賃貸アパート・マンション経営を法人化!5大メリットと見過ごせないデメリット・注意点[資金・税金#10]

個人で行っていた賃貸アパート・マンション経営を法人化すると、節税効果や事業承継を始め、様々なメリットがあると言われます。法人化のメリットやデメリット、注意点について解説しましょう。

法人化の5大メリットとは?

個人経営の賃貸オーナーの間で法人化が注目され始めたのは、2012年以降に法人減税が急速に進んでからでしょう。

それまで30%だった法人税の基本税率が一気に25.5%までダウンし、その後も段階的に引き下げられ、2021年現在で23.2%まで低下しました。さらにさかのぼると1980年代後半は43.3%でしたから、その当時に比べると半分近くまで軽くなったわけです。

今では「法人化セミナー」なども活況です。そこで、まずはアパート・マンション建築との関係で、法人化にどんなメリットがあるかを整理しておきましょう。図1の通り、大きく分けると5つのメリットがあります。

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①所得分散効果

個人所得税は、課税所得が大きくなるほど税率が高くなる超過累進税率です。そのため、土地と建物をオーナーが所有して個人事業として経営している場合、家賃収入から得られる所得はすべて1人に集中し、高い所得税率が適用されてしまいます。

これに対して、法人を設立して建物を売却すれば、家賃収入は法人の利益になります。さらに、家族を役員にして報酬を支払うと法人の経費になり、報酬をもらった家族の所得は小さく分割され、適用される所得税率も低くなるわけです。役員報酬を払うときには給与所得控除も使えますから、さらに所得が圧縮されます。

オーナー本人は、法人の役員になって報酬を得てもいいですし、役員にならずに法人に貸した土地の地代を得る形にしても良いでしょう。
※建物だけを法人に移転する場合、土地は借地(オーナーの貸地)になりますが、借地権が発生しないようにするために、「無償返還の届け出」を所轄の税務署に提出しておくことが必須。そうしないと法人に借地権相当額の受益課税が発生します。

②低い法人税率を適用できる

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法人の役員報酬を支払う場合、金額設定や後で説明する社会保険料との関係で、かえって税金が増えてしまうケースもあります。

そこで、役員報酬を抑えて、残りを法人の内部留保にすることも有効です。所得税の累進税率と違って、法人税の基本税率は所得にかかわらず一定のため、課税所得が大きいほど節税効果は高くなるからです。

現在、法人税の実効税率は実質30%を切っています。個人事業の場合、約700万円を超えると、所得税と住民税を合わせた税率は33%、900万円以上では43%です。

図2は法人税の実効税率を示しています。中小法人の場合、課税所得金額によって税率が分かれていますが、これは累進税率ではなく特例税率です。課税所得全体を各区分に分けて計算して合計すると税額が算出できます。

図2.法人税の実効税率
中小法人※ 左記以外の法人
課税所得金額の区分
400万円以下 400万円超
800万円以下
800万円超
21.37% 23.17% 33.58% 29.74%

※中小法人:資本金1億円以下で大企業の子会社ではない、法人税額が年 1,000 万円以下、かつ所得金額が年 2,500 万円以下など

たとえば、課税所得金額が1000万円の場合、法人税額を計算してみましょう。計算式は、

[400万円×21.37%+(800万円-400万円)×23.17%+
(1000万円-800万円)×33.58%=245.32万円]

1000万円に対する最終的な実効税率は24.5%になります。

個人の場合は、

所得税が[1000万円×33%―153.6万円(控除額)=176.4万円]、
住民税は[1000万円×10%=100万円]なので、合計で276.4万円
実効税率は27.6%。つまり、法人税よりも高くなっています。

課税所得金額がどのくらいから法人税の方が安くなるのかを試算したデータを図3に示しました。

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500万円くらいまでは個人の方が低いのですが、600万円以上になると法人の方が低くなることがわかるでしょう。

ただ、これは単純に税率だけで比較したものです。法人設立や維持に関わる経費を考慮すると、他の所得を合わせて、だいたい900万円以上くらいから法人化のメリットが出て来ると言われています。

