「家賃1万円アップの価値あり」と思わせる条件とは?1位の「駅近」は「1万円上がるなら不要」でも1位に

少しでも抑えたい固定費のうち、大部分を占める家賃。物価高が続き、多くの人が以前よりもシビアな目で部屋探しをしている昨今、「家賃が高くなっても住みたい」と思わせる条件とはどのようなものでしょうか。(株) AlbaLinkによる「1万円高くても住みたい物件の条件」アンケートの結果をご紹介します。
3人に1人が「公共交通機関に近い」を挙げている
賃貸物件に住んでいる10代から50代以上の男女500人を対象に「家賃があと1万円高くても住みたいと思う条件」を聞いたところ、上位10位は以下のような結果となりました。
家賃があと1万円高くても住みたいと思う条件 | ||
1位 | 公共交通機関に近い | 32.6% |
2位 | 防音性能が高い | 23.2% |
3位 | バストイレ別 | 19.2% |
4位 | 築年数が浅い | 18.4% |
5位 | 宅配ボックスあり | 11.8% |
6位 | 今より広くなる | 10.0% |
同率6位 | 商業施設が近い | 10.0% |
8位 | オートロックあり | 8.2% |
9位 | ペット飼育可 | 5.4% |
10位 | 収納が充実している | 5.2% |
1位は「公共交通機関に近い」で、フリーコメントには「現在住んでいる賃貸だと駅まで20分かかるため」「駅に近いことで通勤のストレスを減らせる」という声がありました。
毎日、通勤や通学をしている人にとって、駅近物件はやはり人気があるようです。家賃の安さから駅が遠い物件に住み、後悔した経験がある人も多いのかもしれません。
駅近が魅力でない場合でも、「テレワーク対応」や「車・バイク通勤向けの環境整備」で差別化が可能です。ターゲットのニーズを的確に見極めた工夫が大切です。
立地や広さ以外では防音など快適性を求める声
立地に関する条件である1位の「公共交通機関に近い」と6位「商業施設が近い」以外の条件を見てみましょう。

2位は「防音性能が高い」で、「今住んでいる物件の壁が薄くて隣室のテレビや電話の声がストレス」という人や「子どもの声が大きく、近隣住人から管理会社を通してクレームを入れられた」という人も。騒音問題はトラブルに発展しやすく、聞く側・出す側の双方にとって大きなストレスになります。
3位「バストイレ別」も「安さにこだわりユニットバス物件に住んで後悔した」と、実際に自分が不便を感じた経験がもとになっているケースが多いようです。
4位の「築年数が浅い」は「他の人がいた空間が好きではない」という感覚的なものや、「設備が新しいから断熱・耐震・防犯面で安心」という意見がありました。
自分が経験した不便を解消してくれる条件や、目に見えて便利な設備については、家賃が1万円上がっても許せる人が多いことがわかりました。
防音や新しさへのニーズは、リフォームやリノベーションによる改善で対応可能なケースもあります。コストを抑えて価値を高める工夫を検討しましょう。
「1万円高くなるならいらない」と思う条件は?
部屋探しをする中で「コレはなくてもいいから家賃が1万円安ければいいのに」という物件も存在します。今度は「家賃が1万円高くなるならいらないと思う条件」を聞いたところ、次のような結果となっています。
家賃が1万円高くなるなら「いらない」と思う条件 | ||
1位 | 公共交通機関に近い | 39.6% |
2位 | 宅配ボックスあり | 12.8% |
3位 | 築年数が浅い | 11.0% |
4位 | バストイレ別 | 9.6% |
同率4位 | オートロックあり | 9.6% |
6位 | 今より広くなる | 7.0% |
7位 | 2階以上 | 5.4% |
1位は「公共交通機関に近い」で、「家賃があと1万円高くても住みたいと思う条件」と同じ結果に。フリーコメントでは以下のような声が挙がっていました。
「公共交通機関に近い」を選んだ人のコメント
・駅徒歩5分やコンビニ・コインランドリーが近いなど。10~15分歩くくらいならいい運動になるし、苦には感じないから(30代 女性)
・駅に近い物件。基本は車かバイクで移動するため(30代 男性)
・駅からの距離は妥協できる。在宅勤務が増えており、月の半分以上は在宅のため、通勤する回数が激減しているからです(50代以上 男性)
「健康を意識して歩きたい」という人や、車移動やテレワークなどで駅を使わないという人は、駅近にこだわっていません。個人のライフスタイルによって、条件の優先順位が大きく変わることがわかりました。
需要がない設備にコストをかけるよりも、実際のターゲット層に合った設備・仕様に予算を集中する戦略が効果的です。
「1万円高くてもOK」「NG」で多くの条件が重複

