仲介の現場からひも解く「回復傾向にある賃貸市場」と「最新入居者ニーズ」。設備の充実で差別化を!
- 市況・マーケット
地域密着型の仲介会社から集めた、リアルな賃貸業況と入居を促進するポイントを、アットホームラボの磐前淳子さんが解説。最新ニーズをとらえた空室対策を行い、安定した賃貸経営につなげましょう。
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アットホームラボ株式会社 データマーケティング部 部長
磐前 淳子氏
2019年5月、アットホームのAI開発・データ分析部門の独立に伴い退職。不動産市場動向や業況の分析などを担当。公園・執筆の実績多数。
賃貸需要はようやく、コロナ禍前の水準まで回復
アットホームでは、2014年より四半期ごとの景況感調査を実施しています。回答いただいているのは、都道府県知事免許取得から5年以上経過し、従業員が5名以下の会社がほとんどですので、地域に根差した不動産会社のリアルな実感を知ることができます。
新型コロナの感染拡大により、初めての緊急事態宣言が発令された2020年4~6月期、賃貸市場は調査を開始して以来最低の水準を記録しました。その後、売買においては、広い間取りを求めるなど持ち家に意識が向いたことからいち早く回復に向かいましたが、賃貸に関しては力強い回復には至りませんでした。
しかし2021年末、行動制限が緩和されたことをきっかけに回復の傾向が強まり、ついに2022年4月~6月期に賃貸の業況が売買を逆転しました(図①参照)。特に首都圏エリア(埼玉・千葉・神奈川・東京23区・東京都下)での回復が順調で、すべてのエリアで前期の水準を上回っています。
賃貸業況が売買を逆転した、3つの要因とは?
実に2年ぶりに首都圏エリアの賃貸業況が売買を逆転した要因は、3つあると考えられます。
業況が逆転した時期と同じくして、東京23区では転出超過から転入超過へと変わりました。中でも20代が多く転入しており、賃貸派の単身者が首都圏へと戻りつつある状況といえます。
東京23区や埼玉県では中古価格の販売価格はこの3年間で20%以上も上昇しました。一方でマンションの家賃上昇率は10%未満に抑えられ、相対的に家賃に割安感があります。この理由から、家の購入を考えていた人たちが賃貸にシフトしました。
現在は、資源不足に伴う供給減や価格の高騰、インフレ、金利の上昇など購入に対する懸念材料が多くあります。また、生活に関する全ての物価が上昇していることもあり、持ち家の購入を検討していた人たちが様子見に転じているようです。
いったん落ち込んだ賃貸市場は、コロナ禍以前の水準にほぼ回復しました。人々が行動制限をせず経済活動再開への期待も感じられるため、多くの不動産会社が業況は引き続き上昇すると見ています。
2022年の人気条件・設備からわかる最新入居者ニーズ
図2|問い合わせの多かった人気条件・設備ランキング(2022年上半期)
順位 | 設備 |
1位 | インターネット接続料無料 |
2位 | 駐車場 |
3位 | オートロック |
4位 | モニター付きインターホン |
5位 | 宅配ボックス |
6位 | 洗面所独立 |
7位 | 追い焚き機能 |
8位 | 温水洗浄便座 |
9位 | 駐輪場 |
10位 | 防犯カメラ |
出典:「不動産のプロが選ぶ!2022 年上半期問合せが多かった条件・設備~賃貸編~ランキング」アットホーム(2022 年 9 月発表)
コロナ禍以前より人気の設備ですが、在宅ワークやオンライン授業の定着、動画視聴の時間の増加などでさらに需要が高まりました。築5年以内の新築物件では導入が増えていますが、築20 年以上の物件では導入率が低くなっています。導入により近隣の他物件との差別化が図れます。
ランキング10 位以内に、オートロック・モニタ付きインターホン・防犯カメラと、セキュリティに関する設備が3つランクイン。入居者に安心が与えられるだけでなく、安全性を高めることでトラブルや事件防止にもつながり、オーナーにも大きなメリットとなります。
ネット通販の利用増加に加え、コロナ禍で受取時に人との接触を避けられるという新たなニーズが加わり、より人気の設備となった宅配ボックス。2022年の付帯率は東京23区で60%を越え、周辺地域でも2019 年度の倍以上となるなど、顕著な伸びを見せています(※不動産情報サイト アットホームで各年7月に公表された30㎡以下のマンションより集計)。
インターネット無料は、今や必須の設備に
次に、最新の入居者ニーズについて見てみましょう。2022年上半期に問い合わせが多かった条件・設備ランキング(図②参照)によると、「インターネット無料」が1位です。
個人で契約せずとも家賃に接続料が含まれるため元々人気が高い条件でしたが、在宅率の増加などを理由に一層ニーズが高まりました。
地区20年以上の築古物件では導入率が未だ低く、特に東京23区では7%ほどしか対応されていません。他物件との差別化のためにも、ニーズがありそうな物件をお持ちの方は導入を考えるとよいでしょう。
上位に入った設備のうち後付けしやすいものには、「インターネット無料」と近年付帯率が上昇してきている「宅配ボックス」もあります。
その他の人気条件・設備
「駐車場」の問い合わせが増えたこともコロナ後の特徴のひとつです。より良い住環境や広さを求めて、郊外や駅から離れた場所の物件を探す人が増えたためと考えられます。
また、「オートロック」「モニタ付きインターホン」「防犯カメラ」とセキュリティに関する設備も人気があり、防犯対策への意識の強まりが感じられます。
入居者の防災意識も高まる、周辺情報の提示を
自然災害の多発が目立つ昨今では、全世代で防災意識が高まっています。
賃貸借契約の際に水害リスクの説明が義務付けられたこともあり、住まい探しの際、早い段階で避難所や学区などの周辺状況をチェックしたいと考える入居者が多くいます。
ハザードマップは常に最新のものを確認するなど、そこで生活する立場になり、オーナーとして正しい情報を早めに、かつ、積極的に伝えることが大切です。
賃貸業況と入居者ニーズのまとめ
① 賃貸業況は行動制限の緩和等により、コロナ禍以前の水準まで回復傾向
② インターネット無料など、設備の充実で近隣物件との差別化を
③ 防災意識は全世代で高まる。正確な情報を早めに伝えることが大切
本記事は2022年10月22日開催の「秋の賃貸経営+相続対策大家さんフェスタ」での講演を再編集したものです。
文/アトリエあふろ(佐藤 福子)
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