『大家さんと僕』 特別対談:矢部さんと大家さん編集長

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お笑い芸人である「僕」と、ひとつ屋根の下で同居する老婦人「大家さん」との交流を描いた初の漫画エッセイ『大家さんと僕』が大ヒットとなったお笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さん。自身が大家さんでもあるオーナーズ・スタイル誌の上田英貴編集長が矢部さんと語り合い、大家さんとのエピソードを漫画にしたきっかけや、交流の中から生まれた想いなどをお伺いしました。大家さんと入居者さんの心温まる関係が浮かび上がるユーモアたっぷりの対談をお届けします。 ※この記事は2018年8月に取材をさせていただきました。

大家さんと仲良くなれて、すごく幸せを感じている!

矢部太郎(ヤベ・タロウ)

1977年東京都生まれ。高校の同級生だった入江慎也と97年に「カラテカ」を結成。また個性派俳優としてドラマや映画、舞台でも活躍している。父親は絵本作家のやべみつのり。コミックエッセイ『大家さんと僕』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。


新潮社(2017/10/31) 定価1,080円(税込)判型 A5判

大家さんと僕

1階には大家のおばあさん、2階にはトホホな芸人の僕。挨拶は「ごきげんよう」、好きなタイプはマッカーサー元帥(渋い!)、牛丼もハンバーガーも食べたことがなく、僕を俳優と勘違いしている……。一緒に旅行するほど仲良くなった大家さんとの“二人暮らし”がずっと続けばいい、そう思っていた――。泣き笑い、奇跡の実話漫画。


大家さんから昔の話を聞いて、住んでいる町の見え方が変わった

上田 大家さんとの交流を漫画に描こうと思ったきっかけはなんだったのですか?

矢部 大家さんはちょっとユニークな方で、距離感が独特で情感も豊かだし、おもしろい出来事がいろいろ起きるから、芸人の先輩にはよく笑い話のように語っていたんですよ。

あるとき京王プラザホテルで大家さんとお茶をしていたら、以前、仕事でご一緒させていただいた漫画原作者の倉科遼先生とばったり会いまして。

倉科先生に大家さんをご紹介し、旅行にも一緒に行っているといった話をすると、僕たちの関係をすごく気に入られて、「それはおもしろい!矢部くん、作品にしようよ」と勧めてくださったんです。

当初、「映画や舞台の原作にしたいから、エピソードを教えて」と言われたので、絵コンテに描いてお見せしたところ、「いいね!このままいっぱい描いて、矢部くんの本にしたら」と。それで挑戦してみようかなと思ったのがきっかけですね。

上田 大家さんとのエピソードなどは、意識してストックされていたのですか?

矢部 いえ、特にストックはしていませんね。そうそう、少し前のブログブームの時代、吉本興業から所属芸人に「ブログを開設して本をつくれ」みたいなお達しがあったんです。それで僕もブログを開設してみたものの、書くことがないから、たまに「大家さんから桃をもらって…」みたいな話を書いたりしていました。描くにあたり、それをちょっと見直しましたけれど。

吉本興業って、儲かりそうだとすぐブームに乗っかりますから(笑)、又吉くんの「火花」が芥川賞を受賞したときは、みんなに小説を書けと発破をかけていました。今はipadを配って、「矢部みたいな漫画を描け」と言っています。そういう会社ですから、これからみんなどんどん作家デビューすると思いますよ(笑)。

上田 『大家さんと僕』は全編大好きですが、特に心に残ったのは「うどんとホタル」でしょうか。大家さんは現代にはあまりお見掛けしないほどの上品なご婦人ですよね。戦時中のお話などもよくご存知で、知性を感じさせます。

 

(c)矢部太郎

(c)矢部太郎

矢部 長く住んでいる大家さんから昔の地元の話を聞いて、町の見え方が変わりました。昔、このあたりには蛍が飛んでいたとか、この川で洗濯したり、芋を洗っていたとか、電話機が唯一あったのがこのうどん屋さんだったとか…。しかも「あの頃は良かった」的に話すのではなく、ユーモアも交えて語ってくれるから、僕もすっと受け入れられるんです。

上田 本に「芥川と太宰は顔が(大家さんの)タイプ」と描いてありましたが、そういえば矢部さん、顔がなんだか芥川龍之介に似ていますよね。

矢部 えっ、そうですか?大家さんから「芥川龍之介に似ている」と言われたことはありませけれど、確かに芥川の顔が好きと言っていたから、もしかしたら僕の見た目も嫌いじゃないかも…。でも、入居した当時は坊主頭だったので、芥川似だとは思っていなかったはずです。そういえば、ひょろりとやせている僕を見て、「戦時中の子どもみたいですね」と言われたことはありました(笑)。

編集長も「店子さんと僕」が描けますよ!

上田 階下に大家さんが住んでいる物件を不動産屋さんに紹介されたとき、第一印象はどうでしたか?

