不動産売却時にかかる税金の種類と計算方法、節税方法を解説
相続したり、所有していた不動産を売却したりする際には、複数の税金がかかります。それぞれどのような税金の種類があり、どれくらい課税されるのでしょうか。また、売却のタイミングや売却金額によって課税額は変わるのでしょうか。計算方法も含めて解説します。
不動産売却と税金の基本
不動産売却にかかる税金の種類と支払うタイミング
不動産を売却する際にかかる主な税金は次の5つがあり、それぞれ支払うタイミングが異なります。
「印紙税」は印紙税法で定められた税金で、契約書などの文書に課せられます。そのため課税のタイミングは売買契約時。印紙を購入して契約書に貼り付け、消印することで納付が完了したことになります。消印は印紙の再利用を防ぐために、印紙と文書にまたがるように押印します。
税額は契約金額によって以下のように段階的に変わります。
記載された契約金額 | 税額 |
1万円未満(※) | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
※第1号文書と第3号文書から第17号文書とに該当する文書で第1号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても非課税文書となりません
不動産売却で得た利益を「譲渡所得」といい、譲渡所得にかかる所得税が「譲渡所得税」です。「譲渡」と聞くと無償で渡すような意味にも思えますが、ここでは「売却」も譲渡といいます。
譲渡所得税は、譲渡所得を得た翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行い、納付します。
譲渡所得税額は譲渡所得に税率をかけて計算しますが、売却によって利益が発生していない場合や、特別控除などが適用される場合は課税されません。税率は不動産の所有期間によっても異なり、以下の通りです。
長期譲渡所得(所有期間が5年を超える場合) | 所得税率15% |
短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合) | 所得税率30% |
譲渡所得額の計算方法や特別控除については後の項で詳しく触れます。
譲渡所得税と同じく、不動産売却で得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。確定申告で税額が決まり、確定申告後の6月以降に納税します。
会社員などの給与所得者は給与から天引き、個人事業主などの場合は6月に届く納付書によって支払います。納付書は年4回(6月・8月・10月・翌年1月)に分かれていますが、一括で支払うこともできます。
地方税ですので、納付先は都道府県及び市区町村です。所得税と同様に不動産の所有期間によって税率が変わり、譲与所得に以下を掛けて算出します。
長期譲渡所得(所有期間が5年を超える場合) | 住民税率5% |
短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合) | 住民税率9% |
東日本大震災からの復興施策のための税金として、2037年までは「復興特別所得税」がかかります。各年分の基準所得税額の2.1%が所得税に上乗せされる形です。
「登録免許税」は、不動産登記簿に記載された登記情報を書き換える際にかかる税金です。所有権移転登記の費用は買主が、抵当権抹消登記や住所変更登記の費用は売主が支払うことが通例です。
抵当権抹消登記は売主が住宅ローンを利用していた場合に発生するもので、抵当権が設定されていない場合、支払う必要はありません。登記内容に変更がない場合も同様です。
登録免許税を支払うタイミングは所有権移転登記の日か、それ以前となります。抵当権抹消登記にかかる税金は不動産ひとつにつき1,000円です。土地と建物それぞれにかかるため、家が建っている土地であれば2,000円ということになります。
不動産を売却する際、不動産会社に売買の仲介を依頼した場合に、仲介手数料にかかる消費税です。支払うタイミングは仲介手数料とともに、売買契約時と物件の引渡し時に分けて払うことが一般的ですが、会社によっては一括ということも。税率は2024年6月現在で10%です。
相続した土地の売却に税金はかかる?
相続した土地を自分では利用する予定がない場合、売却を検討する人も多いと思います。売却に課税されるかは利益(譲渡所得)が出たかどうかで変わり、譲渡所得は次の計算で求められます。
譲渡所得 = 売却価格 ― 取得費 ― 譲渡費用
取得費は被相続人がその土地を買ったときの代金や諸費用など、譲渡費用は土地の売却にかかった仲介手数料や各種税金などのことです。ここまでは相続した土地も、購入した不動産も変わらないため、次の項で詳しく解説します。
ただし、相続または遺贈により取得した財産は、相続税申告期限から3年以内(相続開始時の翌日から3年10カ月の期間内)に譲渡(売却)した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できるという制度があります。これを「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」といいます。
取得費に加算する相続税額は、以下の計算式で導くことができます。
特例の適用を受けるためには、取得費に加算される相続税の計算明細書や譲渡所得の内訳書を添付して確定申告をする必要があります。
土地の入手方法にかかわらず、結果的に利益(譲渡所得)が0円以下、つまり赤字になっている場合は、土地の売却には所得税と住民税はかかりません。
【登録はすべて無料】オーナーズ・スタイルでは様々なメディアで情報を発信中!
