遺言の作成、相続の効力、遺産分割…相続・相続対策で起こりうるトラブルの対処法を弁護士がQ&Aで解説

相続をめぐるトラブルは賃貸経営にも影響をおよぼします。遺言から不動産の承継、借地・借家に関する実務まで、相続・相続対策で 起こりうるトラブルについて、事例をもとに弁護士の久保原先生・伊藤先生が対処法をわかりやすく解説します。いざというときに知っておきたい法律の知識が満載です。

Q1.遺言書を作成したいのですが、どのように作成すると良いでしょうか。

A1:将来の相続人の争いを避けることを意識して公正証書遺言を作成することをおすすめします。
遺言書には、自分で遺言書を手書きして押印する自筆証書遺言、公証人が関与して立会人の下で内容を確認し公証役場で保管する公正証書遺言、内容は秘密のまま遺言したことを公証役場で記録する秘密証書遺言という方式があります。
遺言書の偽造の疑いを排除し、後々の紛争を招かないためには、一般的に公正証書遺言が有用ですが、自筆証書遺言を法務局に預ける保管制度も、より廉価な方法として利用することができます。
将来の相続人間の争いを避けるためには、不動産を共有する内容にしない方が賢明です。遺言書には付言事項と言って、法律上の効果は発生しないものの、兄弟仲良く、遺言書の内容どおり遺産を分けて互いに協力して生きてほしい等のメッセージを盛り込めます。
Q2:相続時に発生する紛争はどのような法的手続きで争われますか。

A2:遺産分割調停の他に、遺留分請求、遺言無効確認請求等がなされることがあります。
遺言書で各相続人の取得財産が指定されていない場合、誰がどの遺産を相続するかは、相続人の間で協議して合意形成を図る必要があります。
協議がまとまらなければ、裁判所が中立的な第三者として関与する話し合いの手続きである遺産分割調停を要することになります。調停がまとまらないと裁判所が判断を下す遺産分割審判に移行します。
遺言書が存在しても、遺言書により、法律上確保されるべき遺留分すら受け取れなくなってしまう相続人がいる場合には遺留分侵害額請求が、遺言書に偽造等の可能性がある場合は遺言無効確認請求がなされ得ます。また、遺産が使い込まれているおそれがある場合には不当利得返還請求がなされることもあります。
Q3:相続すると、賃貸経営上の契約関係はどのように引き継がれますか。

A3:すべての権利義務を包括的に承継しますが、契約関係を見直すことも重要です。
相続の法的効力は、亡くなられた時点(相続開始時)にさかのぼって、亡くなられた方(被相続人)の権利義務を相続人がそのまま引き継ぐものです。賃貸物件を取得した相続人は、不動産の所有権のみならず、賃貸借契約上の貸主の地位も引き継ぎ、自動的に賃借人と直接の契約関係に立つことになります。
協力的なテナントとの契約関係のみ継続するというような選別はできません。法律上、新しく契約書を取り交わさなくても契約は承継します。
ただ、賃借人との人間関係を再構築して賃貸経営を円滑に引き継ぐためにも、また、特に契約内容が古くなっている場合には現状に適合した契約に改める必要があることからも、相続にあたって契約書を見直すことをおすすめします。
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Q4:遺産分割において、不動産の価値はどのように算定されますか。

A4:時価で算定されますが,算定額に争いが生じることが少なくありません。
遺産分割における不動産の価値は、基本的に遺産分割時の時価で評価されます。相続税の計算では、路線価や固定資産税評価額を重要な考慮要素として価値が算定されますが、遺産分割において、これらはひとつの参考値にすぎず、実勢価格も踏まえて時価の計算が行われます。
遺産分割で不動産を取得する人にとって、算定金額は安い方が都合が良く、取得しない人は高い方が都合が良いため、裁判では自己に有利な事情を特に考慮した不動産鑑定書が双方から出されるという展開が見られます。
和解協議が進まず裁判が進行すると、裁判所が依頼する中立的な立場の不動産鑑定で適正額の算出が試みられることになり、その場合、通常は裁判所の鑑定に沿った判決が出されることになります。
Q5:入居者が亡くなられた場合に、賃貸借契約はどのように相続されますか。

A5:相続放棄がなければ賃借人の相続人が包括的に承継しますが、注意すべき点もあります。
賃借人の死亡によっても、賃貸借契約は当然に終了せず、賃借人の相続人が賃借人の地位をそのまま相続します。滞納賃料や、賃貸借契約が最終的に終了した場合の原状回復費用も相続人に請求することが可能です。
ただし、賃貸借契約に伴って締結した連帯保証人の連帯保証債務は、改正民法が適用される契約では、賃借人の死亡時の金額で確定し、死亡後の滞納賃料におよびません。
そのため、相続人が部屋を借り続ける場合には、改めて連帯保証人を立て直してもらうことが必要と言えます。また、賃借人の相続人が全員相続放棄した場合、部屋の明け渡しの対応をする人がいなくなるという事態がしばしば生じます。事案に応じ、裁判手続も視野に入れた対応が必要です。
Q6:親から実家を相続したところ、地主から承諾料を請求されています。

A6:相続にあたっては、譲渡承諾料を支払うべき法律上の義務は存在しません。
土地賃貸借契約において、土地上の建物が売却され、これに伴い借地権が譲渡される際には、地主の許可を得る必要があり、許可の対価として譲渡承諾料が発生し得ることになります。
相続でも借地人が交代することには変わりはありませんが、相続による包括承継は、売買契約等の取引による譲渡とは明確に区別されます。相続の場合、地主の許可を得る必要はなく、承諾料の請求は法律上の根拠を欠くことになります。
他方、土地賃貸借は非常に長期にわたる契約で、地主との関係も長く続いていきます。そのため、承諾料については丁重にお断りしながらも、今後実家をどのように使用していくか等、ある程度の情報共有を行い、良好な関係を築くことが望ましいと言えるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2025年5月31日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄
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