「築古は不利ではない」選ばれる物件になるかを左右する、賃貸経営の分岐点とは?
築40年以上の物件に対しては入居検討者からの不安が強いと思われがちですが、株式会社AlbaLinkが実施した調査では66.0%が「あり」または「条件次第であり」と回答しました。一方で、不安の1位は耐震性能(46.0%)であり、老朽化や配管、断熱といった性能面への懸念も目立ちます。つまり築年数そのものではなく、「中身」で評価される時代に入っていると言えます。今回は、入居者心理をもとに、築古物件が選ばれる条件と賃貸住宅経営における具体的な戦略までを読み解いていきます。
築40年以上でも66%が「あり」──“空室リスク=築年数”ではない理由

画像引用元の調査データ:「『築40年以上の物件に感じる不安』や『住んでもいいと思える築40年以上物件の条件』についてアンケート」|株式会社AlbaLink
築40年以上の物件について「あり」が66.0%(うち「条件次第」が55.2%)という結果は、築古物件が一概に敬遠されているわけではないことを示しています。
ただし「積極的に選びたい」は10.8%にとどまり、多くは条件付きの評価です。これは裏を返せば、“選ばれる理由”が明確でなければ入居につながらないということでもあります。実際に「リノベーション済みなら検討する」「設備が新しければ問題ない」といった声が多く、築年数そのものではなく“中身”が問われています。
賃貸経営の視点では、築古であることを前提に、どの価値を付加するかが重要です。単に家賃を下げるだけでは競争力は限定的であり、設備更新や空間価値の再設計が差別化の軸となります。
「条件次第で」との回答の多さは、裏を返せば改善すべき余地の大きさを示しているとも言えるでしょう。
入居判断を左右する最大要因。築古物件は「耐震性能をどう伝えるか」が分かれ目

画像引用元の調査データ:「『築40年以上の物件に感じる不安』や『住んでもいいと思える築40年以上物件の条件』についてアンケート」 株式会社AlbaLink
築古を「不安」と考える回答者があげる1位が「耐震性能の低さ(46.0%)」である点は、築古物件の評価を大きく左右する核心です。
「地震が多いので築40年は不安」「見た目が良くても耐震が気になる」といった声に見られるように、安心感の欠如は内見段階での離脱要因になりやすい特徴があります。とくに耐震性能は目に見えないため、「本当に安全なのか分からない」という不透明さが不安を増幅させます。
賃貸経営においては、この“見えない不安”をいかに可視化して解消するかが重要です。耐震診断の実施や補強履歴の開示、説明資料の整備などにより、心理的ハードルを下げることが可能になります。
単に性能を高めるだけでなく、「伝え方」まで含めて設計することが、築古物件の競争力を高めるポイントとなります。
老朽化の不安は“連鎖的”に評価を下げる
「建物自体の老朽化(29.8%)」や「配管の老朽化(21.2%)」に対する不安は、日常生活に直結するリアルな懸念です。
「床や柱の傷みが不安」「配管から臭いがするのが困る」といった具体的な体験談からも、入居後のトラブルを強く意識していることがわかります。とくに配管は見えない部分であるにもかかわらず、漏水や悪臭といった問題が発生すると生活満足度を大きく下げます。
賃貸経営の観点では、内装の見た目だけでなく、インフラ部分への投資が重要であることを示しています。表面的なリフォームだけでは不安は払拭されず、むしろ「見えない部分が手つかずではないか」という疑念を招く可能性もあります。
長期的な収益を考えるなら、配管更新などの“裏側の改善”こそが、クレーム防止や退去抑制につながる重要な投資といえるでしょう。
気密断熱・光熱費が“隠れた判断基準”に
「断熱性能の低さ(20.6%)」に対する不安は、快適性とコストの両面に影響します。「冬は寒くてたまらない」「光熱費が高くなりそう」といった声に見られるように、日々の暮らしに直結する問題です。
築古物件では断熱材や窓の性能が現行基準に比べて劣るケースが多く、これが体感温度やエネルギーコストに大きく影響します。
賃貸経営の視点では、家賃の安さだけでは補えない“不満の蓄積要因”になりやすい点に注意が必要です。たとえば内窓の設置や断熱改修などは、比較的コストを抑えながら満足度を高める施策として有効です。
また、「安いが住みにくい」物件は短期退去につながりやすく、結果として収益の安定性を損ないます。快適性の改善は、単なる設備投資ではなく、入居期間の最大化につながる戦略的施策といえるでしょう。
家賃を下げる前にやるべきこと。築古が選ばれる「リノベ×安心設計」
「水回り設備の老朽化(20%を超える水準)」は、入居判断において非常に影響力の大きい要素です。
「トイレが詰まりやすい」「風呂が使いづらい」といった声からも分かる通り、日常使用頻度が高い分、不満が顕在化しやすい領域です。また「虫の発生(6位)」といった不安も、建物の隙間や配管の状態と密接に関係しています。「配管からチョウバエが出た」という具体的な体験談は、築古物件に対する心理的抵抗を強める典型例といえます。
賃貸経営では、水回りの更新は費用がかかる一方で、満足度への影響が非常に大きい“投資対効果の高い領域”です。とくにキッチン・浴室・トイレの刷新は、物件の印象を大きく左右します。見た目の改善だけでなく、臭いや詰まりといったストレス要因を取り除くことで、入居率と継続率の双方にプラスの影響を与えます。
築年数ではなく、“管理と更新”の時代へ