矢部 22畳もあるワンルームで、南側は全部窓で日当たりが良いし、クローゼットも広くて、一目見た瞬間めちゃくちゃいい部屋だと思いました。家賃が安いのは大家さんが階下にいるからではなく、オートロックじゃないし、木造だからなのかなあと思っていました。

実は大家さんから「静かな人を」という入居条件があったらしく、僕は見た目も草食っぽいし、友達もそんなにいなさそうだから、きっと静かだろうと不動産屋さんが思ったんじゃないかな。

入居して今年で丸9年になりますが、出ていってほしいと言われるまでは居続けたいですね。

上田 実は私も鎌倉で大家さんをしておりまして、自宅の1階に入居者さんが住み、2階に私たち家族が暮らしています。矢部さんとは逆パターンですね。しかもうちの場合、なんと入居者さんが自分の資金でリビングを改装してカフェにしちゃったんです。

矢部 なにそれ!入居者さん、いくらなんでも自由過ぎやしませんか(笑)

上田 アハハ、そうかもしれません。でもカフェ経営が楽しいみたいで、10年以上住んでくれています。私もたまにお客としてコーヒーを飲みに行きますよ。もう1戸貸している部屋があるのですが、その家族はお子さんが4人いらっしゃるので、家族ぐるみで毎年クリスマス会をそのカフェで開催しています。

矢部 それは素晴らしい。上田編集長、「店子さんと僕」がすぐ描けますよ(笑)!連載しましょう、オーナーズ・スタイルで。入居者さんからカフェにしたいと言われたときの大家さんの心の動きとか、カフェで初めて飲んだコーヒーの味とか、僕もぜひ読んでみたいです。

上田 編集部に届く読者の大家さんからのハガキを読むと、入居者さんにお米や野菜を配ったり、更新時にほしいものを聞いて家電をブレゼントしたりする方がけっこういます。矢部さんも大家さんから何かプレゼントされたことはありますか?

矢部 「契約を更新してくれてうれしいから」と、以前にトースターをプレゼントしていただきました。

上田 私も毎年、入居者さんに三浦半島の農家から直接買ったスイカを贈っています。あと、ときどき男子会と称して、入居者の旦那さんと近所のスナックに繰り出したりしているんです(笑)。

矢部 大家さん生活、めちゃくちゃ、楽しそうじゃないですか!

大家さんと仲良しだから、些細なことでもプラスの感情になる

上田 大家さんと入居者さんの関係って、なかなか難しい面もあるとは思いますが、日本の文化として、矢部さんと大家さんのような関係を広げていきたいと私は思っているんです。落語に出てくる長屋の大家さんじゃないけれど・・・いいと思いません?

矢部 ええ、僕は入居者ですが、今、すごく幸せを感じています。前にマンションに住んでいたときは隣や上の人を全く知らないから、「怖い人だろうか」とか、ちょっとでも音がすると「うるさいな」とか、どこかネガティブな感情をつい持っちゃうんですよね。

でも、今は階下の大家さんと仲良しだから、些細なことでもプラスの感情になる。プラスがいっぱい溜まっているから、ちょっとしたトラブルが起きても全然問題になりません。

僕の場合、大家さんから近づいてくれたおかげで仲良くなれました。そうしてもらえたら、入居者さんはみんなうれしいんじゃないかな。

スイカをいただくと誰だってうれしいし、スナックに行こうと誘われたら、最初は緊張するかもしれないけれど、飲んでいるうちに心がほぐれてくると思うし。家賃だけの関係じゃなくて、素敵だなと思いますよ。

上田 矢部さんにとって、大家さんの存在は新しい家族のようなものですか?

矢部 う〜ん、どうでしょう。「家」でつながっている関係だから、身内のような感覚はありますけれど。本当の家族とは違うからこそ、礼儀を持ってお付き合いできるところがいいと思っています。本当の家族だと、逆に正直な気持ちを伝えられなかったりもするし。

「マイノリティ同士の小さな世界の幸せ感」が描きたかった

上田 『大家さんと僕』を読むと、心がほっこりとなごむ気がして、疲れたときに今もつい手にとってしまいます。そのへんの作風について、ご自分ではどうお感じになっていますか?

矢部 ほっこりする漫画を描こうとは全く思っていなかったので、そういうふうに読んでいただけたのは意外でしたし、ラッキーだったと思っています。

僕としては、独居老人の大家さんと売れない芸人の入居者という、一般的にはマイノリティで不幸せそうに思われがちな2人の日常を、外部の視点を入れないですごく狭い世界観で描いたら、ひょっとすると幸せに見えるんじゃないかなと思って。いちばん描きたかったのは、「マイノリティ同士の小さな世界の幸せ感」でしょうか。

上田 文学でいえば行間のような、言葉でうまく表せない思いや空気感がよく出ていると思いました。矢部さんが物語に余白を残してくださっていて、そこに私たちがいろんな思いを投影できるんですね。大家さんもこの漫画、お読みになっているんですか?

矢部 はい。「読んだら、こんなことあった、あんなこともあったと思い出せてうれしい」と言ってくださいます。たとえばご一緒した九州旅行にしても、もう行けないご年齢かもしれないけれど、漫画を読むと旅の懐かしさと楽しさが蘇るみたいですね。

上田 なるほど、そう聞くと切なくも心が温まります。『大家さんと僕』が大家さんの心のアルバムになっているのでしょうね。累計発行部数50万部を突破し、来年には2冊目も発刊されるとお聞きしました。また新たなエピソードが読めることを心から楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました。

取材・文/菱沼 晶 撮影/豊島 正直 編集/杉山 彩映子

矢部さんの大家様は取材後にご逝去されました。大家様のご冥福を心よりお祈りいたします。

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