入居者を引き寄せて資産価値もキープ!プラスアルファの大規模修繕とは[基礎知識#8]

大規模修繕と併せたリノベーションを施工会社から勧められることは珍しくありません。建物が老朽化するにつれて空室を増えるのを防ぐには、修繕だけでなく、プラスアルファの要素を付け加えることも大切。どんな取り組みがあるかを紹介します。

計画修繕とセットで改修=リノベーションも検討

大規模修繕は、劣化した建物本体の外装や共用設備を新築時の初期性能に戻すのが本来の目的です。美術工芸品なら、元の状態に忠実に戻す“修復”が適切かもしれません。しかし、賃貸住宅で満室経営を目指すとしたら、時代に合わせて常に入居者を引き寄せ続ける必要があります。

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築20年になって大規模修繕を行うときに、20年前の状態に戻っても、入居者は魅力を感じてくれません。多額の資金をかけて実施するだけに、安定経営につながるプラスアルファの要素を付け加えて、入居率アップを狙うことが望ましいでしょう。

なお、図1のように、初期性能に戻すことを「修繕」、基の性能に付加価値を足すこと「改良≒バリューアップ」と言います。

そして、修繕と改良を併せて行うと「改修」になります。改修は広い意味でのリノベーションと言い換えてもいいでしょう。

大規模修繕と併せて実施するバリューアップ工事にも、様々なレベルがあります。手軽にできるものから、手間とコストをかけて本格的に取り組むものまで、いくつかに分類して具体例を紹介しましょう。

低コストでできるバリューアップ|デザインを工夫する

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大規模修繕の代表ともいえる外壁補修・塗り替えの際に、デザインを変えるバリューアップです。築年の古いアパートでは、クリーム色やベージュ系の単色の外壁が少なくありません。

色使いを変えるだけのシンプルな対応でも第一印象が変わり、入居者の目を引く外観デザインができます。例えば、次のようなパターンです。

✓1階と2階で別の色を使い分けるツートンカラーにする(壁の1面だけ変えるパターンもある)

✓ベランダの手すり、切妻屋根の鼻隠し(軒先の横板)などの凹凸部分の色を変える

✓落ち着いた色合いの壁面の一部に、帯状や幾何学模様などの差し色(鮮やかなアクセントカラー)を入れる

✓物件名のロゴサインを入れる

単色を2色にする程度なら、塗料のコストはほとんど変わりません。デザイン部門を持つ塗装会社の場合、通常価格に1割増し程度で対応してくれるところもあります。

ただし、デザイン会社に外注すると割高になるかもしれません。外観の印象は重要です。施工会社を選ぶ際には、見積り金額だけではなく、デザインセンスもチェックしましょう。

中コストでできるバリューアップ|エントランス周りの共用設備の設置

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外観と並んで第一印象を左右するのが、賃貸住宅の顔要素とも言えるエントランス周りの設備です。代表的なものは次の3つ。

集合ポストの交換で印象アップ

昭和の築古アパート・マンションでは、ステンレス板製で南京錠を後付けするタイプをよく見かけます。

サイズも小さく、昨今のネット通販で増加している宅配のポスト投函に対応できないケースも少なくありません。この古いタイプを、新しいダイヤル錠付き、ポストイン配送に対応したサイズのタイプに交換すれば、印象が変わります。

宅配ボックスの新設でネット通販時代に対応

ネット通販が当たり前になっている上に、在宅でも非対面・非接触で荷物を受け取りたい入居者も増加しているなかで、宅配ボックスはもはや不可欠な設備です。

配線工事や電源が不要で維持費がかからない機械式タイプと、コンピュータ制御で遠隔管理ができる電気式があります。エントランスのないアパートの場合は、防滴仕様の屋外対応可能な機械式を、階段下や集合ポストの下部に設置するといいでしょう。

ゴミ集積ボックスを新設し、清潔感アップ

ブロック塀で囲まれたゴミ置き場のスペースがあるだけで、ゴミ収集日にだけ出してもらい、カラスよけネットで覆うタイプは、古い賃貸住宅では多いでしょう。ネットがきちんとかかっていないとゴミが散乱しやすく、見栄えも良くありません。第一印象といて清潔感も大切です。

