アパート・賃貸マンションの大規模修繕とは?基本をわかりやすく解説[基礎知識#1]

賃貸住宅の「大規模修繕」について尋ねると、実は語る人によって微妙に違っていたりします。曖昧さを避けるために、まずは「賃貸住宅に関わる大規模修繕」と言った場合に、軸となる意味合いについて理解しておきましょう。

「大規模修繕」とは

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「大規模修繕」という用語が世の中に広まり始めたのは、おそらく1985年頃と考えられます。マンションの再生事業に特化した設計事務所が複数設立され、建物診断や改修設計に乗り出しているからです。

1980年代半ばといえば、1964年の第1回東京オリンピックを契機に起きた第1次マンションブームの最中に分譲された物件が、ちょうど築20年前後に差し掛かって修繕時期を迎えていた時期です。

その頃はまだ「大規模修繕」が一般化していなかったのか、「大規模な修繕」「大規模改修」「特別修繕」といった様々な言い方が混在していました。マンション管理会社の中には、「リフレッシュ工事」「リニューアル工事」といったカタカナ名を付けるところもありました。中身も用語もあいまいだったわけです。

それから40年近く経ちました。現在、国土交通省では分譲マンションの「大規模修繕」について「建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事(全面的な外壁塗装等を伴う工事)」と明確に定義しています(2021年改訂「長期修繕計画作成ガイドライン」)。

「計画修繕工事」とは何かというと、「長期修繕計画に基づいて計画的に実施する修繕工事及び改修工事」です。両者を合わせると、大規模修繕は「計画的に行う修繕と改修のうち大規模なもの」となるでしょう。

「修繕」と「改修」の違い。 分譲マンションと賃貸住宅の「修繕」は何が違う?

ここで修繕と改修の違いについて整理しておきましょう(図1参照)。建築業界における「修繕」は、「新築時とほぼ同じ材料を使い、同じ仕様で元の状態に戻して、初期性能を回復させること」です。

図1.大規模修繕とリノベーションの関係イメージ
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元に戻すと言っても、骨組みなど全ての部位には手を入れられないため、初期性能の完全な回復はできません。修繕を重ねても、時間が経つにつれて、図1の真ん中の横線(新築時の性能)を少しずつ下回るようになります。

また、技術の進歩、生活水準の向上、入居者ニーズの変化に伴い、住まいへの要求性能も高まります。

周囲の新築物件が、こうしたトレンドに合わせた性能を持っている時に、例えば築15年のマンションを15年前の初期性能に戻しても、快適な居住環境を確保できません。ある段階で、初期性能よりもグレードアップする「改良」が求められるわけです。

修繕と併せて改良することを「改修」と言います。性能を高め、付加価値を出すという意味では、現在の「リノベーション」に近い意味と言えるでしょう。

前述の通り、国は分譲マンションの大規模修繕については「修繕と改修の両方を含む」ものと位置付けています。つまり、自ら所有して住むマンションの場合、大規模修繕の目的には、元の機能を回復させるだけでなく、「時代に合わせた性能アップを図ること」が当然に含まれると解釈できるでしょう。

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修繕工事にかけるコストは、環境改善の恩恵を享受するために消費する資金ですから、所有者=居住者自身の満足度が尺度です。

しかし、賃貸住宅の修繕工事は、オーナーにとっては支出という側面と投資という側面があります。「改修をしても家賃値上げや入居者アップにつながるのか」「投資が回収できるかどうか」といった経営判断が伴うわけです。

また、建物の価値を上げる改修は、会計処理にあたって修繕費として処理できず、資本的投資として減価償却の対象になるかもしれません。節税との兼ね合いも出てきます。そのため、賃貸住宅の大規模修繕に改良を含めるか、どこまで改良を加えるかは、大家さんの判断次第になるでしょう。

大規模修繕の工事範囲は?

具体的な工事の範囲は、図2の通り、基本的には共用部分です。

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賃貸住宅の場合は、入居者が生活する住戸内を「専用部分」といい、それ以外の建物・設備を「共用部分」と呼びます。

主な工事の個所は、外壁、屋根・屋上、外廊下・階段、その他、建物に付随する設備である集合ポスト、テレビ共聴アンテナなど(共用設備ともいう)。主に建物の外回りになりますが、中には、給排水管、ガス管、電気配線など、建物本体の内部にある設備も対象です。

専門家によっては、鉄部塗装だけを行う場合は大規模修繕とは言わず、中規模修繕と呼ぶと解説するケースもあります。外壁塗り替えや屋上防水と同時に実行して初めて、大規模修繕の一部になるというわけです。

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中には、外壁や屋根の破損個所を部分的に補修したことを、大規模修繕だと思っているオーナーもいるようです。壊れた部分を応急処置的に直すのは、日常修繕(小口修繕、普通修繕ともいう)になります。

費用も、日常管理費の中から支出するのが一般的。大規模修繕は、素人目には損傷がなくても、年数がたつにつれて徐々に性能が落ちていく「経年劣化」を直すことです。

そのため、各部位ごとの耐用年数を想定して、一定の周期ごとに計画的に実施していくことになります。大規模修繕をしっかり行なっていたつもりでも実は部分的な修繕しかしていなかった、とならないよう、違いを理解しておきましょう。

専用部分の設備交換も計画的に

また住戸内の修繕は「原状回復リフォーム」の範囲となり、入居者が退去したタイミングで実施されます。いつ、どんなタイミングで実施されるかわかりません。分譲マンションの住戸内は「専有部分」といい、区分所有者が自らの責任と負担で維持保全します。

なお、同じ住戸内でも、建物に付随する給湯器、バス・トイレ、洗面台、キッチン、エアコンなどの住宅設備機器については、原状回復リフォームではなく、計画修繕に含めて定期的にメンテナンスするほうが望ましいという考え方もあります。

機器ごとに一定の寿命があり、同時期に一斉に交換時期を迎えることもあるからです。複数の機器がまとまると金額も高額になってしまいます。

「大規模の修繕」と「大規模修繕」の違いは?

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大規模修繕は建築基準法に規定されていて、工事に当っては建築確認が必要」という記述を目にしたことがある人もいるかもしれません。やや専門的になりますが、混乱を避けるために、これについて補足的に解説しておきましょう。

結論から言うと、ここで解説している「大規模修繕」には法的な規定はありません。建築基準法で定められているのは「大規模の修繕」です。大規模と修繕の間に「の」が入っているだけですが、まったく意味が違うので注意してください。

建築基準法第2条14では、「大規模の修繕」について「建築物の主要構造部の1種以上について行う過半の修繕をいう」と定義しています。「主要構造部」というのは「壁、柱、床、はり、屋根又は階段」です(同法第2条5)。そして、一定の規模以上の建物に「大規模の修繕」を行う場合には、建築確認申請の手続きをしなければなりません。

原則として、新築時に建築確認を受けた建物は勝手に変更できません。たとえ修繕でも、耐震性や防火性能に影響を与えるおそれがある場合は、この規定に抵触するので、改めて建築確認が必要になるというわけです。

一方、ここで解説している「大規模修繕」は、外壁や屋根も対象になりますが、あくまでも塗装や防水処理などの外装材仕上げ部分の経年劣化が対象になり、その内側の躯体部分までは及ばないのが一般的。

中には損傷が激しく、部分的に躯体に関わる部分に修繕が及ぶ場合もありますが、施工範囲が「過半(建物の半分以上)」になるケースはまれでしょう。つまり「の」がない「大規模修繕」は、建築基準法上の「大規模の修繕」とは異なると考えておいたほうが良いでしょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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