大規模修繕の施工方式の違いとは?種類、特徴、メリット・デメリットを解説[基礎知識#10]

長期間に渡って建物設備の修繕を計画的に行う方法には、「一括施工方式」と「分割施工方式」の2つのタイプがあります。どのような違いや特徴があるのか、メリット・デメリットを含めて解説しましょう。

賃貸住宅の計画修繕は「大規模」とは限らない

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大規模修繕に関する国土交通省の定義は、次の2点が要件になっています。

1.建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事

2.全面的な外壁塗装等を伴う工事

つまり大規模修繕とは、建物全体に対する外壁塗り替えが必ず含まれ、その他の屋上防水や鉄部塗装など、異なる部位の修繕も併せて行う工事ということになります。

いわゆる区分所有建物の分譲マンションでは、ほぼこの定義に合った「一括施工方式」が採用されていると言えるでしょう。そのため、他の施工方式を選択する余地はありません。

一方、ワンオーナーで所有する一棟建物の賃貸マンションに関しては、必ずしもこの定義に当てはまらない工事を行うケースが珍しくありません。外壁塗装だけ、あるいは屋上防水だけの工事もありますし、外壁塗装も建物全体ではなく南面や西面など特定の壁面だけを対象にするケースもあります。

先の大規模修繕の要件にある「複数の部位」と「全面的な外壁塗装」を含まず、「単独の部位」だったり、「外壁塗装なし」や「部分的な外壁塗装」だったりするわけです。これを「分割施工方式」と呼びます。

「一括施工方式」と「分割施工方式」の違いは図1の通りです。

図1:計画修繕を進める2つの施工方式
一括施工方式 分離施工方式
施工方法 あらかじめ作成した長期修繕計画に基づき、修繕周期の近い共用部分の修繕工事をまとめて実施。建物全体の大規模工事になる。 建物診断の実施後、修繕が必要な共用部分から優先して施工する修繕計画を作成し、何度かに分けて順番に修繕工事を実施する。
契約期間 修繕工事を行う都度に完結する工事請負契約 一定期間(15年など)続く総合メンテナンス委託契約
修繕費の

支払い方法

通常の工事請負契約と同様に、工事完了時までに全額を支払う(手付金、中間金などもある) 契約期間中の工事費総額の一部(20%程度)を最初に払い、残りを均等に分割して毎月定額で支払う

 

次に、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。

一括施工方式は分譲マンションのスタンダード

現在の分譲マンションでは、デベロッパーが販売する際に最初から長期修繕計画を立てて、修繕積立金を設定しているのが一般的です。その中で、12~15年目に第1回目の大規模修繕が予定され、外壁補修・塗り替え、屋上防水工事などがだいたいセットで含まれています。

つまり、一括施工方式が予定として組まれているわけです。20~30年以上前から分譲マンションのスタンダードな方式として定着してきました。

理由は、次のような点が挙げられます。

1.工事の段取り
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中高層マンションでは、外壁塗装や屋上防水工事を行う時に、通常は足場の設置が必要になります。

仮説工事の中心になる足場の設置費用は、工事費全体に占める割合が1~2割と大きいため、異なる工事を行う度に何度も足場を組みなおすより、一度足場を組んだら複数の工事をまとめて実施したほうがコストを抑えられるという考え方によるもの。

2.区分所有者の合意形成
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分譲マンションでは大規模修繕を実施するに当たって、大勢の区分所有者(管理組合員)の意見を調整するのに時間がかかります。

工事の数年前から準備を始め、修繕計画の立案と内容の検討、工事事業者の選定など、1つ1つ議論を重ねなければなりません。そのため、中短期の期間に何度も行うよりも、修繕周期が近い工事をまとめて検討して合意を形成したほうがスムーズに進むため。

3.建物診断・修繕設計のコスト
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総戸数が50~100戸を超えるような大型物件の場合は、長期修繕計画の中に劣化診断や修繕設計をコンサルタントや設計事務所に依頼する費用もあらかじめ織り込まれています。

客観的な資料や設計図面を作成した上で、区分所有者全員にじっくり検討してもらう必要があるからです。外部専門家に対する報酬も小さくないため、なるべく複数部位の大規模修繕の事業として依頼するほうがコストも抑えられます。

ちなみに、総戸数が20~30戸以下の小型の賃貸マンションやアパートで修繕を行う場合に、こうした外部専門家に依頼すると、工事費に占める報酬の割合が高くなって経費倒れになりかねません。

