賃貸アパート・マンション経営で検討したい保険の種類と特徴[資金、税金#12]

賃貸アパート・マンション経営のリスクをカバーしてくれるのが損害保険や生命保険です。予測できない自然災害による被害から設備の故障や事故まで、賃貸経営の回復力を高めるための保険を紹介しましょう。

加入必須の火災保険、補償メニューを選択できる

アパート・マンション建築にあたってローンを利用した場合は、住宅用火災保険への加入が必須条件です。金融機関によっては、一定の保険料割引制度を受けられる火災保険を用意している場合もあります。ローンを検討する際に併せて確認しましょう。

図1.火災保険の補償対象の分類

対象:建物のみ、家財のみ、建物と家財

A 火災、落雷、破裂・爆発
B 風災、雷やひょうによる損害
C 水災(床上浸水等)
D 建物外部からの物体の飛来・落下・衝突
給排水設備の故障、事故などによる水漏れ
盗難による盗取・損傷・汚損
騒擾(集団行動を伴う破壊行動など)による暴行・破壊
E 不測・突発的・偶発の事故による破損、汚損など

 

住宅用火災保険の補償対象は、図1の通りです。「火災保険だから、火災の被害しか補償されない」と思っている人も多いようですが、補償対象は意外に幅広いことを再確認しましょう。うまく活用すれば、様々な損傷や故障などを保険金で賄うことも可能です。

従来は、これらの補償対象をすべて含めたパック型商品がほとんどでした。現在は、何を補償対象に含めるかをセレクトできるようになっています。建物が置かれている状況や予算に応じて上手くメニューを組み合わせれば、保険料の節約も可能です。

たとえば、自然災害のA~Cだけに絞ったミニマム・タイプ、A~CにDの事故や盗難などを含めた標準タイプ、さらにプラスアルファのオプションを付けたタイプなどです。基本のA~Cのうち水災については、高台で河川が近くにないなど、水災の恐れが低い場合は補償対象から外すオプションを設けている保険会社もあります。

洪水や土砂災害の危険がある地域を示したハザードマップで確認してみましょう。国土交通省のハザードマップポータルサイトで調べられます。

また、マイホームの場合は、建物に家財をセットにした契約が一般的です。アパート・マンション経営では、室内の損害や家財を対象にした補償は入居者が加入する住宅総合保険でカバーされるため、建物全体に関係する部分に限定した契約で充分でしょう。

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保険料は構造と地域で決まる

保険料は、建物の構造と地域、契約方式によって変わります。M構造は、集合住宅の区分マンションを対象にしたタイプ。T構造は、鉄骨系や木質系のプレハブ、2×4工法などの一棟タイプ。H構造が、それ以外の木造タイプです。

「M構造<T構造<H構造」の順で保険料が高くなります。図2の通り、M構造とH構造では、2倍以上の差があることが分かります。

図2.建物の構造と契約方法で違う火災保険料
構造級別 建物の種類 保険料
(東京都・建物保険金5000万円)※
1年契約 5年契約
・年払い
5年契約
・一括払い
10年契約
・一括払い
M構造
(マンション構造)
区分マンションなど 223,000 207,500 196,300 198,400
T構造
(耐火構造)
鉄骨造、省令準耐火の木造(2×4工法、木質パネル系プレハブ) 272,000 253,000 239,200 242,400
H構造
(非耐火構造)
非耐火の木造 503,000 467,500 442,500 446,250

※保険料が変わらないものとして10年間に支払う合計金額に換算
※「損保ジャパン」の保険料試算シミュレーションを基に、各種条件設置の上で試算したもの

さらに同じ地域・構造でも、契約期間と支払い方法によっても保険料が違います。短期契約より長期契約の方が安く、年払いより一括払いの方が安くなるのが一般的※。

なるべく長期の契約にした方が割安になるわけです。2021年現在、最長10年の契約まで可能ですが、2022年から最長5年までに短縮される可能性があると報道されています。最新動向に注意しましょう。

※図2では、5年契約・一括払いの方が10年契約・一括払いより安くなっています。この試算では10年間保険料が変わらないものとして、10年間の総支払い額に換算して表示してあります。現在、保険料は値上がりする傾向にあり、5年契約で、6年目に再度5年契約をする際に値上がりしている可能性が高く、実際には10年契約にしておいたほうが安くなるかもしれません。

なお、保険金の設定方式には「時価」と「新価」の2タイプがあります。時価方式は、保険金が支払われる時点の経過年数に応じた金額が補償されるもので、新たに建て替える費用までは賄えません。