お役立ち情報を 週2回無料で配信中! |
約100ページの情報誌を 年4回無料でお届け! |
||
オーナーズ・スタイル お役立ちメルマガ
|
賃貸経営情報誌 オーナーズ・スタイル
|
利益が出た場合の税金計算方法
不動産売却に関する税金の中で特に金額が大きいものが、売却で得た利益(譲渡所得)にかかる「所得税・住民税・復興特別所得税」です。まずは不動産を売却した際の基本的な税金の計算方法を紹介します。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
前項でも触れましたが、税率は不動産の所有期間によって異なります。基準となるのが5年で、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」といいます。
所得税・住民税・復興特別所得税を合わせたそれぞれの税率は以下の通りです。
長期譲渡所得(所有期間が5年を超える場合) | 20.315% |
短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合) | 39.63% |
所有期間の数え方は、譲渡した年の1月1日現在が基準となることに注意しましょう。
税額を計算するにあたり、まずは税率を掛けるもとになる譲渡所得を出す必要があります。
譲渡所得 = 売却価格 ― 取得費 ― 譲渡費用
取得費はその不動産を買ったときの購入代金や購入手数料、その後に支出したリフォーム費用などの合計額です。
譲渡費用は、不動産の売却にかかった仲介手数料や測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立ち退き料などを指します。
取得費を計算するときに注意したいのが「減価償却費」です。不動産のなかでも、建物は時間の経過とともに価値が減るという考え方をします。この目減り分を「減価償却費」として、購入時の代金から所有期間中の減価償却費を差し引く必要があります。
減価償却費の計算方法は、対象となる不動産が事業用か非事業用かによって異なり、さらに事業用不動産は不動産の取得時期によって計算式が変わります。
賃貸マンションやアパート、事務所、店舗などの事業用不動産は2007(平成19)年4月1日を境に、償却率が旧定額法から新定額法に切り替わります。
以下の計算式で求めます。
2007年3月31日以前に取得した事業用不動産の減価償却費
= 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率(旧定額法)× 経過月数/12
2007年4月1日以降に取得した事業用不動産の減価償却費
= 建物の取得価額 × 償却率(新定額法)× 経過月数/12
それぞれの償却率については、国税庁のホームページに一覧が出ていますので、参考にしてみてください。
自宅や別荘などの非事業用不動産については、以下の計算となります。
非事業用不動産の減価償却費 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数(所有期間)
耐用年数と償却率は建物の構造によって異なります。例えば非事業用建物の場合、木造は耐用年数33年で償却率0.031、RC造は70年で償却率0.015です。非事業用不動産の耐用年数は通常の法定耐用年数の1.5倍となります。
また、事業用不動産は経過期間を月単位で計算しますが、非事業用不動産は年単位です。経過年数6カ月以上は1年とし、6カ月未満は切り捨てとなります。
仲介手数料 | 売却価格400万円超の場合の上限は、「売却価格×3.3%+6.6万円」 |
印紙税 | 契約書に貼る印紙代金で契約金額500万円超~1,000万円以下の場合で1万円 |
住宅ローン返済手数料 | 住宅ローン返済中の不動産を売却する場合に一括返済するための手数料 |
登記費用(抵当権抹消費用) | 不動産ひとつにつき1,000円+司法書士に手続きを依頼した場合の手数料 |
その他 | 必要に応じて測量費、解体費、ハウスクリーニング費用、家財処分費、立ち退き料等 |
譲渡費用は、不動産売却の際に発生する様々な費用のことで、主に次のようなものがあります。
不動産売却で活用したい特例
不動産売却にかかる税金には、控除や特例がいくつかあります。これらの優遇措置を理解して、もれなく活用することで節税が可能です。
3,000万円特別控除
売却する不動産がマイホームであった場合に「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用が考えられます。所有期間にかかわらず、譲渡所得から最高3,000万円まで控除されます。
特例の適用を受けるための主な要件は以下の通りです。
