ペット可賃貸のニーズ拡大中。賃貸オーナーが知るべき市場動向

ペットと暮らす人は年々、増加傾向にあります。日本ペットフード協会によると、2024年の犬と猫を合わせた飼育数は1,595万頭。これは、15歳未満の子どもの数である1,401万人を上回っています。ペットが飼える住まいの需要が高まる中、ペット可物件を検討している賃貸オーナーもいるかもしれません。ペット可物件に関する調査から、ペット飼育者の実態やニーズを探り、空室対策につなげましょう。
ユーザーの2割がペット可物件不足を実感
最初に、(株)いえらぶGROUPによる「住まい探しにおけるペット可物件に関するアンケート調査」の結果を見てみましょう。
不動産会社にペット可物件の取り扱いについてきいたところ、「取り扱っている」と回答した不動産会社が70.5%。「取り扱ったことがない」は19.8%で「過去に取り扱っていた」が9.7%という結果となりました。

一方で、部屋探しをしているエンドユーザーには、ペット可物件を探す際に「希望するエリアでペット可物件が見つからなかった」「ペット可物件の情報が少なく、探しにくかった」と回答した人がそれぞれ19.5%います。
ペット可物件の取り扱い自体はあるものの、エンドユーザーが求める情報の質・量には達しておらず、物件探しが困難になっているようです。
ペット可物件の課題と対策:トラブルを防ぐためのポイント
ペット可賃貸では、騒音や臭い、建物の損傷などのトラブルが懸念されます。不動産会社の調査によると、ペット可賃貸の約3分の1が何らかのトラブルを経験しており、主な問題は以下の通りです。賃貸オーナーが取れる対策と一緒にまとめましたので参考にしてみてください。
トラブル | 割合 | 賃貸オーナーの対策 |
鳴き声・ 騒音トラブル |
33.3% | 防音性の高い建材(床・壁・窓)を導入し、隣室への音漏れを軽減 |
臭いトラブル | 23.7% | 換気設備の強化、消臭クロスやフローリングを採用 |
共用部分の 汚れや破損 |
22.2% | ペット専用の足洗い場の設置、清掃ルールを明確化 |
ルール違反 (飼育可能な種類・頭数) |
13.3% | 契約時に詳細なペット規約を設け、入居者に周知 |
入居者が求めるペット可物件の条件
ペット飼育者に対する調査では、ペット可賃貸を選ぶ際に重視するポイントとして以下の要素が挙げられました。こちらも対応策をまとめたので参考にしてください。
入居者が重視するポイント | 割合 | 賃貸オーナーの対応策 |
防音性が高い | 19.8% | 防音ドア・壁・窓を採用 |
家賃や初期費用 | 19.2% | 家賃設定のバランスを考慮し、設備投資をコスト回収につなげる |
規約や制限が少ない | 14.9% | 過度な規制は避け、現実的なペットルールを設定 |
間取りや広さ | 12.4% | ペットが快適に過ごせる間取りの工夫 |
動物病院やペットショップが近い | 11.1% | 周辺施設情報を入居者に提供 |
ペット専用設備の有無 | 11.1% | 足洗い場やペットドア、キャットウォークを設置 |
同様に「ペットのための住まいで実現したい夢やアイデアはありますか?」と聞いてみたところ、やはり最多は「防音性が高く、周囲に迷惑をかけにくいこと」で17.6%。次いで「特にない」14.8%、「ペットのための設備が整っていること」13.9%となりました。
飼育意向者の6割が賃貸住宅での禁止を理由に断念
パナソニックホームズ(株)でも「賃貸住宅におけるペット飼育に関する意識調査」を実施しています。こちらは現在ペットを飼っている人(飼育者)とペットを飼いたい人(飼育意向者)を対象にした調査です。
飼育意向者に「現在ペットを飼っていない理由」を聞いたところ、62.8%と6割以上が「ペット飼育禁止の賃貸住宅だから」と回答しました。

