賃貸アパート経営の手取り収入ってどのくらい?収入を増やすには?[資金・税金#3]

堅実な賃貸経営を続けるには、安定した手取り収入=キャッシュフローが確保されていることが大切です。計画段階で検討できる手取り収入を増やすための対策、工夫について紹介します。

支出を減らしてキャッシュフローを改善

キャッシュフローを増やす原理はシンプルです。「収入を増やす」か「支出を減らす」か、この2つしかありません。収入を増やす方法は、満室経営以上には増やせないため、難しいのが実情です。

土地のポテンシャルを引き出す最適な活用法を企画した段階で収入の上限は決まっています。そこで、ここでは支出を減らす方法を中心に解説しましょう。

支出削減のポイントは、「ローンの返済負担を軽くする」と「運営費を節約する」に分けられます。ローンは組み方次第でキャッシュフローを大きく左右するため、重要なポイントです。返済負担を軽減する方法は「自己資金を増やして借入金額を減らす」「金利を下げる」「返済期間を長くする」の3つです。

借入金額を減らせば返済負担も減るのはすぐに分かると思います。金利についても、わざわざ言われなくても、誰でも低金利を希望するはずです。ただ、「0.5~1%くらいの違いは大したことはない」などと、金利の違いを軽視している人もいます。

たとえば、7000万円を20年返済で借りた場合、金利が2%なら年間返済額(元利均等)は約425万円。もし、0.5%低い金利で借りられれば405万円になり、20万円軽減できます。20年間の総返済額では400万円もの差です。1%の違いなら年間40万円、総返済額では800万円に上ります。金利を1%低くできれば、大規模修繕の経費がある程度は賄えます。

低金利で借りるコツや自己資金の目安については、以下のページもご覧ください。

返済期間を延ばして劇的に手取りを増やす

賃貸アパート経営の手取り収入ってどのくらい?収入を増やすには?[資金・税金#3]2

返済負担を軽減する方法として、意外に見落とされているのが返済期間の長期化です。実は5年、10年の違いが返済額に大きく影響します。

たとえば、7000万円を2%で借りた場合、年間返済額は20年返済で約425万円。5年長い25年返済なら同356万円で約70万円のマイナスです。10年延ばして30年返済にできれば同310万円となり、115万円も軽くできます。返済期間を延ばすと総返済額は増えてしまいますが、賃貸運営中のキャッシュフロー改善効果が大きいことがポイントです。

ただ、アパートローンの返済期間は、耐用年数が上限に設定されているのが一般的。木造であれば22年、軽量鉄骨なら27年になります。木造アパートで30年返済にしたくても、通常は認められません。実は、これを合法的に伸ばす方法があります。「劣化対策等級」の2ランク以上を取得することです。

「劣化対策等級」というのは、品質確保促進法に基づく「住宅性能評価制度」の耐久性に関する項目です。等級1は「建築基準法レベル」、等級2は「2世代まで(50~60年程度)大規模修繕が不要なレベル」、等級3は「3世代まで(75~90年程度)大規模修繕が不要なレベル」とされています。

劣化対策等級2を取得すれば、木造でも返済期間を30年に設定できるケースが多いようです。等級3なら35年も可能とする金融機関もあります。

現在の木造住宅では、一般の工務店レベルでも等級2を取得するのは難しくありません。設計の見直しや申請費用がかかりますが、返済額軽減の効果で充分に相殺できます。

返済期間が22年と30年のキャッシュフロー(税引き後)の推移を試算してみました。借入金7000万円、年利2%でフルローンの場合です(図1参照)。

賃貸アパート経営の手取り収入ってどのくらい?収入を増やすには?[資金・税金#3]2

22年返済では、当初からキャッシュフローが100万円以下の不安定な状態が続きます。さらに、設備の減価償却が15年で終わって税額が急に増える境目の“デッドクロス※”を過ぎると、キャッシュフローがマイナスに転落。

ここでは、金利上昇や家賃下落を織り込んでいませんが、こうしたリスクが顕在化すれば、かなり厳しい経営状態になるでしょう。自己資金を増やすか、さらに低金利のローンに組み替えるなど、資金計画の抜本的な見直しが必要になってきます。

一方、30年返済であれば、デッドクロスを超えてもキャッシュフローがプラスに保たれるため、家賃上昇や家賃下落リスクにも対応する余地があります。図2のキャッシュフローの類型金額の推移を見ると、22年返済と30年返済、その8年の違いで非常に大きな差が出ることが分かるでしょう。

賃貸アパート経営の手取り収入ってどのくらい?収入を増やすには?[資金・税金#3]2

ただし、建物本体の減価償却が終わり、22年返済のほうが返済終了すると、状況は逆転します。30年返済の場合は、それまでにリノベーションや大規模修繕などを行うなど、再投資をして収支を改善する対策が必要です。

22年経過時点で、30年返済は22年返済よりもキャッシュフローの累計が2000万円以上も多くなります。この潤沢なキャッシュフローをきちんと積み立てておけば、様々な対策が打てるでしょう。

※デッドクロス:実際の支出を伴わない減価償却費の計上金額よりも、経費にならず実質的な支出となるローン元金の金額が逆転する状態。所得税が急増し、キャッシュフローが悪化するポイントの1つ。

運営費節約のポイントは維持管理費・保険料・修繕費

支出を減らすもう1つのポイントである「運営費の節約」は、維持管理費・保険料・修繕費の見直しに集約できます。

まず、維持管理費は管理方式によって大きく異なります。委託手数料の相場は、サブリースで家賃収入の15~20%、全面委託管理で同5%前後。自主管理は委託費用がかかりません。賃貸ニーズが確実に見込めるエリアでは安易にサブリースに頼らず、管理委託費を抑えるようにしましょう。

委託管理でも、漫然と相場の5%前後を支払うのではなく、管理会社が具体的にどのような対応をしているか、支払う金額に見合った内容かをチェックして、不要な部分を削減して委託費を低減できるように交渉することが大切です。

中にはほとんどの業務を外注先に丸投げしているケースもあるので注意が必要です。

2021年6月に賃貸住宅管理業法が施行され、管理委託契約の際に、管理内容の詳細を重要事項説明で開示することが義務付けられました。複数の管理会社の明細を比較し、内容を精査した上で委託先を決めましょう。

管理委託費の中で清掃業務の比重は小さくありません。土地活用の対象地にオーナーが住んでいるなら、清掃業務を自分で実施することで大幅に節約できます。あるいは、消防関係設備、エレベーターなどの定期点検は、メンテナンス専門会社を変えることでコストを抑えられることが珍しくありません。

管理会社にすべてお任せではなく、オーナー自身で対応できるところは自分で行う部分委託にするだけでも、支出は抑えられるでしょう。

保険料と修繕費については、以下のページを参考にしてください。

文/木村 元紀

あわせて読みたい
よく読まれているノウハウランキング
  • 動画でわかる!賃貸経営 | 【オーナーズ・スタイル・ネット】で賃貸経営