アパート・賃貸マンションの大規模修繕を依頼する会社の選び方とは[会社選び#1]
「そろそろ大規模修繕を検討したい」と思いながら、「どこに頼めばいいのかわからない」「どんな会社があるの?」と迷っている大家さんは少なくないかもしれません。そこで、修繕の施工会社の種類について解説します。
大規模修繕の施工会社は4種類
賃貸管理を委託している大家さんなら、最初に相談するのは管理会社という人が多いでしょう。普段から管理会社に建物設備の保守点検を頼み、不具合があれば補修してもらうため、日常管理の延長線上で管理会社に接触するという流れです。
管理会社が工事部門を担う子会社を持っているケースもあるため、建物や設備の専門性やノウハウがあると思うかもしれません。しかし、賃貸住宅の管理会社が関わるのは原状回復の内装リフォームが中心。外装の大規模修繕には直接タッチしていないケースも多く見受けられます。
そのため、提携関係のある修繕会社を指定されるのが一般的です。その会社が、大家さんの希望する修繕工事に対応してくれるとは限りません。適切かどうかは大家さん自身で見極める必要があります。
自主管理の場合は、そもそも大家さんが施工会社を選定しなければなりません。いずれにしても、どんな会社があり、どうアプローチすればいいかを知っておくことが大切です。
大家さんが選ぶ場合に、想定される施工会社には図1のようなタイプがあります。それぞれの特徴や良しあしについて解説しましょう。
総合建設会社 | マンション・ビルの新築、設計施工・工事監理から、公共建設物の保全工事まで総合的に手がける。施工は専門工事会社に外注 |
住宅メーカー・アパートビルダー | 木造・軽量鉄骨系のアパート新築を中心に請け負う。修繕も窓口として請け負うが、施工は系列の協力会社に外注 |
工務店 | 住宅の新築や内外装のリフォームを手掛ける。戸建て中心、内装リフォーム中心など実績や得意分野が異なる |
大規模修繕専門会社 | 主に大規模修繕を請け負う専門会社。外壁補修・屋上防水などの塗装系が多い。マンション限定の場合とアパートも対応する場合がある |
1.総合建設会社~大型マンション向き
大型のマンションやビルの建設から、公共建築の保全・再生まで、幅広く請け負う総合建設業の会社です。いわゆる“ゼネコン”と呼ばれています。
設計監理と施工を請け負いますが、実際に工事をするのは下請けの塗装会社や防水工事会社です。
ゼネコン本体のスタッフはエンジニアとして技術指導を行い、設計図書通りに工事が進んでいるかを「工事監理」し、複数の下請け会社や職人が出入りする現場の進行をスムーズに行う「施工管理」、住民対応などを担います。大型マンションで工事期間が半年~1年以上かかる場合は、現場監督(現場代理人)が現地事務所に常駐してケースも珍しくありません。
施工品質の高さを期待でき、アフター保証体制も充実しています。その一方で、一定以上のグレードの工事しか請けない社内ルールがあるケースも多く、工事単価は高めです。賃貸住宅としては過剰スペックになりやすいかもしれません。中間の管理経費も大きいので工事費総額も高くなる傾向があります。
また、施工対象は大型マンションが中心で、小規模なマンションやアパートはほとんど対応していません。
2.住宅メーカー~新築が得意、修繕にも対応
小型のマンションやアパートの場合は、建設した住宅メーカーに相談する大家さんも少なくありません。大手住宅メーカーは、各社規定のメンテナンス工事を行うことを条件に30年以上の長期保証を謳うようになっていますから、大規模修繕にも対応しています。
ただし、ゼネコンと同様に住宅メーカーは、自社で修繕工事をするわけではなく、基本的には外注です。しかも、自社系列の協力会社が施工します。
また、プレハブ系の建物の場合、各住宅メーカーの独自工法で技術が公開されていないため、作業工程や使用材料は指定通りに行う必要があり、予算や大家さんの意向に応じた調整が難しいようです。工事費も専門工事会社より高めになるでしょう。
3.地元建設会社・工務店~戸建て・内装リフォームが得意
「住宅建築・リフォーム・リノベーション請負」といった看板を出して営業している建設会社・工務店は数多くいます。物件のある地元で見つけることも難しくないでしょう。
