最高裁が初判断!保証会社の「家賃滞納で追い出し条項」は違法に。裁判のポイントを弁護士が解説
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令和4年12月12日、最高裁判所は、ある保証会社が使用していた保証契約書の条項が消費者契約法10条に反するとして、「賃貸住宅の追い出し条項は違法」という判決を下しました。大家さんへの影響など、気になるポイントを弁護士が解説します。
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〈久保原弁護士プロフィール〉京都大学大学院法学研究科修了。2008 年、九帆堂法律事務所設立。最高裁で勝訴した更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士として様々な情報を発信。
〈伊藤弁護士プロフィール〉東京大学法学部、同法科大学院修了。2018年、九帆堂法律事務所入所。大家さんの代理人として多数の賃貸借案件を扱う。
「家賃滞納での追い出し条項」裁判の経緯
今回の裁判は、適格消費者団体が提起した差止請求訴訟という特殊な事件です。訴訟は原則、利害関係人しか原告・被告になれません。
しかし、消費者と事業者では情報の質・量・交渉力の格差があること、訴訟コストは少額被害の回復に見合わないこと、個別トラブルが回復しても同種のトラブルが根絶するとは限らないこと等から、適格消費者団体制度が整備されました。
適格消費者団体は、利害関係がなくとも、問題のある事業者に対して自ら原告として、差止訴訟を提起できます。
被告となった保証会社は、オーナー・賃借人から保証料を受け取る代わりに、賃借人が賃料等を滞納した場合にはオーナーへ賃料を支払うという保証契約を締結・運用する会社です。
今回の裁判では、保証契約書の一部の条項が消費者契約法10条に反するものかが争点でした。
最高裁判決の概要
消費者契約法10条は、①任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し、②信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合、そのような特約は無効と定めています。最高裁は、次の2つの条項は消費者契約法10条違反の各要件を満たすとして、これらの使用差止めを命じました。
条項1:「保証会社は、賃借人が賃料・変動費等を、合計で賃料3カ月分以上滞納したときは、無催告で賃貸借契約を解除できる。」
最高裁は条項1を、賃貸借契約の当事者でもない保証会社の一存で、何らの限定もなく賃貸借契約を無催告で解除できるものであるため、消費者契約法10条違反の各要件を満たすと認定しました。この点は、賃貸借契約の当事者である賃貸人については無催告解除が認められる場合があるのとは異なるので注意が必要です。
条項2:「保証会社は、
①賃借人が2カ月以上賃料を滞納し、
②保証会社が合理的な手段を尽くしても連絡が取れず、
③電気・ガス・水道・郵便物等から部屋を相当期間利用していないと認められ、
④部屋を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看守できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を唱えない限り、部屋の明渡しがあったとみなせる。」
最高裁は条項2を、
①保証会社は、賃貸借契約が終了していない場合、賃借人は使用収益権が残っているのに保証会社の一存で使用収益権が制限される、
② ①の状態が法的手続によらずに実現されたのと同様の状態に置かれるという著しく不当な状況となる、
③『部屋を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看守できる事情が存するとき』という要件は不明確で、賃借人は的確に判断できない、
④『賃借人が明示的に異議を唱えない限り』という要件が定められているが、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではない
という各理由から、消費者契約法10条違反の各要件を満たすと認定しました。
第2審判決との違い
本裁判の第2審、大阪高裁判決は、各条項は消費者契約法10条に反しないと判断していました。
高裁は、条項1は「保証会社が賃料等の支払の遅滞を理由に賃貸借契約を解除するに当たり、催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に、無催告で解除権を行使することが許される」という意味であると、限定解釈を行っていました。
また、条項2は「各要件を満たすことで、賃借人が部屋の使用を終了してその占有権が消滅しているものと認められる場合に、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が部屋の明渡しがあったものとみなせる。賃貸借契約が継続している場合、これを終了させる権限を保証会社に付与する」という意味だとし、やはり限定解釈を行っていました。
賃借人の不利益になりにくい条項と善意的に解釈することで、無効とする必要はないという結論を導いたのです。
これに対し、最高裁判決では、「限定解釈をすると、解釈について疑義の生じる不明確な条項が有効なものとして引き続き利用され、却って消費者の利益を損なうおそれがある」と述べ、限定解釈を否定。文言そのままの意味の条項であることを前提に、消費契約法10条違反と判断しました。
判決の理解に欠かせない「自力救済禁止の原則」
判決を理解するために、「自力救済禁止の原則」を確認します。
賃料滞納の発生時、オーナーは一定の要件下で、賃貸借契約を解除して退去を求めることができます。
しかし、退去を強制的に実現する権限を有するのはオーナーではなく裁判所です。オーナーや保証会社の職員が入居者を強引に部屋から連れ出す、入居者に無断で部屋の鍵を変える等の行為は法治国家では原則許されません。これを「自力救済禁止の原則」といいます。
最高裁が限定解釈を否定した背景には、自力救済の違法性を再確認し、自力救済を抑止したいという狙いが読み取れます。
まとめ~この判決は賃貸経営に影響をもたらすか~
保証会社が広く登場する前から、賃料滞納に苦しむオーナーが早期の明渡しを実現するために特約での対応を様々に模索してきましたが、自力救済禁止の原則に抵触するとして特約による対応は困難でした。その後、保証会社利用が定着し、賃料滞納者に対する特約での対応の試みは、保証会社による対策に場面を移しました。
本判決は、直接的には訴えられた保証会社の条項にのみ効力が生じ、賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約に関して判断したものではありません。
しかし、そうした背景からは、賃貸人側(賃貸人・オーナーら)の、特約の工夫による賃料滞納対策は、自力救済禁止の原則の前に一歩進めなかったということになります。
もっとも、後退したわけでもありませんので、多くのオーナーには、直接的な影響はなく、従前通りと考えていただければと思います。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2023年3月7日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄
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