大規模修繕の費用が払えない…そんな大家さんにおすすめ!「定額制大規模修繕」とは?[資金#2]

手持ち資金を準備できないために賃貸アパート・マンションの大規模修繕工事をためらっている大家さんにおすすめしたい「定額制の大規模修繕サービス」に。大規模修繕版のサブスクリプション方式ともいえる新サービスの特徴について紹介しましょう。

手持ち資金も借入も不要!費用を固定化できる新サービス

大規模修繕の費用が払えない…そんな大家さんにおすすめ!「定額制大規模修繕」とは?[資金#2]2

大規模修繕は、12~15年サイクルで外壁や屋上防水の工事をまとめて実施するというのが、これまでの常識でした。しかも、1回に掛かる多額の費用を一括払いしなければなりません。そのために必要な費用を、時間をかけてコツコツと積み立てておく必要があるわけです。

では、すでに築年が古くなって劣化が進み、資金の準備もしてこなかった場合はどうなるのでしょうか。金融機関からの借り入れも可能ですが、リフォームローンは新築融資に比べると金利が高く返済期間も短いのが一般的。

空室増加や賃料下落で収入が減っている中で、月々の返済負担が重くなると、収支を圧迫しかねません。賃貸経営を続ける場合は放置するわけにもいかず、かといって資金調達の壁があり身動きがとれない大家さんもいるでしょう。

そんな諦めかけていた大家さんに、新たな選択肢として登場したのが「定額制修繕サービス」です。

多額の初期費用が不要で、毎月決まった低額な費用を払えば、10~15年間の長期契約で必要な修繕工事とメンテナンスを併せて受けられます。そのため、突然の出費に見舞われる心配がなくなり、支出が固定化するので経営が安定するわけです。

従来方式と定額制の違いを図1にまとめました。

図1.修繕工事の従来方式と定額制の違い
従来方式 定額制
施工方法 まとめて1回で施工 複数回で分割施工
支払い 全額一括払い 原則、毎月定額※
借り入れ 資金不足なら必要 不要
メンテナンス なし(費用別途) あり(費用込み)
緊急対応 なし(費用別途) あり(費用込み)
追加費用 あり なし

※初期の劣化状態によって緊急工事の着手金設定もある

例えば、15年間に行う修繕工事の総額が2,000万円だとしましょう。従来方式では、手持ち資金があれば一括払い。資金を準備していなければローンを組むので、最終的な負担は金利支払い分を工事総額に加算した金額になります。年利3%で10年返済なら、月々の返済額は19万円強、金利の総額は約317万円です。つまり支払い総額は2,300万円以上になります。

一方、定額制の場合は、工事総額を15年間=180カ月で割った金額になります。単純な均等割では月々11.1万円。金利や分割払い手数料などは掛かりません。

ただし、築年が古く劣化が激しい場合は、最初に雨漏り防止、外壁落下防止などの緊急補修工事が必要なため、工事総額の1割程度を着手金として支払うケースが多いようです。この例では、1割の200万円を着手金として、残り1,800万円を均等払いにすると月々10万円。ローン返済より大幅に低い上に、支払い総額は工事総額と同じ2,000万円で済みます。

「分割修繕+長期メンテナンス」のパック制

修繕工事の方式も異なります。定額制は、従来のような10年を超える長い周期で複数の部位を一度にまとめて工事する一括施工方式ではありません。建物診断をした上で、劣化の度合いに応じて優先順位を付け、修繕の必要な部位から順番に工事をする分割施工方式です。

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一括施工方式では劣化具合や修繕の必要度が異なる部位を一緒に工事するため、早すぎて過剰な修繕になる箇所や、重症になって余計に補修費がかかる手遅れ気味の箇所が混在し、コストが膨らみがちです。分割施工方式は、部位ごとに適切なタイミングで必要な分だけ修繕を行えるため、ムダなコストが発生しません。

さらに、分割施工方式で実施する修繕の合間にメンテナンスも併せて行います。外装補修の場合、塗料や防水層のメーカー保証が5~7年程度。施工不良による漏水などは無償で補修してもらえますが、それ以外の経年劣化や自然災害などによる損傷は対応してくれません。

定額制修繕サービスでは、月々の固定料金の中で、定期的な点検や補修を契約終了まで継続して実施してくれるわけです。劣化の進行を遅らせて建物を常に良好な状態に保てるため、次の修繕コストの軽減にもつながると言われています。

従来型の一括施工方式では、修繕後のメンテナンスは付いていません。施工不良以外の損傷の補修などは個別に追加料金を支払って行う必要があるわけです。

前項では、大規模修繕の工事総額を2,000万円として、従来方式と定額制の負担を比較しましたが、メンテナンス料金を含めると、さらに数百万円の違いが出るでしょう(図2参照)。