「家賃があと1万円高くても住みたいと思う条件」と「1万円高くなるならいらないと思う条件」では、1位の「公共交通機関に近い」の他にも多くの条件が重複しています。
例えば、「1万円高くても住みたい条件」4位の「築年数が浅い」は「いらないと思う条件」でも3位にランクインしています。フリーコメントでは「古めかしい物件に住むこと自体は嫌ではない」「家賃が1万円高くなるなら、築浅でなくてもいい」という声も見られました。古さが気にならない、築浅や新築に1万円の価値を認めないという価値観です。
同じく「住みたい条件」3位の「バストイレ別」も「いらない条件」で4位。「ユニットバスでも慣れれば別に気にならない」「一人暮らしならユニットバスでも十分」というコメントから、気にしない人も一定数存在することがわかります。これも、バスタイムを重視するかどうかや来客の有無など、ライフスタイルの違いが反映されています。
ライフスタイルによってニーズが異なる中、「防音」「商業施設の近さ」などは、「1万円高くても住みたい条件」のみにランクインしています。これは、多くの人にとって、家賃が高くても妥当だとされている条件と言えます。
家賃が1万円上がることに抵抗を感じる理由は?
賃貸物件に住んでいる人にとって、家賃が1万円上がるとどのような影響があるのでしょうか。「家賃を1万円上げることに抵抗を感じる理由は何か?」という質問に対しての1位は「家計に響く(32.4%)」という回答でした。
2位に「貯金できなくなる(14.0%)」、3位「固定費はなるべく抑えたい(13.2%)」がランクイン。フリーコメントでは以下のような声がありました。
「家賃を1万円上げることに抵抗を感じる理由」についてのコメント
・1万円の増加は家計に響くというか、死活問題。生活できなくなる(40代 男性)
・食品やら燃料費の高騰で家計が圧迫されているので、家賃も高くなるとさらに余裕がなくなるから(40代 女性)
・将来のための貯金も必要になるので、やはり1万円でも抵抗感を感じる(20代 男性)
・貯金にお金を回したい。今は賃貸なので、将来家を買うためのお金にしたい(30代 男性)
・食料品やガソリン代は自分の工夫次第で抑えられるが、家賃などの固定費はどうしようもないため、できれば値段が変わらないでほしい(30代 男性)
・給料が低いので、今の家賃が限界(20代 女性)
・月1万の違いは大したことなくても、年12万と考えたら大きい。差額で旅行に行ける(40代 女性)
まとめ

「家賃があと1万円高くても住みたいと思う条件」と「家賃が1万円高くなるならいらないと思う条件」。正反対のことを聞いているにもかかわらず、多くの条件が重複してランクインするという結果になりました。それだけ価値観が多様化しているということなのかもしれません。
様々なニーズがあるなかで選んでもらうには、物件のスペックからターゲットを導きだし、ターゲットのライフスタイルに寄り添っていく空室対策が賃貸オーナーには求められます。
例えば、駅から遠い物件であれば「駅近を重視しないライフスタイルの人」をターゲットに、ワークスペースや駐輪場、バイク置場などを充実させる設備投資が考えられます。築古物件をDIY可にすることも「古さを気にしない人に、カスタマイズできる楽しさで価値をプラス」の一例でしょう。
一方で、「防音」「ペット可」などは、多くの人に「家賃一万円アップの価値あり」と認められていることになります。こちらも空室対策のヒントになりそうです。
今後の入居者ニーズは「万人受け」よりも「ターゲット特化型」がカギ。自物件の強みと照らし合わせたうえで、どの条件に価値をもたせて訴求するかを明確にしていきましょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年6月10日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
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