【最新】「インフレの進行」で変化し始めた不動産市況|アナリスト・幸田昌則の不動産市況
- 市況・マーケット
米国とイスラエルによるイラン攻撃によって政治リスクが高まり、原油価格は一気に急騰。日本経済の先行きは、ますます混迷の様相を呈しており、株価も急激な動きを繰り返しています。また、為替市場では円安が進み、物価の高騰に拍車がかかって、インフレが加速しています。その結果、家計が圧迫され、庶民の購買力の低下が鮮明になってきました。
福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書は「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)など多数。「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)が好評発売中。
地価の上昇と建築費の高騰で住宅需要の変化が鮮明に
3月に地価公示が発表され、大都市圏での地価上昇が続いていることが確認されたが(図表❶)、この地価は今年1月1日時点のもので、実態としては昨年の数字だと言える。すでに、約半年前のデータであり、直近では価格の調整も見られるようになっている。ただ、住宅地・商業地ともに地域や地点による価格格差の拡大は続いている。
また、工業地や高級リゾート地の地価上昇が目立った。価格が高騰したのは地価だけではなく建築費も同様だ。資材価格の上昇や人手不足もあってうなぎ上りの状況が続いているが(図表❷)、当面、下落に転じる要因は見当たらず、収束は期待できない。地価と建築費の高騰で新築住宅の価格も上昇したため、購入者数が減り、売れ残りも少なくない。販売価格の値下げによる在庫処分も見られるようになっている。
住宅価格の高騰で、購入を諦めて賃貸住宅を考える人も増え始め、利便性の高い賃貸物件の需要が強まっている。その結果、賃貸住宅市場では、空室数の減少が著しく(図表❸)、家賃値上げの動きが活発化している。家賃更新時の値上げ要請も常態化している。一方、借りる側でも、インフレの時代だと認識して、合理性のある値上げ要請には応じる姿勢が広がっている。インフレによる住宅価格の高騰によって、賃貸住宅市況が活性化している。
保有物件をメンテナンスして長期利用する意識の高まり
イラン情勢は原油高に加え、石油由来の製品の価格上昇、品不足をもたらしている。加えて、建設業界における職人不足は常態化していて、改善の期待はできない。そのため、新築コストが上昇しているだけではなく、解体費も高騰が著しく、既存(中古)物件を解体して新規に建設しても、事業の採算が合わなくなっている。
このような状況を反映して、最近では築年の古い既存(中古)物件を手入れして、長期に利用しようという動きが活発化している。街中で見かける「貸しトランク」でも、利用期間を100年まで延ばそうという計画があるという。賃貸アパートやマンションなどの居住系だけでなく、オフィス・商業施設などでも「まだ利用できるものは、メンテナンスをして長く活用しよう」という動きが芽生えてきた。インフレを契機にして、見直しの気運が高まっている。
法人が、不動産を「経営資源」として重視する時代に
この数年間、東京圏の不動産市場では、企業・学校法人・宗教法人などが、不動産売買や有効活用の主体となる例が急増している。現在の不動産市況を支える大きな存在になっている。
この背景を探ってみると、
❶半導体やAIなどの新しい分野の成長に伴い、工場やデータセンターなどの新設が増加して用地の取得が活発化しており、工業用地の品不足が顕在化したことで、工業地価の値上がりを招いている。新たな企業城下町が全国各地で誕生している。
❷老舗企業などが、事業構造の転換を余儀なくされ、賃貸オーナー業になっている。
❸本業の先細りが想定される業種では、本業と並ぶ第2の柱として、不動産投資を積極的に行う企業が増加している。代表例としては、鉄道会社や百貨店などが挙げられる。中には、本業を抜く利益を上げている企業も少なくない。
❹業績不振によって、本社ビル・工場・遊休地などの売却をする企業も増加している。
日産自動車の本社ビルや、ワコールの所有不動産売却も話題となったが、現在のインフレの進行や円安によって業績が悪化する業種については、所有不動産の売却の増加が予想される。一方では、人材確保のために、寮や社宅を購入したり、新たに建設したりする例が急増している。
いずれにせよ、法人の存在感が大きくなってきた背景には、不動産を「経営資源」として重要視する動きが出てきたことがある。特に、不動産の安定した賃料は、経営者にとって魅力となっている。
さらに賃貸オーナー業は、人手不足が深刻化する中で、少人数で運営できるもので、特別な技術を必要としない。この動きは、今後も一段と拡大していくことは必至で、経営計画に組み込む企業も増えている。不動産市況の下支えに、富裕層と共に寄与している。
不動産価格は調整局面へ買い手市場になる可能性も
繰り返しにもなるが、インフレの進行・物件価格の高騰と金利の上昇によって、不動産の価格は調整局面に入っていくだろう。すでに、東京都心部でも高額な中古マンションや収益ビルなどの売り物件は増加している。新築住宅にも、売れ残りが目立ってきた。
春の住宅の最需要期が終わり、これから年末に向けて、売り物件は増加していくことから、買い手市場になる可能性も考えられる。
※この記事は2026年5月15日時点の情報をもとに作成されています。
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