金利上昇の時代、「高利回り依存」が危険になる。不動産投資の”新常識”を解説
日銀の金融政策転換により、不動産投資市場は大きな変化を迎えています。みなとアセットマネジメント株式会社が実施した調査では、投資家の92.2%が金利上昇リスクを重要視し、8割以上が返済負担や物件価格下落への不安を抱えていることが明らかになりました。一方で、変動金利利用者は35.0%と依然多く、詳細な返済シミュレーションを行っている層は約3割にとどまっています。今回は調査結果をもとに、賃貸住宅経営者が見直すべき資金計画、出口戦略、管理会社選定の考え方について考察します。
「9割超」が警戒する金利上昇局面の現実
今回の調査で最も象徴的だったのは、「金利上昇リスクを重要視している」が92.2%に達した点です。内訳は「非常に重要」が42.6%、「やや重要」が49.6%となり、不動産投資家のほぼ全員が金利変動を重大な経営リスクとして認識していることがわかりました。

データ画像引用元:「金利上昇局面における不動産投資のリスク認識と出口戦略」に関する最新調査|みなとアセットマネジメント株式会社
背景には、長年続いた超低金利時代の終了があります。これまでの不動産投資では、「低金利融資を活用し、レバレッジを効かせる」ことが基本戦略でした。しかし現在は、金利上昇によって毎月返済額が増加し、従来の収支計画が成立しにくくなる局面へ移行しています。
特に賃貸経営では、空室率や修繕費に加え、“借入コスト上昇”という新たな圧力が加わります。築古物件では家賃下落も重なり、キャッシュフロー悪化が一気に進む可能性もあります。
今後は、「満室経営だから安心」という時代ではなくなります。重要なのは、“金利が上昇しても耐えられる収支構造か”という視点です。表面利回りだけを見た投資判断ではなく、長期保有時の安全余力を重視する経営姿勢が求められるでしょう。
変動金利依存が招くキャッシュフローの悪化
「現在利用しているローン金利」では、「変動金利」が35.0%で最多となりました。一方、「固定金利」は23.2%、「固定期間選択型」は10.2%という結果です。

データ画像引用元:「金利上昇局面における不動産投資のリスク認識と出口戦略」に関する最新調査|みなとアセットマネジメント株式会社
変動金利は当初返済額を抑えやすく、購入時のキャッシュフローを良く見せやすい特徴があります。そのため、これまでは多くの投資家が積極的に選択してきました。しかし、金利上昇局面では、そのメリットが一転してリスクへ変わります。
例えば、金利が1%上昇するだけでも、長期ローンでは総返済額が数百万円単位で増加するケースがあります。特に借入比率が高い投資では、返済額増加が直接的に手残りを圧迫します。
さらに近年は、修繕費、人件費、火災保険料なども上昇傾向にあります。つまり、賃貸経営では“金利だけが上がる”わけではなく、複数コストが同時進行で増えていくリスクがあるのです。
今後の不動産投資では、「今の返済額で黒字か」ではなく、「空室・家賃下落・金利上昇が重なっても維持できるか」を前提に考える必要があります。
特に、築古アパートや地方物件など、高利回りを前提に成立していた投資ほど注意が必要です。もともと空室率や修繕負担のリスクを抱えやすい物件では、金利上昇によって“想定していた利回り”が一気に崩れる可能性があります。
今後は「利回りの高さ」よりも、「金利上昇後でも収支が維持できる安定性」が重視される時代になるでしょう。キャッシュフロー管理は、これまで以上に“防御力”が問われる時代に入っています。
返済シミュレーションの不足が招く危険性
金利上昇を想定した返済シミュレーションについては、「十分に行った」が30.7%、「簡易的な計算のみ」が44.8%でした。つまり、リスク意識は高い一方で、詳細な数値管理までできている投資家は限定的であることがわかります。
これは賃貸経営において非常に危険な状態です。不動産投資では、わずかな条件変化が長期収支に大きな影響を与えます。特に金利は、毎月返済額だけでなく、売却価格や融資再編にも直結する重要な要素です。
例えば、「金利が何%まで上がると赤字化するか」「空室率が何%を超えたら危険か」を把握していない場合、問題発生時の判断遅れに直結することになります。
また、繰り上げ返済を行うべきタイミングや、借り換えによるメリットも、精密な試算なしでは判断できません。
今後は、“感覚で保有する投資家”と、“数字で管理する投資家”の差が広がることになるでしょう。賃貸住宅オーナーにとっても、管理会社任せにするだけでなく、自ら収支構造を理解する視点がカギになります。
不動産投資は「物件選び」だけでなく、「数字を読み続ける経営」へ変わり始めています。
投資家が恐れる「価格下落リスク」の本質
金利上昇への不安内容では、「毎月返済額増加によるキャッシュフロー悪化」が54.1%、「物件価格下落による売却損」が53.2%となり、ほぼ同水準でした。

