【最新】「インフレの進行」と金利上昇で変化した不動産市況|アナリスト・幸田昌則の不動産市況
- 市況・マーケット
イラン戦争は、ようやく和平合意が締結され次のステップに入りましたが、直ちに不安が払拭されたわけではありません。原油やナフサ原料の供給量・価格など、まだ戦争前に戻ってもいません。さらに円安傾向も変わらず、インフレは加速し、効果的な物価対策も打ち出せていません。一方、足元では、金利上昇の動きは顕著で、住宅・不動産全体の需要に影響をおよぼし始めています。
福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書は「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)など多数。「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)が好評発売中。
建築コストと金利の上昇で新規住宅の供給数が減少
株式市場は日経平均株価が急騰し、7万円台の株価も見られるようになりましたが、不動産株は年初来の安値という報道がありました。不動産業は多額の有利子負債を抱えているため、金利が上昇すると利払いが増えるとの懸念が株価の重荷となり、株が売られたということです。
日本の大手不動産業の3社、三井不動産・三菱地所・住友不動産の有利子負債の合計は12兆円を超えています。今後、金利上昇は必至であり、業界全体には逆風となります。
さらに、インフレは加速しつつあり、建築費の高騰と職人不足で、新規住宅の供給の先細りと利益の確保が一段と難しくなっていくことは避けられません。そのため、不動産業界の業績は厳しくなっていくものと思われます。
ただ、賃貸住宅市場では、大都市部を中心に需給がひっ迫していて、家賃の値上がりが著しくなっています。住宅価格の高騰で購入を断念し、しばらくは賃貸住宅に住んで様子を見ようという動きが出ており、需要が拡大していることも背景にあります。
この十数年間は、異次元の金融緩和と超低金利政策で、賃貸住宅に住んでいた人達の多くが、家賃以下・家賃並みの住宅ローン返済でマイホームを購入し、賃貸住宅から退去した結果、賃貸住宅の供給が増えていましたが、物件価格の高騰で購入する動きが鈍くなり、賃貸住宅の空きが出なくなったこともあります。住宅価格の高騰と金利上昇が、賃貸市場を劇的に変えてしまいました。
新規着工数の減少下で賃貸物件の供給は堅調
地価と建築費の急上昇が続いてきた結果、支払い計画や事業採算がとれなくなり、住宅だけに限らず、都市再開発、商業施設・ビルなどの建設の先送り・中止などが相次いでいます。名古屋駅の再開発の計画見直しは全国的に有名になりましたが、規模の大小を問わず、建築費の高騰は施主を悩ませています。
しかし、賃貸アパートなどの新規着工については、底堅い動きになっています。その背景には、相続対策を目的とした資産家・富裕層の根強い需要があることに加え、中小企業からの需要が一段と活発化していることがあります。
中小企業の人手不足の問題は深刻で、事業継続を左右するものになっています。人手不足による経営破綻や廃業も増えています。このような状況下で、人材確保のために、寮や社宅を用意する企業が多くなっています。人手不足は給与所得を上げる契機になりましたが、最近では、住居の提供や住宅手当を厚くすることにつながっています。この動きを支えているのは金融機関です。
金融機関の最近の不動産に対する融資姿勢は慎重になってきていますが、図表❶に示されているように、賃貸アパートなどのオーナーへの融資は衰えていません。
中古住宅の取引件数は堅調 売り物件も多く在庫は増加
インフレの影響もあって、高額化した新築住宅の販売件数は減少傾向が続いていますが、中古のマンションや戸建て住宅の成約件数は順調に推移しています。中古住宅は新築に比べて割安な価格で、手の届く価格水準にあり、実需層の注目を集めています(図表❷)。
また、人気の要因としては価格だけではありません。居住面積が新築に比べて広く、子どものいる家族の要望に適合していることも大きいといえます。
このように、中古マンション・中古戸建ての需要は拡大し続けていますが、中古住宅の取引件数は堅調で、成約件数を見ても分かるように、中古流通市場での品不足感は全くありません(図表❸)。
その要因は、成約件数を上回る供給量があるからです。売却依頼の理由を見ると、次のようになります。
①相続発生による自宅の売却です。高齢化社会で毎年多くの人が亡くなり、その都度、売りが出てくる。
②高齢者施設への入居に伴う売却。
③高齢者の老後に向けた買い替えに伴う売却です。戸建て住宅からマンションへの住み替え。
④離婚による売却です。年齢層に関係なく多く見られる。
⑤住宅ローン返済が困難となっての売却です。インフレや金利上昇に起因するものも増加。
このように、社会構造の変化、経済的な理由などが背景にありますが、日本の人口減少、世帯数の減少という根源的な要因が続いていくことは既定の事実であり、供給の増加は続いていくことになります。供給の増加は、価格調整の始まりと言えます。在庫増加は市況の変化を暗示しています。
人口減少下で住宅は利便性が一段と重視される時代に
先般、日本の人口が発表されました。昨年末には1億2304万人となり、2010年のピークから500万人超も減少し、年々減少数は拡大しています。経済的に好調と言われる東海圏も、他の地域と比べて例外ではありません。
今後の人口減少は必至ですが、人口減少下では、住宅は利便性が問われ、住宅・不動産の価格格差は拡大していくことになります。
※この記事は2026年7月8日時点の情報をもとに作成されています。
原稿を寄稿いただいた幸田先生の書籍販売中!
膨大なデータを読み込み、現場の声を聴いて、不動産市場の行方を的確に示しつづけてきた不動産市況アナリスト・幸田昌則氏が「不動産バブルの静かなる崩壊」について語っています。ぜひチェックしてみてください!

