内外装リフォーム対応と謳っているケースもあります。ただし、工務店の多くはゼネコンや住宅メーカーの下請けで、一戸建ての注文建築や内装リフォームを中心に施工しているケースが一般的です。
賃貸マンションやアパートの大規模修繕を数多く手がけている工務店は少ないので、個別に業務内容を確認する必要があります。ゼネコンや住宅メーカーに比べて低予算で依頼できますが、技術力やアフター保証の体制にバラツキがありますから、実績や会社の信頼性、保証内容のチェックが大切です。
4.大規模修繕専門会社~技術力とローコストが両立
大規模修繕工事に特化した専門会社です。賃貸専門で請け負っている会社もあります。もともとはゼネコンや住宅メーカーなどの下請けの塗装会社や防水工事会社の立場で、経験を積み上げて元請に脱皮したケースも多いと言われています。
一定の技術力があり、建物の状況や大家さんの意向に合せて、柔軟な対応が可能です。住民対応のノウハウも身に着けている会社が少なくありません。
デザイン力に強みがあったり、一括施工方式と分割施工・定額制の両方に対応したり、特色を打ち出している専門会社も増えてきました。専門会社が直営で中間マージンがないため、工事費は低めになると期待できます。経営基盤や保証体制がポイントになるでしょう。
分譲と賃貸の大規模修繕における会社選びの違いとは?
分譲マンションの場合は、大規模修繕のコンサルティングをしている設計事務所に劣化診断や修繕設計を依頼し、施工会社選定のサポートを受けるのが一般的です。
設計事務所が修繕設計に基づいて「共通仕様書」を作成し、複数の施工会社の候補を挙げて見積り合わせをしたり、公開入札を実施したり、コンサルタントのアドバイスを受けて決定します。
そのため、競争原理が働き、工事費を抑えられる可能性が高まるわけです。設計事務所に頼むと工事費とは別に設計監理料もかかりますが、大型マンションの場合はスケールメリットがありますし、見積りチェックによるコスト抑制の効果で吸収できるケースが多いでしょう。
中規模以上のマンションであれば、賃貸でも設計事務所を介在する例はあります。しかし、20~30戸程度までの小型マンションやアパートの場合には、設計事務所に依頼する例は少ないでしょう。工事総額が1,000万円に満たない場合には、コスト抑制効果よりも設計監理料の負担のほうが重くなり、予算に合わなくなるからです。
不適切コンサルタント、リフォーム営業特化型の会社に注意
設計事務所やコンサルタントに依頼したとしても、第三者の目線で客観的に施工会社を選べるとは限りません。
実は、2017年1月27日に国土交通省住宅局から、マンション管理の業界団体や管理組合向けに「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」という通知が出されました。
「一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している」という内容です。
つまり「不適切コンサルタント」の利益相反行為に対する警告を発しているわけです。例えば、設計監理料やコンサルティング費は通常の10分の1近い“割安感”のある金額を提示して、表向きは複数の施工会社を対象に競争入札を実施。実態は、談合による“デキレース”の入札をしているケースが指摘されています。
どの業界でも紹介料やバックマージンとして契約金額の3~5%をやり取りすることは慣習としてあるものの、不適切コンサルタントの例は20~30%という高額のバックマージンを得ていました。
そのうえ、不要な修繕まで設計に入れて工事費を膨らませるため、相場より5~10割も高くなってしまうケースもあるようです。しかも、施工会社と癒着しているため工事監理のチェックも甘く、施工品質が低くなるケースも少なくありませんでした。
リフォーム総合店などと銘打った営業特化型の会社にも要注意です。受注実績の数を誇示するものの、各地域の工事会社に外注するだけで、営業経費とバックマージンが二重にかかります。「キャンペーン割引」「即決したら大幅値引き」と勧誘しますが、もともとの設定が相場より2倍以上も高い金額で、そこから2~3割値引くというカラクリです。
このようなあやしい事業者にひっかからないように、大家さん自身で施工会社の選択眼を磨いておく必要があるでしょう。
文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです