飛び込み営業、施工不良、会社の倒産…大規模修繕にまつわるトラブルの対処法を弁護士がQ&Aで解説
飛び込み営業での強引な契約、ずさんな施工による瑕疵、修繕費を支払った直後の業者倒産——。大規模修繕は金額も影響範囲も大きく、ひとたびトラブルが起きると賃貸経営に深刻なダメージを与えかねません。「この契約は取り消せるのか」「事故が起きたら誰の責任になるのか」「前金は回収できるのか」など、オーナーが直面しがちな疑問について、実績豊富な久保原弁護士がQ&A形式でわかりやすく解説。修繕を進める前に知っておきたい“法的な備え”を整理します。
Q1.勢いに押されて、飛び込み営業で不要な修繕契約書に印鑑を押してしまいました。
A1:要件が揃っていれば、クーリングオフや契約を取り消すことが可能です。
突然自宅に訪問してきて家の無料診断を口実に屋根裏に上がり、自分で屋根を壊してしまって、高額な修繕提案を行う業者がいるようです。これはただの犯罪で、民法上も修繕契約は無効と判断されることが多いように思います。
そこまでいかなくとも、飛び込み営業は顧客が予期していないタイミングで自宅という断りにくい場所で判断を迫る取引形式のため、時間をおいて検討したら不要と考える契約でも受諾しやすいという傾向があります。そのため、特定商取引法上の訪問販売に当たるものは8日以内にクーリングオフすることが可能となります。
また、自宅の修繕であれば契約者が消費者に当たり、修繕契約の勧誘が不実告知を含んでいた場合には、契約を取り消すことも可能です。
Q2:建物の外壁の一部が剥がれ落ち、もう少しで通行人に直撃するところでした。
A2:もし損害が発生すると、所有者は無過失責任として賠償義務を負うこととなり得ます。
通常、損害賠償責任は故意又は過失がある場合に限り発生します。しかし、不動産が原因の損害に関して発生する工作物責任は、占有者に責任がない場合には、所有者は無過失であっても責任を負う無過失責任です。
修繕予算が捻出できない等の理由で大規模修繕を後回しにしてしまいがちです。ですが、建物の劣化が表面化していないだけで実は進行しており、近隣や入居者の身体・財産に被害が生じると、過失の有無を問うことなく損害賠償義務を負うことがあります。
大規模修繕は、建物の寿命を延ばす、物件価値を高めるという面もありますが、このような法的責任についても把握しておき、定期点検に基づきリスクの高い箇所の修繕を最優先で実行することが重要です。
Q3:大規模修繕が不十分で漏水が悪化した場合、誰に責任を負ってもらえますか?
A3:工事業者への請求が一つの方法ですが、特に漏水原因の検証が課題となります。
大規模修繕工事に不備があって補修が必要な場合、補修請求や補修代金の請求が可能となり、工事の不具合が原因で利用者らに損害が生じた場合には損害賠償請求を行うことができます。
損害賠償請求は、損害が発生した原因を証拠によって証明する必要がありますが、実務上は漏水の経路、原因の解明は簡単ではありません。工事前・工事中の状況を写真やメモで証拠化しつつ、工事業者に積極的に質問し所有者自身が可能な限り状況を把握することが重要です。
なお、現行法上は不具合に気付いてから1年以内に通知しないと請求できない等の期間制限があります。他方で、法律上の期間制限とは異なる期間を特約で定めることも多いですので、書面を確認しておく必要があります。
Q4:大規模修繕費用の前金を振り込んで間もなく、その会社と連絡が取れなくなってしまいました。
A4:一刻も早く専門家に相談し、前金の回収手段を迅速に実行していきましょう。
建設会社の倒産は増加傾向にあります。自転車操業状態で工事完成の見込みもないのに前金の早期支払いを求め、振り込んだ直後に倒産するケースもあるでしょう。
施主としては、修繕工事契約を解除して前金の返還を求め、契約で定めていれば違約金請求も行います。建築業者が倒産手続を開始している場合、厳格な手続の下、業者の残された財産を他の債権者と分け合います。
倒産手続に入っていない場合、業者の銀行口座や不動産、取引先への債権等の財産を一日も早く差し押さえることは、前金回収のための有用な手段となり得ます。リフォーム瑕疵保険、請負業者賠償責任保険等による損害回復が可能であるかも含め、専門家と様々な方法を検討することをお勧めします。
Q5:区分所有建物で大規模修繕を行うための総会の決議要件を整理してください。
A5:今年4月に施行される法改正で、修繕を実行するための要件が緩和される見込みです。
共用部の工事は、区分所有者総会の承認決議が必要です。通常は所有者及び議決権の過半数の賛成による普通決議で足りる一方で、大規模修繕が共用部の形状又は効用の著しい変更を伴う工事の場合、所有者及び議決権の4分の3以上の賛成が必要な、特別決議が必要となります。
物件に居住せず管理に協力しない所有者の増加で修繕が進まないという近年の社会問題に対し、区分所有法の改正が2026年4月に施行されます。
区分所有者全員ではなく総会出席者を分母とし計算を行うため、修繕を実行しやすくなります。裁判手続により所在不明の区分所有者が存在しないものとして決議できる制度も新設され、耐震不足等の場合には建替決議の要件も緩和されます。
Q6:借地上の建物で大規模修繕が必要となった際に、地主の承諾を得る必要はありますか?
A6:法律上、厳密には不要な場合であっても、事前に地主に話は通した方が無難です。
多くの借地契約で、増改築禁止特約が定められています。借地人が増改築工事を行うには地主の承諾が必要となり、建物の耐用年数が延びる等の場合には地主は承諾料を受け取ることがあります。
修繕は、基本的には特約で禁止される増改築に当たりませんが、大規模修繕で建物の耐用年数が長期間延びる工事は、特約の対象となり得ます。承諾の要否は実質的に判断されますので、借地人と地主で見解が分かれる場合もあります。
仮に軽微な工事で、承諾料が発生しないと思われる場合でも、地主は工事内容を把握しておく必要がありますし、将来、大規模な工事が必要なときには快く承諾を得なければなりませんので、規模によらず地主に事前相談して関係を構築することが重要です。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2026年3月1日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄









