賃貸アパート・マンションの修繕、足場を組んだら一度に修繕した方が良いの?[豆知識#5]

大規模修繕と言えば足場が欠かせないと言われますが、本当に足場は必要なのでしょうか。また外壁や屋上防水などの修繕は併せて実施するほうがいいのでしょうか。足場の種類、コストなどの基礎知識を解説しましょう。

「高所作業、養生、安全」足場が必要な3つのポイント

足場を組んでいるマンションやアパートを見ると「何かの補修中」と想像がつくでしょう。建物全体を養生シートで覆われている場合は、たいていは外壁全体の補修、塗り替えを行う大規模修繕です。

外壁補修の見積もりを依頼すると、必ず「仮設工事=足場(+養生)」の金額がセットで計上されてきます。工事費全体の1~2割を占めることも珍しくありません。では、これだけのコストがかかる足場は、大規模修繕には必須なのでしょうか。

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「無足場工法で仮設費用を削減」といった宣伝文句も見かけられます。屋上からゴンドラやロープを吊って作業するのが「無足場工法」です。必ずしも設置しなくてもよいなら、節約したいと考えるオーナーもいるでしょう。実際に大規模修繕を実施している工事会社や職人の声をもとに考えてみます。

そもそも足場というのは、建物の外周りにかかわる修繕工事を行うときに、高いところで作業を行うための足掛かりとして設ける構築物です。一時的に設置して、作業が終わった後に撤去されるため、「仮設工事」の一種に含まれています。

足場を設置する目的は、次の3つです。

1. 高所作業を効率的に行い、施工精度を高めるため。
2. 職人(作業員)と入居者の安全確保のため
3. 養生シートをかけて塗料などの飛散を防止するため。

それぞれについて解説します。

高所作業の効率と施工精度

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足場をかける1番の目的として挙げた「高所作業のため」というのが、もっとも基本的なポイントでしょう。単に「地上からは手の届かないところで作業する」だけなら、無足場でも良さそうですが、作業効率や仕上がりにも関係するところがポイントです。

①作業効率

外壁塗り替えでは、「ケレン(古い塗料の剥離)・洗浄→養生→下地調整→プライマー(下塗り・接着剤)→中塗り→上塗り(トップコート)→仕上がり検査・手直し」のように、5~6段階の工程があります。1つの工程で壁面全体が一巡したら、また元に戻って次に工程に移ることを繰り返すわけです。

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養生は、塗料を避ける部分のテーピングや、ビニールシートなどでカバーする作業です。下地調整では、外壁に損傷がある場合に「補修→シーリング充填→平滑化」といった一連の作業を行います。細かく分けると10行程近くになるかもしれません。

同じ場所に、時間をあけて何度も行ったり来たりするため、作業台のある足場は欠かせないと言えるでしょう。

また、ゴンドラ方式では基本的に左右への移動が難しい(※)ため、上下移動をした後に横位置を移し替える作業(「盛替」という)があります。工程数が多い場合は、純粋な塗装作業以外の待ち時間が増えるため、足場よりも高コストになる場合もあるようです。

※屋上に水平レールを設置して横移動ができる方式もあるが、設備がおおがかりになり、コストも高くなる。

②施工精度

塗装工程では、ある程度の力を入れて壁にローラーを押し当てて行います。圧力のかけ方によって塗料の量や厚みを調整しますから、しっかりした足場がないと作業員の体勢が安定せず、メーカーが指定した規定の品質が保てないという声が少なくありません。ゴンドラはブランコのように前後に揺れるからです。スプレーガンによる吹き付け工法もありますが、ローラー工法のほうが耐久性は高いと言われています。

高さの問題だけであれば、屋上から吊り下げるゴンドラやロープでも作用は可能です。しかし、上記のように作業効率、施工精度の両面から考えると、足場を設けたほうが有利といえるでしょう。

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高さの問題だけであれば、屋上から吊り下げるゴンドラやロープでも作用は可能です。しかし、上記のように作業効率、施工精度の両面から考えると、足場を設けたほうが有利といえるでしょう。無足場工法が向いているのは、1つの箇所につき1~2回で済む作業です。

