賃貸アパート・マンション経営におけるサブリースの仕組みと注意点[プランニング#4]
空室や家賃滞納の心配がなく一定の家賃収入を得られるサブリース。賃貸経営の知識や経験の乏しいオーナーにとっては有効な仕組みですが、デメリットも少なくありません。利用する際の注意点を紹介します。
サブリースとは?「家賃保証」ではなく「また貸し前提の賃貸借」
アパート・マンションの新築にあたって、建築会社やハウスメーカーから「30年間一括借り上げ」「長期家賃保証」といった勧誘が併せて行われるのが一般化しています。「30年間一定の家賃が保証されるシステム」と勘違いしているオーナーもいるかもしれません。しかし、多くの会社が「家賃保証」とうたっている契約形態の実態はサブリースです。
サブリース(sublease)とは、直訳すると「転貸」という意味で、平たく言えば「また貸し」のことです。つまり、サブリース会社が、オーナーからアパート・マンションを一棟丸ごと借り上げて、1室ずつ転貸する仕組みです(図1参照)。
サブリース会社とオーナーとの契約は、正式には「マスターリース契約(転貸を目的にした賃貸借契約)」、または「原賃貸借契約」や「特定賃貸借契約」とも言われます。サブリース会社が個々の入居者と結ぶのが「サブリース契約=転貸借契約」です。
サブリース会社は、家賃を保証する機関ではなく、いわば法人の賃借人と言えます。そのため、借地借家法の保護を受けているわけです。
サブリース契約は、賃貸借の契約期間が通常より長期に設定され、「契約書に設定された通り、一棟分の家賃を支払います」という取り引きに過ぎません。
サブリースにトラブル多発?!「サブリース新法」が施行
しかし、実態と異なる宣伝や勧誘が多く、オーナーとのトラブルに発展するケースが絶えなかったために、2021年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(通称「賃貸住宅管理業法」)が制定されました。
同法は、任意だった「賃貸住宅管理業の登録制度」を義務化したことに加え、初めて「サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約」に関する法的規制を導入したため、“サブリース新法”とも言われます。ポイントは以下の3点です。
賃貸住宅の工事請負、収益物件の売買の際にサブリース契約を勧める建築会社、不動産会社を「勧誘者」と位置づけ、法規制の対象に
オーナー側のリスクに触れず、サブリース事業のメリットのみを謳う広告・勧誘を禁止
家賃減額リスク、期間中解約リスクなどの重要事項について、サブリース会社(特定転貸事業者)が、契約に先立ってオーナーに書面を交付して説明することを義務化
以上の点を踏まえて、改めてサブリースの特徴、利用する際の注意点を紹介しましょう。
サブリースのメリット・デメリットは?利用する際の注意点
サブリースのメリットとデメリットは図2の通りです。
家賃収入は安定。ただし、収入はやや低め。減額リスクもあり
サブリースの最大のメリットは、サブリース会社が一棟全体の借り上げ家賃を長期契約で払うため、部屋ごとの空室リスクがない点です。
アパート・ビルダーやハウスメーカー系のサブリース会社の場合は、10年から35年の長期契約が一般的。投資用ワンルームマンションを扱う不動産会社系のサブリース会社では、2年ごとに更新する短期契約が多いようです。
ただ、長期契約といっても、あくまでも契約期間が最大30~35年に及ぶだけで、借り上げ家賃の水準がずっと一定というわけではありません。
たとえば30年契約でも、家賃の固定期間は当初5~10年で、その後2年ごとに見直すケースも多いのが実態です。中には、投資用物件と同様に、最初から2年ごとに見直す例もあります。家賃固定期間の有無や改定のサイクルについては契約時に確認するようにしましょう。
サブリースにも空室リスクがある
サブリースだからと言って、空室リスクがまったくないわけではありません。サブリース会社が長期間にわたって借り上げて家賃を払うといっても、転貸した入居者は途中で入れ替わります。
