【最新】インフレの進行と株高で「所得と資産」の格差拡大|アナリスト・幸田昌則の不動産市況
- 市況・マーケット
4月のトランプ関税の発表以降、世界経済は不確実性が高まり、混迷期に入りました。一方、国内では「米価」の高騰が話題になっているが、その他の食品、そして家賃の上昇も著しく、インフレの進行が続いています。その結果、個人・企業間で所得や資産の二極化現象が鮮明になってきました。不動産市場に与える影響について、不動産市況アナリスト・幸田氏が解説します。
福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書に「アフターコロナ時代の不動産の公式」(日本経済新聞出版)他、多数。「不動産バブル 静かな崩壊」(日本経済新聞出版)が好評発売中。
追加の相続対策の需要が不動産価格を下支え
これまで日本銀行による異次元の金融緩和と世界でも比類のない超々低金利政策によって、大都市部を中心に地価・住宅価格は急騰してきた。そして最近では建築費の値上がりもあって、新築のマンション・中心部の戸建て住宅の販売価格が高騰、高値圏で推移して、庶民には「手の届かない水準」に達してしまった。
地価の値上がりに加えて、年明け以降、株価の値上がりも著しい。特に、石破総理が自民党総裁の辞任表明をした以降は、連日、日経平均株価が史上最高値を更新し、きわめて異例の動きを見せた。
下図は金相場と株式時価総額を示したものである。従来から「インフレ時代には不動産や株式、さらに『金』などの保有が有利」だと言われてきたが、その通説どおりとなっている。
株式や金相場の値上がりの影響もあって、日本の家計の金融資産の残高は今年の3月末には2200兆円となり、資産の拡大が著しい(図表2)。
インフレが資産の拡大に拍車をかけ、同時に、持つ者と持たざる者との格差を生んでいる。インフレで日々の生活にゆとりが無くなっている人と、インフレで恩恵を受ける人との二極化が一段と進行している。そして、この影響は不動産取引においても数多く見られるようになった。
最近、金融機関では不動産を対象とした貸出姿勢が厳しくなっている。特に、サラリーマン投資家や過去に購入の実績がない人への融資は激減している。融資を受けられない人も多くなっている。
一方、すでに多額の資産を持っている人や企業には、いくらでも融資を行う例が少なくない。金融機関としては、むしろ積極的に融資をしたいと思う富裕層・経営者が増えている。
図表3は、個人の不動産所得等(家賃収入)の推移を示したものだ。全体所得は近年、ほぼ横ばいの状況が続いてきたが、インフレ時代に転じた頃から、家賃の値上がりが大都市部で拡大してきたことで、やや増加傾向が見られる。
しかし、注目すべきは、1人当たりの不動産所得額がここに来て急激に増えていることである。この現象は私も実感するもので、最近、不動産を取得している例を見ると、その多くは「買い増し」であり、すでに複数の不動産を所有している人たちである。
買い増しの主たる目的は、相続対策などの節税と思われる。この2〜3年間の不動産と株式などの価格高騰により、所得資産の評価額が大幅に上昇したことで、さらなる節税対策が必要となり、その一つとして不動産を買い増している。
こうした動きが、現在の不動産市況を下支えして、価格の高止まり現象を生んでいる。
不動産在庫が増加の地域も。一部で価格調整が本格化
新築のマンションや戸建て販売価格が高騰し、需要は都心の一部を除いて、減退傾向が鮮明になっている。そのため住宅需要は、新築に比べて割安な中古住宅への流れが加速している。新築物件、特にマンション価格の年収倍率は全国平均で10倍を超え、実需層は置き去りにされている。
とはいえ、現状は物件の売れ行きについても二極化が進行している。大都市でも郊外や地方圏では長期に売れ残った物件が増加し、一部の分譲会社の値下げ処分もあり、これまで上昇してきた価格の調整が始まっている。
一方、新築や中古、マンションや戸建てを問わず、住宅の利便性を求める動きはコロナ禍以降、一段と強まっていて、都市中心部・駅近の物件の需要は根強く、高値での取引が続いている。
また、賃貸住宅についても、「利便性」の良い物件は、高めの家賃でも人気が高くなっている。同時に最近では、持ち家・賃貸ともに居住面積の広い物件の需要が強まっている。
インフレの進行による購買力の低下、価格の高騰、金利の上昇、需要の一巡などの要因で、需要の拡大、価格のさらなる上昇は、転換期に入ったと考えられる。
インバウンドが増え、大都市のホテルは供給増加
観光庁の宿泊旅行統計調査(2024年)によると、年間で利用された全国の客室数を稼働率で割った総客室供給数は約6億8000万室で、前年比1%の増加だったと報告されている。ただ伸びが大きかった都市は東京・大阪・京都などで、その他の地域での伸びは見られなかった。ここでも地域による二極化が鮮明になっている。
また、最近では、ホテルよりも民泊の需要が拡大しているとの指摘も出ている。ホテル料金の高騰で、家族連れの人達が割安な民泊を希望しているという。
いずれにせよ、ホテル・民泊の需要が拡大している地域では、ホテル用地・民泊用の不動産需要は強いが、建築費の高騰で採算面からためらうケースも増え、新規供給は横ばいから、減少傾向が続くものと考えられる。
最後に
最後に、これまで述べてきたように、不動産の価値は生活や交通の利便性によって、天地の開きが出てくる時代になった。
所有する不動産をもう一度、再評価して、今後の資産形成・相続などの節税対策に臨んでいただきたい。
※この記事は2025年9月15日時点の情報をもとに制作しています。
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