節税対策を立てる前に知っておきたい相続税の計算方法[資金・税金#5]

土地活用の目的の多くは相続税対策です。アパート・マンション建築が効果的と言われますが、そもそも、どのくらいの税金を軽減したいのでしょうか。節税対策の前提となる相続税額を割り出す仕組みを解説します。

相続税はこうして計算する

日本の相続税は、財産をもらった相続人に支払う義務があります。そして、誰がいくらもらったかによって負担する税額が変わって来るわけです。「法定相続分課税方式」と呼ばれ、欧米の方式とは異なっています。

イギリスやアメリカでは、被相続人の遺産全体(分割前)に課税される「遺産課税方式」。納税義務者は被相続人(※)です。

ドイツやフランスでは、遺産を分割した後に相続人がもらった分に応じて課税される「取得課税方式」。日本では、この2つの方式が絡み合った折衷案のようなスタイルです。
※被相続人は亡くなった人のため、実際の納税手続きは、遺言がない場合は財産管理人、遺言がある場合は遺言執行者が行う。

相続税の総額は「遺産課税方式」のようなかたちで計算し、各相続人が納付する税額は「取得課税方式」で算出します。しかも、途中で「法定相続分」というルールを介在させているため、計算方法が非常に複雑になっている点が否めません。

ただ、順を追って進めれば、誰でも計算できます。基本的な流れは図1の通りです。

節税対策を立てる前に知っておきたい相続税の計算方法[資金・税金#5]2

1.相続財産=遺産の総額を把握する

相続税の対象になる財産は金融資産だけでなく、不動産から貴金属、書画骨董、自動車のような固定資産、ゴルフ会員権や営業権などの権利に至るまで、およそ経済的価値に換算できるものはすべて含まれます。

さらに、亡くなった被相続人の遺産とは異なりますが、被相続人の死亡保険金や死亡退職金も「みなし相続財産」としてカウントされます。

加えて、相続時精算課税制度の対象となった贈与財産、相続開始前3年以内に生前贈与された財産も加算されてしまうのです。

漏れのないように、すべての財産を棚卸しして整理しておきましょう。その際、財産の種類によって評価方法が異なることが、節税対策のキーポイントになります。

特に不動産は、市場で取引されている実勢価格と相続税評価額の間にギャップがあり、評価額が大幅に減額される小規模宅地等の特例を始め、さまざまな軽減措置も認められています。

2.課税価格の合計額を出す

相続財産から次の項目を差し引き、「課税価格」を出します。「正味の遺産」とも呼びます。

・非課税財産:墓地や仏壇。死亡保険金や死亡退職金の非課税枠(「500万円×法定相続人数」)
・葬式費用
・債務(借入金、買掛金、未払い金、アパートの預かり敷金・保証金など)

マイナスの財産である債務を差し引くことを「債務控除」と呼びます。

3.基礎控除を引いて課税遺産総額を計算する

課税価格の合計額から相続税の基礎控除「3000万円+600万円×法定相続人数」を差し引きます。この金額がマイナスになった場合は、相続税申告の必要はありません。

他の税目であれば、これに税率を掛けて税額を出すのが一般的。ところが相続税の場合は、ここで「法定相続分」に“仮想分割”するという回り道をします。実際の分割方法とは関係ありません。

節税対策を立てる前に知っておきたい相続税の計算方法[資金・税金#5]2

法定相続分は、民法で図2のように家族・親族を単位に決まっています。配偶者は常に法定相続人です。その他の親族は1番から3番まで順位が決まっていて、上の順位の親族がいない場合に下位の親族に順番が回って来ってきます。

仮に、課税価格が1億2000万円で、相続人が妻と子ども2人なら、基礎控除は「3000万円+600万円×3人=4800万円」。

課税遺産総額は7200万円になります。法定相続分は妻が3600万円、子どもが1800万円ずつになると仮定するわけです。

4.相続人ごとの税額を合計、相続税の総額を算出

次に、法定相続分に分けた金額ごとに、図3の速算表を使って税額を計算します。ご覧のように、遺産額が多いほど税率が高くなる超過累進税率です。

節税対策を立てる前に知っておきたい相続税の計算方法[資金・税金#5]2

前記の例では、妻「3600万円×20%-200万円=520万円」、子ども1人「1800万円×15%-50万円=220万円」ずつになります。

これで終わりではありません。法定相続人ごとの税額を再び足し合わせて相続税の総額を算出するのです。この例では960万円になります。

5.相続人ごとの納付税額を確定する

相続税の総額を基に、相続人が実際に相続した価格に応じて割り振ります。

たとえば上の例で遺産の1億2000万円を三頭分して4000万円ずつ相続するとすると、「960万円÷3」で、妻と子どもの税額は320万円ずつ。ここから各種の税額控除などを適用します。

妻の分は配偶者の税額軽減を使えば、実際の納付額はゼロです。また、子どもの分も、小規模宅地等の特例でゼロになるケースもあるでしょう。

⇒相続税の税額控除について詳しくは*「資金・税金」編第36番

相続税額に合わせて身の丈に合った対策を

相続税の計算に当っては、他にも遺留分、寄与分、特別受益者、代償分割といった細かい規定があるため、正確な税額を知るには税理士によるアドバイスが必要です。

とはいえ、図1の計算の流れがわかれば、概算の金額を把握することはできます。その上で、改めて大掛かりな相続税対策が必要かどうか、冷静に考えてみましょう。

実は、2015年頃から「相続税の大増税の時代」と言われ、アパート・マンションを始めとする相続税対策が大流行しました。実際、それによって大いに節税効果が上がったオーナーもいるでしょう。

その一方で、対策が必要なほどの相続税がかからなかったケースも珍しくありません。

たとえば1億円程度の遺産であれば、基礎控除や各種税額控除、特例を活用すれば、ほとんど相続税はかからないか、かかっても数十万円程度で納まる可能性があります。手持ちの預貯金で充分に払える金額だったわけです。

それにもかかわらず、数十万円の税金を節約するために無理をして億に近い借り入れをして、アパート・マンション建築をした結果、同じ地域の賃貸マーケットに供給過剰を招き、空室が増えてローン返済に苦労している例もあります。

また、相続対策のポイントは節税だけでなく、分割や納税とのバランスも重要です。節税に偏りすぎて、かえって分割しにくい財産になり、相続争いを招いてしまうケースも少なくありません。想定される相続税額を踏まえて、等身大の相続対策を考えるようにしましょう。

文/木村 元紀

よく読まれているノウハウランキング
関連するセミナー・イベント
  • 動画でわかる!賃貸経営 | 【オーナーズ・スタイル・ネット】で賃貸経営