アパート・賃貸マンションの大規模修繕で賢く見積もりを取る方法[会社選び#4]
大規模修繕を実施する際に、少しでも経費を抑えたいなら、複数の施工会社から相見積りを取って比較するのが効果的。適切な見積りのスタイルやチェックポイントを解説します。
見積もりで「〇〇工事一式」はNG!「数量×単価」の有無を要確認
設計事務所やコンサルタントを通さずに、大家さんが施工会社を選ぶ場合には、自ら見積りをチェックする必要があります。
最近では、5~10社から一斉に見積りを取ることができるインターネットのサービスが登場していますが、一度に数多くの施工会社から提案を受けても比較しきれません。現地調査の対応も大変です。信頼性や実績などをあらかじめ調べてふるいにかけ、3社程度に絞り込んだ上で依頼しましょう。
図1-2のように、工事項目ごとに詳細な作業内容が書かれ、仕様や使用材料、「数量×単価」がきちんと記載されている見積書が好ましいと言えます。
例えば、外壁の塗り替え工事では、古い塗膜やサビを除去するケレン作業や高圧洗浄があるかどうかで仕上がりが大きく違います。さらに塗装自体も「下塗り/中塗り/上塗り」の3度塗りが標準的。「下塗り/上塗り」の2項目で「上塗り」を2度塗りとしているケースもあります。
塗料はウレタン、シリコン、アクリルなどの樹脂系が代表的ですが、最低でも塗料の種類が記載されているかどうかがポイント。
同じ種類でもグレードによる差があるため、メーカー名や製品名・型番まで記載されているほうが望ましいと言えます。塗料メーカーのホームページを通じて、性能や耐用年数、保証期間などをチェックできるからです。
施工面積は建物形状や開口部の除き方による差が大きい
外壁塗装にしても屋上防水にしても、数量表記の有無は最も重要な要素の1つです。実は、この数量の拾い出しの方法によって、施工する面積に大きな差が出てきます。
外壁塗装の場合、外壁面積を簡単に知る目安として「延べ床面積×1.1~1.4倍」といった解説もあるようです。しかし、同じ延べ床面積でも、建物形状によってかなり変わってしまうため、こうした簡単な係数では正確な数値は割り出せません。
例えば、図2に同じ延べ床面積で3タイプの建物形状を示してみました。aは平屋で正方形の建物。bは2階建てで奥行より間口が広めの建物、cは3階建てで間口の狭い建物です。延べ床面積はすべて100平方メートルになっています。
外壁面積の延べ床面積に対する倍率は、「a=1.2倍/b=1.7倍/c=2.4倍」です。上記の目安「1.1~1.4倍」に収まるのはaしかありません。
単純に階数が増えれば外壁面積も増えるわけではありません。間口と奥行の関係もあります。平屋でも、「間口4メートル×奥行25メートル」の極端な鰻の寝床型の場合は、延べ床面積100平方メートルでも、外壁面積は174平方メートルとなり、上記bの2階建てよりも広くなります。
ちなみに屋上防水の施工面積は、1階部分の床面性とほぼ同じです。延べ床面積が同じでも、外壁塗装の施工面積は「a<b<c」の関係になり、屋上防水の施工面積は「a>b>c」の関係になります。
外壁面積で言えば、cはaの約2倍ですが、屋上防水の面積は同3分の1。外壁塗装と屋上防水を一緒に施工する場合に、全体のコストがどうなるかは、これらのバランスによっても変わると言えます。
実際の施工面積は、この外壁面積から、窓や玄関などの開口部の面積を除かなければなりません。図面から計算したり、実測で割り出したり、いずれにしても現地調査や図面調査が必要です。
どのように算出するかによって、施工面積は1~2割変わってしまい、金額に跳ね返ってきます。単価が安くても、施工面積を水増しして表記されている可能性もあります。できれば、大家さん自身で、外壁面積を概算で把握しておくと安心です。
大家さんから予算枠を提示して大規模修繕工事のアイデアを募る
賃貸アパート・マンションの大規模修繕では、見積り依頼の仕方についても意識しておきたいポイントがあります。
分譲マンションの場合、特に管理会社が主導して進めている場合は、修繕周期の近い部位をまとめて実施するのが一般的で、その時点で貯まっている修繕積立金をマックスの予算として、すべて使い切ることを前提にした見積もりになりがちです。
しかし、賃貸住宅の場合は、分譲マンションのような「予算ありき」で「フルスペックの大規模修繕」を行うことがベストとは限りません。賃貸経営の収支との関係、大家さんの意向などによって、いつ、どんな工事を実施するかが変わってくるからです。
「大規模修繕にいくらかかるか」というスタンスではなく、賃貸経営者として「この建物を何年もたせるか。そのために修繕工事にいくらコストをかければいいか」という予算感を大家さん側で持つことが重要になります。
「この範囲の予算なら、どんな工事をどう進めればいいか」「1,000万円以内で、15年間メンテナンス・フリーにできる工事の見積もりを出してほしい」といった形で、金額と併せて工事プランを提案してもらうのです。そうすると、大規模修繕の経験やノウハウが豊富な施工会社なら、様々なアイデアが出てくるでしょう。施工会社の実力を推し量ることもできます。
また、修繕工事では、最初の劣化診断よりも実際の傷み具合が大きいために、追加補修が必要になるケースも珍しくありません。どうしても実際の費用は膨らみがちです。したがって、追加費用が発生する可能性を考え、1割くらいの予備費を見込んでおくと良いでしょう。
複数の見積りが出てきたら、比較しながら値引き交渉もできます。なかには、大幅な値引きを引き替えに契約を急がせる会社もいるようです。しかし、値引き率が高い場合は、最初から膨らませて値引き前提の見積りを出しているか、あとから追加費用を請求されるか、いずれかのリスクがあります。
前述したように、詳細な内容を盛り込んだ見積りを提案する施工会社から、冷静に選ぶことをおすすめします。
文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです