アパート・賃貸マンションで大規模修繕をするメリット・デメリット[基礎知識#3]

「大規模修繕をしても、入居率アップや家賃維持につながらない」という大家さんの声もよく耳にします。本当に効果がないのでしょうか。今回は、大規模修繕を実施するメリット・デメリットを具体的に紹介します。

大規模修繕に期待できる効果とメリット

大家さんが大規模修繕をためらう理由のひとつに、「コストをかけても効果が薄く、経費倒れになる」「メリットがない後ろ向きの出費になるだけ」といった見方があります。これは、実際に修繕した上での結論というより、聞きかじりの知識や先入観に基づいたマイナス・イメージと言えるかもしれません。

大規模修繕をした経験のある大家さん、修繕済み物件の賃貸管理を受託している管理会社、双方の声を聞いてみれば、実際に効果があるかどうかわかるでしょう。その答えが図1です(「計画修繕」は中小修繕と大規模修繕を含めて計画的に実施すること)。

図1:計画修繕について、オーナーが感じる実施効果と管理会社が考える賃貸経営上のメリット
アパート・賃貸マンションで大規模修繕をするメリット・デメリット[基礎知識#3]2

出典:国土交通省「民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査検討報告書」(2017年3月)を基に作成

大家さんが実際に感じた効果の1位は「家賃水準の維持」、第2位は「高い入居率の確保」です。冒頭に紹介した否定的な意見が見事に払拭されています。しかも、即効性のある効果です。

一方、管理会社のほうは、1位に「長期に渡る住宅性能の維持」が入り、次いで「高い入居率の確保」と「周辺物件に対する競争力の向上」が同率2位に挙がっています。築年が古くなっても、高い住宅性能が維持されていれば競争力が高くて集客しやすいことを、現実のマーケットの中で管理会社は実感しているようです。

大家さんは、家賃水準と入居率というダイレクトに収支にかかわる数値に着目し、管理会社は、市場ニーズと入居者募集のプロセスにおける集客力に重きを置いて考えていると言えるでしょう。

この他、少数意見ですが、修繕費の経費計上による節税効果、融資を受ける際に有利に働く点も、計画修繕のメリットとして取り上げられています。

大規模修繕のデメリット

大規模修繕には、プラスの効果だけがあるわけではありません。大家さんによってはデメリットと感じる要素もあるでしょう。例えば、次のような点が挙げられます。

1.修繕工事の範囲が広いため、多額の資金が必要

建物の構造や規模にもよりますが、外壁補修や屋上防水などの建物全体に及ぶ大規模修繕には、数百万円から数千万円単位の費用がかかります。資金的な余裕のない大家さんにとっては、最大のネックになるでしょう。

2.資金力によってリフォーム融資も検討

大規模修繕に充てられる手持ち資金がない、あってもキャッシュを取り崩したくない大家さんの場合は、金融機関の融資を検討することも必要です。新築時のローンが残っていれば、ダブルローンになり、収益を圧迫する可能性もあります。

3.工事期間が長く、入居者トラブルの種になりやすい

外壁補修では、建物の周囲に足場を組んで養生シートで被うため、入居者がベランダに出られない、洗濯物を干せないなど、生活上の制約が発生してストレスを与えます。しかも、工事期間が1か月から数カ月に及び、騒音や塗料の飛散などにより、入居者や周辺住民とトラブルにつながるおそれもあるようです。

これらのデメリットは、事前の資金準備や工事の進め方の工夫によって軽減したり、予防したりできます。むしろ、こうしたマイナス面を回避するために、大規模修繕を先延ばしにして劣化を放置してしまうほうが、将来的なリスクを増幅するでしょう。

大規模修繕「負のスパイラル」と「ポジティブ・サイクル」

大規模修繕を実施しないリスクとは何でしょうか。図2のような「負のスパイラル」に陥るおそれが高いと言えます。

アパート・賃貸マンションで大規模修繕をするメリット・デメリット[基礎知識#3]2

築年数が経てば、ただでさえ競争力は落ちます。そこで、資金的な余裕がないことを理由に修繕を先延ばしにしていると、劣化の進行は確実に進みます。外観が古びた印象になるだけでなく、傷や汚れが目立ち始め、部屋探しのユーザーから選ばれにくくなるでしょう。

居住環境が悪化して既存の入居者の退去も誘発され、空室が増加。再募集の費用がかさむ上に、部屋を埋めるために家賃を下げれば収益は一層悪化します。

手元資金が不足して、本当に必要な修繕費も確保できません。修繕できなければ、ますます老朽化はひどくなります。こうした悪循環を繰り返しながら、果ては人が住めない廃墟になりかねません。

資産価値も自ずと下がります。ここまで事態が悪化してから元に戻そうとすれば、当初の大規模修繕に必要な資金以上に莫大なコストがかかる可能性があるのです。

アパート・賃貸マンションで大規模修繕をするメリット・デメリット[基礎知識#3]2

 

これに対して、大規模修繕を含む計画修繕を適切に実施することは、前述したように、家賃水準を維持し、高い入居率を確保できる効果があります。資金的な余裕ができれば、時代のニーズに合わせたグレードアップの改修もできるでしょう。資産価値も維持できます。負の連鎖を断ち切り、長期安定経営につながる「ポジティブ・サイクル」に転換できるわけです。

計画修繕は、人間の健康管理と似ているかもしれません。定期的に健康診断を受け、病気の早期発見・早期治療をしたほうが、病状が悪化してから大手術をするよりも、治療費は抑えられ、身体への負担も軽くなります。

建物も、劣化が進む前に予防的に手を入れるほうが、トータルの修繕コストは抑えられ、構造躯体への影響も少ないため長持ちするというわけです。

「何年もたせるか?」大家さんの意向で修繕コストのかけ方は変わる

アパート・賃貸マンションで大規模修繕をするメリット・デメリット[基礎知識#3]2

 

大規模修繕は多額の費用がかかることがデメリットのひとつと指摘しましたが、実は、賃貸経営では、大家さんの意向によって修繕コストの掛け方は調整できます。この点が分譲マンションの大規模修繕との違いです。

分譲マンションの場合、基本的には建物の寿命を全うすることを前提に、長期修繕計画に従って必要な大規模修繕をもれなく実施するのが常識です。賃貸経営は必ずしも、こうした発想に立つ必要はありません。

大家さんが、現在の賃貸住宅経営を継続する意思があるのか、ある場合は何年ぐらい運用し続けたいのかによって、修繕すべき部位や施工仕様、コストのかけ方が変わって来るのです。

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例えば、塗料にもグレードがあり、耐久性能が7~8年のタイプから15年保証のタイプまで様々。当然、長持ちするほど単価は高くなります。大家さんが、10年以内に売却を考えているなら、7年保証のローグレードの塗料で充分かもしれません。

施工する部位も、建物全体ではなく、緊急性の高い部位、外観の見栄えに影響する部位などに絞っても良いでしょう。賃貸経営という観点でいえば、こうした考え方も十分に合理的と言えます。

相続対策を視野に入れている場合は、大家さんの意向だけでなく、次世代の意向も考慮に入れる必要があります。賃貸住宅経営を引き継ぐ後継者候補はいるのか、他の用途に転換する余地を残すのか、納税資金用に売却しやすい状態にするのか、などなど。それによって修繕計画も変わって来る可能性があることを意識しておきましょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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