アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説

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公開日:2024年10月30日
更新日:2024年10月30日
アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説1

築年数を経た賃貸物件をお持ちのオーナーの中でも、解体や補修工事の際のアスベスト処分費用が気になる方は多いのではないでしょうか。アスベストは「大気汚染防止法」で飛散を防ぐための対策が定められており、その費用はオーナー負担となります。どのような建物について、どのくらいの費用がかかるのかなど、基本的な知識をまとめました。

アスベストとは。健康への影響やその程度は?

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

アスベストとは

アスベスト(石綿)は、天然に算出される繊維状の鉱物(繊維状けい酸塩鉱物)で「せきめん」「いしわた」とも呼ばれます。アスベスト繊維は耐火性、耐熱性、防音性等に優れており、かつ安価で加工しやすいため、建物の断熱材や内装材などに広く使われてきました。

しかし、アスベストを吸引することにより肺線維症(じん肺)、中皮腫、肺がんなどを引き起こす危険性があることがわかり、2006(平成18)年に輸入、製造、使用などが全面禁止。それ以前に着工した建物の解体・改造・補修工事については、大気汚染防止法に沿ってアスベストの飛散防止を徹底することが定められました。

大気汚染防止法は何度か改正され、2022(令和4)年にはアスベスト事前調査結果の行政報告が義務化されています。2023(令和5)年には、事前調査・分析は有資格者によるものと定められました。

健康への影響とアスベストの危険性

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WHOの報告によると、アスベストの繊維は肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になると言われ、肺がんを起こす可能性があるとされています。アスベストを吸うことによって発生する疾病には主に次のものがあります。

石綿(アスベスト)肺 肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気のひとつで、潜伏期間は15~20年と言われています。アスベスト曝露(ばくろ=さらされること)をやめたあとでも進行することもあります。
肺がん 肺細胞に取り込まれた石綿繊維の物理的刺激により、肺がんを引き起こすとされています。アスベスト曝露から発症までに15~40年の潜伏期間があり、その量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。
悪性中皮腫 肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍で潜伏期間は20~50年と言われています。

 

アスベストによる健康被害は、アスベストを吸って長い年月が経ってから発病するものが多く、どの程度を吸い込んだら発病するかについてもはっきりとはわかっていません。そのため、仕事などでアスベストを扱う人の健康診断は、「労働安全衛生法」によって事業主にその実施義務が定められています。

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アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

アスベストの「レベル」って何?

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

アスベストはその発じん性の高さによって「レベル1~3」に分類されています。発じん性とは、粉じんの発生のしやすさのことで、飛散リスクの高さを表しています。発じん性が高ければ高いほど近隣への影響が大きく、危険性が高いということになります。

レベル1

レベル1は「発じん性が著しく高い」レベルでアスベストの濃度が非常に高く、撤去の際に大量のチリが周囲に飛散します。建材としては石綿含有吹き付け材や石綿含有耐火被覆材が該当し、耐火建築物の梁や柱、エレベーター周り、ビルの機械室やボイラー室の天井・壁、立体駐車場や体育館などの天井・壁などに使用されています。

レベル2

レベル2は「発じん性が高い」レベルで、石綿含有保温材や耐火被覆材、断熱材などが該当します。主にボイラー本体・配管・空調ダクトの保温材、建築物の柱・梁・壁の耐火被覆材、屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材として使用されています。

レベル3

レベル3は「発じん性が比較的低い」とされる成形板等の石綿含有建材などが該当します。一般的な木造住宅を含む建物の屋根材や外壁材、建築物の天井・壁・床などに内装材として使われる石綿含有成形板、ビニール床タイルなどに使用されていますが、割れにくいため飛散のリスクは低めとなっています。

アスベストが使われている建物の解体にかかる費用

アスベストの除去費用は建物の条件にもよりますが、国土交通省が2007(平成19)年の施工実績データより算出された除去単価を公表しています。

アスベスト処理面積 除去費用
300㎡以下 2万円/㎡ ~ 8.5万円/㎡
300㎡~1,000㎡ 1.5万円/㎡ ~ 4.5万円/㎡
1,000㎡以上 1万円/㎡ ~ 3万円/㎡

 

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

アスベストの解体には、事前調査や石綿作業主任者による作業計画、作業員を守るための特別な装備や洗い場の設置などが必要です。その手間とコストが上乗せされるため、通常の解体工事よりも費用が大きくなります。

また、アスベストを含む建材が使われている場所によって除去方法が異なり、それによって解体費用も変動します。アスベストが含まれている場所別の解体費用の延床面積1㎡あたりの目安は以下の通りです。