図2:定額制と一括払い式の修繕費の違い
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「修繕+メンテナンス」の長期契約は、いわば建物の“かかりつけ医”に見守ってもらうようなものです。年に1回の点検と定期報告があるのが一般的なため、建物の劣化状態が見える化され、修繕履歴が残る点もメリットの1つでしょう。

定額で支払った分の修繕費用は全額経費化が可能

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大家さんにとって3つ目に大きなメリットとなるのが、税務上の取り扱いです。修繕前に少しずつ貯蓄する修繕積立金は経費になりません。これは、賃貸アパート・マンションの修繕費の積み立てが進まない要因の1つです。これに対して定額制の大規模修繕では、毎月支払った費用が全額経費にできると言われています。

もっとも、定額制サービスのすべてが経費化できるとは限りません。最終的には税務当局の判断になり、一部否認されるおそれはあります。定額制で経費化できるポイントは、「先行工事・後払い方式」です。

会計上のルールは、実際にモノやサービスの提供を受けた時点で費用を計上するという「発生主義」を原則にしています。つまり、まだ修繕が終わっていないのに費用計上することはできません。

「定額払い累計額>完了済みの修繕工事の累計額」の場合、その差額は資産として計上して、工事が終わった時点で初めて経費として落とせるわけです。「工事先行・後払い」型の定額制サービスで、「定額払い累計額<完了済みの修繕工事の累計額」になっていれば、全額経費化できる可能性が高いと言えるでしょう(所轄税務署の判断による)。

図3:定額制の「先行工事・後払い」の仕組み
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「工事先行・後払い」は税務上のメリットだけではありません。新築や大型リフォームで前金を払った後に事業者が倒産してしまうと、未完成分の損失が発生します。

「工事先行・後払い」なら、支払った金額より完了済み工事の出来高のほうが多いため、大家さん側のリスクはありません。ECサイトの決済方式で拡大している「BNPL(Buy Now Pay Later:「先に買って後で支払う」)」の方式にも似ています。

なお、“定額制修繕サービス”の中には、予め資金を積み立てて、積立金額の範囲内で工事を分けて行う方式があります。つまり「先払い・後工事」です。この場合は、税務上のメリットが出ない可能性があり、事業者の倒産リスクも残りますので、注意してください。

定額制修繕サービスのデメリットと5つのチェックポイント

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最後に、定額制修繕サービスのデメリットと注意点について紹介します。まず、デメリットについては、分割施工方式と同様に以下の通りです。

×定額制修繕サービスのデメリット

✓部位ごとに分割施工するため、建物全体のイメージ一新になるとは限らない

✓対応する事業者が少ないため、比較検討しにくい

✓定額制修繕サービスの対象部位は外装のみで、給排水などの共用設備は対象外が多い(給排水設備の定額取り換えサービスを実施している別事業者はいる)

注意点としては次のような点が挙げられます。

1.対象物件、対象部位

マンション(陸屋根・鉄筋コンクリート造)限定の事業者と、アパートも対象の事業者がいるので、所有している物件種別に対応するかどうか。デメリットのところでも触れたように、工事対象の部位が、大家さんの希望する修繕部位に合うかどうかをチェックします。

2.工事総額の見積もりは妥当か

定額制修繕サービスを提供している事業者のなかには、工事総額が既存の大規模修繕の相場より2~3割安いと謳っているケースがあります。安くなる根拠や、金額の妥当性について、納得できる説明を受けられるかどうかがポイントです。

契約期間と毎月の支払金額

物件種別、物件の規模、対象部位などによって、契約期間や月々の負担額は異なります。所有物件の事業収支計画に問題がないかどうか、シミュレーションをしましょう。

4.中途解約の可否

10~15年の長期契約は安定経営につながる一方で、長期間にわたって縛られる面もあります。事業者を変更したい場合や、何らかの理由で賃貸経営をやめたり、売却したりする可能性もあるため、中途解約が可能か、解約時のペナルティはないかなどを確認しましょう。

5.保証期間と内容

外装関係の修繕では、塗料や防水層のメーカー保証と施工会社の保証が異なるケースがあります。メーカー保証は通常5~7年、10年保証の場合は4~5年眼にトップコート(上塗り)実施が前提、といった条件があります。定額制修繕サービスで15年契約の場合に、最後まで保証してもらえるのか、無償補修の範囲はどこまでか、などをチェックします。

まとめ

近年登場し、注目を集めている賃貸アパート・マンションの定額制修繕サービス。検討する際は、良い面だけではなくデメリットも把握したうえで慎重に選んでください。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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