賃貸アパート・マンションの大規模修繕費はどれぐらいかかる?[資金・税金#11]
長期安定的な賃貸経営を目指すなら、アパート・マンション建築の初期段階から長期修繕計画を立てておくことが大切。建物や設備の劣化を抑えて健全に保つための修繕は、いつ実施し、いくら必要なのかを解説します。
新築時から長期修繕計画を立て、早期実施が有効
「アパート・マンションは建てたら終わり、古くなって老朽化したら建て替えればいい」というスクラップ&ビルドの時代は終わりました。
建築費の高騰、家賃の下落などにより、法定耐用年数通りに建て替えていたら採算が合わなくなっているからです。いかに建物を長持ちさせて、安定的に収益を生み続けるかが求められています。
そのためには、建物や設備の劣化状態に応じて修繕を行っていくことが大切です。「築年が経って不具合が出てきたら考えればいい」と思うかもしれません。
確かに、新築後4~5年は災害や事故などがない限り、ほとんど手をかける必要はないでしょう。施工会社のアフターサービスでカバーできる場合が多いかもしれません(ただし、施工会社のアフターサービスの内容によって対応が異なります。内容を確認しておきましょう)。
ところが、5年を過ぎたころから、少しずつ建物の傷みが出始めたり、設備の故障が起きたり、目に見えて問題が浮き彫りになってきます。
その時になって、手持ち資金が少ない、コストをかけたくないという理由で放置していると、7~8年目あたりから明らかに不具合が目立ち始めるでしょう。
空室が出ても埋まりにくくなってくるかもしれません。家賃収入が減り、余計に修繕費を確保できなくなり、さらに劣化が進むという悪循環に陥ってくるのです。
たとえば、外壁の小さな亀裂を放置した結果、雨漏りや建物の骨組みの腐食などに発展したら大変です。事態が悪化してから対処すると、かえって手間もコストもかさみます。入居者からのクレーム、家賃の減額請求、退去など、付随して起こる損害も計り知れません。
こうした事態を防ぐには、新築時から計画を立てて、早め早めに修繕していくことが大切です。結果として、早期修繕を実施した方がトータルの修繕費は軽減できますし、劣化の進行を抑えられ、資産価値を守ることにもつながります。
外壁・屋根の大規模修繕は工事費が高額、計画的な積み立てが大事
建物や設備のどの部分がどのくらいの期間で劣化、故障するのでしょうか。およその目安を図2に示しました。建物に付属する外廊下や階段の手すりなどの鉄部塗装、室内設備の修理は5年くらいから対応します。
屋根や外壁など補修、設備の一斉交換は10~15年と長い目で考えておかなければいけません。
特に、建物本体の屋根や外壁の大規模修繕は対象範囲が広く、修繕に足場が必要になるため、費用も高額になります。
小規模な木造アパートで数百万円単位、規模の大きなマンションでは数千万円単位になることも珍しくありません。一度に多額の修繕費を支払うのは大変ですから、あらかじめ少しずつ積み立てておくことが推奨されています。
手持ち資金で修繕費が賄えない場合には、ローンを利用する道もあります。ただ、建築費のローン返済が残っている段階で、追加の返済負担が重なることはあまりおすすめできません。収支が悪化して経営が不安定になるおそれがあります。
では、修繕費用として積み立てる金額はいくらぐらいが適切なのでしょうか。図3は、構造・間取り別の修繕費用の目安を示したものです。
単身向け1Kが10戸の木造アパートでは、30年間のトータルで1戸当たり200万円、1棟全体では約2000万円です。RC(鉄筋コンクリート)造のマンションで、1LDK・2DKが20戸の場合は一戸当たり約250万円。トータルでは5000万円近くに達します。
このくらいの金額を積み立てるには、1Kで1戸当たり月々6000円程度、1LDKでは同じく7000円程度必要です。1Kの家賃が8万円なら7.5%、1LDKで同12万円なら約6%です。
建築工事費は値上がり傾向にありますから、余裕をもって積み立てるには家賃収入の1割弱は確保しておく必要があるかもしれません。
別の角度から修繕費用について見てみましょう。木造・1Kの建築費は1戸当たり800万円程度、マンション・1LDKなら同1500万円程度と考えられます(2021年現在)。そうすると木造1Kの修繕費は建築費の25%、マンション・1LDKは約17%です。つまり、建築費の1/4~1/6に相当します。
修繕積立金を準備する方法~生命保険やサブスクサービスも
ここで示した修繕周期や積立金額は、あくまでも一般的な目安です。建物の内外装仕上げや設備の仕様グレードによっても変わってきます。
特に、マンションではエレベーターや高架水槽・揚水ポンプの有無などによってかなり変わるため、注意が必要です。実際の建物設備の状況に合わせて試算しておきましょう。
ハウスメーカーでは昨今、60年長期保証を謳っており、長期修繕計画についても新築時に提案している例が珍しくありません。これをベースに、時間の経過とともに変わる建物の状態を診断して、状況に合わせて見直していくことが大切です。
修繕積立金は、月々決まった金額を預け入れて簡単に取り崩せないような積み立て式定期預金などが望ましいでしょう。
生命保険を活用した修繕積立て商品もあります。万一の時に補償が受けれられる保険機能を持ちつつ、解約返戻金を修繕費に充てることができる商品です。
修繕費を全額損金に計上できる共済制度も2021年10月に認可されました。2022年1月現在では、まだ実用化されていませんが、今後、注目される動きです。
また、毎月一定の金額を支払うサブスクリプション型の「定額メンテナンス」のサービスも登場しています。「分割施工方式」とも言われ、費用が全額経費になるものです。様々な手法が登場していますので、自分に合った方法を検討してみましょう。
文/木村 元紀
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