大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]

新築や建て替えを依頼する建築会社の情報はあふれていますが、賃貸住宅の修繕については「どこに頼めばいいのか迷う」「頼み方がわからない」という大家さんも少なくありません。この記事では、賃貸アパート・マンションの修繕工事を思い立ったとき、初めにどこにアプローチ接触すればいいかを解説します。

施工会社を選ぶ前に。大規模修繕3つの発注方式の違いを知る

建物の修繕なら「まずは賃貸住宅を新築した元の会社に相談するのが筋」と思いがちです。しかし、これは必ずしも正しいアプローチとは言えません。「建築と修繕は別の技術」という指摘もありますし、最初の窓口になるのが建築系の会社になるとは限らないからです。

そこで施工会社選びに入る前の予備知識として、発注方式の違いについて知っておきましょう。大きく分けると「設計監理方式」「責任施工方式」「管理会社一任方式」の3つのタイプがあります。それぞれの内容とメリット・デメリットは以下の通りです。

1.設計監理方式

大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2
大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2

設計コンサルタントに現地調査(劣化診断)・改修設計・施工会社の選定協力・工事監理・検査を依頼し、修繕工事は施工会社に発注する方式。設計監理と施工を分離するのがポイント。

◎メリット
・施工会社に関する客観的な評価を基に、実力を比較して選定できる。
・統一仕様書による見積り合わせを行い、内容チェックもしてもらえる。
・競争原理が働きやすく、工事費の削減につながる。
・中立的な視点による工事監理ができ、品質チェックも期待できる。

◎デメリット
・修繕工事費の他に、調査費や設計監理料、コンサルティング費が別途かかる。
・賃貸住宅の修繕に精通した専門家が少なく、選定に手間がかかる。
・つながりのある特定の施工会社に誘導されるおそれもある。

2.責任施工方式

大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2
大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2

自ら選定した施工会社に、設計から施工、工事監理、検査までを一括して発注する方式です。

◎メリット
・設計施工を一括で頼むため、修繕工事費以外の費用がかからない
・交渉次第で、修繕費を抑えられる可能性がある。
・施工技術に合わせた修繕設計の検討ができる。

×デメリット
・オーナー自身で施工会社を選ぶに当たって、設計や施工能力の評価に迷う。
・見積もり書のフォーマットがバラバラで、専門的知識がないと比較検討できない。
・工事監理、検査も施工会社が行うため、チェックが甘くなるおそれがある。

3.管理会社一任方式

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賃貸管理やメンテナンスを頼んでいる管理会社に、施工会社の選定・調査・設計・施工・工事監理、検査まで、すべてをまとめて任せる方式。

◎メリット
・設計会社、施工会社の選定を任せられるため、オーナーの手間がかからない。
・工事中の苦情処理、入居者対応も含めて、日常管理の窓口と一本化できる。
・工事終了後のアフターフォローも管理窓口と同じなため、連絡がしやすい。
×デメリット
・管理会社とつながりのある施工会社に外注されるのが一般的で、他の会社と比較検討できない。
・競争原理が働かず、管理会社の中間マージンも発生するため、工事費が高めになるおそれがある。
・客観的な工事監理、検査がされないおそれがある。

建物の規模で最適な発注方式が変わる

大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2

発注方式を選び方は、建物の種類や規模と関係している傾向があります。分譲マンションの場合、全体の約8割前後が設計監理方式です(※)。規模が小さくなるほど責任施工方式を採用する割合が高くなり、総戸数20戸以下で設計監理方式と責任施工方式が半々くらいになります。

※国土交通省『令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査』

建物が小規模で修繕工事費の金額も小さいと、設計コンサルタントに対する報酬が負担になるためです。設計コンサルタントへ報酬に決まりはありませんが、規模にかかわらず設計図や仕様書を作成する手間は変わらないため、最低でも100万円を超える金額になるでしょう。

設計コンサルタントに相見積もりのチェックをしてもらうことで、修繕費を抑えられる可能性は高まります。ただ、そうなると、工事費の総額が1,000万円に満たないと、経費倒れになってしまうかもしれません。

設計コンサルタントへの報酬が過大と感じる場合は、建物診断や施工会社が提出した見積りチェック、工事の節目での現場チェックなど、必要最小限の第三者チェックを依頼する「ポイントコンサル」という方法もあります。

コンサルタントを選ぶ時の注意点

大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2

設計コンサルタントを選ぶ際には、次の点に注意してください。設計事務所やコンサルティング会社は、新築の設計やアドバイスを中心にしているケースが多いため、改修設計のノウハウや実績を持つところを探すことが大切です。

改修設計に長けていても、分譲マンションが専門というケースが少なくありません。賃貸経営の視点も備えているかどうかを確認しましょう。

また、設計と施工を分離することで競争原理を働かせ、中立的なチェックをしてもらえるのが設計監理方式のメリットの一つです。

しかし、すべての設計コンサルタントが第三者目線で客観的なアドバイスをしてくれるとは限りません。特定の施工会社と組んで多額のマージンを乗せ、割高な工事費を取る例も指摘されています。類似物件の受託事例を紹介してもらい、その施主に評価を聞くなど、実力や取り組み姿勢を見極めましょう。

小規模な賃貸住宅なら責任施工方式が一般的

戸数の少ないアパートの場合、多くは責任施工方式か管理会社一任方式になるでしょう。どちらを選ぶかは、大家さんの価値観次第。施工会社選びの手間をかけてもコストを抑えたいなら前者、多少高くても楽をしたいなら後者が向いていると言えます。

管理会社に一任すれば、通常業務の一環として物件の入居状況や家賃相場を把握しているため、マーケットに合ったリノベーションを盛り込んだ修繕設計を提案してくれる期待もあります。ただ、これは管理会社の実力や営業姿勢次第でしょう。

大規模修繕をする前に知っておきたい「発注方式」の違いとは[会社選び#3]2

分譲マンションの管理会社は、新築時のデベロッパーやゼネコンの系列のケースが多く、初めから長期修繕計画に基づいた大規模修繕のサポートを業務として行っています。しかし、賃貸住宅の管理会社の多くは、家賃収納代行や入居者対応、日常メンテナンスといった賃貸管理業務に専念し、大規模修繕の提案は積極的にしていません。

建築や修繕に関する知識やノウハウがあり、大家さん目線でコンサルティングをしてくれる管理会社は少数派ですが、優良な施工会社の選定、品質を保ちながらコストを抑えた大規模修繕に導いてくれる可能性もあるでしょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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