マンションの大規模修繕、「賃貸」と「分譲」で何が違う?[基礎知識#4]

「マンションの大規模修繕」といえば、分譲マンションに関する情報があふれています。しかし、賃貸マンションの大規模修繕には、分譲とは違ったアプローチが必要です。分譲と賃貸の違いについても知っておきましょう。

大きな違いは「複数の所有者がいる」分譲マンションと「ワンオーナー」の賃貸マンション

マンションを外から見ただけでは、分譲か賃貸かはわかりません。構造も設備も、修繕の対象となるハード面では違いがないわけです。分譲と賃貸の違いは、図1のように、所有関係と工事の進め方にあります。

簡単に言うと、分譲マンションは複数の所有者がいて多数決で進めるのに対して、賃貸マンションはワンオーナーで、オーナーが単独で決められることです。

図1:大規模修繕に関わる分譲と賃貸の違い
種別 分類 所有者 意思決定 大規模修繕
分譲マンション 区分所有建物 複数の区分所有者 管理組合(多数決)+理事会 共用部分のみ(専有部分は区分所有者が個別に実施)
賃貸マンション 1棟建物 オーナー単独 オーナー単独 共用部分(+専用部分もオーナーが実施)

 

なぜ、このような違いが出てくるかというと、分譲マンションの所有権が区分所有法という独自の法律で決められているからです。少し複雑になりますが、基本的な部分なので押さえておきましょう。

※なお、この記事では、分譲マンションを区分所有建物、賃貸マンションを1棟建物と分類しています。投資家向けに個別に分譲するワンルームマンションは、全体が賃貸マンションですが、上記分類では、区分所有建物と同様と考えてください。

1棟建物の賃貸マンションは、土地も建物もすべてオーナーが所有しているので、建物をどう修繕するかを考え、意思決定するのもオーナーが単独で行えます。これに対して分譲マンションの場合は、図2のように、所有関係が「専有部分」「共用部分」「敷地」の3つに分かれていて、それぞれ位置づけが違うのです。

マンションの大規模修繕、「賃貸」と「分譲」で何が違う?[基礎知識#4]2

専有部分は、構造上独立して区分された室内空間を指します。いわゆる「〇〇号室」と呼ばれる住戸の内部です。厳密には、壁紙などの内装材、建具や間仕切り壁、住宅設備なども含みます。ここを単独で所有して売買したり、リフォームしたりできる権利を区分所有権と呼びます。

この専有部分以外のエントランス、エレベータ、廊下、階段などはすべて共用部分。住戸に付随したバルコニー、鉄筋コンクリートでできた壁・床・天井などの構造躯体も共用部分です。

共用部分は区分所有者全員の共有になっています。1人ひとりの区分所有者は、専有面積割合に応じた共有持ち分しか持っていません。敷地についても共有となります。

大規模修繕の対象は、この区分所有者で共有している共用部分と敷地です。そして、いつどんな大規模修繕をするかを決められる意思決定権は、区分所有者全員で結成された管理組合にあります。

ちなみに、管理組合で決定した項目を執行するのは区分所有者から選抜された理事会です。会社で言えば、管理組合が株主、理事会が経営陣と言えるでしょう。大規模修繕の場合は特別に修繕委員会が組織されるケースもあります。

分譲マンションと賃貸マンションの大規模修繕、それぞれのメリット・デメリット

マンションの大規模修繕、「賃貸」と「分譲」で何が違う?[基礎知識#4]2

所有者が複数か単独か、大規模修繕の実施にあたって、どちらが良いかは一概に言えません。それぞれにメリット・デメリットの両面があります。

分譲マンションで大規模修繕を行うメリット

複数の区分所有者で修繕費を分担するので、1人当たりの負担が軽くなります。建物の規模によって数千万円~数億円もかかる大規模修繕ですが、1戸当たりの負担は数十万円から100万円程度の単位です。

しかも、分譲マンションは、最初の販売時点から修繕積立金が設定されており、管理費と併せて半ば強制的に支払う形になっているのが一般的なので、自分で意識的に準備する必要はありません。

分譲マンションで大規模修繕を行うデメリット

複数の区分所有者がかかわるため、意見調整に時間がかかることです。いつどういう形で実施するか、資金はいくらかかるか、どこに依頼するか、すべての議題について何度も話し合い、異なる意見をまとめていかなければなりません。

通常の大規模修繕の場合は、管理組合の過半数で決められます。最終的に、自分の考えとは異なる内容で工事内容や費用が決まってしまうケースもあるでしょう。

賃貸マンションで大規模修繕を行うメリット

ワンオーナーなので意思決定に手間取らず、大規模修繕の時期やかけるコストも大家さん自身でコントロールできます。

そもそも土地活用や不動産投資を何のために行ったのか、その目的によっても大規模修繕の内容は変わってくるでしょう。賃貸住宅の経営者の立場で、独自に判断できることが最大のメリットと言えます。

