シングルで「高齢者歓迎」物件の割合が3倍以上増加!空室を防ぐために知っておきたい、新築賃貸の最新ニーズ

新築の賃貸物件には、その時々の借り手のニーズが既存物件よりもはっきりと反映されます。ここ最近の新築物件の条件や設備はどのように変化したのでしょうか。 (株) LIFULLが発表した、新築物件の2021年と2024年の設備・条件を調査・比較したランキングから確認していきます。
増加した条件のランキングでは「高齢者歓迎」が1位に
ランキングは、2021年~2024年にLIFULL HOME’Sに掲載された東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県の新築賃貸物件を対象に集計されています。新築賃貸のシングル向け物件で2021~2024年の間に増加した条件は、以下のような結果となりました。
シングル向け 新築物件の条件 増加ランキング(1都3県) | |||
順位 | 条件 | 2024年の割合 | 2021年対比 |
1位 | 高齢者歓迎 | 1.0% | 327.5% |
2位 | 二人入居可 | 29.9% | 142.4% |
3位 | 楽器相談可 | 3.9% | 125.5% |
4位 | ペット相談可能 | 39.7% | 122.8% |
5位 | 保証人不要 | 58.3% | 114.2% |
1位は「高齢者歓迎」で、物件全体の中での割合は1%と少ないながらも、2021年から3倍以上も増加。高齢者社会の加速を反映する結果となりました。
2025年10月からは「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称:住宅セーフティネット法)」の改正が予定されており、高齢者入居による賃貸オーナーのリスクを軽減する国の施策が進行中です。この流れを受けて、新築に限らず、高齢者を受け入れる賃貸物件は今後も増えると考えられます。
大家さんへのアドバイス

「高齢者歓迎」が増加しているのは、高齢化社会と、住宅セーフティネット法改正(2025年10月施行予定)の影響です。これからの賃貸経営では、「高齢者=リスク」ではなく、安定した入居者層としてどう受け入れるかが問われます。バリアフリー化、見守りサービス導入、孤独死対策保険の活用などを検討しましょう。
2位以下の条件増加の背景には賃料水準の上昇
続いてファミリー向け物件の結果を見てみましょう。
ファミリー向け 新築物件の条件 増加ランキング(1都3県) | |||
順位 | 条件 | 2024年の割合 | 2021年対比 |
1位 | 高齢者歓迎 | 1.0% | 252.4% |
2位 | フリーレント | 18.1% | 151.2% |
3位 | 楽器相談可 | 5.9% | 148.2% |
4位 | ペット相談可能 | 5.9% | 116.3% |
5位 | 保証人不要 | 52.2% | 105.8% |
ファミリー向け新築物件でも「高齢者歓迎」が1位で、2位には「フリーレント」がランクインしました。シングル向け2位の「二人入居可」もそうですが、背景には家賃水準の上昇があると考えられます。
新築物件は、工事費上昇の影響が賃料にダイレクトに反映されます。2021~2024年で平均3割近くと賃料上昇率が特に高いファミリー向け物件においては、家賃を下げることなくフリーレントによって入居者を確保しようとする貸し手側の動きが、ランキングに反映されているようです。
また、シングル向け、ファミリー向けともに「楽器相談可」「ペット相談可」の物件が増加。コロナ禍を経て、家で過ごす時間や趣味を大切にしたい人のニーズに応えた結果と言えるでしょう。
大家さんへのアドバイス

「二人入居可」「フリーレント」「ペット相談」などは柔軟な入居条件の拡大がトレンドであることを示しています。特に新築では賃料が高くなりやすいため、初期費用の緩和(敷金礼金ゼロ、フリーレント)やライフスタイルに合った許容が空室対策に有効です。
シングルの設備ではキッチンまわりの設備が上位にランクイン
新築賃貸物件で増加した設備にはどんなものがあるでしょうか。シングル向けでは以下のようになりました。
シングル向け 新築物件の設備 増加ランキング(1都3県) | |||
順位 | 条件 | 2024年の割合 | 2021年対比 |
1位 | カウンターキッチン | 17.3% | 140.0% |
2位 | IHコンロ | 19.5% | 134.4% |
3位 | 食器洗い乾燥機 | 1.0% | 128.1% |
4位 | セキュリティ会社加入済 | 7.5% | 126.2% |
5位 | メゾネット | 0.5% | 125.7% |
6位以下に「デザイナーズ」「インターネット使用料無料」「照明器具付き」「防犯カメラ」「ウォークインクローゼット」が続きます。シングル向けは1位から3位までがキッチンまわりの設備で、自炊環境を充実させたい入居者のニーズを反映しています。
大家さんへのアドバイス

「カウンターキッチン」「IHコンロ」「食洗機」など、自炊しやすい・見栄えがよい設備が評価されています。1Kでも調理スペースを広く取る、IH2口を標準にするなどの工夫で差別化が可能です。特に単身女性層の支持が高い点も踏まえ、安全性との組み合わせ(オートロックなど)も重視しましょう。
ファミリー向けでは「デザイナーズ」がトップに
ファミリー向けでは以下のような設備が増加しています。
ファミリー向け 新築物件の設備 増加ランキング(1都3県) | |||
順位 | 条件 | 2024年の割合 | 2021年対比 |
1位 | デザイナーズ | 4.0% | 207.8% |
2位 | 免震構造 | 0.6% | 134.8% |
3位 | IHコンロ | 12.2% | 129.8% |
4位 | 照明器具付き | 24.5% | 125.3% |
5位 | 防犯カメラ | 56.8% | 121.5% |
6位以下は「セキュリティ会社加入済」「インターネット使用料無料」「ごみ出し24時間OK」「エレベーター」「オートロック」でした。
シングル向け・ファミリー向けともに「セキュリティ会社加入済」「防犯カメラ」「オートロック」といったセキュリティ設備が上位にランクイン。防犯・防災意識の高まりを反映した結果となっています。
また「インターネット使用料無料」がどちらも7位にランクインしていることからも、テレワークの普及とともに、家での快適なインターネット環境が求められていることがわかります。
大家さんへのアドバイス

「セキュリティ会社加入済」「防犯カメラ」「オートロック」は、新築物件ではもはや“標準装備”化しています。旧来の物件で競争力を維持するためにも、セキュリティ面の強化は必須です。また「インターネット無料」も導入が進んでおり、通信費のコストパフォーマンスが入居判断を左右する時代になっています。
まとめ|空室を防ぐカギは“時代の声”を設備と条件への反映
今回のランキングは、家を探している人が「検索している」「問い合わせている」ニーズではなく、実際の新築物件に増えている条件や設備をまとめたもの。つまり、**実際に賃貸オーナーが事業性を考えて導入した“現場の判断”**が反映されています。
LIFULL HOME’S PRESS編集部の渋谷雄大氏は「供給する側は、目先の利益だけでなく人々の暮らしを豊かにする設備を積極的に取り入れ、社会にとって価値のある資産をつくるという意識を持つことも大切」とコメントを寄せています。
4月から新築住宅の省エネ基準適合が義務化された2025年。省エネ性能、防犯性、多様なライフスタイル対応、費用負担の緩和策などが、今後の賃貸経営の要となります。空室をつくらないためには、トレンドを先読みし、柔軟に物件の魅力をアップデートし続ける意識が欠かせません。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年4月30日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
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