【最新】不動産市況アナリスト・幸田昌則氏が解説!「インフレの進行」で、不動産市場は格差拡大
- 市況・マーケット

インフレの進行が止まりません。特に、欧米では日本に比べて物価が著しく上昇しています。米国は政策金利を急ピッチに引き上げてインフレを阻止しようとしていますが、容易には止まらない状況に陥っています。日本でもインフレは加速しており、住宅・不動産市況に強い影響を与えている最新状況を不動産市況アナリストの幸田氏が解説します。
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福岡県出身。三大都市圏の住宅情報誌の創刊責任者を歴任。1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は、バブル崩壊前の業界に波紋を呼び、予測の正確さを実証した。著書に「アフターコロナ時代の不動産の公式」(日本経済新聞出版)他、多数。
進むインフレ。金利政策は欧米と日本で差

日本では、この10年あまり、ゼロ金利や異次元の金融緩和で、株高・不動産バブルを人為的に作り、デフレからの脱却と経済成長を目指してきた。
欧米諸国においても、日本ほどではないものの、金融政策は経済成長に軸足を置いた方策が主眼とされてきた。そこにロシアによるウクライナ侵攻が始まり、物資の流通が世界的に滞った結果、インフレが進行。欧米では政策金利の引き上げが行われた。その結果、株価や不動産価格の調整が鮮明となった。
一方、日本の政策金利は依然として低水準のままである。不動産価格の調整は見られるが、その動きは緩やかで幅も小さい。しかし、インフレの進行が続いており、住宅や不動産市況への影響は無視できない大きさになっている。
①所得・資産の格差拡大が一段と進行

昨年来、物価の上昇が続いていることは、多くの人が実感しているが、高所得者層・資産家の家計に与える影響は少ない。
むしろ、年初からの株価の上昇、直近の数年間に及ぶ不動産価格の高騰もあって、資産を大きく増大させている(図表❶)。

そのことは、地価公示価格が上昇した軽井沢エリアのリゾート物件の購入者数が、年々増加していることからもわかる。富裕層の資金は、好立地の希少価値の高い不動産に集中し、高値で取引されている。また、相続などの節税需要も引き続き活発な動きがみられる。
賃貸アパートなどの節税目的の建築需要も底堅く、図表❷に示されているように、新規貸出額はここ数年増えている。中古アパートの売買取引も、収益性や買い易さから、引き合いは多い状況だ。

超低金利が続く中、融資を受けられるのは資産家に限定されるものの、不動産投資需要は、依然として衰えず堅調に推移している。
一方、インフレの進行は低・中所得者層の購買意欲・購買力を低下させている。電気・ガス料金の高騰に加えて、直近では、ガソリン代の値上がりも深刻で、家計の悪化を加速させている。
特に、地方圏や郊外では、車を利用した生活が必須であるところも多く、家計を圧迫し、住宅ローンの返済に窮する人が増えている。
また、住宅価格の高騰と実質所得の低下で、購入を見送る人も多くなっている。その結果、住宅市場では在庫数の増加傾向が続いている(図表❸)。

特に、高額・割高な物件の売れ残りが目立ってきた。すでに新築・中古を問わず、物件価格を下げることも珍しくなくなった。
なお、売却理由としては、資産処分(現金化)や住み替え、そして離婚などが多く見られる。また、相続に起因する売却も、高齢化社会の進行で増加傾向が続いている。
いずれにせよ、インフレは住宅購入の主たる顧客である若年層・低中所得者の家計を直撃し、住宅需要を減速させ、在庫の増加によって価格は見直しを迫られている。
②デジタル社会の普及・定着で、オフィス市況が悪化
新型コロナ感染症が5類へと移行し、働き方や暮らし方が少しずつ元に戻り始めているが、完全には戻ったわけではない。
コロナ禍では非接触が求められ、大都市圏では大企業を中心に「テレワーク」による働き方が普及・定着した。その結果、賃貸オフィスの需要が縮小し、空室率が上昇、高止まりしている。

テレワークの普及が著しい米国では、コロナ禍の収束にもかかわらず、テレワークによる働き方が常態化しているという。ニューヨークのオフィス空室率は、15%に上昇。また、IT企業の集積度の高いサンフランシスコでは、空室率が20%近くに達している。
一方、日本では働き方がオフィスに戻っている企業もあるが、テレワークを重視している企業も少なくない。
さらに、日本社会の「構造的な変化」が、オフィス需要の縮小に拍車をかけている。人口の減少、就業者数の減少を反映したもので、一時的な現象ではないことは明らかと言える。オフィス需要の強い大都市圏でも、事業所数は減少傾向が続いている(図表❹)。
都道府県 | 2021年件数(件) |
2012年→2021年 | |
増減数(件) | 増減率 | ||
大阪府 | 382,813 | ▲25,900 | ▲6.3% |
兵庫県 | 204,943 | ▲13,934 | ▲6.4% |
京都府 | 110,896 | ▲6,988 | ▲5.9% |
滋賀県 | 54,878 | ▲591 | ▲1.1% |
奈良県 | 46,600 | ▲111 | ▲0.2% |
東京都 | 623,895 | ▲3,462 | ▲0.6% |
全国 | 5,211,445 | ▲242,190 | ▲4.4% |
総務省「経済センサス活動調査」データより
さらに、安倍政権が誕生して以降、日本銀行の超低金利・異次元の金融緩和により、大都市だけにとどまらず、駅前・中心部の再開発が活発に行われた。その結果、相対的にオフィスや商業施設が供給過多の状況になってしまい、空室率は上昇、賃料は弱含みに推移している。
コロナ禍が収束過程にある中、コロナ禍を契機として市況は大きく変化してしまった。テレワークやインターネット販売による無店舗事業の定着など、デジタル技術の進展によって、不動産市場の需給関係が一気に変わるという、想定外のことが起きたのである。
③水面下で利上げの動き。今後の「金融動向」に注意
欧米とは異なり、日本での金融緩和はいまだに続いているが、水面下では少しずつ金利の引き上げや、融資姿勢の変化が生まれている。加えて、金融機関による選別融資の姿勢が強まっていることも確かである。
不動産市場におけるバブル崩壊の契機となるのは、不動産価格の高騰と金融の引き締めであり、年末から来年にかけて、動向には注意しておきたい。
※この記事は2023年9月25日時点の情報をもとに制作しています
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