新価方式の方は、いつでも新築時に設定した保険金額が全額補償されるため建て直せます。現在は新価方式が主流ですが、念のため両者の違いを理解しておきましょう。

地震保険は任意で火災保険とセット加入

火災保険は幅広い被害に対応していますが、地震による火災や延焼の被害は補償されません。そのため、地震や津波などに備えるためには、地震保険への加入も必要です。

地震保険は任意加入ですが、日本では全国どこでも地震被害を受けるおそれがあるため、加入しておいた方が賢明でしょう。なお、地震保険は単独では加入できず、主保険の火災保険とセットで契約する形になります。

保険金額の設定は、火災保険の契約金額の30~50%の範囲内で、建物は5000万円、家財は1000万円が限度です。地震保険で支払われる保険金は、図3の通り。建物の損害状況に応じて細かく設定されています。

図3.損害の程度と地震保険の支払い保険金額の割合
損害程度の認定基準 支払保険金
建物 家財
主要構造部の損害額/建物時価 焼失・流出した床面積/延床面積 家財の損害額/家財時価 地震保険金額に対する割合
全損 50%以上 70%以上 80%以上 100%
大半損 40%以上50%未満 50%以上70%未満 60%以上80%未満 60%
小半損 20%以上40%未満 20%以上50%未満 30%以上60%未満 30%
一部損 3%以上20%未満 床上浸水等※ 10%以上30%未満 5%

※全損・半損に至らず、床上浸水または地盤面から45㎝超の浸水を受けた場合

全損の保険金は、地震保険の契約金額の100%です。ただ、元々の契約金額が火災保険の50%以内に制限されているため、建て替えの費用には及びません。そのため「十分な補償が受けられない」ため、加入に消極的な声もあるようです。

しかし、現実には「加入しておいて良かった」という声も少なくありません。こうしたギャップは、下記のような壊れ方のイメージに加えて、行政と保険会社による認定基準の違いが1つの要因です。一般の人のイメージは、行政による被害認定の状況に近いと思われます。

行政の場合、建物の部位ごとの破壊状態を細かく調べて、「全壊/大規模半壊/半壊/半壊に至らない」の4つに分類します。「全壊」は、建物がほぼ倒壊して機能を失った状態、つまり一見して建て替えが必要な状況でしょう。

賃貸アパート・マンション経営で検討したい保険の種類と特徴[資金、税金#12]2

一方、保険会社の調査では、主要構造部の損傷箇所を積み上げてカウントするか、床面積の割合を出すか、いずれかの方法で、「全損/大半損/小半損/一部損」の4つに分類されます。住宅としての機能は保たれていて建て替えの必要がない状態でも、主要構造部の損害が一定数を上回れば「全損」と認定されます。

この場合は、建物金額の50%の保険金が出れば十分に補修可能でしょう。「半損」でも補修費用を保険金でカバーできたケースは珍しくありません。こうした実情を踏まえて地震保険に加入するか否かを判断しましょう。

なお、地震保険は国が再保険引き受け先となり、複数の損保会社が共同運営しているため、商品内容はどの保険会社でも同じで保険料も変わりません。

また、地震保険の対象になる建物は、専用住宅か併用住宅に限られます。住宅以外の店舗や事務所の専用ビルの場合は、店舗総合保険で「地震危険補償特約」の付いた商品を検討しましょう。

大家さんが入ってつけておくと安心な特約

火災保険には、様々な特約があります。その中で、アパート・マンション経営のオーナーとして検討する価値がある特約を紹介しておきましょう。

①施設賠償責任特約

建物や施設の構造上の欠陥や維持管理の不備が原因で、人がケガをしたり、物が壊れたりしたときに損害賠償請求をされた場合の損害を補償します。

外壁タイルが劣化して落下したり、塀が倒れたりして、居住者や通行人が障害を負った場合や、駐車場のクルマに損害を与えた場合などが想定されます。

人身事故では億単位の賠償請求があり得ますので、検討してみると良いでしょう。支払い限度額1億円でも保険料は数千円と比較的低い割に、高額な補償が得られるのが特徴です。

建物管理者賠償責任特約、賃貸建物所有者賠償特約とも言われ、火災保険への付保ではなく、単独で扱っているケースもあります。

②家賃収入特約/家賃費用特約

家賃収入特約は、火事や台風の被害を受けて、復旧する期間中に家賃収入が得られない場合の損害を補償するもの。

家賃費用特約は、自殺や犯罪、孤独死などによって入居者が死亡した場合に、清掃・脱臭などの原状回復や遺品整理に関わる死亡事故対応費用、家賃の値引きや空室期間中に得られなかった家賃収入を補償するものです。

なお、アパートローンを借りる場合は、契約者が亡くなったり高度障害になったりしたときに、保険金で残債を返済できる「団体信用生命保険」に加入できます。ただし、相続税対策のために負債を作る場合は加入しないのが一般的です。

文/木村 元紀

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