・自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること
・以前に住んでいた家屋や敷地等は、住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売ること
・売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
・売手と買手が、親子や夫婦などでないこと
詳しい適用要件については国税庁のホームページで確認しましょう。
所有期間10年超の物件に対する軽減税率の特例
「所有期間10年超の物件に対する軽減税率の特例」は、「3,000万円特別控除」と同様にマイホームを売却するときに適用される特例です。売却した不動産を、10年を超えて所有していれば、6,000万円までの譲渡所得について長期譲渡所得の税額よりさらに低い税率が適用されます。
適用される税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて14.21%です。この特例は「3,000万円特別控除」と併用が可能で、6,000万円を超える部分については長期譲渡所得の税率20.315%が適用されます。
被相続人の居住用財産(空き家)にかかわる譲渡所得の特別控除の特例
「被相続人の居住用財産(空き家)にかかわる譲渡所得の特別控除の特例」は、相続した不動産が被相続人の居住用であったときに適用される特例で、譲渡所得の金額から最高3,000万円までが控除されます。相続によって空き家が増えるのを防ぐためにつくられた特例です。
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」は、昭和56年5月31日以前の建築で区分所有建物登記がされていないこと、被相続人が亡くなった時点で一人暮らしをしていたことなどが条件となります。
特例の適用を受けるためには、相続から売却まで事業や居住に使っておらず、建物の場合は一定の耐震基準を満たす必要があります。そのため、これまでは売主が建物を壊して更地にするか、建物に耐震リフォームをしてから譲渡(売却)しなければなりませんでした。
しかし2024年1月1日以降の譲渡からは、売買契約等に基づいて買主が譲渡の翌年2月15日までに行った耐震改修や建物除却工事も適用対象となりました。
なお、譲渡価額(売却金額)が1億円を超えるものについてはこの特例は適用されません。
特定の居住用財産の買い換えの特例
「特定の居住用財産の買い換えの特例」は、10年以上所有していたマイホーム(居住用財産)を、2023年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えたときは一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる特例です。
譲渡価額が1億円以下であること、マイホームを売った年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること、買い換える建物は床面積が50㎡以上で敷地面積が500㎡以下であること、一定の耐震性を満たすことなどの条件があります。
不動産売却の節税対策
購入当時の金額が分かるようにしておく
不動産を売却する際には、取得費が分かる資料を揃えておくようにしましょう。特に購入時の金額が分かる売買契約書や領収書は重要です。
そういった資料がなく、購入金額が分からない場合は「売った金額の5パーセント相当額を取得費とすること」とされています。例えば、3,000万円で売却した土地の取得費が不明な場合、150万円を取得費とみなすことになります。多くの場合、売却益が大きくなるため、税額も膨らんでしまうのです。
もし売買契約書が見つからない場合は、「購入当時の契約書がないか不動産会社に問い合わせる」「税務署に相談のうえで登記簿謄本に記載されている抵当権額を参考にする」といった方法を試してみましょう。
取得費と譲渡費用をもれなく計上する
取得費と譲渡費用は、多いほど譲渡取得税が圧縮できます。すべての費用を正確に、漏れがないよう計上しましょう。それぞれ以下のような費用が含まれますが、計上できるか迷ったときは不動産会社や税理士に確認するのが良いでしょう。
取得費 | 譲渡費用 |
・建物や土地の購入代金 ・建物の建築費用 ・購入時の仲介手数料 ・建物のリフォーム費用 ・不動産取得税 ・登録免許税 ・印紙税 ・測量費・・・など |
・売却時の仲介手数料 ・印紙代 ・測量費 ・建物の解体費 ・立ち退き料 (貸借人がいた場合)・・・など |
売買契約書を1通に絞って印紙税を節約
