相続財産の総額は「1,000 万円未満」が最多に。一方で高額相続も増加傾向

多くの人が、十分な準備ができないままに直面する「相続」という体験。終活に関する様々なサービスを提供する(株)鎌倉新書が発表した「相続手続きに関する実態調査」の結果から、最新の相続事情やフリーコメントに寄せられたリアルな声を紹介します。
【相続財産】平均は全国で2,660万円、1都3県で3,505万円
アンケートの調査期間は2025年3月~4月で、回答者の属性はおおよその男女比が7:3、50代と60代がそれぞれ4割弱。同社を経由して⾏政書⼠または税理⼠との無料⾯談を⾏った⽅や、相続手続きを依頼した⽅が対象です。
まず、相続財産の総額に関しては、全国では「1,000 万円未満」が最も多く44.8%、「1,000 万円以上〜2,000 万円未満」13.5%、「5,000 万円〜1 億円未満」12.8%、「2,000 万円以上〜3,000 万円未満」10.7%が続きます。

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
2024年に行った前回調査では5位だった「5,000万円〜1億円未満」が3位にランクアップしていることから、高額な財産の相続が増えていることがわかります。相続財産の全国平均額は2,660万円でした。
相続人の居住地が1都3県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の場合は、相続財産の平均額が3,505万円と、全国平均より3割程度多くなります。相続財産の内容で多くを占める項目が「土地・建物(89.0%)」であることから、地価の影響が大きいと考えられます。
全国と1都3県で相続財産の内容を比較すると、トップ5の順位は同じですが、3位「生命保険」と4位「有価証券・投資信託など金融商品」が1都3県の方が1割程度、全国よりも高くなっています。1都3県では、資産管理に対する意識が全国に比べて高い傾向があるようです。

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
【被相続人】子どものいない兄弟姉妹やおじ・おばからの相続も

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
相続人の続柄について聞いたところ、「子」が82.6%と大部分を占めています。次いで「配偶者」34.9%、「兄弟・姉妹」9.6%、「姪・甥」と「父・母」がそれぞれ5.3%となっています。
相続人が「姪・甥」「兄弟・姉妹」と回答したうち66.7%が、被相続人は配偶者や子どもがおらず、誰とも同居せず一人で暮らしていたと回答。ここから、生涯未婚や子どものいない夫婦など、多様化する家族のかたちが見えてきます。このようなケースは今後増えていくのかもしれません。
【相続登記】義務化を「まったく知らなかった」人は13.5%
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。それを受けて、「義務化を知って登記を行った(または現在手続き中)」と回答した人が46.6%と半数近くにのぼります。
「特に意識せず必要だから登記を行った」が23.1%、「聞いたことがある程度だったが登記を行った」8.2%、「まったく知らずに登記を行った」7.5%と、制度の認知に関係なく登記を行った人もみられます。
登記の有無を問わず、「義務化をまったく知らなかった」人も13.5%いました。まだまだ制度が完全に浸透したとはいえないのが現状のようです。
【費用】相続手続きで専⾨家に⽀払った平均費⽤は41.7 万円

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
前項の相続登記を含め、相続には⾏政書⼠や税理⼠といったプロの手を借りるべき手続きがたくさんあります。特に、相続財産が高額になるほど、それらの依頼費用も高くなりがちです。
相続手続きを専門家に依頼した際の費用の平均は41.7万円で、「20万円~30万円未満」が最も多く27.6%という結果になりました。「10万円~20万円未満」が25.2%で、30万円未満で手続きが済んだ人は全体の58.9%にのぼります。
しかし、その一方で「100万円以上かかった」と回答した人も6.5%おり、そのうち約4割が1億円以上の相続財産を引き継いでいます。
相続手続きの依頼内容で最も多いのが「遺産分割協議書の作成」で70.6%、「相続登記」62.6%、「戸籍収集」44.9%が続きます。遺産分割だけでなく、相続税申告や相続放棄を検討する際にも参照される「相続財産の調査」は36.4%と、約3人に1人の割合でした。

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
【アドバイス】相続⼿続きで⼤変だったこと、役に立つこと

出典:「第3回 相続⼿続きに関する実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いい相続」)
「相続手続きで大変だったこと」で最も多かったのが「何をどう進めるべきかを理解するための情報収集」で56.6%でした。

今後、相続手続きを行う人へのアドバイスとしては、約4割の人が「専門家への相談・依頼をすすめる」と回答しています。
フリーコメントでは、以下のような声が寄せられていました。一部を抜粋・修正してご紹介します。
・費用はかかっても、専門家に頼んだ方が間違いないし、精神面でもいいと思う。
・相続手続きは複雑で時間も労力も費やす必要があります。特に大切な人を亡くした直後は精神的に大変弱ります。自分の心が落ち着くまで専門家に手続きをお任せすることも検討してみてください。 ・複数の専門の人に相談しスピードあるところにお願いする。その上で、自分でできることは自分でする。 ・動けるうち、会話ができるうちの家族間などでの話し合いは本当に大事だと思います。ただ話すだけではなく具体的な事も決めておくべきです。 ・父親の相続をしましたが、亡くなる数年前から認知症を発症していたため生前に相続の相談がほぼできませんでした。やはり元気なうちに家族含めて財産の確認や相続について話し合っておくことが重要だと思いました。 ・親には亡くなることをタブー視することなく受け入れていただき、亡くなった後、誤解が生じないよう日頃の会話の中で明るく話し合える関係を築いていってほしいです。 ・元気な時に、相続の準備をしておく事の大切さを痛感しました。故人の意思がわからないと、相続手続きを進める時に判断に迷う事が多く、悲しい思いをします。 ・相続税が発生しそうなら、口座ロックが掛かる被相続人の資産から一部、家族信託や保険などといった現金をある程度自由に動かせる資産にしておく。 ・不動産は居住継続しないのであれば、早めに不動産仲介業者に相談しておくとよい。継続して居住し、住民票が移っていれば、固定資産相続での控除を大きく受けられる。 |
まとめ

フリーコメントにもありましたが、相続手続きは複雑なだけでなく、故人を亡くした悲しみの中で行わなければならないことも多く、普段はできるようなことも難しく感じがちです。
「まだ元気なのに、亡くなった時の話をするのは不謹慎」「財産目当てのように思われそう抵抗感がある」など、相続の話をしづらい気持ちは当然のこと。しかし、このような調査データについて話題にすることは、将来の備えについて家族で話し合う良いきっかけになるかもしれません。
また、今回の調査で、未婚のきょうだい・おじ・おばからの相続など、夫婦間や親子間以外の相続のかたちも明らかになりました。血縁関係が希薄な相続では、相続人同士の調整が複雑になるケースも。これは、自ら備えておくことで防ぐことができます。
以前より、前向きな意味で捉えられるようになった「終活」という言葉。年齢に関わらず、いざというときの備えのひとつに終活を入れておくべき時代が、すぐそこまで来ています。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年6月18日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
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