2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?

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公開日:2022年12月7日
更新日:2023年3月14日
2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?1

欧米では、コロナ禍との共生へと軸足を移し、「ノー・マスク」での社会生活・経済活動が普通になり、日本でも、海外からの入国規制の緩和措置が採られ、コロナ後を見据えた動きが本格化してきています。しかし、ウクライナ紛争もあってインフレや円安が進行し、社会・経済は新しい局面に。電気・ガスなどのエネルギーや、食料品などの生活必需品が値上がりし、国民の家計を圧迫することになりました。不動産市況アナリストの幸田氏に2023年の不動産市況を展望していただきました。

寄稿いただきました
2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

不動産市況アナリスト
幸田 昌則氏

福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書に「アフターコロナ時代の不動産の公式」(日本経済新聞出版)他、多数。

インフレの進行と転換期にある金融情勢

2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

住宅・不動産市況の動向は、金融情勢によって左右されることは言うまでもありません。まずは2022年を振り返る。アベノミクス政策で超低金利、異次元の金融緩和が長期間続いたことで、日本では3回目の不動産バブルが生まれました。

図表①は、国内銀行が不動産業に向けた貸出残高の推移を示したものですが、1990年のバブル期の約2倍となっています。しかも、現在でも増加し続けているのです。

図表①[国内銀行]不動産業向け貸出残高の推移
2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

「日本銀行」データより

また、金利については、インフレ進行を阻止するために、欧米だけでなく多くの国々が政策金利の引き上げを実施しましたが、日本銀行は年末まで「我、関せず」の姿勢を続けてきました。

米国の住宅ローン金利は一時7%を超えましたが現在も高水準で、住宅の売れ行きは減少し、価格も調整局面にあります。

さて、2023年は昨年末の日銀の実質的な方針転換、すなわち金利の上昇容認の規模やスピードがポイントとなります。住宅ローンへの影響は今のところ軽微ですが、金利上昇は支払額のアップにつながり、購入の様子見や住宅価格を押し下げる要因となります。

異次元の金融緩和で値上がり続けてきた不動産価格は緩やかな調整局面にありますが、今後については金融情勢が鍵を握っています。

図表2.2022年の基準地価、全国平均で上昇
2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

[首都圏・住宅地]基準地価指数の推移(2000年を100とする)※国土交通省「都道府県地価調査構」データより

高騰した商業地価は調整色が強まる

2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

昨年9月に発表された「基準地価」を見ると、日銀の金融政策によって始まった地価の上昇は、約10年と長期にわたって続きました。

しかし、大量の余剰資金の流入があった大都市の中心商業地価については、地域による時間差はありますが、すでにピークアウトしつつあります(図表②)。

図表②都道府県基準地価高額商業地の価格の推移

 

地域 2022年
(万円/坪)
直近の
ピーク
東京 中央区銀座2-6-7 12,969 2018年
東京 千代田区丸の内3-3-1 8,844 2020年
大阪市 北区梅田1-8-17 5,346 2020年
名古屋市 中村区名駅4-6-23 3,795 2022年
京都市 中京区烏丸通四条上る笋町 1,931 2022年
岐阜県 岐阜市吉野町5丁目17番外 210 2021年
三重県 津市栄町2丁目380番 42 2012年

※国土交通省「都道府県地価調査」データより

東京の銀座では、実際の取引価格との違いはあっても、さらなる上昇は期待できないものと考えられます。現在の地価水準で取得しても、事業採算は合わなくなっているからです。

加えて、ウッドショック、インフレの進行で、各種の建築資材・住設機器が値上がりしましたが、高騰した販売価格への転嫁は難しい状況です。

値上がりした地価に、上昇した建築コストが加わり、事業採算の見通しが難しくなり、事業計画の中止や先延ばしが増えることが想定されることから、高額な商業地・住宅地の価格が調整を余儀なくされる可能性は高いと考えられます。

オフィスや店舗の需要は弱まり、在り方に変化

2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

コロナ禍は、デジタル社会の進行を早めました。人との接触を避けることが求められ、人々の生活や働き方は、大きく変わってしまいました。

特に大都市ではテレワークが普及し、現在では定着している企業も少なくありません。その結果、中心部のオフィス需要は縮小し(図表③)、オフィス自体の在り方も変化しています。シェアオフィスや自宅がオフィスになっている例もあります。

図表③[主要都市]ビジネス地区・オフィスビル空室率の推移
2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

三鬼商事「オフィスマーケットデータ」より

デジタル社会では、商品をインターネットで購入することが増え、小売業界では無店舗で事業を行うことでコストを削減、生産性を向上させる動きも活発化しています。

この傾向は強まることはあっても、戻ることは想定しにくいです。その結果、店舗の需要もオフィスと同様に縮小することになります。同時に、立地による選別は一段と厳しくなり、淘汰の時代を迎えることは確実です。

コロナ禍による「住み替え」需要は縮小へ

2023年の不動産市況を展望。コロナ禍で生まれた需要はどう変わる?2

住宅市場は、超低金利とコロナ禍による住宅特需の発生で活況が続きました。その結果、住宅地の需要は急拡大し、住宅用地の価格は急騰。供給不足が価格上昇に拍車をかけることになりましたが、昨年の夏以降は、建築コストの値上がりが著しく、住宅の販売価格が上昇。それにより建売住宅の売れ残り在庫が増加しています。

また、働き方が変わり、大都市圏では在宅時間が多くなりました。住宅への関心が高まるとともに、仕事上の都合から「広い家」を求める動きも拡大。戸建て需要や郊外への転出現象、さらには、賃貸住宅でも広さを希望する家族が増加しました。

いずれにせよ、コロナ禍による住宅特需は、住宅価格を高騰させました。しかし、この特需にも一服感が出てきて、最近ではインフレによる家計の圧迫や景気の先行き不安に加えて、金融機関の融資姿勢が厳しくなってきていることもあり、住宅取引は減少傾向が鮮明になってきています。

2023年は、超低金利の下支えがあったとしても、住宅需要は停滞し、価格の調整が始まることが予想されます。

インフレに無縁の富裕層の不動産への関心は衰えず

コロナ禍で、富裕層の余裕資金は、今後とも節税・投資の機会を求めて不動産へ流入することが想定されることから、立地・収益力等で希少性のある物件は、高値圏での取引が続く可能性が高くなっています。

また、高齢者の相続に起因する取引は、高水準で推移していくことは確実と言えます。図表④に見られるように、高齢者数の増加は著しく、若年層は少子化が進行し、急減しています。この構図を反映した動きが、不動産市場に反映されることは言うまでもありません。

図表④[日本]1970年・2020年の人口構造の比較

 

年代 人口(千人) 総人口比
(%)
対1970年比
(%)
90歳以上 2,386 1.9 +3527.4
80代 9,113 7.4 +938.2
70代 16,171 13.1 +376.5
60代 15,523 12.6 +132.2
50代 16,379 13.3 +78.4
40代 17,939 14.5 +36.5
30代 13,592 11.0 ▲17.6
20代 11,867 9.6 ▲39.6
10代 10,934 8.9 ▲34.9
10歳未満 9.496 7.7 ▲4.6

 

2023年は、「金融と景気」という2つの動向に、市場は影響を受けることになります。過熱化してきた市場に変化が生まれることを覚悟しておきましょう。

※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2023年2月8日時点のものです。

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