次に、飼育者・飼育意向者それぞれにペットを飼育するうえでの困り事・不安を聞いたところ、ともに多かった回答が「ペットを残して外出するのが心苦しい」「ペットを残して外出するのが健康・安全面で不安」で4割を超えています。
住まいに関する困りごとで多かったものが「ニオイ(体臭・トイレ臭等)」「壁や床が汚れたり、傷がつくこと」「ペットの騒音(鳴き声、足音等)による入居者とのトラブル」でした。他に「ペット規約の不備による入居者や大家とのトラブル」も挙がっており、住まいに関する困りごとについては、すべて飼育者より飼育意向者の方が高くなっています。
「現在ペットを飼っている=ペット可物件に住んでいる」と考えると、ペット不可物件に住んでいる割合が多い飼育意向者の方が、住まいへの影響を懸念する気持ちが大きいのかもしれません。
ペット飼育者の4割が「飼う環境」には不満を抱く
ペット飼育者に対して 「飼う環境」の満足度を聞いたところ、43.3%が「不満」と回答。その理由を聞いたところ、上位は次のような結果となりました。
「飼う環境」に不満を感じている理由(複数回答) | |
ペットに配慮した室内インテリア(床、壁等)になっていない | 42.0% |
ペットのニオイが残る | 38.4% |
外出時や非常時にペットの安全・健康面で不安がある | 32.1% |
ペットに配慮した室内設備(水まわり等)になっていない | 28.6% |
ペットによる騒音(鳴き声、足音等) | 20.5% |
フリーコメントでは以下のような声が挙がっています。
・部屋の床がフローリングで犬が移動する際に足を踏ん張れず、足腰を痛めそうな不安がある。
・コンセントプラグが腰より低い位置にあり、万が一、好奇心で触ったりニオイを嗅いで感電したりということが起こり得ないかが心配。
・マンションの入り口などに足を洗う場所がない。
・排泄物のニオイが気になる。
・猫が引っ掻いたりするので、壁がボロボロと落ちたり、ドアの塗装が剥がれたりして、それを猫が口にしてしまうことがある。
・キャットウォークを広く作るためのスペースがない。
ペット共生型賃貸とは?設備だけでなく規約が充実

パナソニック ホームズ(株)の調査では、「ペット共生型賃貸」についても紹介されています。「ペット共生型賃貸」と「ペット可賃貸」はどう違うのか、同社では次のような賃貸住宅を「ペット共生型賃貸」と定義しています。
「ペット共生型賃貸」の利点
耐久性や滑りにくさを考慮した素材の床材・壁材の採用やペット専用の足洗い場やグルーミングルーム、ドッグランなど、ペットのケアや運動のための共用施設が備わっている。
提携するペットシッターやトリミングサービスを紹介してくれたり、ペット関連のイベントやセミナーが開催されたりすることがある。
ドッグランやペット用ラウンジなどの共用スペースがあり、住人同士やペット同士の交流を促進している。
ペットの種類やサイズ、頭数の制限、共用スペースの利用方法など、具体的なルールが定められており、トラブルの予防につながる。また、万が一のトラブル時の対応方法や連絡先が明確にされている。

ただペットが飼えるだけでなく、設備、環境、規約のすべてがペットとの暮らしを前提としたものになっており、安心してペットが飼える点がポイントです。
調査によると、飼育者のうち「ペット可賃貸」に住んでいる人は 72.5%で、「ペット共生型賃貸」に住んでいる人は20.9%。しかし62.8%が 「ペット共生型賃貸」に住みたいと回答しています。
ペット可ニーズが高まる中で賃貸オーナーにできること
(株)いえらぶGROUPの調査結果でも、75.9%の不動産会社が「ペット可物件ニーズは今後増えると思う」と回答しています。ペット可物件が増えていくと予想される中で「ペット可」というだけでは差別化しづらくなる可能性もあります。
そのため「ペット共生型賃貸」の利点を参考に、できることは積極的に取り入れていきたいものです。建材による騒音対策や臭い対策は退去後リフォームの際に取り入れてしまえば、次の入居者へのアピールポイントになります。
さらに、お散歩の後に犬の足が洗える広めの洗面シンクや、猫のためのキャットウォークなど、プラスαの設備は家賃アップにつなげやすくなります。
ハード面以外にも、規約や条件づくりなどについては不動産会社に相談してみると良いでしょう。ペットの種類や頭数、条件については明確に定めておくことが、入居者・オーナー双方にとって安心です。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年3月5日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
年4回無料で賃貸経営情報誌「オーナーズ・スタイル」をお届け!