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また、分譲マンションでは、外壁塗装や屋上防水などの工事は一度に実施するのが一般的です。足場が必要な工事をまとめて行うという面もありますが、話し合いに時間がかかるので、頻繁に修繕できないという制約もあります。

賃貸マンションは、大家さんが単独で決められますから、一度にまとめて修繕するのではなく、何回かに分けて修繕することも不可能ではありません。例えば、劣化の進んだ外壁南面を際に緊急施工して、北面や内壁はあとで塗り直すといったこともできます。

賃貸マンションで大規模修繕を行うデメリット

多額の大規模修繕費の負担も、オーナー単独になることです。資金をどのように用意するか、オーナー自身で検討して準備していかなければなりません。

また、修繕計画の検討から施工会社の選定など、すべてオーナーが対応する必要があり、手間と時間がかかります。適切な時期に適切な修繕を適切な金額で行えるかどうかは、オーナーの取り組み姿勢によって大きく左右されると言えるでしょう。

分譲と賃貸が混在した区分マンションに投資する際の注意点

さて、ここまでは分譲マンションか賃貸マンションかの2つに分類して解説してきました。

しかし、分譲マンションは、自分が住むためのマイホームだけとは限りません。企業が社員や役員の社宅用に購入したり、マイホームとして購入した後に転勤などの理由で一時的に転貸したり、さまざまな形で賃貸化するケースもあるでしょう。初めから投資目的で購入するケースもあります。

図3は、1棟の分譲マンションのうち賃貸住戸の割合を示したグラフです。賃貸戸数が0%、つまり100%マイホームのマンションは1割強しかありません。

全体の4分の3(約75%)は賃貸されている住戸があり、築年が古いほど賃貸割合は高くなっています。築10数年までの比較的新しいマンションでも、賃貸戸数が0%なのは2割強。1割は20%超が賃貸にされています。

図3:マンションの賃貸戸数割合
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このように居住用と賃貸用が混在している分譲マンションは、大規模修繕の際に注意しなければならないポイントがあります。

それは、マイホームとして自ら住んでいる所有者と賃貸運用している大家さんとの意識の違いです。マイホーム・オーナーは、自分が快適に住み続けるために居住環境を改善することには前向きに考えます。資産価値を維持するために、大規模修繕にコストをかけることは必要だと認識し、多少の修繕積立金の値上げも受け入れる人は多いでしょう。

また、昨今の分譲マンションは、購入時の負担感を減らすために、修繕積立金を低めに抑えて設定される傾向にあります。つまり、購入した後から徐々に増やしていく段階増額積み立て方式を採っているケースが少なくありません。マイホーム・オーナーはこうした増額も許容した上で購入していると考えられます。

一方、賃貸オーナーは、費用対効果を考えます。あくまでも賃貸経営であり、入居者確保につながる範囲での改善をし、なるべく経費は抑えたいと考えるでしょう。

また、不動産投資として5年後、10年後の出口(売却)を想定しているなら、無駄な資金は投下したくないと思うるのが一般的。修繕積立金の段階的な増額が経営を圧迫する可能性もあります。

マンションの大規模修繕、「賃貸」と「分譲」で何が違う?[基礎知識#4]2

 

つまり、どのような修繕をするか、いくらぐらいコストをかけるかについて、マイホーム・オーナーと賃貸オーナーとの間で利害が一致しない可能性が高いと言えます。

さらに、マンション所有者の状況も変化します。分譲マンションの永住志向は次第に強まっており、築年が古くなるほど高齢者の割合も高まる傾向があります。

定年退職して年金暮らしになった高齢者は、生活費以外の修繕費などの負担力が低下し、修繕費の増額に難色を示すケースも出てくるようです。これに対して、賃貸オーナーの中には、集客力アップのためには、費用対効果が期待できるなら修繕費を値上げしてでもグレードアップの改修を望む人もいるでしょう。ここでも利害が一致しません。

こうしたケースを想定し、投資目的で区分所有の分譲マンションを購入する際には、大規模修繕や計画の進行状況、修繕積立金の残高や値上げ予定などを事前に確認することが大切です。

国土交通省を始め、自治体などから出されているマンションの大規模修繕に関するガイドラインやマニュアル類は、ほとんどは分譲マンション向けに作られています。修繕周期の目安なども、分譲マンションを前提に作られているのが一般的です。

こうしたノウハウは必ずしも1棟タイプの賃貸マンションやアパートを持つオーナーに当てはまるとは限りません。本シリーズでは、ワンオーナー向けを想定しています。具体的なノウハウについては各記事を参考にしてください。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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