[資金・税金#6]生前贈与を行うメリットと注意点とは

相続対策の1つに「生前贈与」があります。相続税の課税対象になる財産を減らしつつ、子孫に残す財産を増やす戦略です。生前贈与を上手に進めるうえで活用できる仕組みと、実践する際の注意点を紹介します。

贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」がある

生前贈与は有効な方法ですが、使い方を間違えると、かえって相続税を増やしかねません。まず贈与税の基本を押さえておきましょう。

贈与税は、個人から無償で財産をもらった人に課される税金です。他人同士はもちろん、親子間でも免除されません。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの課税方式があります。

1.暦年課税

1年間に贈与を受けた財産の価額から110万円の基礎控除を差し引いた残額に、図1の税率を掛けて計算します。受贈額が110万円以下の場合は、贈与税はかかりません。1年単位で計算されるため「暦年課税」と言われます。

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税率は、実の親や祖父母などから18歳以上(※)の子や孫などが贈与を受けた場合の「特定贈与」と、それ以外の関係での贈与に適用される「一般贈与」で異なります。特定贈与のほうが、少し税率が低めです。
※2022年3月31日までの贈与は20歳以上。成年年齢の引き下げに応じた措置。

とはいえ、相続税に比べると非常に厳しい累進税率です。どちらも最高税率は55%ですが、相続税は6億円超で適用されるのに対して、贈与税の場合は、一般贈与で3000万円超、特定贈与でも4500万円超で最高税率に達してしまいます。

贈与税の高い税率区分は、相続税を回避するために生きているうちに子や孫へ財産を与えるのを防ぐために設けられている面があるようです。

2.相続時精算課税

実の親や祖父母などから成人した子や孫などに贈与する場合に選択できる制度です。累計で2500万円までは無税、この非課税枠を超えた分についても一律20%の課税となります。

贈与する財産の種類や回数は問いません。使い道も自由です。非課税枠の2500万円は、贈与者ごとにカウントするため、父母と各祖父母それぞれから贈与を受けた場合は合計6人分、1億5000万円まで非課税になります。

そして、贈与した人が亡くなった場合に、それまでに贈与した財産を相続財産に加算して相続税を払います(支払い済みの贈与税額は控除される)。つまり、相続時に贈与した財産が精算されるわけです。

贈与する親や祖父母は原則として60歳以上、贈与を受ける子や孫は18歳以上(※)であることが必要です。ただし、贈与を受けた財産を住宅取得資金に使う場合は、贈与者の年齢制限はありません。

さらに、最後に説明する「住宅取得等資金贈与の特例」との併用も可能です。省エネ等住宅を取得する場合は、相続時精算課税の2500万円、住宅取得等資金贈与の特例の1000万円の合計3500万円までが非課税になります。
※相続時精算課税を選択した2500万円分は相続時に相続財産に加算する必要があるのに対して、住宅取得等資金贈与の特例を使った1000万円分は相続財産への加算は不要です。

生前贈与戦略①少しずつコツコツ財産を移転する

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たとえ親子間でも、無計画に財産をまとめて贈与してしまうと、贈与税も多額になります。相続財産を上手に減らす生前贈与の基本は、「暦年課税」の基礎控除110万円の枠を活用して、少しずつ時間をかけて財産を移転すること。10年で1100万円を無税で贈与可能です。

コツコツ型の生前贈与をする際に注意したいのが、「連年贈与」です。連年贈与というのは、10年間で1000万円贈与する約束をして、毎年100万円ずつ贈与するケースを指します。

この場合、年間の贈与額が基礎控除の110万円より少なくても、あらかじめ総額1000万円分の10年満期の「有期定期金」をもらう権利を得る契約をしたものとみなされて、1000万円に対して贈与税がかかるおそれがあるのです。

あらかじめ一定の資金を贈与する予定ではなく、たまたま100万円ずつ贈与して、結果として10年で1000万円になるようなケースは、本来「連年贈与」ではないはずですが、税務当局がどう解釈するかわかりません。