新たな入居者が入るまでに空白期間が発生するわけですが、そのうち一定期間を「免責期間」として、家賃支払い対象から外す取り決めをしているケースが一般的。
新築時の当初1~3カ月だけを免責期間としている会社もあれば、入居者が入れ替わる度に数週間~1カ月程度の再免責期間を設定しているケースもあります。家賃収入に少なからず響くため、やはり契約内容のチェックが必要です。
礼金や更新料はサブリース会社に
借り上げ家賃の水準は、相場家賃からサブリース会社の手数料分の10~20%を差し引いた金額です。自主管理や委託管理の場合よりも、賃料収入は目減りしてしまいます。礼金や更新料などの一時金も、オーナーの手に渡らず、サブリース会社が徴収することになっている点もデメリットの1つでしょう。
管理会社との間でマスターリース契約を結ぶため、オーナー自身は入居者募集から賃貸管理まで一切手間がかかりません。オーナーは、全てのやりとりが管理会社との1対1の関係になり、個々の入居者との関係がないというではサブリースに近く、収入が運用実績に左右されるという点では委託管理に近いと言えるでしょう。
ちなみに、ビル管理の分野では、委託管理とサブリースの中間形態で「パススルー型サブリース」という形式もあります。通常のサブリースが一棟分の家賃総額を予め設定して支払うのに対して、パススルー型サブリースの場合は家賃総額が決まっていません。
オーナーとの間で一括借り上げのマスターリース契約を結ぶものの、転貸した入居者から得られる家賃収入に応じてオーナーに支払う形式。つまり、運用実績に左右されるわけです。
パススルー型サブリースの手数料は委託管理の5%と、通常のサブリースの10~20%の中間で、5~10%程度と言われます。アパート・マンション経営で採用されるはまだ少ないと思われますが、管理会社にサービス・メニューの有無を確認してみるといいでしょう。
負担の少ない賃貸経営をしたいなら東急住宅リース
最大のメリットは「運営管理の手間から解放」。しかし、中途解約リスクあり
サブリースの本当のメリットは、運営管理の実務をプロに任せられる点だとも言われます。サブリース会社との間では、マスターリース契約と併せて賃貸管理の委託契約も結ぶのが一般的。
そのため、オーナーは入居者の募集からトラブルやクレーム対応、建物・設備の清掃・点検などの手間がかりません。「賃貸経営の知識やノウハウのない素人でも大家さんになれる」というのは、あながちウソではないわけです。
ただ、維持保全の手間から一切解放されるとは言えません。サブリース会社によって、カバーする対象や内容などが異なります。
費用負担についても、設備故障の修理や小修繕まではサブリース会社の負担で、原状回復リフォームはオーナーが支払うなど、様々です。契約書で詳しく確認しておく必要があるでしょう。
任せきりにしない!オーナーも賃貸経営の知識が必須
また、賃貸経営の苦労を経験せず、知識やノウハウを学ばないまま、サブリース会社に任せきりになることは、隠れたリスクを膨らませていると言えるかもしれません。
たとえば、新築時は周辺相場より少し高めの家賃でも満室が維持できても、5年、10年と築年が古くなるにつれて、賃貸市場での募集家賃は下がり、空室も目立ち始めます。
その頃に、家賃減額交渉が始まったり、中途解約されてしまったりするリスクがあるのです。賃貸経営の舵取りが難しくなる時期にサブリース契約を解除されてしまうと、何の知識もないまま荒野に放り出されてしまうことに等しいでしょう。
サブリースを依頼するにしても、アマート・マンションのオーナーとして賃貸市場の動向や運営管理状態を常に把握しながら、自分なりに経営感覚を磨いておくことが必要です。
サブリース契約書で確認するポイント
サブリースの契約書についてのチェックポイントを図3に整理しました。国土交通省が公表している「サブリース住宅原賃貸借標準契約書」も参考に、理解を深めておきましょう。
文/木村 元紀
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