仕方なく受け入れる風潮が出ている。夏場には「米」の供給不足による価格高騰もあったが、値上げに対する猛反発などは見られない。いずれにせよ、インフレを容認する時代となった。
さて、住宅市場ではどのような影響を受けているのかを検証してみたい。まず建築費や工事費の値上がりが続いている。資材の高騰や高止まりに加えて、人手不足の深刻化で人件費の高騰が著しい。
人手不足から工事が長期化するケースも増え、事業者の資金繰りにも影響しつつある。賃貸オーナーの身近なところでは、入居者が退去した居室の原状回復やリフォーム工事での、人員不足・工事費値上げの事例が出ている。建築・工事費の上昇は一過性のものではなく、社会的な構造が要因となっている。
図表①に示されているように、建築費の上昇はコロナ禍による住宅特需を契機にして、一気に加速してきた。マンション・建売住宅・注文住宅・賃貸アパートなど、建築の全分野におよんでいる。
販売価格も高騰していて、売れ行きの鈍化や停滞で在庫が増加している。特に郊外エリアでの建売住宅には売れ残りが目立ち、今後は大幅な値引き処分も余儀なくされるだろう。
今後も、建築費の下落は期待できないことから、新規住宅の供給は先細りになっていくと思われる。
しかし、供給面において、例外的な動きも生まれている。
それは「賃貸アパート」の新規供給で、図表②で示されているように、底堅い動きが続いている。2015年の相続税の強化によって、新築アパートの供給数は多少の変化はあっても、安定した水準を維持している。
建築費の高騰で着工を見送る例も散見されるが、資産家・高額所得者など富裕層の節税を目的とした賃貸物件の購入意欲は、衰えていない。この動きを下支えしているのは、金融機関の融資であるが、選別融資の姿勢が強まる中、富裕層への融資には陰りが見えない。まさに、格差社会を鏡のように反映している。
節税を主たる目的とした不動産の購入は、賃貸アパートに限られず、極めて高額な都心部のタワーマンションにもおよんでいる。投資利回りを期待した動きではなく、節税効果を狙った動きである。
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都市部では家賃が上昇。企業の人材確保の動きも後押しに
人口が減少し、賃貸需要を支える労働人口も減少している。さらには空き家の増加や、長らく続いてきたデフレ経済という市場環境下で、家賃は全国的に長期にわたって低迷期が続いてきた。
ただコロナ感染症が5類に移行して人々の気持ちが落ち着くようになり、利便性の良い都市の中心部や駅近を希望する人が増加したことで、賃貸マンションの賃料上昇が見られるようになった(図表③)。
この変化の背景には、需給関係だけでなく高い家賃を負担できる人が多くなっていることもある。
所得の高い人が増えていることに加え、企業が優秀な人材確保を目指して社員に対する家賃の補助を積極的に行うようになっている。
給与だけでなく、相当な住居手当てを支給し始めている。今後、人手不足がさらに深刻化していく中で、住宅への手当てを惜しまない企業も出てくるだろう。
「金利の無い時代」から「金利のある時代」へ。住宅・不動産市況への影響は?
7月に、日本銀行の政策金利が0.25%に引き上げられたが、住宅ローン金利については、依然として低金利にあり、今後も大幅な引き上げの可能性は低いと考えられる。
しかし、日本銀行は経済状況の推移を見ながら、方向としては緩やかに金利の引き上げを行うことを目指している。
現段階では住宅・不動産市況に直接的な影響は少ないが、顧客の購買心理に少なからず影響を与えることは否定できない。また売主側の心理としても、高いうちに早く売りたいとの気持ちが高まることになるだろう。
いずれにせよ、1990年の不動産バブル崩壊以降の金融政策が大きく転換し始めたことで、これまでの住宅・不動産市況も変化を余儀なくされることになる。
図表④で示されているように、金融機関の新規貸出金利は、すでに上昇傾向にあり、今後、住宅ローンを含めて金利は上昇局面に入っていくことが想定される。
住宅・不動産分野については、金利の問題よりも、顧客と事業者双方に対する金融機関の融資姿勢が厳しくなっていることが大きな問題になっている。
従来までの「誰にでも、いくらでも貸す」姿勢から「顧客や物件を選別して担保評価を厳しく、減額融資もある」という姿勢への転換が行われている。
同時に、不動産を対象とした融資に金融機関が警戒心を持ち始めていることで、不動産取引全体への影響が懸念される。ただ、このような状況下では、資金力のある人にとっては優良物件を取得するチャンスとなる。
金利のある時代が進行していく時は、売り手市場から買い手市場へと移行する時でもある。
※この記事は2024年9月30日時点の情報をもとに制作しています。
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