連年贈与の認定を避けるには、下記のような手続きをしておきましょう。

・贈与契約書を結び、贈与者と受贈者の双方が自ら署名捺印する
・資金が贈与者から受贈者へ移った証拠を残す。現金の場合は、受贈者名義の預金通帳などに振り込み、本人が通帳と印鑑を管理し、お金の使用や処分ができる状態にしておく
(いわゆる「名義預金」は不可)
・贈与する金額、時期を同じにしない
・基礎控除の110万円を少し超える金額を贈与し、申告して贈与税を収める

なお、暦年課税で生前贈与した財産のうち、贈与した人が亡くなる前3年以内の分については、相続財産に加算されてしまいますので、なるべく早めに時間をかけて実行する必要があります。

生前贈与戦略②特例を使って、一度に多額の資金を移転

暦年課税を使った生前贈与は時間も手間もかかります。これに対して、図2のような用途を限定した非課税特例を活用すれば、1000万円単位の財産を一度にまとめて移転することが可能です。

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これらの特例は用途の制限に加えて、一定の要件に適合しなければなりません。主な条件は下記の通りです。

1.住宅取得等資金贈与の特例

[受贈者]年齢が18歳以上。所得税に係る合計所得金額が2000万円以下(取得する住宅の床面積が40m2以上50m2未満の場合は1000万円以下)

[手続き等]贈与を受けた年の翌年3月15日までに貰った資金の全額を充てて住宅を新築したり購入したりして、かつ所有して居住すること

[住宅要件]登記簿上の床面積が40m2以上240m2以下で、床面積の1/2以上が居住用

2.教育資金の一括贈与の特例

[受贈者]年齢が30歳未満。所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下

[手続き等]資金口座の開設などした上で、金融機関の営業所などを経由して、非課税申告書を所轄税務署長に提出すること

[使途要件]教育資金に該当するかどうかの詳細は略(国税庁HP等を参照)

3.結婚・子育て資金一括贈与の特例

受贈者の年齢制限が「20歳以上50歳未満」になる以外は、おおむね教育資金と同様です。

これらの非課税特例を使って贈与した財産は、相続開始前3年以内でも相続財産に加算する必要はありません(※)。贈与した時点でほぼ完結できるため、相続時の心配が不要な点がメリットです。
※教育資金と結婚・子育て資金の場合は、被相続人の死亡時に使いきれない分など、一部は相続財産に加算される。

相続時精算課税で生前贈与する際の注意点

相続時精算課税制度も、贈与税をかけずに一度にまとまった資金を移転できる仕組みです。

ただし、相続対策としての生前贈与に活用する場合にはネックがあります。非課税枠の2500万円以内であれば、贈与した時点では贈与税はかかりませんが、贈与した分は将来の相続財産に戻ってしまう点です。つまり、原理的に相続財産の削減にはなりません。

もともと相続時精算課税制度は、高齢者が貯め込んでいる資産を若者層に移転することを促し、積極的にお金を使ってもらい、経済を活性化することを目的に創設されました。贈与税や相続税を軽減する特例ではありません。必ずしも恩恵があるとは限らないわけです。

この点を踏まえた上で、活用する際には次の点に注意しましょう。

・一度選択すると暦年課税には戻れません。暦年課税の年間110万円の基礎控除も適用されなくなります。贈与税がかからなくても申告が必要です。

・ 相続時に加算される財産は、「贈与した時点の価額(時価)」で計算されます。価値が上がる可能性があるもの(土地や株式など)を贈与すると、結果的に相続税が軽減されます。一方、価値が下がるもの(建物など)を贈与すると、相続税が増えるおそれがあります。

・収益を得られる賃貸物件などを生前贈与しておくと、贈与した人の財産の増加を抑える効果も期待でき、相続人が将来支払う相続税の納税資金も準備できます。

なお、用途を限定した非課税特例にしても相続時精算課税にしても、特定の相続人にかたよった贈与をしてしまうと、将来、相続争いを招きかねません。長期的な視野に立ち、公平な遺産分割についてよく吟味した上で実行することをおすすめします。

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