印紙税は契約書の枚数に応じて課税されるため、写しを作らず1通に絞ることで節約できます。微々たる額に思えるかもしれませんが、5千万円超~1億円以下の契約には6万円の印紙税がかかります。写しを作るとこれが倍になることを考えれば、決して少なくはありません。
ふるさと納税の活用
ふるさと納税は、全国の自治体に寄付をすることで、寄付金額に応じて所得税と住民税が控除される仕組みです。自己負担額2,000円を差し引いた金額が控除されるため、より多くの金額を寄付した方が節税効果は高くなります。
寄付できる上限金額は所得によって決められており、譲渡所得が発生した年は「所得が増える=ふるさと納税の上限も引き上げられる」ため、控除額も大きくできるということになります。
譲渡損失の繰り越し控除
不動産を売却して譲渡所得が0以下となった場合は、「譲渡損失」が出たということになります。譲渡損失には当然課税されません。
5年以上所有しているマイホームを売却して出た譲渡損益は、一定の条件を満たせばその年の他の所得と相殺して所得税や住民税を減らすことができます。これを「損益通算」といいます。
さらに、損益通算をしても控除しきれない損失については、プラス3年間にわたって繰り越し控除ができます。
適切な売却時期の選定
税率や特別控除は不動産の取得から売却までの期間を定めているものが多くあります。そのため、これらを把握して売却時期を選定することで、節税対策となります。
例えば、所有期間が5年を超える長期譲渡所得は税率20.315%ですが、5年以下の短期譲渡所得では税率39.63%と2倍近くの差があります。もし期間がギリギリの場合は、1月1日の時点で所有期間が5年経過したことを確認してから売却するようにしましょう。
所有期間が10年超のマイホームの場合は、6,000万円までの譲渡所得に軽減税率が適用されます。
しかし、長く所有すれば得かといえばその限りではなく、マイホームの3,000万円特別控除は住まなくなった日から3年を経過する年の年末までに売却することが条件です。
それぞれのケースに対して適用可能かを確認し、売却を急いだ方が良いのか、待つならばいつまで待った方が良いのかを判断するようにしましょう。
不動産売却にかかる税金についての相談先
不動産売却に際して、税金についてはどのような窓口に相談すれば良いのでしょうか。相談内容や予算によって異なりますが、主には次のような相談先が考えられます。
税務署
不動産売却後に確定申告が必要な場合の相談先として、税務署が挙げられます。不動産売却で生じた譲渡所得の考え方や、相続税、贈与税についても相談できます。
また、確定申告のやり方そのものが分からないといった場合にも相談に乗ってもらえます。確定申告時期やその直前は繁忙期となるため、できるだけ早めに相談しましょう。
行政主催の税務相談会
区や市などが法律・税務相談窓口を設けていることがあり、弁護士や税理士に無料で相談ができます。ただし、相談開催日は決められており、先着順で予約が必要なケースがほとんどです。
相談時間も30分程度と短いため、相談内容や資料をあらかじめまとめてから持参するとスムーズです。
FP(ファイナンシャルプランナー)
不動産売却にかかる税制だけでなく、ローンも含めた資金計画や将来の相続についてなど、お金まわりのことをまとめて相談したい場合は、FP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのも良いでしょう。
FPにも得意分野があり、不動産関連の金融知識に強いFPなら心強い味方になってくれるはず。契約内容にもよりますが、相談料として費用がかかります。
まとめ
不動産売却にかかる税金はいくつもあり、それぞれ計算方法が異なります。設定条件も多く、どのケースに当てはまるのかをしっかり把握しておかなければ、ふさわしい税金対策をはかることが難しくなります。
自身でもひと通りの知識は持ちつつ、不動産会社に査定を依頼したときに、税金についても相談してみるのも良いでしょう。複数の会社に査定依頼しつつ、付随する税金についても適切なアドバイスがもらえる、もしくは相談先を紹介してくれる不動産会社を選ぶことが大切です。売却によって得られる利益を最大限にできるよう、賢く・正しく節税していきましょう。
※この記事は2024年6月24日時点の情報をもとに作成しています
記事・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
【登録はすべて無料】オーナーズ・スタイルでは様々なメディアで情報を発信中!
お役立ち情報を 週2回無料で配信中! |
約100ページの情報誌を 年4回無料でお届け! |
||
オーナーズ・スタイル お役立ちメルマガ
|
賃貸経営情報誌 オーナーズ・スタイル
|