「一括施工方式」のメリット・デメリット

◎メリット

✓外壁からロビーやエントランスなどの内壁、共用廊下や階段の防水層まで一度にきれいになるため、建物全体が一新して、新築並みに見違えるようになる。

✓初期性能を回復する修繕であれば、工事の大小・費用の多寡を問わず、修繕費として単年度の経費に算入できる(建物の付加価値を高める資本的支出になると、固定資産の減価償却扱い)。

✓賃貸住宅なら入居者募集時に「大規模修繕済み」のPRができる。

×デメリット

✓一度に多額のコストがかかる。十分な修繕積立金がなければ借り入れが必要。

✓コストを抑えて効率的に施工する意識が乏しく、ついでにアレもコレもと工事費が膨らみやすい。また傷みが軽い部位のフライング修繕、適切なタイミングを逃した出遅れ修繕の両方の工事が混在する可能性も。

✓工事期間が長期に及び、バルコニーの使用ができないなど、生活に支障が出る。

「分割施工方式」は低負担で継続メンテナンス付き

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修繕が必要な部位から順番に手を入れていく分割施工方式は、賃貸住宅に対する計画修繕の重要性が指摘され始めた10数年前から始まった、比較的新しい方式です。

もともと賃貸マンションでは、建設会社が長期修繕計画をあらかじめ設定して、計画的な修繕を提案するケースはほとんどありませんでした。そのため、築年が古くなって不具合が目立ち始めてから、「そろそろ外壁の補修や塗り替えが必要ではないか」と気づき、ようやく腰を上げるパターンが多かったのです。

資金的な余裕がない大家さんの場合は、解体して建て替えるケースも多かったでしょう。かつての人口増加時代は“貸し手市場”だったため、それでも成り立ったわけです。金融機関も大規模修繕に対する融資には後ろ向きでしたが、建て替えの場合は土地を担保に積極的に融資をしてくれました。

しかし、2000年代半ばから人口減少社会に入り、賃貸需要も衰えて“借り手市場”になると、地域によっては、安易に多額のローンを組んで建て替えても採算が合いにくくなってきました。

きちんと修繕しながら長持ちさせたほうが好ましいという傾向に変わってきたわけです。こうした中で、修繕資金を準備していない大家さんでも大規模修繕に取り組める方法として登場したのが「分割施工方式」です。図2に、この方式で修繕工事をする場合のイメージを示しました。

図2:分割施工方式の補修工事とメンテナンスの計画・実施イメージ
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※国土交通省『民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック』を参考に作成

いつ、どこの工事をすればいい?「分割施工方式」の計画の立て方

まず、建物の劣化診断をして、今後10~15年程度の間にどのように修繕していくべきか、戦略を立てます。緊急に修繕が必要な部位、すぐに着手しなくてもいいが早めに対応したほうが良い部位、5~6年以降でも大丈夫な部位など、優先順位を決めるわけです。

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外壁も周囲全部を一度に施工する必要はありません。陽射しが当たって劣化の進みやすい南面や西面など、面単位で工事すれば、足場代が余計にかかることはないからです。バルコニーや屋内壁など足場不要の箇所もあります。

なお、2階建てアパートに多い切妻屋根(傾斜屋根)の場合、屋根防水には足場が必要なため、併せて外壁塗り替えをするのが合理的なため、あまり分割施工には向きません。

このような修繕計画を立て、部位ごとの修繕工事の間は、請け負った事業者が継続してメンテナンスも行います。

定期的な点検を行い、必要に応じて計画していた部位の工事を前倒ししたり、後回しにしたり、調整も可能です。契約は、10年なり15年間の総合メンテナンス契約。支払いは、トータルの工事費を月単位で均等に割った定額払いです(緊急工事が必要な場合は当初一時金払いも併用)。分割払い方式をとっているケースもあります。

実は、劣化状態に応じて順番に工事をして行くほうが、建物本体のメンテナンスの観点で理にかなっているという指摘もあります。支払いも低額で均等のため、大家さんにとってメリットは大きいでしょう。この分割施工方式は、「定額制メンテナンス」とも言われます。

分割施工方式のメリット・デメリット

分割施工方式のメリット・デメリットは次の通りです。

◎メリット

✓資金不足でも、負担の軽い定額払いで、すぐに修繕に取り組める。

✓過剰修繕、出遅れ工事を防ぐことができ、定期的メンテナンスも受けられる

✓均等払いで経営が安定、月々の費用は全額経費計上できる(税務署の判断による)

✖デメリット

✓部位ごとに分割施工するため、建物全体のイメージ一新になるとは限らない。

✓対応する事業者が少ないため、比較検討しにくい。

✓分割施工の対象部位は外装のみ、給排水などの共用設備は対象外

以上を参考にして、ご自身の希望・物件に合った施工方式を選んで、大規模修繕の成功につなげましょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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