例えば、タイル・サイディングの目地や窓まわりのシーリング(コーキング)、部分的な漏水の補修・点検、緊急処置が必要な現場などの工事です。

その他、足場がかけられないケースでもゴンドラ方式が採用されています。隣地が接近して足場の設置する余地がない場合、1~2階部分に商業施設があり足場をかけにくい場合、超高層建物などが考えられるでしょう。現場の状況や工事内容に応じて使い分けることが大切です。

安全と環境への配慮

足場をかける2番目の目的は安全面です。これは作業員と入居者の2つの側面があります。

足場に関しては、手すり・中桟・巾木・ネットの設置、安全帯(いわゆる命綱)の使用など、労働安全衛生規則などに基づいて設置することが義務付けられています。また、足場の高さが10m以上かつ設置期間が60日以上になる場合は労働基準監督署に足場設置計画を届け出なければなりません。こうした法令に基づいて設置されていれば、作業員の転落、資材や工具の落下などを防げると期待できるでしょう。

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安全対策は、作業員だけでなく入居者への配慮も兼ねています。大規模修繕工事は、入居者が生活をしながら作業をしなければなりません。足場の設計に当たっては、住民が建物を出入りする時に危険が及ばないようにする動線対策、壁面と足場の間に工具や資材の落下防止用のラッセルネットの設置などが行われます。

事故が起きれば、トラブルや工期の遅れにつながり、ひいては入居者募集にも響きますから、オーナーにとっても安全対策は大切です。

最後に、環境・近隣対策の面もあります。足場の周りにはメッシュ状のシートが張り巡らされているのが一般的。これは養生シートの一種で、塗料や洗浄用の水滴の飛散防止が目的です。隣接地の人家や駐車場などからのクレームを軽減します。

以上のように、大規模修繕工事において足場は要の1つと言えるかもしれません。

足場3タイプの特徴とコスト

足場の主な種類は図1の3タイプ。中高層までの賃貸住宅ではクサビ式のシェアが高いようです。一般に足場代は、組み立て、修繕工事中にレンタルし、撤去するまでをセットにした費用で、足場の種類や施工面積によって異なります。

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種類によるコストは、低い順に「単管足場<クサビ式緊結足場<枠組足場」。同じ種類でも、階数が高いほど高額になります。例えば、同じタイプの賃貸マンションで、階数だけが違う場合を比較してみましょう。

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足場代の計算式は概算で「施行面積×単価」で計算できます。足場の施工面積は「(建物外周+8メートル)×高さ」です。図2に、住戸数と延べ床面積が同じで、建物の形状が異なる2棟を比較してみました。

a)は間口が広い低層の建物。b)は間口の狭い中層の建物です。結果は、b)のほうが3割近くも、施工面積が広くなっています。

この施工面積に単価を掛け合わせると、足場代が出ます。建物が高層になるほど荷重が増すため部材の強度も高くなり、施工の手間がかかるうえに、安全対策の費用もかさむため、足場代の単価も高額になるのが一般的です。

仮に、クサビ緊結式足場で低層が1平方メートル当たり1,200円、中層が1,500円だとすると、図2のa)は約58万円、b)は約95万円となり、bはaの1.6倍になります。

外壁の面ごとに足場を組む分割施工も問題ない

分譲マンションの大規模修繕では、建物全体に足場をかけて外壁修繕や屋上防水などをまとめて実施するのが一般的です。そのため賃貸マンションやアパートでも「足場をかけるなら、建物全体をまとめて修繕したほうが良い」と推奨する修繕会社も少なくありません。

しかし、アパートの切り妻屋根の塗り替えや葺き替えでは足場をかけたほうが安全といわれますが、マンションの屋上やバルコニーの防水工事には必ずしも足場は必要ありません。外壁でも、共用廊下の壁面塗装には足場が不要です。

予算に応じて分割施工することも可能ですし、外壁を面単位で分割して施工すると足場代がかさむこともありません。「足場が必要だから」というのは、一括施工の合理的な理由とは言えないわけです。劣化状態に応じて、必要な部位ごとに足場を組むことも選択肢の1つとして頭に入れておきましょう。

もっとも、分割施工には注意点もあります。修繕を実施した外壁面としない面の違いが目立ってしまう可能性があり、入居希望者の内見の際に外観の印象が下がるおそれがあることです。少なくとも外壁やエントランスやエレベータホールなどの共用部分の内壁は、まとめて塗り直したほうがイメージアップにつながります。賃貸経営の視点から、予算と相談しながら検討するのがベターです。

文/木村 元紀

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