ちなみに、内部留保した資金は、将来的に退職金として支給してもいいいでしょう。退職金を受けるときは、給与所得よりも大きく優遇された控除額が使えますので、支払う税額を抑えられます。

③幅広い経費計上が可能

個人よりも法人のほうが、経費として認められる範囲が広いのも大きなメリットです。たとえば、旅費交通費以外の出張手当、数十万円~数百万円単位の法人保険の保険料なども損金になります(保険の種類にもよる。個人の場合、生命保険料控除は最大12万円まで)。

また、赤字が出た場合、個人事業でも青色申告なら3年間の繰り越しができますが、法人は9年間繰り越せます。

減価償却については、個人の場合は毎年均等に強制償却しなければなりません。法人では所得が膨らんだ年に合わせて任意償却できるなど、自由度が高くなっています。

④相続対策、事業継承がしやすい

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相続対策にあたって、オーナーが所有する不動産の数と相続人数が合わなければ、物理的に遺産分割しにくいでしょう。

共有でも分けられますが、後々の紛争の種になるため、避けた方が賢明です。法人化しておけば、オーナーの財産は株式になるため、分割しやすくなります。

また、オーナーが出資せず、相続人だけで法人を設立すれば、法人に移転した建物はオーナーの相続財産から外れます。家賃収入がオーナーに入らないため、オーナーの現金財産が増えることもありません。

さらに認知症対策にもなることもポイントです。高齢のオーナーが万が一認知症になってしまうと、預金の引き下ろし、大規模修繕も売買も、契約行為ができません。法人化しておけばこうした懸念もなくなり、事業承継もスムーズにできるでしょう。

⑤融資などの資金調達もしやすい

法人を設立すると、法人登記をして顧問税理士がつき、毎年会計資料を整えて申告します。そのため金融機関からの信用度も高くなり、個人の場合よりも融資を受けやすくなるようです。補助金や助成金の申請も通りやすいと言われます。

法人化のデメリットと注意点

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多くのメリットがある一方で、法人化が万全というわけではありません。まず、法人の設立費と維持費がかかります。設立費用は、定款の作成や法人登記などで20~30万円。法人経営を始めると、会計上は赤字でも、法人住民税の均等割が最低7万円かかります(自治体により異なる)。

顧問税理士への報酬も、依頼内容によってもさまざまですが、やはり年間20~30万円以上は必要でしょう。こうした費用をカバーして余りある節税効果がなければ、法人設立の意味がないわけです。

経営規模にもよります。アパート1~2棟くらいであれば、法人化のメリットは出にくいかもしれません。個人事業でも、5棟10室以上の事業的規模で青色申告を選択すれば、親族に青色専従者給与の支払いができますし、青色申告特別控除の65万円も活用できます。

実は、法人化するよりも個人のほうが税引き後の手取り収入が多くなる場合も珍しくありません。

中小法人に対する社会保険料の徴収が厳しくなっている点も、法人のデメリットの1つでしょう。法人になると代表社員1人でも、社会保険料を支払わなければなりません。

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自治体によって差はありますが、健康保険と厚生年金保険を合せると今や標準報酬月額の約30%にも達します。節税の観点では、法人の役員を増やして所得分散したほうが効果は高くなりますが、その分、社会保険料がかさんでしまうジレンマがあるわけです。役員の構成、報酬と内部留保のバランスなどを慎重に検討する必要があるでしょう。

また、相続対策の面でも注意点があります。たとえば、相続対策のために、更地にアパートを建てて、評価額を圧縮したとしましょう。

それから時間を置かずに法人を設立して建物を売却してしまうと、当初の圧縮効果がなくなり、かえって評価額が高くなってしまう場合もあります。建物価格の水準、移転に伴う実務上の手続きの仕方によって、狙い通りに進まない可能性もあるのです。

以上のような点を踏まえ、細部までシミュレーションをした上で法人化するかどうかを決めてください。賃貸経営や相続関連の事情に詳しい税理士への相談をおすすめします。

文/木村 元紀

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