新築では、外から中身が見えない密閉タイプのゴミステーションを設置するケースが増えています。設置スペースがない場合は、折り畳み式のタイプも選択可能です。

防犯カメラを設置してセキュリティ向上

部屋探しの人気設備ランキングで、防犯カメラやセキュリティ関連の設備も上位に入っています。防犯カメラは設置費用もそれほど高くないので、プラスアルファ設備としては、有力な候補の1つになるでしょう。

この他、植栽スペースや駐輪場の整備、通信設備の高速インターネットの導入なども考えられます。

中コストでバリューアップ|居住性をアップ

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断熱性や防音性などの住宅の基本性能に対するニーズは次第に高くなっています。コロナ禍で在宅ワークが増加したこともあり、より関心が強まっているようです。

本格的に断熱性や防音性を高めるには、壁を一度撤去して断熱・遮音材を入れ込むなど、大掛かりな工事になるため、築古賃貸のリノベーションとしてはハードルが高いかもしれません。ある程度の性能アップを図るなら、次のような方法があります。

防水工事とセットで遮音性アップ

屋外の鉄骨階段や共用廊下を歩くときに革靴やハイヒールなどのコツコツ響く音は、意外に気になるものです。これに対して、鉄部塗装や防水工事の際に、遮音や消音と滑り止めを兼ねた床材を採用してみるのも有効でしょう。

二重窓にして断熱性・遮音性アップ

住宅の中で、音や熱が一番漏れる場所は窓などの開口部です。新しい賃貸マンションやアパートではペアガラスのサッシを採用する例も増えていますが、築年の古い賃貸住宅では単板ガラスのサッシが主流でしょう。ペアガラスと二重窓は、どちらも断熱性アップに効果があります。

しかし、ペアガラスには防音効果はあまり期待できません。二重窓は、窓枠ごとペアガラスに交換するよりも費用を抑えられるようです。二重窓にする場合、室内側に内窓を付ける方式と、室外に取り付けるタイプがあります。大規模修繕や原状回復リフォームに併せて検討してみるといいでしょう。

マンションの屋上外断熱化で断熱性アップ

賃貸マンションの屋上は無断熱か内断熱が一般的です。しかし、どちらも屋上のコンクリートスラブが直接日射を受けて熱がこもり、最上階住戸の断熱性は良くありません。結露も発生しやすく、「夏暑く冬寒い」とも言われます。

これに対して、屋上防水の工事に合わせた外断熱化が推奨されています。断熱性を高める省エネ化工事については、自治体によって公的補助が受けられるケースもあるので調べてみましょう。

コストをかけてバリューアップ|基本性能を高める

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分譲マンションでは大規模修繕の時期に合わせて行うケースが多いものの、賃貸マンションやアパートにはハードルが高い工事について、最後に触れておきましょう。

バリアフリー化で高齢化に対応

分譲マンションでは所有者≅居住者が一般的で、永住する人も少なくありません。

そのため所有者が高齢化するにつれて、バリアフリー環境を求めるケースが増加します。エントランスを始めとする外階段にスロープを付けて段差をなくしたり、手すりを設置したり、工事範囲も広く、費用もそれなりにかかります。

賃貸住宅の場合は、ターゲットが高齢者でない場合は必要性を感じにくいかもしれません。

障碍者や妊婦の方々など、誰でも利用しやすいユニバーサルデザインを目指す意義はありますし、さらに老朽化して空室か増えた場合にターゲットを広げることを考えると、将来的な課題の1つとして考えておいてもいいでしょう。

耐震改修

1981年以前に建築確認を受けて建てられた旧耐震設計のマンションは、大地震で倒壊や大破のおそれがあるという指摘もあります。

耐震性は、住宅性能の基本中の基本ではあるものの、耐震診断から始まり、耐震改修設計・工事まで、コストも期間も大掛かりになりますので、大規模修繕とあわせたプラスアルファという範疇を超えているでしょう。別途、単独で検討する必要がありそうです。

以上、さまざまな視点からプラスアルファの改修について紹介してきました。大規模修繕とセットで考えてみてはいかがでしょうか。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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