相続した住宅の6件に1件が未登記のまま。相続前に知っておきたい。放置不動産が「負の資産」になる前にできること
相続制度は整いつつありますが、現場では「知らない」「動けない」が実態です。株式会社ルリアンの全国調査によると、相続経験者の半数以上が制度を理解しておらず、相続した住宅の16.1%が未登記のまま5年以上放置されています。こうした放置は賃貸市場の供給停滞や資産価値の低下にも直結します。賃貸経営オーナーの視点から、背景と対策を解説します。
制度を知らないと動けない。相続後の“判断停止”が賃貸経営を止める理由

データ画像引用元:「相続・終活に関する全国調査2026」|株式会社ルリアン
今回の調査では、相続経験者の52.6%が「主要な制度を知らない」と答え、相続土地国庫帰属制度の認知も9.2%にとどまりました。制度は整ってきているものの、実際には十分に知られていないのが現状です。
問題は、知らないことで「判断できない状態」に陥る点にあります。制度を知らなければ、売却や活用、維持といった選択肢を比較することができず、結果として何も動かないまま時間が過ぎてしまいます。
賃貸経営においては、この“判断の遅れ”が収益化の遅れにつながり、資産価値の低下を招く原因になります。さらに、相続人同士の話し合いもまとまりにくくなり、意思決定が長引く傾向があります。相続前から基本的な制度に触れておくことが、スムーズな経営判断につながります。
未登記16.1%という現実。管理できない不動産は“資産”にならない
相続した親の住居のうち16.1%が未登記という結果は、見えにくい管理不全の存在を示しています。
内訳を見ると、「自分が住んでいるが未登記」が6.2%、「親族が住んでいるが未登記」が6.7%と、実際に住んでいても名義変更が行われていないケースが多く見られます。
生活に支障がないため後回しにされがちですが、これは賃貸経営において大きなリスクです。未登記のままでは売却や担保設定が難しくなり、資産としての動かしやすさが大きく損なわれます。また、相続人が増えるほど権利関係が複雑になり、将来的に意思決定が難しくなる可能性も高まります。
問題が表面化していないうちに対応することが重要であり、登記は資産を活かすための基本的な準備と言えます。
5年以上の放置が常態化する背景とは

データ画像引用元:「相続・終活に関する全国調査2026」|株式会社ルリアン
未登記物件のうち52.9%が5年以上放置されているという結果から、放置が一時的なものではなく、長期化しやすい状況が見えてきます。特に「15年以上」が22.4%と最も多く、問題の根深さがうかがえます。
注目したいのは、空き家だけでなく、「自分が住んでいる」場合でも53.8%、「親族が住んでいる」場合でも54.9%が長期間放置されている点です。つまり、住んでいるかどうかに関係なく、登記が後回しにされている実態があります。
この状態は、市場に出るはずの物件が流通しない“供給不全”を引き起こします。本来存在している住宅が市場に出てこないことで、需給のバランスや価格形成にも影響が出ます。
賃貸経営者は、この見えない在庫の存在を前提に市場を見る必要があります。特に地方や築古物件では、空室として影響が出やすくなります。
知識不足が専門家への依存を加速させる

データ画像引用元:「相続・終活に関する全国調査2026」|株式会社ルリアン
相続手続きでは48.8%が専門家に依頼しており、その理由の1位は「知識不足」(49.2%)でした。続いて「確実で安心だから」(33.1%)、「手続きが面倒だから」(23.9%)と続きます。
こうした結果から、多くの人が手続きに不安を感じていることが分かります。一方で見方を変えれば、適切なサポートがあれば行動に移りやすい層が多いとも言えます。
賃貸オーナーにとっては、司法書士や税理士と連携し、手続きをまとめてサポートできる体制が大きな強みになります。単に物件を管理するだけでなく、相続後の流れまで見据えた支援ができるかどうかが、今後の差別化につながります。分かりやすい説明と伴走型のサポートが求められる時代になっているということです。
金融資産手続きの遅れが示す現実

データ画像引用元:「相続・終活に関する全国調査2026」|株式会社ルリアン
相続手続きの中で時間がかかったものとして、預貯金口座や保険、証券口座といった金融資産が上位に挙がりました。これらは手続きが複雑で、必要書類も多いため、どうしても着手が遅れがちになります。
一方で、不動産は登記さえ進めれば整理できるにもかかわらず、その初動が遅れてしまうケースが目立ちます。つまり問題は「難しいから」ではなく、「どこから手をつければいいか分からない」点にあります。
賃貸経営では、相続発生後の動き方をあらかじめ整理しておくことが重要です。やるべきことの順番を明確にし、最初の一歩を具体化することで、放置を防ぐことができます。初動の早さが、その後の活用結果を大きく左右します。
活用も売却もできない。相続後に“出口を失う不動産”の増加リスク
制度としては不要な土地を手放す方法もありますが、実際には費用や条件のハードルがあり、誰でも簡単に利用できるわけではありません。その結果、「活用できないが手放せない」不動産が増えています。
こうした物件は収益を生まない一方で、固定資産税や維持費だけがかかり続けます。さらに時間が経つほど建物は劣化し、資産価値も下がっていきます。賃貸オーナーにとっては、物件を取得した時点から出口を考えておくことが重要です。
売却するのか、賃貸として活用するのか、それとも将来的に整理するのかをあらかじめ考えておくことで、選択肢を狭めずに済みます。「持ち続けること」自体がリスクになる時代に入っています。
賃貸オーナーにとって重要なのは、相続発生後に「どう動くか」ではなく、相続前から「どう動ける状態にしておくか」です。特に登記状況の整理、相続人の把握、出口戦略の共有は、将来的な空室リスクや資産劣化を防ぐ有効な対策になります。
まとめ
今回の調査から見えてきたのは、制度が整っている一方で、現場では十分に活用されていないというギャップです。
相続経験者の52.6%が制度を知らず、相続した住宅の16.1%が未登記のまま放置され、その多くが5年以上手つかずという状況は、その象徴と言えます。
こうした放置は、不動産が市場に出てこない“見えない在庫”を生み、賃貸市場の供給バランスを崩す要因となります。また、未登記や判断の遅れは、権利関係の複雑化や資産価値の低下を招き、結果として負担の大きい資産へと変わっていく可能性があります。
賃貸住宅経営者にとって重要なのは、相続を「起きてから対応するもの」ではなく、「事前に備えるもの」として捉えることです。登記の早期対応や出口戦略の整理、専門家との連携体制の構築など、準備の有無がその後の経営に大きな差を生みます。こうした流れはすでに始まっています。
今後は、相続への備えそのものが、賃貸経営の競争力を左右する要素になっていくでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年4月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。















