相続税への不安は高止まり、準備は後手、相続対策「未着手」が5割超。評価額上昇時代に賃貸オーナーがいま備えておくべきポイントとは
「まだ早い」と思われがちな相続対策。しかし、資産コンサルティングを手がける青山財産ネットワークスによる最新の「資産に関する意識調査」(2026/2/19発表) では、経営者・富裕層の半数以上が未着手という実態が示されています。 評価額上昇や納税負担の増加は賃貸経営にも影響し、対策の遅れは将来の選択肢を狭めかねません。最新データから相続対策の現状を読み解き、賃貸オーナーが“今から備えるべき実務ポイント”をわかりやすく整理します。
相続対策は依然“未着手”が過半数

グラフ画像の引用元:資産に関する意識調査|株式会社青山財産ネットワークス
全国の経営者56.2%、関東の富裕層43.8%が「何もしていない」
今回の調査では、相続対策を何もしていないと回答した層が全体の半数を超えました。前回調査時に比べて、全国経営者では 61.8% → 56.2%(マイナス5.6ポイント)、関東富裕層では 50.8% → 43.8%(マイナス7.0ポイント)と未着手率は減少しており、一定の改善傾向は見られるものの、依然として高水準です。
賃貸経営においても相続は将来の出来事ではなく、事業承継そのものに直結する重要な経営課題です。準備不足のまま相続が発生すれば、納税資金を確保するために収益物件を売却せざるを得ないという事態や、相続人の間で共有状態(=意思決定が停滞する事態)も想定されます。
特に不動産比率が高い場合、分割の難しさがトラブルの火種となる傾向も低くありません。まずは保有資産と負債、年間収支、借入残高などを整理し、相続発生時の税額や分割案を試算することが重要です。
現状を数値として把握することで課題が明確となり、贈与や法人化、保険活用など具体策の検討へと進みやすくなります。さらに、複数のシナリオを想定して備える姿勢が、経営の不確実性を抑えるカギとなります。
着手の最多は60代——50代以前から始めるメリット
相続対策の開始時期について聞いたところ、最多は60代となり、70代からの着手も一定の割合を占めました。どちらにしても、高齢期に入ってから本格的に検討を始める傾向が高いと言えます。
しかしながら、賃貸経営は長期的な資産運用であり、時間を味方につける戦略が欠かせません。50代以前から取り組めば、生前贈与を複数年かつ計画的に実行できることで税負担を平準化できます。また、法人化や持株会社化など、承継スキームの選択肢も広がります。
開始が遅れるほど活用できる制度は限定的となり、短期間での判断を迫られる可能性が高まります。経営が安定している時期こそ準備の好機です。余裕ある段階で方向性を定め、段階的に実行していくことが、経営の継続性と家族の安心感を高める結果につながります。
加えて、健康面や判断能力の低下リスクも考慮すれば、早期着手の重要性は一層高いと言えるでしょう。
評価額は上がる、家賃は急に増えない——納税資金の確保が急所
相続税の負担への不安は、全国経営者 47.5%、関東富裕層 46.4%と約半数に達しています。近年の路線価上昇を背景に評価額が増えやすく、特に関東では相続税評価額が想定以上に膨らむケースが増えています。
不動産は評価額が上昇しても、実際のキャッシュフローが急増するわけではありません。
そのため「資産はあるが現金が不足する」という事態が生じやすくなります。賃貸経営者は、家賃収入を生活費や返済に充てるだけでなく、将来の納税資金として、一定の割合を積み立てておく意識が重要となってきます。
加えて、借入残高や金利動向を踏まえた資金繰り計画を定期的に見直す必要もあります。税額試算を継続的に行い、評価額と資金余力の差を把握しておくことで、突発的な資金不足や不本意な売却を防ぐことができます。
制度改正の動向にも目を配り、最新情報を踏まえた対策を講じる積極的な姿勢が求められます。
不動産が資産の中核でも、流動性資産の比率を見直す
財産として不動産が依然上位(全国経営者:不動産 80.8%、関東富裕層:不動産 87.8%)に挙がる一方、現金や有価証券といった流動性資産を重視する傾向も広がっています。

グラフ画像の引用元:資産に関する意識調査|株式会社青山財産ネットワークス
流動性資産は相続時の納税や分割調整に柔軟性をもたらし、経営上の安全弁として機能します。不動産中心の資産構成では、分割の難しさや共有化による意思決定の停滞が課題となりがちです。賃貸経営で得た収益の一部を金融資産へ振り分けることで、ポートフォリオ全体の安定性を高めることも可能です。
また、修繕費や空室増加といった突発的な支出への備えとしても有効です。不動産を主軸にしつつも、換金性を意識した構成を整えることが、長期的な経営の安定化と円滑な承継を実現するための重要な視点です。
資産配分を定期的に点検し、偏りを是正する習慣付けも大切になってきます。
建築費1.3倍時代の投資判断。新築は“規模より回収”へ
建築費の高騰が続く中、新築への投資に対する慎重姿勢が強まっています。

グラフ画像の引用元:資産に関する意識調査|株式会社青山財産ネットワークス
従来のように規模を最大化する発想から、収益性とリスクの均衡を重視する方向へとシフトしており、立地条件や将来的な人口、競合物件の供給状況を踏まえた精緻な市場分析がますます欠かせない状況です。
また、定期借地や用途特化型物件など複数の活用案を比較し、出口戦略まで見据えた判断が求められます。一社の提案だけで決断するのではなく、専門家の意見を交えて総合的に検討することが重要です。
高止まりする市況下では、感覚や勢いではなく、収支予測や投資の回収期間などの数値を基に冷静に判断する姿勢が、将来の安定収益を左右します。既存物件のバリューアップという選択肢も含め、多角的に検討する視野が必要です。
家族会議の頻度を上げる——話し合い経験は全国40.1%、関東50.3%
家族との相続に関する話し合いは、前回の調査と比べて増加傾向にあるものの、依然として十分とは言えません。

グラフ画像の引用元:資産に関する意識調査|株式会社青山財産ネットワークス
賃貸経営は家族経営の側面が強く、後継者の意思確認や役割分担の整理が欠かせません。資産内容や負債状況を共有しないままでは、相続発生後に方針を巡り対立が生じる可能性もあります。定期的に家族会議を設け、さらに第三者の専門家を交えて客観的に議論すれば、感情的な対立を抑えながら合意形成を図ることも可能です。
承継方針を早期に共有することは、金融機関や入居者からの信頼維持にもつながります。透明性の高い情報共有と継続的な対話こそが、円滑な承継と長期的な安定経営の「基盤」となります。将来像を共有し、次世代が主体的に関われる環境づくりも重要です。
賃貸経営を“次世代に渡す”ための3アクション
今回の調査が示唆するのは、相続税への不安が高水準にあるにもかかわらず、具体的な対策はなお十分に進んでいないという現状です。
賃貸経営者にとって相続は、税金対策の枠を超えた事業承継の問題であり、経営基盤そのものに直結します。不動産価格や建築費の上昇、金利動向の変化といった外部環境が不透明な今、準備を先送りすることはリスクを将来へ持ち越す行為ともいえます。
安定経営を実現するためには、第一に資産全体の棚卸しと定期的な税額試算を行い、現実的な数値を把握することが重要です。
第二に、流動性資産を計画的に組み込み、納税や突発的支出に備える体制を整えることです。
そして第三に、家族との合意形成を早期に進め、承継方針を共有すること。さらには、税務・法務・不動産の専門家と連携し、部分的なものではなく全体的な視点から意思決定を行う姿勢が求められます。
相続対策は早く始めるほど選択肢が広がり、経営の自由度も高まります。今から着実に準備を積み重ねることが、賃貸経営を次世代へ安定的につなぐ最も確実な道筋と言えるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年2月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。
