画像引用元の調査データ:「『築40年以上の物件に感じる不安』や『住んでもいいと思える築40年以上物件の条件』についてアンケート」 株式会社AlbaLink
選ばれる条件の1位が「リノベーション(52.6%)」である点は、築古物件の再生戦略を明確に示しています。
「現代のライフスタイルに合っていれば住みたい」「設備が新しければ安心」といった声に象徴されるように、単なる修繕ではなく“価値の再設計”が求められています。
また「耐震性能が高い(18.4%)」「管理状態が良好(16.2%)」といった要素も重視されており、見た目と中身の両面が評価対象となっています。さらに「見た目に古さを感じない」という意見もあり、第一印象の重要性も無視できません。
賃貸経営においては、リノベーションを単発の改修ではなく、ターゲット設定や賃料戦略と連動させた“商品設計”として捉えることが重要です。築年数という弱点を、コンセプトやデザインで上書きできるかどうかが、今後の競争力を大きく左右するといえるでしょう。
まとめ
賃貸経営の観点では、「すべてを新しくする」ことではなく、「不安の大きい順に投資する」視点が重要です。耐震・配管・断熱といった“見えない不安”を優先的に解消することで、過度な家賃値下げに頼らず入居を決めやすくなります。
今回の調査から見えてきたのは、築40年以上の物件に対する評価が「敬遠」ではなく「選別」の時代に入っているという点です。
「あり」が66.0%という結果は一見ポジティブに見えますが、その大半が「条件次第」であることからも分かる通り、入居者はよりシビアに物件を見極めています。特に耐震性能や配管、断熱性といった“見えにくい性能”への不安は根強く、「本当に安心して住めるのか」という視点が判断軸の中心にあります。
一方で、リノベーションや適切な管理によって不安が解消されれば、築古でも十分に選ばれる可能性があることも明らかになりました。これは賃貸住宅経営者にとって、単なる築年数の問題ではなく、「どこまで手を入れ、どう価値を伝えるか」が問われていることを意味します。
今後は、表面的な美装だけでなく、耐震性や設備更新といった本質的な改善に加え、その内容を入居者に分かりやすく伝える工夫が不可欠です。
築古物件はリスクであると同時に、適切な戦略によって競争力を持ち得る資産でもあります。その分岐点は、管理と再生の質にかかっていると言えるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年4月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















