大規模修繕の前にやっておきたい「建物劣化診断」とは?診断内容と費用を解説[豆知識#1]

アパート・マンションの大規模修繕を始める際に、いきなり施工会社に見積もり依頼をしてしまう大家さんは少なくないようです。しかし、これでは適切な修繕は期待できません。工事に入る前に「建物劣化診断」を受けるのが先決です。この記事では、診断の内容や費用、よくある「無料劣化診断サービス」は信用できるのか、といった疑問にお答えします。

「建物劣化診断」とは

「建物劣化診断」とは、建物の劣化状態を客観的につかみ、修繕工事が必要かどうかどうかを判断するために行います。「建物診断」「劣化診断」とも言います。

アパート・マンションの大規模修繕は、経年劣化に伴う価値の低下を防ぐために行います。必ずしも外観に損傷がない状態でも行うため、素人目には修繕の必要があるのかどうかわからないことが多く、そういったときに建物劣化診断が役立ちます。

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仮に、長期修繕計画を立てていて、外壁補修を行う時期を築12年目としていた場合でも、スケジュール通りに実施するのが良いとは限りません。

当初の計画は、あくまでも建築材料の標準的な耐久性を基にした年数を想定して立てられています。実際の建物は、周辺環境や気象条件、利用状態などによって傷み方が異なるのです。

実際の外壁の状態は良好で、まだ3~4年先に修繕を実施してもよい状況なのに、計画通り築12年目に実施すると過剰修繕になってしまいます。

逆に、予定の12年まで数年あっても、すでに劣化が進んでしまっていて、早急に修繕したほうが良いケースも。それを予定通りの時期まで先延ばしにしていると、激しい損傷が出てしまうかもしれません。

建物の現況を把握して、本当に修繕が必要な時期に来ているのかを判断した上で、ちょうど良いタイミングで実施するのがベストです。そのために、まず「建物劣化診断」が必要なのです。

「建物劣化診断」はどこを見る?

では、「建物劣化診断」は具体的にどのような調査をするのでしょうか。図1に一般的な例をまとめました。

図1:建物劣化診断の主な内容
検査部位 調査項目
構造躯体 ひび割れ、き裂、欠損、コンクリート中性化・圧縮強度、土台・柱の腐食、鉄骨の錆び
屋上・屋根 防水層、塗装の劣化度
外壁 塗装・タイルの浮き・剥離・割れ・欠損、附着力
防水処理 外部階段・廊下・バルコニーなどの床の防水機能
鉄部塗装 外部階段・廊下・バルコニーなどの手すりの錆び
シーリング サッシ周り、打ち継ぎ目地の細りやひび割れ
共用部 エントランス・バルコニー・廊下などの床・壁・天井の劣化度、雨漏りの有無
共用設備 電気設備、給排水設備、衛生設備などの異常
外構 フェンス、自転車置き場、ゴミ置き場など状況

 

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建物本体の外回りと共用設備、マンションの場合は屋内共用部、その他、敷地内の外構部分など、調査対象は多岐にわたります。それぞれの部位について、基本的には足場を組まずにできる範囲を対象に、目視や触診、道具を使う打診などで劣化状態を調べるのが一般的。外装材の浮き、ひび割れ、薄利、亀裂、チョーキングなどをチェックします。

手の届かない高所や表面から見えない設備を詳細に診断するときは、赤外線や超音波装置を使った非破壊検査、対象部位の一部抜き取ったサンプリング検査を行います。

例えば、鉄筋コンクリート造のマンションの場合、外壁コンクリートの劣化状態は耐久性・耐震性にも影響するため、円筒状のコアを抜いて中性化の深さ(※)や圧縮強度の調査を実施する場合もあります。最近ではドローンを活用した検査も登場しました。

※鉄筋コンクリート造は、アルカリ性のコンクリートで覆うことで中の鉄筋が酸化することを防いでいます。しかし、外壁は炭酸ガスや風雨にさらされるため、コンクリートは次第に表面から中性化。その深さが鉄筋に到達すると錆びてしまい、膨張して周りのコンクリートを押し出して破壊する「爆裂」を起し、強度が低下するわけです

こうして建物設備の現場を調査診断した結果を部位ごとに写真入り記録。劣化の進行具合に応じて、「早急に修繕が必要」「〇年先までに修繕に着手」など、修繕の緊急度を評価した報告書にまとめてくれます。報告書のフォーマットは調査会社によって特色があるようです。

小ぶりなアパートなら建物劣化診断の費用は10万円以下

建物劣化診断の費用は、建物の構造や規模、調査対象の範囲、精密さによって異なります。2階建て10室程度のアパートで、屋根や外壁を中心にした目視検査程度なら数時間で終わるため、10万円以内で対応しているケースもあるようです。

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機械装置の使用やサンプリングする調査を含めると、30戸以下の小規模マンションでも20~30万円くらいと言われています。100戸を超える大規模マンションでは100万円近くになるかもしれません。

インターネット上では、修繕工事の施工会社が「無料劣化診断サービス」などとうたっているケースもあります。一定の専門的な情報は得られますが、あくまで無料サービスであることを忘れずに。

施工会社の診断は、顧客リストを作る営業の一環として実施しているため、客観性は期待できないからです。見積り作成に必要な、材料・仕様・下地補修の程度をチェックする事前調査と同程度のものを考えてください。

仮に修繕が必要な時期まで余裕があっても、受注を取りたい施工会社なら「まだ修繕は必要ありません」とは、まず言いません。「そろそろ外壁補修の時期です。屋上防水を併せて実施すると、2割引きキャンペーンをしています」などと営業トークにつなげて、不要な過剰修繕に導かれる恐れもあります。

「建物劣化診断」は中立的な検査専門会社が安心

建物劣化診断は、修繕をビジネスにしていない、工事部門のない検査専門会社に依頼するのがベストです。正確な情報を基に、改めて長期修繕計画を練り直し、適切なタイミングで修繕を実施しましょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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