データ画像引用元:「金利上昇局面における不動産投資のリスク認識と出口戦略」に関する最新調査|みなとアセットマネジメント株式会社
これは、不動産投資家が“出口戦略”を強く意識し始めていることを示しています。従来は、家賃収入によるインカムゲインが重視されていましたが、現在は「将来いくらで売れるか」という視点が以前より重要になっています。
金利が上昇すると、購入者側の借入負担が増えるため、物件価格全体に下落圧力がかかります。特に低金利時代に価格が上がりすぎたエリアでは、価格調整リスクが高まりやすくなります。
さらに、金利上昇局面では入居者側の生活防衛意識も強まりやすく、家賃上昇が難しくなる可能性もあります。エリアによっては、賃料維持のために広告料増額や条件緩和を迫られるケースも考えられます。つまり、金利上昇は“返済負担”だけでなく、“賃料収入そのもの”にも影響を与える可能性があるのです。
また、築古区分マンションや地方物件では、融資評価の厳格化によって買い手が付きにくくなり、“売りたくても売れない”事態も起こり得ます。
賃貸経営では、「持ち続ければ大丈夫」という発想が通用しにくくなっています。保有中の家賃収入だけでなく、「数年後にいくらで売却できるか」「ローン残債を差し引いて利益が残るか」まで含めて投資判断を行う必要があります。
今後は、「いつ売るか」「どの資産を残すか」が経営戦略のポイントになるでしょう。
進み始めた「売却・繰り上げ返済」の動き
「金利上昇を理由に行った判断」では、「保有物件の売却」が26.7%、「繰り上げ返済」が25.8%、「購入延期」が22.3%という結果でした。

データ画像引用元:「金利上昇局面における不動産投資のリスク認識と出口戦略」に関する最新調査|みなとアセットマネジメント株式会社
この結果からは、市場全体が“拡大重視”から“守り重視”へ転換し始めていることがわかります。
特に繰り上げ返済は、将来の利息負担を抑える有効な手段です。ただし、現金を減らしすぎると、修繕や空室対応時の資金不足を招く危険もあります。
また、売却についても、「価格下落前に動くべきか」「まだ保有継続できるか」の判断は簡単ではありません。
重要なのは、“感情”ではなく“数値基準”で判断することです。例えば、「返済比率が一定以上になったら売却」「空室率が何%を超えたら組み替え」など、自分なりの基準を持つ必要があります。
これからの不動産投資では、「買う力」だけでなく、「撤退判断できる力」も重要になります。特に金利上昇局面では、“攻め続ける投資家”より、“守れる投資家”のほうが生き残りやすくなるでしょう。
金利上昇時代は「伴走型支援」が重要になる
今回の調査では、「長期設計をしてくれる会社を重視したい」が86.0%に達しました。また、「専門家サポートが必要」は81.7%に上っています。

データ画像引用元:「金利上昇局面における不動産投資のリスク認識と出口戦略」に関する最新調査|みなとアセットマネジメント株式会社
これは、不動産会社に求められる役割が変化していることを示しています。従来は「物件紹介」が中心でしたが、今後は“保有中の経営支援”まで含めた伴走型支援が求められる時代になります。
賃貸住宅オーナーにとっても、管理会社選びの基準は変わるでしょう。単なる客付け力だけではなく、「借り換えによる返済比較」「将来的なキャッシュフローの分析」「エリア賃料の変動予測」「売却査定」まで含めて提案できる会社が重要になります。
また、AI査定や市場データ分析が普及することで、物件価格の透明性は今後さらに高まります。その結果、“なんとなく保有”している物件ほど厳しく評価されやすくなるでしょう。
これからの賃貸経営では、「購入時の成功」より、「保有中の経営力」が収益差を生む時代になります。金融環境が変化する今だからこそ、“長期伴走型のパートナー選び”が重要性を増していきそうです。
まとめ
今回の調査から見えてきたのは、不動産投資市場が“低金利前提”から本格的に転換し始めている現実です。92.2%の投資家が金利上昇リスクを重要視し、8割以上が返済負担や物件価格下落への不安を抱えています。つまり、これまでのように「借りられるだけ借りて運用する」という投資モデルは、今後通用しにくくなる可能性があります。
特に注目すべきは、「キャッシュフロー悪化」と「売却損リスク」がほぼ同水準で警戒されていた点です。今後は、保有中の収益だけでなく、“出口でどれだけ価値を維持できるか”が投資成果を左右する重要な要素になります。
また、変動金利利用者が依然多い一方、詳細な返済シミュレーションを行っている投資家は約3割にとどまりました。リスクを感じながらも、具体的な対策まで落とし込めていない層が多いことがわかります。
これからの賃貸経営では、高利回りだけを追うのではなく、「金利上昇に耐えられるか」「空室や修繕にも対応できるか」を重視する必要があります。そして、借り換え、売却、保有継続を含めた“長期戦略”が、以前以上に重要になるでしょう。
金利上昇時代の不動産投資は、「買う力」だけでは生き残れません。これからの不動産投資では、「高利回りを買う力」よりも、「環境変化に耐えながら資産を守る力」が、賃貸住宅オーナーにとって最大の武器になっていくでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年5月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。
