屋根瓦

アスベストが全面禁止された2006(平成18)年以前に建てられた建物に使用されている、屋根用化粧スレートなどの屋根材が該当します。アスベストを含むスレート屋根の解体・処分費用は2,000円~5,000円/㎡が相場です。

外壁

サイディングや仕上げ塗装材、下地材部分にアスベストが使用されていることが多い外壁。屋根や内壁と比べて解体費用は割高になりがちで、おおよそ2万円〜9万円/㎡となります。

内壁

石膏ボードや仕上げ塗装、接着剤にアスベストが使用されていることがありますが、そこまで量は多くありません。そのため除去費用は比較的安く、1万円〜4.5万円/㎡が相場となります。

天井

ロックウール吸音天井板やバーミキュライト、石膏ボードなどにアスベストが含まれる可能性があります。解体費用相場は1.5万円~8.5万円/㎡です。

柱‧梁

耐火被覆が必要な鉄骨造建築物の梁や柱に、吹付けアスベストやロックウールが使われていることがあります。飛散しやすく危険性が高いものの、一般的な木造住宅で使用されている可能性は低め。解体費用相場は2万円~8.5万円/㎡です。

配管

煙突やダクト、配管の保温・断熱・結露防止、貫通部の耐火にアスベストが使用されています。主に工場や倉庫への使用が中心で、一般住宅の配管に用いることはほとんどありません。しかし、もし使用されている場合は危険性が高く、慎重な作業が必要となります。そのため解体費用相場は1万円〜6万円/㎡程度かかります。

アスベストが使われている建物の解体に活用できる補助金がある

高額になりがちなアスベストの除去費用ですが、事前調査や解体工事に助成制度を設けている自治体もあります。東京都の2024(令和6)年4月1日現在の助成制度は東京都市整備局がまとめています。

東京都内アスベスト補助制度一覧(調査・分析)|東京都市整備局

東京都内アスベスト補助制度一覧(除去等工事)|東京都市整備局

例えば、文京区の場合は1000㎡未満の集合住宅に対し、除去等工事費(消費税相当額を除く)の2/3、上限400万円が補助されます。助成費用は自治体ごとの状況によってもかなり異なるため、必ず事前に確認しましょう。

アスベストが使われている建物の解体方法

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

各レベルで必要な届出

建築時期・規模・用途を問わず、すべての建物の解体・リフォーム(改造・補修)工事を行う際は、アスベスト含有建材の有無を事前調査する必要があります。

さらに一定規模以上の工事(解体の場合は対象の床面積の合計が80㎡以上)は、アスベストの使用有無にかかわらず事前調査の結果を都道府県等に報告することが2023(令和5)年から義務付けられました。事前調査結果報告書は原則「石綿事前調査結果報告システム」から提出します。

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

もしレベル1・2であった場合は事前調査結果の報告とともに「建設工事計画届」を労働基準監督署へ、「特定粉じん排出等作業届」、「建設リサイクル法の事前届」を都道府県庁へ提出しなければなりません。建設業もしくは土石採取業以外でレベル2の解体工事をする場合には「建築物解体等作業届」の労働基準監督署への届出が必要です。

他にも、条例によって自治体指定の届出書の提出が必要となる場合があります。例えば、東京都では特定の条件に当てはまる場合「石綿飛散防止方法等計画届出書」の提出が定められています。必ず管轄の自治体に確認するようにしましょう。

各レベルで必要な対策

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

レベル1の解体工事では、作業中の看板の掲示や作業場の清掃の徹底、クリーンルームの設置などによる飛散防止が義務付けられています。事前調査結果と作業についての掲示もA3サイズ(42.0㎝×29.7㎝)以上と定められています。作業員も、粉じんマスクや全身を覆う保護衣などといった厳重な装備が必要になります。

レベル2の解体工事についてもレベル1相当の対策が必要とされています。また、アスベストを含む廃材は、レベル1・2は「特別管理産業廃棄物」、レベル3は「産業廃棄物」となります。特別管理産業廃棄物は、収集運搬・処分の許可を得ている業者でないと扱うことができません。

レベル3は成形された建材であるため、レベル1・2と比べると発じん性は低くなります。しかし、解体の際に割れると飛散の可能性はあるため、散水や作業員の防じんマスクの着用が義務付けられています。

解体を伴わないアスベスト除去には、アスベスト含有吹付け材の層を下地から取り除く除去工法(リムーバル工法)、薬剤などで固着・固定化する封じ込め工法(エンカプスレーション工法)、板状の材料で密閉する囲い込み工法(カバーリング工法)などがあります。除去工法が推奨されていますが、専用の機械を使用するため、費用が高くなります。

アスベストの除去から解体作業までの流れ

アスベストを使用している建物の解体工事は以下のような流れで進みます。

  • ①事前調査(書面・現地での目視・分析)

  • ②事前調査結果記録の作成・保存、発注者への説明

  • ③事前調査結果の自治体への報告

  • ④作業計画の作成

  • ⑤作業実施届出

    以下の届出を行う(レベル1・2の場合)
    工事計画届:労働基準監督署長へ作業の14日前までに届出
    特定粉じん排出等作業実施届書:各都道府県知事へ作業の14日前までに届出
    建築物解体等作業届:労働基準監督署長へ作業日までに届出

  • ⑥近隣住民への工事についての説明

  • ⑦作業調査結果の現場への備え置きと掲示、下請負人への説明、飛散状況の監視(レベル1・2のみ)

  • ⑧工事開始、作業時の記録と保存(レベル1・2のみ)

  • ⑨工事終了、清掃

  • ⑩発注者への作業結果の報告と作業記録の作成・保存

解体時に注意しておきたいポイント

アスベストが含まれる建物の解体には要注意!費用と流れ、注意点を解説2

工事発注時の注意点

事前調査については、アスベストが全面禁止される2006(平成18)年以降に建てられたことが明らかな建物については、書面で着工日を調査するのみとなります。

ただし、事前調査そのものは義務化されていますので、解体工事を発注する際には、見積もり書にアスベストの事前調査費用が計上されているかを必ず確認するようにしましょう。

また、「特定粉じん排出等作業実施届書」は発注者、つまりオーナーが届出書を提出することになっています。もし調査を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合、適切な方法で作業を行っていない場合は、施工業者だけでなく発注者にも懲役もしくは罰金が科せられるため注意しましょう。

信頼できる業者の基準と注意点

アスベストを含む建物の解体には、専門の知識と技能が必要になります。また、適切かつ適法な作業と人員確保、解体後の処理についてもそれなりの費用がかかります。

そのため、あまりにも見積もりが安すぎたり、安さだけをうたったりする業者には注意が必要です。もしずさんな方法でアスベストが処理された際は物件の資産価格が下がるだけでなく、罰則や賠償問題にもつながりかねません。

厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」には「適正な工事業者を選定するために」として、発注者は以下の点を工事業者に確認するように勧めています。

☑ 仮見積もりの段階で、アスベスト調査費用が計上されていること、アスベストの調査を行う資格(建築物石綿含有建材調査者など)を有していることを確認。
☑ 本見積もり(アスベスト調査結果後)の段階で、石綿事前調査結果報告書の提出を求める。石綿含有吹付材(レベル1)、保温材等(レベル2)がある場合には、労働基準監督署に提出した計画届の写しを求める。
☑ 解体・改修工事後、アスベスト飛散防止措置が適切にとられたことを示す作業の実施状況の記録(写真を含む)の提出を求める。

 

さらに、施工業者によるアスベスト含有の有無の事前調査や作業の実施状況の記録が適切に行われるよう、発注者は写真の撮影を許可する等の配慮を行う必要がある、としています。

認可と資格の確認

建物の解体を依頼するにあたり、建設業許可か解体工事業の登録業者であることがまず大前提です。

さらにアスベストの事前調査やアスベストを取り扱う工事には以下のような資格が必要となります。このため、業者を選ぶ際には認可業者であることに加えて、有資格者が在籍しているかどうかを確認するようにしましょう。

石綿含有建材調査者

「石綿含有建材調査者」は、事前調査を行う際に必要な資格です。ただし、2023年9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録した者は事前調査を行うことができます。

石綿作業主任者

「石綿作業主任者」はアスベストの除去作業を現場で指揮監督したり、作業の計画立案をしたりするために必要な国家資格です。アスベストを取り扱う事業者で最低1人は選任する必要があります。

石綿取扱作業従事者

「石綿取扱作業従事者」とは、アスベストを取り扱うための専門の教育を受けた作業員のことで、この資格を持っていないと現場に入ることはできません。

特別管理産業廃棄物管理責任者

「特別管理産業廃棄物管理責任者」は、レベル1、2のアスベスト廃棄物を取り扱うのに必要な資格です。

まとめ

アスベストを含む建物の解体は、適切に行われないと作業員や近隣住民、ときにはオーナー自身にも重大な健康被害をもたらすリスクを伴います。

オーナーにとっては、大気汚染防止法の改正等で以前より事前調査費等の出費が増えることになりました。しかし、必要経費と割り切って、助成金なども賢く利用しつつ信頼できる解体業者に依頼することを第一に考えましょう。

アスベスト関連の情報については厚生労働省の「石綿総合情報ポータルサイト」に各種資料がアップされています。また、国土交通省の「アスベスト含有建材データベース」では、商品名やメーカー名、型番などで建材のアスベスト含有率などを検索することができます。ぜひご活用ください。

※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年10月30日時点のものです。

取材・文/石垣 光子

ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。

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