低金利で借りるには?自己資金はどれくらい必要?賃貸経営の資金計画を立てるノウハウ[資金・税金#2]

土地活用では、どんな融資を組めるかによって事業収支計画が大きく左右されます。有利な条件で借りる方法や、必要な頭金の割合など、資金調達にかかわるノウハウを解説します。

融資条件は個人の属性と土地の担保力次第

金融機関の不動産分野への融資姿勢は、積極的だったり、急に厳しくなったり、そのときどきの経済情勢や金融当局の規制によっても変わってきます。

少し前の状況を基に資金調達の見通しを立て、事業計画が進んだ段階で予定していた融資が受けられず、内容の大幅な見直しを迫られるケースもあります。常に最新の情報をリサーチしておきましょう。

現在、賃貸アパート・マンション建築への融資に比較的積極的な金融機関は、地方銀行、信託銀行、信用金庫、JA(農協)などです。住宅ローンのシェアが高いメガバンクは、あまり前向きではありません。

住宅ローンでは、各行のホームページに金利も含めた融資商品の詳細が掲載され、ネット上で事前審査が受けられるようになっています。

しかし、アパート・マンション建築用の融資には、住宅ローンのようなパッケージ型商品はありません。金融機関のホームページには「アパートローン」と銘打った商品広告も出ていますが、審査は個別に行われ、融資条件もまちまちです。

また、中小企業向け融資と同じように、オーナーの支払い能力や資産背景などの個人属性に加えて、親族の資産背景、土地の担保力、賃貸経営の事業計画など、幅広くチェックを受けます。

不動産投資向けの融資では、一般に住宅ローンよりも、金利は高め、融資期間は短めと言われますが、土地を所有している属性の良いオーナーであれば、住宅ローン並みの低金利・長期返済の条件で融資されるケースもあります。

図1のような公的機関による融資もあります。政策金融公庫の融資は金利の低さが魅力ですが、融資額の上限、返済期間の制限が厳しいため、アパート・マンション建築の資金としては収支が合いにくいようです。

住宅金融支援機構の方は、1室の床面積や構造面などの技術的基準はありますが、長期低利で固定金利が使えるので検討してみてもいいでしょう。

図1.アパート建築に利用できる公的融資
融資期間 摘要 融資限度額 最長返済期間 年利
日本政策金融金庫 新規開業資金 4800万円(7200万円) 10~15年(20年) 1.06~2.15%
住宅金融支援機構 子育てファミリー向け・サービス付き高齢者向け 対象事業費の100%以内 35年 35年固定:1.53%、15年固定:1.02%(※)

※2021年12月の参考金利(繰上返済制限制度を利用する場合。利用しない場合は1.85%と1.40%)。サービス付き高齢者向けの金利は、一般住宅型の場合。施設共用型は、2.59%と2.14%

低い金利で融資を受けるには?複数行に交渉すべし

金利は図1のように、変動型と短期固定、全期間固定の3種類です。種別は住宅ローンと同じですが、変動型については金利変更方式が異なる点に注意してください。

図2.アパートローンの金利の種類とメリット・デメリット
変動金利型 短期固定型(固定金利期間選択型) 全期間固定型(長期固定型)
特徴 市場金利に応じて適用金利が変わる。長プラ連動や短プラ連動が一般的 当初2~10年の金利が固定される。選択期間終了後、変動型か短期固定型を選択 最初の適用金利が返済終了まで固定され、20~35年間の長期間変わらない
メリット 低金利時は他のタイプより金利水準が低い。高金利時に組むと将来の金利低下により負担軽減の可能性 固定金利と変動金利の中間の金利水準が多い。キャンペーンで大幅引き下げにより、変動型より低いことも 金利も返済額も変わらないため返済計画を立てやすく、経営が安定。低金利時に組むと低い負担が保たれる
デメリット 金利変動リスクがある。低金利時に借りて金利が上昇した場合、返済額が増加し収支を圧迫するおそれ 固定期間終了後の適用金利が上昇するおそれ。固定期間中の繰り上げ返済にペナルティがあることが多い 低金利時は、金利水準が高い。返済途中の一括繰上返済に対してペナルティが課せられることが多い

住宅ローンの変動型は、金利の見直しを春と秋の年2回行い、金利が変動しても5年間は返済額を変えずに元金と利子の割合で調整する「5年ルール」、返済額が上昇する場合でも最大25%アップまでという「1.25倍ルール」があります。

しかし、アパート・マンション建築ではこれらのルールは適用されず、ベースとなる短期プライムレートや長期プライムレートの変更と連動し、随時見直されて返済額も変わります。

民間金融機関で適用される金利種別は、変動金利型か短期固定型が中心です。個別審査で、低い金利で融資を受けるため、金利水準は明らかではありません。

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ただ、オーナーに一定以上の金融資産があり自己資金を多めに入れられること、建築対象以外に共同担保になる不動産があること、連帯保証人・連帯債務者になる親族に資産があること、などが考慮の対象になるようです。

