賃貸アパート・マンション経営をすれば所得税を減らせる?[資金・税金#9]

アパート・マンション経営のメリットに節税効果があります。その1つが所得税を軽減できること。どのような仕組みで節税できるのか、不動産所得と損益通算を中心に解説します。

損益通算で総所得を減らして節税

アパート・マンション経営などの不動産賃貸業では、賃料収入から必要経費を差引いた「不動産所得」が所得税の対象になります(※)。

不動産所得単体で計算するのではなく、給与所得などのその他の所得と合算する総合課税です。節税につながるのは、この総合課税という点にあります。※住民税もかかりますが、所得税と同様の扱いのため、ここでは省略します

不動産賃貸業の必要経費の中で、大きな位置を占めるのが、減価償却費とローン金利です。この2つの経費が大きいため、賃貸経営を始めた当初の不動産所得は、計算の上では損失が生じるのが一般的。

この赤字分を、他の所得から差し引くことができます。その結果、総所得が少なくなるために所得税も軽減されるわけです。赤字=損失と黒字=利益を相殺することを「損益通算」と呼びます。

不動産所得が赤字になっても、実際の手取り収入はプラスになるケースも少なくありません。現金の支出がないのに税務上は損失と認められる減価償却費の存在が大きいといえるでしょう。

ただし、不動産所得の赤字はずっと続くわけではありません。収支と不動産所得の推移を試算した図1をご覧ください。

賃貸アパート・マンション経営をすれば所得税を減らせる?[資金・税金#9]2

ローン金利は返済が進むにつれて徐々に減り、減価償却費も償却期間が終わればなくなります。必要経費が減少すれば、相対的に不動産所得が膨らみ、今度は所得税が増えてしまうのです。

つまり、所得税の節税効果があるのは、当初の一定期間に限られます。年数が経つと、不動産所得が黒字なのに、支払う税金が増えて手取り収入が赤字に転落してしまうおそれもあるのです。これは資金計画の内容も関係してきます。

所得税が増えるのを防ぎ、キャッシュフローを維持するには、大規模修繕を行ったり、新たな投資を行ったりして、経費を増やす対策が必要になってくるでしょう。

土地に関わるローン金利は損益通算できない

損益通算を行う場合は注意点があります。不動産所得の赤字のうち、次に示した項目から生じた損失は、他の所得の金額から控除できないことです。

(1)生活に通常必要でない資産の賃貸。たとえば別荘のように、主として趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有する不動産などの貸し付け

(2)一定の組合契約に基づいて営まれる事業のうち、特定組合員に係るもの。たとえば、不動産特定共同事業法に基づく不動産小口化商品のうち任意組合型(投資家が不動産の共有持ち分を得るタイプ)など

(3)土地を取得するために借りたローン金利

アパートや一棟マンション、区分マンションなど、土地付きの収益物件をローンで取得した場合、まず、ローン金利を土地と建物に分けて計上します。

そのうち土地の取得にかかわるローン金利によって生じた不動産所得の損失はなかったものとされ、損益通算できません。建物分のローン金利は損益通算できます。

築古物件への投資で節税効果を向上

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減価償却のしくみを活用して、所得税の節税効果を高めることもできます。いわゆる築古物件を取得する方法です。

建物の減価償却費は法定耐用年数で決まります。賃貸住宅の法定耐用年数は、木造が22年、鉄骨造は27年(軽量鉄骨)と34年(重量鉄骨)、鉄筋コンクリートは47年。

新築建物の場合は、構造に応じてこれらの年数で割った金額を毎年経費に計上できるわけです。木造で5000万円なら、年間約228万円になります。

これに対して中古建物の場合は、次の簡便法で計算した耐用年数で償却できます。

A.築年数が法定耐用年数に満たない場合
中古耐用年数=(法定耐用年数-築年数)+築年数×20%
例)木造で築15年の場合:(22年-15年)+15年×20%=10年

B.築年数が法定耐用年数を過ぎている場合
中古耐用年数=法定耐用年数×20%
※小数点以下は切り捨て

たとえば、木造で築25年の中古建物の場合、耐用年数は「22年×20%=4年」。建物価格が2000万円なら減価償却費は年間500万円です。このように、耐用年数超えの木造アパートなどを取得して、短期間で多額の減価償却費を計上することによって、所得税の大幅な節税を目指すケースは少なくありません。

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節税効果が大きい一方で、注意したいのは、築古物件は4年で減価償却が完了してしまうこと。5年目から経費がガクンと減るため、新たな投資をするなど、別の対策が必要になります。また、築古物件は融資がつきにくいため、売却に難航するかもしれません。

なお、一時期、海外の中古不動産を活用した所得税の節税対策が流行しました。日本では、築10年を超えると建物の経済価値はゼロに近い評価になってしまうのに対して、欧米では築年が古くても建物価値が高く評価されるため、減価償却費を多く計上できるからです。

しかし、2020年度の税制改正で、海外中古不動産から生じた赤字は損益通算できなくなり、この節税スキームは封じられました(個人の場合)。過度な節税対策は、税務当局から早めに歯止めをかけられる傾向が強まっています。

文/木村 元紀

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