相続税の特例・控除にはどんなものがある?[資金・税金#8]

相続税対策を検討するときに知っておきたいのが、各種の特例や非課税措置、税額控除の仕組みです。うまく活用できるかどうかによって税額も大きく変わってきます。これらの種類や条件を把握して損をしないようにしましょう。

生命保険金や退職金にも非課税枠がある

相続税を計算する最初のステップは、課税対象になる相続財産を洗い出すことです。そこで重要になるのが、生命保険金と退職金の扱い。

どちらも本来の相続財産ではありませんが、亡くなった人(被相続人)が相続人に残した「みなし相続財産」として課税対象になるわけです。そして、ともに課税対象から控除できる非課税枠が設けられています。

死亡保険金

生命保険金が相続税の対象になるのは保障が一生涯続くタイプの「終身保険」です。ただし、保険契約の加入形態によって変わる点に注意してください。

下記の場合に、「死亡保険金」として相続財産とみなされ、保険金を受け取った相続人に対して一定の非課税枠(生命保険金控除)が認められています。

・加入形態:契約者=被相続人/被保険者=被相続人/受取人=相続人
・生命保険金控除:500万円×法定相続人数

なお、加入形態が「契約者=相続人/被保険者=被相続人/受取人=相続人」の場合は、受取人が取得した保険金が「一時所得」扱いになり、所得税がかかります。

死亡退職金

亡くなった人(被相続人)が貰うはずだった退職手当金や功労金などのうち、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、「死亡退職金」として相続財産とみなされ、課税対象になります。死亡退職金の非課税枠は、生命保険金と同じ「500万円×法定相続人数」です。

死亡保険金、死亡退職金ともに、相続人以外の人が取得した場合、非課税枠はありません。

節税効果が大きい配偶者の税額軽減。安易に使うのは禁物

図1.相続税の税額控除は6種類
種別 内容
贈与税額控除 相続開始前3年以内に生前贈与を受けていた相続人の贈与税分
配偶者の税額軽減 法定相続分か1億6000万円以内のうち、多い方の金額に対する税額
未成年者控除 (18歳-相続開始時の年齢)×10万円
障がい者控除 (85歳-相続開始時の年齢)×10万円(特別障がい者は20万円)
相次相続控除 10年以内に2回以上続いて相続税がかかったとき一定額を控除
外国税額控除 外国にある財産を相続や遺贈で取得したとき外国の税額を控除

 

相続人ごとの相続税額を計算する際に認められているのが、相続税の税額控除です。図1のように6種類あります。このうち適用範囲が広い項目をピックアップして説明しておきましょう。

贈与税額控除

相続開始、つまり財産を残す被相続人が亡くなった時点から、遡って3年以内に相続人が生前贈与を受けた財産は、相続財産に加算して相続税がかかることになっています。贈与税額控除は、生前贈与のときに支払っていた贈与税分を、相続税から差し引ける制度です。

また、相続時精算課税制度を選択していた場合、同制度にかかわる贈与税を払っていた場合も控除対象になります。

配偶者の税額軽減

被相続人の配偶者に対して認めれている大型の軽減措置です。配偶者が相続した遺産額が、次のABのうちいずれか多い金額までは相続税がかかりません。

A.1億6千万円
B.配偶者の法定相続分相当額

遺産分割で実際に取得した財産をベースに計算されるため、相続税の申告期限までに分割されていない場合は、税額軽減の対象ならない点に注意してください。
※「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、実際に3年以内に分割された場合は軽減措置を受けられる

なお、相続税の節税効果が高いからといって「配偶者の税額軽減」を安易に使うことはおすすめできません。相続税を減らせるのは、あくまでも一次相続の納税額です。

配偶者が亡くなる二次相続の際に、かえって財産が多めに残り、トータルで見ると相続税が増えてしまうおそれもあります。相続対策を立てる際には、二次相続まで視野に入れて税負担がどうなるかを検討しておきましょう。

最大80%も評価を減らせる小規模宅地等の特例

相続対策を立てる上で、もっとも重要なポイントの1つになるのが「小規模宅地等の特例」です。一定の要件に合う場合は、図2のように最大80%の評価減を受けられます。

図2.小規模宅地等の特例
宅地の種類 限度面積 評価減の割合
a)特定居住用宅地等
(被相続人の自宅)
330㎡ 80%
b)貸付事業用宅地等
(賃貸住宅・駐車場など)
200㎡ 50%
c)特定事業用宅地等
(特定同族会社事業用宅地等)
400㎡ 80%

※併用する場合の限度面積の計算式
1.aとcを併用:bがない場合は合計730㎡
2.aとbを併用:a×200/330+b≦200㎡

 

主な要件は以下の通りです。

a)特定居住用宅地等

相続開始の直前に被相続人が住んでいた自宅の敷地を、一緒に住んでいた配偶者や子が相続した場合。老人ホームなどに入居して一時的に留守にしていた場合を含みます。

相続人が一緒に住んでいない場合は、配偶者がおらず、相続した子が相続開始前3年以内に持ち家でないこと(いわゆる「家なき子」)なども必要です。

b)貸付事業用宅地等

相続開始の直前に被相続人が、不動産貸付業、駐車場業などを行っていた宅地を、親族が相続した場合。相続税の申告期限までに引き継ぎ、事業を営む「事業承継要件」、同じく申告期限まで持ち続ける「保有継続要件」を満たす親族であることが必要です。

また、相続の開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地は対象になりません。相続税の節税対策のために、あわてて始めた事業はNGということです。

c)特定事業用宅地等

上記の貸付事業用宅地以外の事業を行っていた宅地で、条件は概ねbと同様です。abcともに、他にも細かい条件が設定されていますので、どの特例をどのように使うかを検討する際には、税理士などの専門家に相談しましょう。

文/木村 元紀

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