都心回帰・郊外シフト・再開発——賃貸市場はこう動く。「住みたい街2026」を賃貸オーナー目線で深読み
【東京都江戸川区】観覧車|葛西臨海公園
株式会社LIFULLが発表した「2026年 LIFULL HOME’S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)」によると、借りて1位は2年連続で「葛西」、買って1位は初の「湯河原」。問合せ数を集計した“実需直結”の結果から、都心回帰×コスパ志向の二極化と、再開発エリア・ずらし駅の台頭が鮮明です。賃貸オーナー視点で戦略を整理します。
借りて住みたい街1位は「葛西」(2年連続)。“都心アクセス×賃料コスパ×物件豊富さ”

画像データ引用元:「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)|(株)LIFULL
東西線葛西駅前
「借りて住みたい街部門」で2年連続1位となったのは東京都江戸川区の「葛西」です。東京メトロ東西線で大手町へ約20分という優れたアクセス能力を持ちながら、快速停車駅ではないため賃料相場が相対的に抑えられている点が評価されました。
駅周辺には単身向けからファミリー向けまで幅広い間取りの物件が集積し、築年数や設備仕様も多様で、入居者層に応じた選択肢が豊富です。生活利便施設や公園も充実し、子育て世帯から外国籍住民まで受け入れる地域の特性もあります。
賃貸住宅の経営者にとっては、特定層に依存しない“需要の厚み”が安定稼働の鍵となります。高級化路線ではなく、ボリュームゾーンを確実に取り込む価格設定と、周辺環境を取り入れた多様な選択肢こそが、長期にわたって安定した賃貸住宅経営の基本であることを示すという、象徴的な結果と言えるでしょう。
上位常連の「八王子」「大宮」「本厚木」。郊外御三家の底堅さ

画像データ引用元:「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)|(株)LIFULL
葛西に次いで2位の「八王子」、3位の「大宮」、4位の「本厚木」は、いずれも交通網のハブとしての機能と広い生活圏を背景に、長年にわたって安定した人気を維持しています。
複数路線の利用も可能で、商業施設や大学、医療機関が集積し、単身者からファミリーまで多様な需要を抱えています。それでいて都心より賃料が低く抑えられるため、専有面積を確保した物件にも需要が及びやすい点が特徴です。
賃貸住宅の経営という視点では、人口の規模と流入が明確なエリアは空室リスクが相対的に低く、長期保有に向いています。派手さはなくとも、安定的なキャッシュフローを積み上げる経営の“基盤エリア”として、ポートフォリオの中核を担う地域的な存在といえるでしょう。
コロナ後の都心回帰と賃料の高騰
高円寺純情商店街
この他には「高円寺(7位)」や「三軒茶屋(10位)」など、主に若年層に人気の都内の駅も上位に名を連ねました。
これは、コロナ禍を経て一時的に拡大した郊外志向は落ち着き、通勤利便性や都市型ライフスタイルを重視する層が再び増えていることを示唆しています。
ただし賃料の高騰が続く中で、入居者の賃料に対するキャパシティーも無限ではありません。築古物件や設備面で競争力に欠ける物件は、立地だけでは選ばれにくくなっています。経営者には、リノベーションや設備更新による付加価値向上、ターゲット層の明確化が求められます。
都心立地は依然として強いブランド力を持ちますが、その価値を収益に転換するには、運営力と差別化戦略が不可欠であると言えます。
ずらし駅”が急上昇—方南町・不動前・新中野
次に前回の調査からランクの上昇が際立ったエリアを見ていきましょう。

画像データ引用元:「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)|(株)LIFULL
急上昇した駅として注目された「方南町(1位)」や「不動前(2位)」、「新中野(3位)」は、ターミナルから1〜2駅離れた、いわゆる“ずらし駅”です。山手線内側の賃料の高騰を背景に、利便性を維持しつつ負担を抑えたい層からの支持を集めました。
これらは再開発エリアほど取得価格が高騰していないケースも多く、経営者にとっては利回りと将来性のバランスを取りやすい市場です。また、供給が限定的な駅では希少性が働き、適切な賃料設定で安定稼働を実現しやすい傾向があります。
今後も“ずらし駅戦略”は有効であり、ターミナル駅周辺の動向と連動して需要を捉える視点が重要となります。
買って住みたい1位は「湯河原」—TOP3が郊外で初の並び

画像データ引用元:「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)|(株)LIFULL
「買って住みたい街部門」では、前回の調査で6位だった「湯河原」が1位となりました。
湯河原の街並み
もともと温泉地として玄人からも人気のエリアでしたが、近年ではマンションの分譲や中古物件のストックも豊富など、セカンドハウス的な需要はあったものの、2位の「八王子」、3位の「八街」などがランキングされた結果とあわせれば、住宅価格の高騰が実需層を郊外へ押し出している現状を象徴しているのは明白です。

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一方で、予算内で広さと自然環境を確保できる郊外への関心は、将来的に賃貸需要にも影響を与える可能性があります。購入を見送った層が賃貸にとどまるケースや、本格的な移住を前にした試験的な賃貸利用など、多様な需要が生まれる可能性があるわけです。
郊外エリアでは取得価格が比較的抑えられるため、表面利回りを確保しやすい物件も存在します。観光地や自然資源を活かせる立地であれば、長期滞在型や「二拠点生活」の需要を取り込む戦略も考えられます。
購入市場の変化は、賃貸経営者にとっての重要な先行指標となるでしょう。
再開発がランキングを押し上げる—大崎・大井町のケース
次は「買って住みたい街部門」の、ランク急上昇のエリアを見ていきましょう。

画像データ引用元:「2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング(首都圏版)|(株)LIFULL
大崎駅周辺のビル群
急上昇エリアで1位となった「大崎」は、「大崎リバーウォークガーデン」(東五反田二丁目第3地区)の進捗により注目が高まり、679位→37位へ大幅にランクアップ。2位の「大井町」は、「OIMACHI TRACKS」の2026年3月28日開業発表を背景に、問合せの伸びが顕著でした。
再開発は街のブランド力の向上や人口流入の期待を創出し、賃料水準や物件評価額にも影響を及ぼします。
その一方で取得価格も上昇しやすく、表面利回りは圧縮されがちのため、経営者に求められるのは、計画初期段階での情報収集と適切な参入タイミングの見極めと言えそうです。
将来的な賃料上昇の余地、供給増加による競争激化のリスク、出口戦略までを視野に入れた判断が必要となります。再開発エリアは高リスク・高リターンの投資テーマであり、ポートフォリオ全体のバランスを踏まえたうえでの俯瞰的な戦略が重要となってきます。
まとめ
今回の調査結果は、賃貸住宅の経営におけるエリア戦略の再整理を迫る内容でした。
都心回帰が進む一方で、家賃の高騰を背景とした“ずらし駅”や郊外ターミナルの現実的な選択が拡大しています。葛西のようなバランス型エリアは安定稼働モデルを示し、郊外御三家は底堅い需要を支える基盤です。大規模再開発エリアや大規模分譲マンションプロジェクトなどは、将来的な価値を取り込む機会を提供しますが、参入価格との見極めが不可欠です。
また、購入市場の郊外化は、将来の人口動態や賃貸需要構造の変化を示唆するものでもあります。
ユーザーからの問い合わせデータという“実需の声”を読み取り、「立地・価格・将来性」の三要素をどう組み合わせるかが、これからの賃貸住宅を経営するにあたり、最も競争力を左右すると言えるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年2月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。
