すでに賃貸経営の実績があり、2棟目、3棟目の場合には、それまでの返済実績、税引き後利益を安易に使わず、きちんと預金口座に積み増しているなどの状況が加味されるとも言われます。初めての建築では、こうした要素は持ち合わせていないでしょう。

なお、施工会社がハウスメーカーや有力なアパート・ビルダーなどの場合は提携ローンがあり、通常より金利が優遇されます。サブリースを付けると優遇につながるケースもあるようです。

いずれにしても、金融機関によって審査内容がかなり違います。同じ金融機関でも、時期や支店によって融資条件が異なるケースもあるようです。複数の金融機関に当たり、具体的に条件交渉をしてみましょう。なかには1%以下の超低金利が適用されたケースもあります。

頭金は必要?いるとしたら目安は購入価格の何割?

住宅ローンでは、昔から「頭金は購入価格の2割」という鉄板のルールがありました。これは、金融機関が融資限度額を価格の8割以内と決めていたからです。物件の担保力を7~8割と見ていたことや、価格の2割程度を着実に貯蓄できない人に返済能力が見込めないという判断もあるようです。

ただ、昨今は「頭金2割ルール」は事実上ありません。2020年の新築マンション購入者に対するSUUMOの調査では、頭金の平均は約18%。ゼロを含む5%未満が全体の42%を占めます。

アパート・マンション建築ではこうした統計がないため、頭金は何割が妥当かという目安もありません。

以前は、フルローンが当たり前で、諸費用も含めたオーバーローンが珍しくない時期もありました。2010年代後半の不正融資事件などを受けて、金融当局の規制が厳しくなり、頭金を1~2割入れないと審査が通らなくなったという声もあります。ただ、厳しい時期でもフルローンを受けられるオーナーがいるのも事実です。

金融機関からの要請とは別に、いくら頭金を入れるべきかは、賃貸経営オーナーが自ら判断する視点も大切です。図3に、頭金の割合によってキャッシュフローがどう変わるかを試算しました。

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木造アパートを7000万円で建築し、耐用年数の22年返済で借りた場合です。フルローンの場合、設備の減価償却が終わって税負担が増える、いわゆる“デッドクロス※”を過ぎると、キャッシュフローがマイナスに転落します。変動型の金利が5年目、10年目に1%上昇したと想定した場合は、さらにキャッシュフローの低下が急激です。

※実際の支出を伴わない減価償却費の計上金額よりも、経費にならず実質的な支出となるローン元金の金額が逆転する状態。所得税が急増し、キャッシュフローが悪化するポイントの1つ。

実は、頭金2割でも安泰とは言えません。やはりデッドクロス以降、キャッシュフローが50万円を下回ってしまいます。このグラフでは家賃下落の試算をしていませんが、金利上昇と家賃下落を加味すると、さらに厳しい状況になるでしょう。

図4は累積キャッシュフローの推移を示したものです。フルローンで金利上昇すると、累積キャッシュフローはピークでも1000万円に満たず、次第に目減りしています。これでは老朽化、劣化に対応した大規模修繕も難しくなるかもしれません。

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不動産投資信託(Jリート)の財務の健全性を測る指標の1つに「LTV: Loan to Value;負債比率」があります。不動産価格に占める借入金の割合です(※)。LTVの水準は、Jリートの平均で44.5%(一般社団法人不動産証券化協議会調べ)。裏返せば50%以上は自己資本になります。※リートの場合、1つの物件単位ではなく、組み込んでいる総資産に対する有利子負債全体の割合

個人オーナーの場合、運用方法の異なるJリートの「LTV50%以下」という指標をそのまま当てはめるのは、適切でないかもしれません。ただ、賃貸運営の健全性を保つなら、LTVは60~70%以内が安全圏と言えるでしょう。

図3の条件で、満室想定賃料(672万円)から期待利回り8%で収益還元価格を計算すると8400万万円。その60~70%は5040万~5880万円。建築総額7000万円で頭金2割であれば、借入金は5400万円ですから、安全圏の範囲に収まります。

もう1つ別の指標として、ローンの年間返済額が家賃収入に占める「ローン返済率」が50%以下という考え方もあります。同じく図3の条件で考えてみましょう。頭金2割では年間返済額は約315万円のため、ローン返済率は約47%となり、これも指標の範囲内です。

フルローンでは約60%。運営費が家賃収入の25~30%とすると、手残りは10%程度に過ぎません。金利上昇、家賃下落が起きてしまえば、途端に持ち出しになるリスクがあります。

金融資産に余裕があり、相続対策のためにあえてフルローンを選択するなど、置かれた状況や目的によってはリスクが低いケースもあります。一概にフルローンが問題とはいえませんが、上記のような試算も考慮した上で資金計画を立てることをおすすめします。

文/木村 元紀

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