掲示板で炎上、著作権侵害、誇大広告…SNS・インターネットにまつわるトラブルの対処法を弁護士がQ&Aで解説

入居者が掲示板で炎上、物件についての悪質なネットへの書き込みなど、SNS・インターネットにまつわるトラブルについて、事例をもとに弁護士の久保原先生・伊藤先生が対処法をわかりやすく解説します。いざというときに知っておきたい法律の知識が満載です。

Q1.賃借人がインターネットの掲示板で炎上し、建物に嫌がらせがされるようになりました。

A1:状況を正確に捉え、筋の通った対応をすることが望ましいと考えられます。
インターネット上の掲示板やSNSで多数の人から激しい非難の声や過剰な関心が集まり、収拾がつかなくなってしまう状態は一般に「炎上」と表現されます。
一度炎上すると、脅迫の手紙がポストに投函されたり、ドアにスプレーで落書きされたり等、本人はもちろん、他の入居者の実生活に影響が出ることもあります。
賃借人に炎上を招いた責任が認められれば、賃貸借契約の解除等も検討可能となり得ますが、貸主が責任の有無を判断することは難しいケースが多いと思います。
まずは賃借人本人から、炎上の原因と、炎上がいつまで続くと予想しているか、予定している具体的な対応策等を確認し、貸主の立場で対応し得る支援を検討することになると思います。
Q2:物件写真の見栄えのため部屋に新進気鋭の画家の絵画を飾り、大写しで撮影を行う予定です。

A2:美術品を撮影して公開する行為は、著作権侵害となる場合があります。
自分の所有物ならば賃借人募集の際に自由に利用できると思いがちですが、著作者の同意なく美術品の写真や動画を撮影しインターネットに公開する行為は、著作権、特に複製権・公衆送信権を侵害するおそれがあります。
著作権法上、美術品が写真の背景に意図せず小さく写り込んだ場合に、写真公開が一切許されないとなると不都合なため、付随的に写り込んだにすぎない場合には著作者の同意なく公開できます。
ただ、絵画を取り外せば容易に写り込みなしで撮影できる場合や、絵画が写真の大部分を占めている場合、著作者の同意が必要です。
著作権を侵害すると、画像・動画の差止請求や損害賠償請求の対象にもなり得ますので、美術品の撮影には注意が必要です。
Q3:私のマンションが、事故物件ではないのに事故物件紹介サイトに掲載され困っています。

A3:サイト運営者への削除依頼も可能ですが、削除されない場合は裁判も一つの選択肢です。
住むのに心理的抵抗が生じる要素、例えば室内で自殺・他殺事件があったことや、墓地・暴力団事務所等に隣接していることを、「心理的瑕疵」と呼び、宅建業者は賃借人に告知する義務を負います。
国交省は人の死に関する告知義務についてガイドラインを公開しており、自然死は原則、告知義務の対象外で、他殺等も基本的に事件から約3年経過すれば告知不要と書かれています。
事故物件サイトには、情報が虚偽なら削除依頼に応じる方針のものもありますが、依頼しても削除されない場合、裁判手続が必要となり得ます。サイトの種類により難易度や費用・期間は異なり、対応によっては逆恨みで炎上するリスクもあるため、専門家に相談されることをおすすめします。
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Q4:部屋の募集の際に、魅力的なポイントのPR動画を撮影します。注意すべきことはありますか?

A4:事実に反した行き過ぎた広告にならないように気を付ける必要があります。
事実と異なる物件の長所を発信して、賃貸借契約の勧誘を行ってしまうと、宅建業法上の誇大広告や景品表示法上の優良誤認に当たり、不法となり得ます。
虚偽とまでは言えない内容であったとしても、賃借人に「思っていたのと違った。騙された。」と思わせてしまうと、入居後のトラブルの温床にもなります。前入居者の私物が映りこんでいたり、入居後に募集動画が残り続けたりすることもまた、トラブルの原因となり得ます。
物件動画は、基本的に管理会社が主導して撮影、公開すると思われます。部屋の魅力的な点を前面に押し出し、良い印象を持ってもらうことは重要ですが、後々のトラブルに発展しないように管理会社と話し合い、問題意識を持って動画を確認することが大切です。
Q5:所有ビルのインターネット上の評価が低いため、友達に謝礼を渡して高評価をお願いしました。

A5:対価の有無を問わず高い評価を依頼する行為は法律で規制されています。
昨今、施設等を利用する前に、インターネットの評価を参考にする方が多くなっていると感じます。友人に高評価をお願いすれば、集客につながるかもしれません。
しかし、本当は広告なのにそれを隠して自発的な発信を装う宣伝行為は、「ステルスマーケティング」と呼ばれ、消費者に不利益な行為として、2024年10月より法規制の対象です。対価の有無を問わず、事業者が高評価の投稿を依頼すると違法となります。
対価があっても、利用者の自発的意思に基づく投稿は違法とならないとされていますが、自発的か否かの線引きは難しいところです。まずはビル自体の魅力を上げる施策に取り組み、不当に低い評価に対しては削除請求を検討する方が健全な方向性でしょう。
Q6:入居者が掲示板サイトに私の氏名と悪口を書いています。どう対処したらいいですか?

A6:削除請求とともに、投稿の悪質性に応じて、それ以上の対応策を検討すべきです。
氏名等の個人情報を明らかにする投稿に対しては、削除請求が認められやすい傾向にあります。掲示板サイトで定められた方法に基づき運営会社に削除申請を行ったり、裁判手続による削除請求を検討したりすると良いでしょう。
個人情報を伴わない投稿は、名誉棄損等に法律上当たれば、削除請求が可能となり得ます。前後の文脈とともに投稿内容を専門家に相談されることをおすすめします。
余りにもひどい暴言や、賃借人の募集に悪影響が生じる書き込みがされた場合には、発信者情報開示請求により投稿者を特定し、金銭請求を行うことも選択肢に入ります。
ただ、手続には時間と費用がかかります。賃貸経営上、静観するより得策なのか、冷静に対応方針を見極める必要があります。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2025年3月1日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄
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